12 / 21
SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】
Capture.12『娘の怒り』
しおりを挟む
今にも飛び込んで来そうな老人に警戒しつつも、方法がない私に刹那な時が流れる。
――全身に霊力を循環させろ。そうすれば、痛みを軽減できる。
小太郎さんの言葉に従い、霊力を意識する。そして、全身にそれを巡らせるイメージをした。しばらくすると、全身が膜のような何かに覆われたように、温かく感じる。
――できたな。次は、足の裏に意識を集中して、飛び出せ。
「おのれ……小娘……次は殺す」
老人が姿を消す。
――目に集中しろ!
目!
私は慌てて目に意識を集中した。すると、消えたと思っていた老人が凄い速さで私に向かってきているのが視認する事ができた。同時に足の裏を意識する。そして、地面を蹴った。横に飛んで、その突進を避けた。
――奴を倒せ。
「はい!」
私は鷲爪を構え、足の裏に霊力を流し、前へ思い切り飛び出した。そして、目にも止まらぬ速さで通り抜けた。老人の横を――
「……がはっ!」
声を漏らす老人。黒い血をまき散らすその体。どす黒い血飛沫の中、それは崩れ落ちた。しかし――
――まだ消せないか……しぶとい野郎だ。
「くそ……くそっ! くそっ! くそっ! くそがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
膝をついて叫ぶ老人。そして、顔を上げ、私を捉えたその瞳は血走り、今にも外へ飛び出しそうなほど、膨れ上がっていた。
「あと一歩だった……あと一歩……」
そう呟いた老人は、再び立ち上がると同時に私へ襲い掛かって来る。しかし、先ほどの斬撃が効いているようで、動きは先ほどまでとは比べ物にならないほど、遅かった。
「せっかく殺してやったのに! 幸三を! もう少しだったのに! 沙織も!」
「え……お父さん? お父さんは自殺……あ」
私は思い出した。奈々さんは、自殺だった。お父さんの自殺に、死神が関わっていたとしてもおかしくない。
「御手洗家……貴様らを殺せば、俺は入閣できたのにぃぃぃぃぃっ!」
お父さんは殺された。その真実が私の中を駆け抜けた。だから、もう一度飛んだ。そして、鷲爪が老人を切り裂いた。
「ク、ソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
老人の体は左右真っ二つとなり、真っ黒な血飛沫を上げ、黒い靄になって消え行った。
*
生まれながらに不細工だとののしられ、いじめられた。勉強もしているのに、成績は悪く、気を付けているのに太り、視力も下がって眼鏡となり、糖尿病にもなった。中小零細企業に就職するも、出世とは縁遠く、恋愛も婚期もなく、晩年平社員として定年を迎えた。
やっと訪れた苦しみのない生活。ささやかな退職金と微々たる年金で暮らす日々。しかし、そこには、孤独と退屈という脅威が待っていた。
そんな自分を唯一理解してくれていた、同級生が死んだ。もう、誰も自分を必要としてくれていない。何で俺は必要とされなかったんだろう。
不細工だからか。成績が悪いからか。出世できなかったからか。全て違う。そういう環境を作った、社会が悪い。それを受け入れている人が悪い。
憎い。
憎い憎い憎い憎い!
俺は死んだ。しかし、生きていた。死なない体になった。死んでいるからだ。復讐の始まりだ。俺は殺して回った。それは結果、呪力を高め、あの方の目に留まった。そして、あの方のために、俺は御手洗幸三を殺した。そして、次は沙織を殺そうとしていた。しかし、クソ娘に、まさかの返り討ちにされてしまった。
「もう、疲れただろう? やめようよ、たかちゃん」
その声に耳を疑った。振り返ると、そこには死んだはずの同級生、将司の姿があった。
「まさ、くん……」
「楽になろうよ、たかちゃん」
「……ああ、そうだね、まさくんとまた、囲碁がしたい。できるかな?」
「できるさ」
「そうか、それは楽しみだ……」
*
老人の消えた屋上。先ほどまで真っ黒に染まっていた床は元に戻っていた。
――よくやったな、凛。
小太郎さんの声が、気持ちよく脳内に響くのだった。
――全身に霊力を循環させろ。そうすれば、痛みを軽減できる。
小太郎さんの言葉に従い、霊力を意識する。そして、全身にそれを巡らせるイメージをした。しばらくすると、全身が膜のような何かに覆われたように、温かく感じる。
――できたな。次は、足の裏に意識を集中して、飛び出せ。
「おのれ……小娘……次は殺す」
老人が姿を消す。
――目に集中しろ!
