SOULIST~呪霊を取り込む抗憑依体質者【CODE:I.T.A.Co】

神楽坂眠兎

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SCENE.2【公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室】

Capture.17『国家資格』

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 「いや、若い女性の部屋というのは、いくつになっても興奮するものです」
 「室長……それ、セクハラでして」
 「おや、そうですか? 失敬。それで、本日お邪魔させていただいたのは――」

 それにしてもこの女性、少し年上なんだけど、どこかで見た事がある気がする。そんな事が引っかかって、安藤さんの説明は上の空だった。その事に気付いたのか――

 「ああ、ご挨拶が遅れましたね。彼女は、呪霊カース特別調査室職員の」

 安藤さんがアイコンタクトを送ると、彼女は頷いた。

 「わたくしは、九条すみれと申します」
 「……く、じょう?」

 私はその声、仕草、雰囲気に見覚えがあった。そして、その苗字から――

 「もしかして?! さくらちゃんのお姉さん、ですか?」

 驚きに少し声が裏返った私に、すみれさんは微笑んだ。その笑顔は、少し大人びたさくらちゃんだった。

 「そっくりですね」
 「よく言われまして。さくらからあなたの事は伺っておりますわ……」

 そう言って笑顔が突然、曇った。

 「抗憑依体質者ソウリストだという事も……」

 その表情がとても意味深だった。だけど、何だか触れてはいけないような気がして、理由を聞く事はできなかった。

 「それでですね」

 そんな空気を知ってか知らずか、安藤さんが口を開いた。今回の訪問理由をまどろっこしく言っていたが、要するに私を勧誘に来たという事らしい。そして、しきりに――

 「私どもが、あなたをお守りしますので、危険はありません」

 安全である事を繰り返していた。でも、私は知っている。呪霊カースの力を。それと対峙するのに、安全なはずがない。答えは決まっていた。断るタイミングを待っているだけだった。

 その時、突然、安藤さんとすみれさんの顔がこわばった。そして、同じ場所を見ている。

 「こいつら、何て言ってやがんだ?」

 さっきまで不在にしていた小太郎さんが、戻って来たのだ。二人は彼を見ている。そして、怯えている。

 「お二人は見えるんですか?」

 私は率直に尋ねた。すると青い顔した安藤さんが答える。

 「み、見えますよ、ただ……私もすみれくんも霊能力サイキック認定Sなんです」
 「サイキックにんてい? S?」
 「霊能力サイキック認定はこ、国家資格です。え、Sはスモールの頭文字。格付けだと、い、一番低いんです――」

 安藤さんによると、霊能力サイキック認定は、洋服のサイズのように、S、M、Lと大きくなるほど、霊力が大きくなるという。LL、3L、XLも存在するらしく――

 「ち、ちなみに、さくらくんはLLです。XLは現在、存在しません。む、昔はよく存在したらしいんですけどねぇ」

 LL以上は、抗憑依体質者ソウリストになると話した。そして――

 「Sなので、み、見る事ができるだけなんです。しかも、恐怖だけは呪霊カースのサイズに合わせて感じられるので……じ、実はあなたのお友達の霊圧に、今にも意識を失いそうなんです」
 「え? そ、そうなんですか? ど、どうすれば?」
 「で、できたら、部屋の外に……」
 「分かりました。小太郎さん、ごめんなさい。部屋の外に出てもらっていいですか?」

 私の言葉に、首を傾げる小太郎さん。

 「あなたの霊圧に当てられて、意識を失いそうなんだそうです」
 「何だそりゃ? びびって小便垂れそうなのか?」
 「はい、そんな感じみたいです」
 「仕方ねぇ奴らだな」

 そう言って、小太郎さんはふと部屋の中から消えた。その瞬間、ほっと肩を撫で下ろした安藤さんとすみれさん。冷や汗なのか、二人とも額を湿らせていた。

 「ありがとうございます……やっとゆっくり呼吸ができます」

 笑顔を浮かべる安藤さんの横で、もじもじしているすみれさんが口を開いた。

 「ごめんなさい……お手洗いをお借りできまして?」
 「あ、どうぞ。そこのドアです」
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