17 / 21
SCENE.2【公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室】
Capture.17『国家資格』
しおりを挟む
「いや、若い女性の部屋というのは、いくつになっても興奮するものです」
「室長……それ、セクハラでして」
「おや、そうですか? 失敬。それで、本日お邪魔させていただいたのは――」
それにしてもこの女性、少し年上なんだけど、どこかで見た事がある気がする。そんな事が引っかかって、安藤さんの説明は上の空だった。その事に気付いたのか――
「ああ、ご挨拶が遅れましたね。彼女は、呪霊特別調査室職員の」
安藤さんがアイコンタクトを送ると、彼女は頷いた。
「わたくしは、九条すみれと申します」
「……く、じょう?」
私はその声、仕草、雰囲気に見覚えがあった。そして、その苗字から――
「もしかして?! さくらちゃんのお姉さん、ですか?」
驚きに少し声が裏返った私に、すみれさんは微笑んだ。その笑顔は、少し大人びたさくらちゃんだった。
「そっくりですね」
「よく言われまして。さくらからあなたの事は伺っておりますわ……」
そう言って笑顔が突然、曇った。
「抗憑依体質者だという事も……」
その表情がとても意味深だった。だけど、何だか触れてはいけないような気がして、理由を聞く事はできなかった。
「それでですね」
そんな空気を知ってか知らずか、安藤さんが口を開いた。今回の訪問理由をまどろっこしく言っていたが、要するに私を勧誘に来たという事らしい。そして、しきりに――
「私どもが、あなたをお守りしますので、危険はありません」
安全である事を繰り返していた。でも、私は知っている。呪霊の力を。それと対峙するのに、安全なはずがない。答えは決まっていた。断るタイミングを待っているだけだった。
その時、突然、安藤さんとすみれさんの顔がこわばった。そして、同じ場所を見ている。
「こいつら、何て言ってやがんだ?」
さっきまで不在にしていた小太郎さんが、戻って来たのだ。二人は彼を見ている。そして、怯えている。
「お二人は見えるんですか?」
私は率直に尋ねた。すると青い顔した安藤さんが答える。
「み、見えますよ、ただ……私もすみれくんも霊能力認定Sなんです」
「サイキックにんてい? S?」
「霊能力認定はこ、国家資格です。え、Sはスモールの頭文字。格付けだと、い、一番低いんです――」
安藤さんによると、霊能力認定は、洋服のサイズのように、S、M、Lと大きくなるほど、霊力が大きくなるという。LL、3L、XLも存在するらしく――
「ち、ちなみに、さくらくんはLLです。XLは現在、存在しません。む、昔はよく存在したらしいんですけどねぇ」
LL以上は、抗憑依体質者になると話した。そして――
「Sなので、み、見る事ができるだけなんです。しかも、恐怖だけは呪霊のサイズに合わせて感じられるので……じ、実はあなたのお友達の霊圧に、今にも意識を失いそうなんです」
「え? そ、そうなんですか? ど、どうすれば?」
「で、できたら、部屋の外に……」
「分かりました。小太郎さん、ごめんなさい。部屋の外に出てもらっていいですか?」
私の言葉に、首を傾げる小太郎さん。
「あなたの霊圧に当てられて、意識を失いそうなんだそうです」
「何だそりゃ? びびって小便垂れそうなのか?」
「はい、そんな感じみたいです」
「仕方ねぇ奴らだな」
そう言って、小太郎さんはふと部屋の中から消えた。その瞬間、ほっと肩を撫で下ろした安藤さんとすみれさん。冷や汗なのか、二人とも額を湿らせていた。
「ありがとうございます……やっとゆっくり呼吸ができます」
笑顔を浮かべる安藤さんの横で、もじもじしているすみれさんが口を開いた。
「ごめんなさい……お手洗いをお借りできまして?」
「あ、どうぞ。そこのドアです」
「室長……それ、セクハラでして」
「おや、そうですか? 失敬。それで、本日お邪魔させていただいたのは――」
それにしてもこの女性、少し年上なんだけど、どこかで見た事がある気がする。そんな事が引っかかって、安藤さんの説明は上の空だった。その事に気付いたのか――
「ああ、ご挨拶が遅れましたね。彼女は、呪霊特別調査室職員の」
安藤さんがアイコンタクトを送ると、彼女は頷いた。
「わたくしは、九条すみれと申します」
「……く、じょう?」
私はその声、仕草、雰囲気に見覚えがあった。そして、その苗字から――
「もしかして?! さくらちゃんのお姉さん、ですか?」
驚きに少し声が裏返った私に、すみれさんは微笑んだ。その笑顔は、少し大人びたさくらちゃんだった。
「そっくりですね」
「よく言われまして。さくらからあなたの事は伺っておりますわ……」
そう言って笑顔が突然、曇った。
「抗憑依体質者だという事も……」
その表情がとても意味深だった。だけど、何だか触れてはいけないような気がして、理由を聞く事はできなかった。
「それでですね」