目!
私は慌てて目に意識を集中した。すると、消えたと思っていた老人が凄い速さで私に向かってきているのが視認する事ができた。同時に足の裏を意識する。そして、地面を蹴った。横に飛んで、その突進を避けた。
――奴を倒せ。
「はい!」
私は鷲爪を構え、足の裏に霊力を流し、前へ思い切り飛び出した。そして、目にも止まらぬ速さで通り抜けた。老人の横を――
「……がはっ!」
声を漏らす老人。黒い血をまき散らすその体。どす黒い血飛沫の中、それは崩れ落ちた。しかし――
――まだ消せないか……しぶとい野郎だ。
「くそ……くそっ! くそっ! くそっ! くそがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
膝をついて叫ぶ老人。そして、顔を上げ、私を捉えたその瞳は血走り、今にも外へ飛び出しそうなほど、膨れ上がっていた。
「あと一歩だった……あと一歩……」
そう呟いた老人は、再び立ち上がると同時に私へ襲い掛かって来る。しかし、先ほどの斬撃が効いているようで、動きは先ほどまでとは比べ物にならないほど、遅かった。
「せっかく殺してやったのに! 幸三を! もう少しだったのに! 沙織も!」
「え……お父さん? お父さんは自殺……あ」
私は思い出した。奈々さんは、自殺だった。お父さんの自殺に、死神が関わっていたとしてもおかしくない。
「御手洗家……貴様らを殺せば、俺は入閣できたのにぃぃぃぃぃっ!」
お父さんは殺された。その真実が私の中を駆け抜けた。だから、もう一度飛んだ。そして、鷲爪が老人を切り裂いた。
「ク、ソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
老人の体は左右真っ二つとなり、真っ黒な血飛沫を上げ、黒い靄になって消え行った。
*
生まれながらに不細工だとののしられ、いじめられた。勉強もしているのに、成績は悪く、気を付けているのに太り、視力も下がって眼鏡となり、糖尿病にもなった。中小零細企業に就職するも、出世とは縁遠く、恋愛も婚期もなく、晩年平社員として定年を迎えた。
やっと訪れた苦しみのない生活。ささやかな退職金と微々たる年金で暮らす日々。しかし、そこには、孤独と退屈という脅威が待っていた。
そんな自分を唯一理解してくれていた、同級生が死んだ。もう、誰も自分を必要としてくれていない。何で俺は必要とされなかったんだろう。
不細工だからか。成績が悪いからか。出世できなかったからか。全て違う。そういう環境を作った、社会が悪い。それを受け入れている人が悪い。
憎い。
憎い憎い憎い憎い!
俺は死んだ。しかし、生きていた。死なない体になった。死んでいるからだ。復讐の始まりだ。俺は殺して回った。それは結果、呪力を高め、あの方の目に留まった。そして、あの方のために、俺は御手洗幸三を殺した。そして、次は沙織を殺そうとしていた。しかし、クソ娘に、まさかの返り討ちにされてしまった。
「もう、疲れただろう? やめようよ、たかちゃん」
その声に耳を疑った。振り返ると、そこには死んだはずの同級生、将司の姿があった。
「まさ、くん……」
「楽になろうよ、たかちゃん」
「……ああ、そうだね、まさくんとまた、囲碁がしたい。できるかな?」
「できるさ」
「そうか、それは楽しみだ……」
*
老人の消えた屋上。先ほどまで真っ黒に染まっていた床は元に戻っていた。
――よくやったな、凛。
小太郎さんの声が、気持ちよく脳内に響くのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
深淵界隈
おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが、咲菜子を狙う霊や怪異に立ち向かう!
五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……?
そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。
MIDNIGHT
邦幸恵紀
キャラ文芸
【現代ファンタジー/外面のいい会社員×ツンデレ一見美少年/友人以上恋人未満】
「真夜中にはあまり出歩かないほうがいい」。
三月のある深夜、会社員・鬼頭和臣は、黒ずくめの美少年・霧河雅美にそう忠告される。
未成年に説教される筋合いはないと鬼頭は反発するが、その出会いが、その後の彼の人生を大きく変えてしまうのだった。
◆「第6回キャラ文芸大賞」で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる