5 / 21
SCENE.1【抗憑依体質者、御手洗凛】
Capture.5『職場』
しおりを挟む
「おはようございまーす……って誰もいない、か」
翌日を迎えた私は、連休を終え、勤務先である横浜アウトレット店に出勤していた。いつもと変わらないスタッフたちが迎えてくれる、はずだった。
「……店長、夏休みか」
指紋認証端末で出勤チェックしながら、シフト表を確認する。今日から連休に入ったスタッフは、店長の市原颯太さんと、同じ年で同期の鈴木陽菜ちゃん。去年から働いている高校生バイトで先輩の石田澪ちゃんが今日まで連休だった。
「おっす、御手洗」
店内で品出しを始めた私に声をかけて来たのは、先輩社員の佐藤隆二さん。私の一つ上の先輩だ。
「あ、佐藤さん、おはようございます」
「どうだった、夏休みは?」
「軽井沢でソロキャンプやってみました」
「へー、御手洗ってアウトドア派なん? 見えねーけど」
「これ、お土産です」
「お、悪いね、サンキュー」
お土産を渡しているとまた一人、出勤してきた。九条さくらちゃん。同じ年の同期の社員。腰まであるサラサラの長い髪のミステリアスな美女だ。
「おい、凛。お前、着物屋なのか?」
店内を物珍しそうに物色している小太郎さんが、突然そんな風に声をかけて来たため、私はびっくりして振り返った。
「どうした、御手洗? 急に振り返って?」
「え? あ、いえ、何でもないです、あはは……」
佐藤さんには見えないようだ。やっぱり皆には見えない――
「え……」
そう思って安心した私が、さくらちゃんにお土産を渡そうと視線を移すと、彼女の視線は小太郎さんを見ていた。
「さ、さくらちゃん?」
もしかして見えてるのかもしれない。緊張が走る。
「おっす、九条!」
そんな私の緊張をガン無視で、佐藤さんが彼女の肩を叩きながら声をかけた。その瞬間、彼女は彼の手首をパシと掴む。そして、キッと睨み付ける。
「佐藤先輩、セクハラです」
「怖いね~九条は。ただのコミュニケーションだろ?」
「あたしは認めません」
彼は悪い人ではない。だけど、少しスキンシップが過ぎる。その上、自分はモテると勘違いしている節があって、彼女とはよくトラブルになっていた。
でも、おかげで声がかけやすくなった。
「おはよう、さくらちゃん」
「……おはよう、御手洗さん」
「これ、あの、お土産なんだけど」
「……ありがとう。軽井沢?」
「え? あ、うん」
お土産にはデカデカと軽井沢と書いてある。
「そこであれに憑かれたのね」
「え?」
小さな声で聞き取れなかった。
「何でもない。あたしがフォローするから安心して」
「何の事?」
私の質問をスルーして、さくらちゃんはレジで作業を始めた。その姿を、茫然と見つめていた。すると目の前が真っ暗になる。
「だ~れだ~?」
「びっくりするじゃないですか、奈々さん」
「あはは、バレた~?」
塞いでいた手はどけられ、振り返るとショートボブの女性が笑っていた。彼女は高橋奈々さん。私の二つ上。入社してから、一番お世話になってる先輩派遣社員だ。
「ソロキャン、どうだったの~?」
「私には、合いませんでした、ハハ……」
「うっそ~? めっちゃ面白かったでしょ~?」
「あ、でも! 風景とか写真撮るのは楽しかったです!」
「ま~人には合う合わないがあるもんね~仕方ないか~」
ソロキャンプのきっかけは、奈々さんだった。彼女に勧められて、レンタルで出来る場所という事で、あのキャンプ場に行った。そのせいで――
「なんだ、この布切れは? どこに付けるんだ、これ?」
ブラジャーコーナーで首を傾げてそう声にしている小太郎さんを見つめた。そう、そのせいで彼に取り憑かれてしまったのだ。そう考えたら、思わずため息が出た。
「あ~そうだ~! 凛ちゃんね~悪い知らせがあるの~……」
お土産を受け取った奈々さんは、申し訳なさそうな表情を浮かべてそう告げた。
「悪い知らせ?」
「うん~……実はね、颯くんの事なんだけど~――」
その日、私に失恋したのだった。
翌日を迎えた私は、連休を終え、勤務先である横浜アウトレット店に出勤していた。いつもと変わらないスタッフたちが迎えてくれる、はずだった。
「……店長、夏休みか」
指紋認証端末で出勤チェックしながら、シフト表を確認する。今日から連休に入ったスタッフは、店長の市原颯太さんと、同じ年で同期の鈴木陽菜ちゃん。去年から働いている高校生バイトで先輩の石田澪ちゃんが今日まで連休だった。
「おっす、御手洗」
店内で品出しを始めた私に声をかけて来たのは、先輩社員の佐藤隆二さん。私の一つ上の先輩だ。
「あ、佐藤さん、おはようございます」
「どうだった、夏休みは?」
「軽井沢でソロキャンプやってみました」
「へー、御手洗ってアウトドア派なん? 見えねーけど」
「これ、お土産です」
「お、悪いね、サンキュー」
お土産を渡しているとまた一人、出勤してきた。九条さくらちゃん。同じ年の同期の社員。腰まであるサラサラの長い髪のミステリアスな美女だ。
「おい、凛。お前、着物屋なのか?」
店内を物珍しそうに物色している小太郎さんが、突然そんな風に声をかけて来たため、私はびっくりして振り返った。
「どうした、御手洗? 急に振り返って?」
「え? あ、いえ、何でもないです、あはは……」
佐藤さんには見えないようだ。やっぱり皆には見えない――
「え……」
そう思って安心した私が、さくらちゃんにお土産を渡そうと視線を移すと、彼女の視線は小太郎さんを見ていた。
「さ、さくらちゃん?」
もしかして見えてるのかもしれない。緊張が走る。
「おっす、九条!」
そんな私の緊張をガン無視で、佐藤さんが彼女の肩を叩きながら声をかけた。その瞬間、彼女は彼の手首をパシと掴む。そして、キッと睨み付ける。
「佐藤先輩、セクハラです」
「怖いね~九条は。ただのコミュニケーションだろ?」
「あたしは認めません」
彼は悪い人ではない。だけど、少しスキンシップが過ぎる。その上、自分はモテると勘違いしている節があって、彼女とはよくトラブルになっていた。
でも、おかげで声がかけやすくなった。
「おはよう、さくらちゃん」
「……おはよう、御手洗さん」
「これ、あの、お土産なんだけど」
「……ありがとう。軽井沢?」
「え? あ、うん」
お土産にはデカデカと軽井沢と書いてある。
「そこであれに憑かれたのね」
「え?」
小さな声で聞き取れなかった。
「何でもない。あたしがフォローするから安心して」
「何の事?」
私の質問をスルーして、さくらちゃんはレジで作業を始めた。その姿を、茫然と見つめていた。すると目の前が真っ暗になる。
「だ~れだ~?」
「びっくりするじゃないですか、奈々さん」
「あはは、バレた~?」
塞いでいた手はどけられ、振り返るとショートボブの女性が笑っていた。彼女は高橋奈々さん。私の二つ上。入社してから、一番お世話になってる先輩派遣社員だ。
「ソロキャン、どうだったの~?」
「私には、合いませんでした、ハハ……」
「うっそ~? めっちゃ面白かったでしょ~?」
「あ、でも! 風景とか写真撮るのは楽しかったです!」
「ま~人には合う合わないがあるもんね~仕方ないか~」
ソロキャンプのきっかけは、奈々さんだった。彼女に勧められて、レンタルで出来る場所という事で、あのキャンプ場に行った。そのせいで――
「なんだ、この布切れは? どこに付けるんだ、これ?」
ブラジャーコーナーで首を傾げてそう声にしている小太郎さんを見つめた。そう、そのせいで彼に取り憑かれてしまったのだ。そう考えたら、思わずため息が出た。
「あ~そうだ~! 凛ちゃんね~悪い知らせがあるの~……」
お土産を受け取った奈々さんは、申し訳なさそうな表情を浮かべてそう告げた。
「悪い知らせ?」
「うん~……実はね、颯くんの事なんだけど~――」
その日、私に失恋したのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
MIDNIGHT
邦幸恵紀
キャラ文芸
【現代ファンタジー/外面のいい会社員×ツンデレ一見美少年/友人以上恋人未満】
「真夜中にはあまり出歩かないほうがいい」。
三月のある深夜、会社員・鬼頭和臣は、黒ずくめの美少年・霧河雅美にそう忠告される。
未成年に説教される筋合いはないと鬼頭は反発するが、その出会いが、その後の彼の人生を大きく変えてしまうのだった。
◆「第6回キャラ文芸大賞」で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。
深淵界隈
おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが、咲菜子を狙う霊や怪異に立ち向かう!
五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……?
そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる