SOULIST~呪霊を取り込む抗憑依体質者【CODE:I.T.A.Co】

神楽坂眠兎

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SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】

Capture.5『職場』

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 「おはようございまーす……って誰もいない、か」

 翌日を迎えた私は、連休を終え、勤務先である横浜アウトレット店に出勤していた。いつもと変わらないスタッフたちが迎えてくれる、はずだった。

 「……店長、夏休みか」

 指紋認証端末で出勤チェックしながら、シフト表を確認する。今日から連休に入ったスタッフは、店長の市原颯太さんと、同じ年で同期の鈴木陽菜ひなちゃん。去年から働いている高校生バイトで先輩の石田みおちゃんが今日まで連休だった。

 「おっす、御手洗」

 店内で品出しを始めた私に声をかけて来たのは、先輩社員の佐藤隆二りゅうじさん。私の一つ上の先輩だ。

 「あ、佐藤さん、おはようございます」
 「どうだった、夏休みは?」
 「軽井沢でソロキャンプやってみました」
 「へー、御手洗ってアウトドア派なん? 見えねーけど」
 「これ、お土産です」
 「お、悪いね、サンキュー」

 お土産を渡しているとまた一人、出勤してきた。九条さくらちゃん。同じ年の同期の社員。腰まであるサラサラの長い髪のミステリアスな美女だ。

 「おい、凛。お前、着物屋なのか?」

 店内を物珍しそうに物色している小太郎さんが、突然そんな風に声をかけて来たため、私はびっくりして振り返った。

 「どうした、御手洗? 急に振り返って?」
 「え? あ、いえ、何でもないです、あはは……」

 佐藤さんには見えないようだ。やっぱり皆には見えない――

 「え……」

 そう思って安心した私が、さくらちゃんにお土産を渡そうと視線を移すと、彼女の視線は小太郎さんを見ていた。

 「さ、さくらちゃん?」

 もしかして見えてるのかもしれない。緊張が走る。

 「おっす、九条!」

 そんな私の緊張をガン無視で、佐藤さんが彼女の肩を叩きながら声をかけた。その瞬間、彼女は彼の手首をパシと掴む。そして、キッと睨み付ける。

 「佐藤先輩、セクハラです」
 「怖いね~九条は。ただのコミュニケーションだろ?」
 「あたしは認めません」

 彼は悪い人ではない。だけど、少しスキンシップが過ぎる。その上、自分はモテると勘違いしている節があって、彼女とはよくトラブルになっていた。

 でも、おかげで声がかけやすくなった。

 「おはよう、さくらちゃん」
 「……おはよう、御手洗さん」
 「これ、あの、お土産なんだけど」
 「……ありがとう。軽井沢?」
 「え? あ、うん」

 お土産にはデカデカと軽井沢と書いてある。

 「そこであれに憑かれたのね」
 「え?」

 小さな声で聞き取れなかった。

 「何でもない。あたしがフォローするから安心して」
 「何の事?」

 私の質問をスルーして、さくらちゃんはレジで作業を始めた。その姿を、茫然と見つめていた。すると目の前が真っ暗になる。

 「だ~れだ~?」
 「びっくりするじゃないですか、奈々さん」
 「あはは、バレた~?」

 塞いでいた手はどけられ、振り返るとショートボブの女性が笑っていた。彼女は高橋奈々さん。私の二つ上。入社してから、一番お世話になってる先輩派遣社員だ。

 「ソロキャン、どうだったの~?」
 「私には、合いませんでした、ハハ……」
 「うっそ~? めっちゃ面白かったでしょ~?」
 「あ、でも! 風景とか写真撮るのは楽しかったです!」
 「ま~人には合う合わないがあるもんね~仕方ないか~」

 ソロキャンプのきっかけは、奈々さんだった。彼女に勧められて、レンタルで出来る場所という事で、あのキャンプ場に行った。そのせいで――

 「なんだ、この布切れは? どこに付けるんだ、これ?」

 ブラジャーコーナーで首を傾げてそう声にしている小太郎さんを見つめた。そう、そのせいで彼に取り憑かれてしまったのだ。そう考えたら、思わずため息が出た。

 「あ~そうだ~! 凛ちゃんね~悪い知らせがあるの~……」

 お土産を受け取った奈々さんは、申し訳なさそうな表情を浮かべてそう告げた。

 「悪い知らせ?」
 「うん~……実はね、颯くんの事なんだけど~――」

 その日、私に失恋したのだった。
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