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SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】
Capture.3『みたらし団子』
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「ごめんなさいっ! 上で滑って、転げ落ちてしまって……それでたぶん、この祠にぶつかってしまって、壊してしまったみたいですっ!」
私は素直に謝った。お父さんが口を酸っぱくして言っていた教え。謝罪は早いほど、互いの傷が浅くて済む、の教えに従って、もう隠せないと分かった以上、早く謝ってしまうのが得策と信じて……
下げた頭。何秒経っただろう。彼から返事がない。私はこっそり見上げて彼の顔を覗き見る。ぎょろりとした目と合った。やましさから瞳を伏せる。やっぱり怒っているみたいだ。どうしよう。
「おかしい……俺は何をするためにここにいる?」
「え?」
その声に顔を上げると、彼は首を傾げて空を見上げていた。
「……この祠の管理人さんじゃないんですか?」
私の問いに、視線を戻した彼は、再び首を傾げる。そして、信じられない言葉を口にした。
「俺はこの像に封印されていた。だが、何故封印されていたのか。そして、何のためにいるのか、思い出せない」
何を言っているのだろう。この像に封印されていたとはどういう事なのだろう。私は理解ができなかった。混乱する私をよそに、彼は頭をかきむしる。そして、ばっと私に向き直り、顔をぐいと近付けた。
「お前が俺を呼び出したんだ。責任を取れ」
「え? せ、責任?」
急に近付いた顔に、ドキドキした。思わず視線を避ける。動揺しながらも必死に思考を取り繕う。責任って何の事だろう。想像は、いろいろと膨らむ。チラりと彼に視線を戻す。整った鼻筋、凛々しく生えそろった眉毛、まつ毛の長い切れ長のつり目。そして、厚くもなく薄くもない唇――
ドキドキしていた。恋愛経験がゼロって訳じゃない。だけど、多くはないし、こんなイケメンと付き合った事はない。だから、こんな好みの顔が、こんなに近くに接近する事なんて、人生で一度もなかった。
ドキドキして当然だと思いたい。耳まで熱く感じるくらい、赤くなっていると思う。
「腹が減ったな」
「え?」
すっと距離を置いた彼は、前髪をさっとかき上げながら、笑ってみせる。
「みたらし団子」
「え?」
「みたらし団子、食いてぇ」
「みたらし、団子?」
私の問いに、彼は目を丸くする。
「ま、まさか、お前……みたらし団子、知らねぇのか?」
そのあどけない表情に、さっきまでジェットコースターに乗ってるかのように揺さぶられた私の心に平穏が戻って来た。
「し、知ってます!」
「なら、決まりだな。行くぞ」
彼は私の前を歩き始める。その姿に私は首を傾げた。何が起きたのだろう。
「早くしろよ、日が暮れたら危ねぇぞ!」
「あ、は、はい!」
前を行く彼の背中を追って小走りを始めると突然、彼は立ち止まった。私は勢い余って彼にぶつか――
「っ?!」
らなかった。何と彼の体をすり抜けたのだ。支えてもらえるものだと思っていた私の体は、そのまま地面に突っ伏した。
「何やってんだよ、お前」
振り返った私を、見下ろす彼の姿は確かにそこにある。
「そういや、お前、名前は何て言うんだ?」
だけど、私は彼の体をすり抜けた。やっと思考が追い付いた私は、背筋が凍り付く。
「あ、あなた……ゆ、幽霊?」
彼はその言葉に、私が指した指先を見て、笑った。
「当たり前だろ? 生きてる人間が像に封印されてる訳ねぇだろ?」
そして、手を差し出す。ふと掴もうとしたものの、その手もすり抜けると思った私は、握るのを躊躇していた。すると笑顔で彼は告げる。
「俺は、小太郎だ」
そして、その手が私の手を掴んだ。何故だろう、彼から掴むことはできるようだった。立ち上がらせてもらった私は、彼の顔を見る。首を傾げていた。その理由を考えた。私はやっと理解する。そして、笑顔を浮かべて答える。
「私は、凛。御手洗凛です」
私は素直に謝った。お父さんが口を酸っぱくして言っていた教え。謝罪は早いほど、互いの傷が浅くて済む、の教えに従って、もう隠せないと分かった以上、早く謝ってしまうのが得策と信じて……
下げた頭。何秒経っただろう。彼から返事がない。私はこっそり見上げて彼の顔を覗き見る。ぎょろりとした目と合った。やましさから瞳を伏せる。やっぱり怒っているみたいだ。どうしよう。
「おかしい……俺は何をするためにここにいる?」
「え?」
その声に顔を上げると、彼は首を傾げて空を見上げていた。
「……この祠の管理人さんじゃないんですか?」
私の問いに、視線を戻した彼は、再び首を傾げる。そして、信じられない言葉を口にした。
「俺はこの像に封印されていた。だが、何故封印されていたのか。そして、何のためにいるのか、思い出せない」
何を言っているのだろう。この像に封印されていたとはどういう事なのだろう。私は理解ができなかった。混乱する私をよそに、彼は頭をかきむしる。そして、ばっと私に向き直り、顔をぐいと近付けた。
「お前が俺を呼び出したんだ。責任を取れ」
「え? せ、責任?」
急に近付いた顔に、ドキドキした。思わず視線を避ける。動揺しながらも必死に思考を取り繕う。責任って何の事だろう。想像は、いろいろと膨らむ。チラりと彼に視線を戻す。整った鼻筋、凛々しく生えそろった眉毛、まつ毛の長い切れ長のつり目。そして、厚くもなく薄くもない唇――
ドキドキしていた。恋愛経験がゼロって訳じゃない。だけど、多くはないし、こんなイケメンと付き合った事はない。だから、こんな好みの顔が、こんなに近くに接近する事なんて、人生で一度もなかった。
ドキドキして当然だと思いたい。耳まで熱く感じるくらい、赤くなっていると思う。
「腹が減ったな」
「え?」
すっと距離を置いた彼は、前髪をさっとかき上げながら、笑ってみせる。
「みたらし団子」
「え?」
「みたらし団子、食いてぇ」
「みたらし、団子?」
私の問いに、彼は目を丸くする。
「ま、まさか、お前……みたらし団子、知らねぇのか?」
そのあどけない表情に、さっきまでジェットコースターに乗ってるかのように揺さぶられた私の心に平穏が戻って来た。
「し、知ってます!」
「なら、決まりだな。行くぞ」
彼は私の前を歩き始める。その姿に私は首を傾げた。何が起きたのだろう。
「早くしろよ、日が暮れたら危ねぇぞ!」
「あ、は、はい!」
前を行く彼の背中を追って小走りを始めると突然、彼は立ち止まった。私は勢い余って彼にぶつか――
「っ?!」
らなかった。何と彼の体をすり抜けたのだ。支えてもらえるものだと思っていた私の体は、そのまま地面に突っ伏した。
「何やってんだよ、お前」
振り返った私を、見下ろす彼の姿は確かにそこにある。
「そういや、お前、名前は何て言うんだ?」
だけど、私は彼の体をすり抜けた。やっと思考が追い付いた私は、背筋が凍り付く。
「あ、あなた……ゆ、幽霊?」
彼はその言葉に、私が指した指先を見て、笑った。
「当たり前だろ? 生きてる人間が像に封印されてる訳ねぇだろ?」
そして、手を差し出す。ふと掴もうとしたものの、その手もすり抜けると思った私は、握るのを躊躇していた。すると笑顔で彼は告げる。
「俺は、小太郎だ」
そして、その手が私の手を掴んだ。何故だろう、彼から掴むことはできるようだった。立ち上がらせてもらった私は、彼の顔を見る。首を傾げていた。その理由を考えた。私はやっと理解する。そして、笑顔を浮かべて答える。
「私は、凛。御手洗凛です」
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