そんな空気を知ってか知らずか、安藤さんが口を開いた。今回の訪問理由をまどろっこしく言っていたが、要するに私を勧誘に来たという事らしい。そして、しきりに――
「私どもが、あなたをお守りしますので、危険はありません」
安全である事を繰り返していた。でも、私は知っている。呪霊の力を。それと対峙するのに、安全なはずがない。答えは決まっていた。断るタイミングを待っているだけだった。
その時、突然、安藤さんとすみれさんの顔がこわばった。そして、同じ場所を見ている。
「こいつら、何て言ってやがんだ?」
さっきまで不在にしていた小太郎さんが、戻って来たのだ。二人は彼を見ている。そして、怯えている。
「お二人は見えるんですか?」
私は率直に尋ねた。すると青い顔した安藤さんが答える。
「み、見えますよ、ただ……私もすみれくんも霊能力認定Sなんです」
「サイキックにんてい? S?」
「霊能力認定はこ、国家資格です。え、Sはスモールの頭文字。格付けだと、い、一番低いんです――」
安藤さんによると、霊能力認定は、洋服のサイズのように、S、M、Lと大きくなるほど、霊力が大きくなるという。LL、3L、XLも存在するらしく――
「ち、ちなみに、さくらくんはLLです。XLは現在、存在しません。む、昔はよく存在したらしいんですけどねぇ」
LL以上は、抗憑依体質者になると話した。そして――
「Sなので、み、見る事ができるだけなんです。しかも、恐怖だけは呪霊のサイズに合わせて感じられるので……じ、実はあなたのお友達の霊圧に、今にも意識を失いそうなんです」
「え? そ、そうなんですか? ど、どうすれば?」
「で、できたら、部屋の外に……」
「分かりました。小太郎さん、ごめんなさい。部屋の外に出てもらっていいですか?」
私の言葉に、首を傾げる小太郎さん。
「あなたの霊圧に当てられて、意識を失いそうなんだそうです」
「何だそりゃ? びびって小便垂れそうなのか?」
「はい、そんな感じみたいです」
「仕方ねぇ奴らだな」
そう言って、小太郎さんはふと部屋の中から消えた。その瞬間、ほっと肩を撫で下ろした安藤さんとすみれさん。冷や汗なのか、二人とも額を湿らせていた。
「ありがとうございます……やっとゆっくり呼吸ができます」
笑顔を浮かべる安藤さんの横で、もじもじしているすみれさんが口を開いた。
「ごめんなさい……お手洗いをお借りできまして?」
「あ、どうぞ。そこのドアです」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
深淵界隈
おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが、咲菜子を狙う霊や怪異に立ち向かう!
五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……?
そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
京都かくりよあやかし書房
西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。
時が止まった明治の世界。
そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。
人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。
イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。
※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。
霧の都 化け暮らしの休憩処~幼馴染の神隠し味パンケーキ~
ミラ
キャラ文芸
霧の都 神隠し事件。当時小学四年生だった志乃の幼馴染が忽然と消えた。あれから十年。
彼を探し続ける志乃はある日、奇妙なパンケーキ屋さん「化け暮らしの休憩処」を訪れる。
狐面の店主は半人間、
半あやかしの化け暮らしで
──「俺が君を本当の姿に戻してあげる」
ふわふわ京パンケーキで神隠しの謎を解き明かす。
美味しいあやかしライトミステリー。
裏吉原あやかし語り
石田空
キャラ文芸
「堀の向こうには裏吉原があり、そこでは苦界の苦しみはないよ」
吉原に売られ、顔の火傷が原因で年季が明けるまで下働きとしてこき使われている音羽は、火事の日、遊女たちの噂になっている裏吉原に行けると信じて、堀に飛び込んだ。
そこで待っていたのは、人間のいない裏吉原。ここを出るためにはどのみち徳を積まないと出られないというあやかしだけの街だった。
「極楽浄土にそんな簡単に行けたら苦労はしないさね。あたしたちができるのは、ひとの苦しみを分かつことだけさ」
自称魔女の柊野に拾われた音羽は、裏吉原のひとびとの悩みを分かつ手伝いをはじめることになる。
*カクヨム、エブリスタ、pixivにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる