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第七十話 もしもの話

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 マドラーナが言うには明日にも勇者パーティがここにやってくるらしい。
 でももしかしたら今日来るんじゃないかと思ってずっとそわそわしてた。
 だがそれは杞憂に終わった。
 といっても一日延びただけだ。

 それよりも気になるのはアイリのことだ。
 あれからずっと元気がない。
 なにか隠してるのは間違いないが聞いても教えてくれない。

「なぁ、アイリに聞いてみてくれたか?」
「はい。でも少し体調が悪いだけとしか……」
「ジャスミンでもダメか。ドーラ……じゃ無理に決まってるか」
「ミルク君とココアちゃんならどうでしょう?」
「そうだな。ジェルとサクラにも頼もうか」

 あんなに可愛いペットたちと遊べば気も紛れるだろう。

「それとアイリのこととは別件の相談なんだが」
「……なんでしょう?」
「もし地下二階が営業できなくなったらどうなると思う? もしだからな?」
「もしですか……」

 それは魔族側が敗北したときだ。
 つまりレファがいなくなるということ。
 レファが大魔王だということは人間側では俺しか知らない。

「地下一階がどうなるかって話ですよね?」
「あぁ」
「ガチャ屋は商品の仕入れや価格設定が重要になってきます」
「そうだな」
「仕入れ体制が変わるとなると全てを見直す必要があります」
「……」
「でもなんとかしてみせます」
「自信があるのか?」
「もちろんです。さすがに現状に比べると大幅に利益が落ちますが」
「奇遇だな。俺も赤字にはしない自信がある」

 モンスターから買取はできなくなるかもしれない。
 でも代わりに人間から買取をすればいい。
 中古を買い取ってドーラが修理する。
 原価は今より多少なりとも上がるだろうがどうにかできるはずだ。
 提供割合は考えなければならないがな。

「それに寿司酒場は地下二階のお客様が来なくなるだけですし」
「あぁ。今は忙しすぎるくらいだ」
「牧畜も供給量が少なくなるくらいでちょうどいいと思いますし」
「多い分には町で売ればいいだけだしな」

 寿司酒場と牧畜は地下二階の影響はあまりないだろう。
 寿司屋のランチ営業は全くと言っていいほど関係ないしな。

「……以上のことより、なんとかなると思います」
「うん。だがいつそうなってもいいように覚悟しておいてくれ」
「……わかりました」

 ジャスミンには今後のことだけを考えていてほしい。
 レファたちに情が移るようだとダークエルフになってしまう危険がある。
 人間側でいてもらうためにはこれ以上の負担はかけられない。
 もちろんジャスミンなら俺の考えもわかってくれてるはずだ。

「ドーラにも話してくれるか?」
「はい。……あの」
「大丈夫だ。ここはなくならない。なにがあっても」
「すみません。……力になってあげてください」

 レファたちの力になれということか?
 それ以上は言うなよ?

「モンスターがいなくなったらどうなるか考えたことあるか?」
「……はい。ここに来てから考えるようになりました」
「俺は今の状態を守る必要があると思ってる」
「……」

 ジャスミンもドーラもミアもわかっているはずだ。
 だからこそここにいるんだろ?

「もし俺がいなくなったらここを任せてもいいか?」
「…………はい」
「そうか。でも一つだけ約束してくれ」
「……」
「ダークエルフにはなるなよ」
「…………それは……約束できません」
「おいおい、ダークエルフになったら店を守れないだろ」
「……そうでした」

 俺は微笑んで見せる。

「まぁもしもの話だから深く考えるな」
「そうですよね。もしもですもんね」
「あぁ。もちろん最悪の状況にならないように手は打つしな」
「なにか考えがあるんですか?」
「いや、今から考える。といっても俺にできることは限られてるんだけどな」

 俺は寿司職人なんだからな。
 戦闘面では全く役に立てないだろう。
 勇者たちが食べるものに毒を仕込むとかはできるだろうが。
 それはやってはいけないよな。
 せめて正々堂々と戦いで決着がつくところを見たい。
 同じ転移者として卑怯なことはしたくないし。

「報告です」
「うぉっ!」

 極メタスラーのメラだ。
 素早さ特化にしたのはいいが速すぎていつも急に現れる。

「どうした?」
「一階入り口前で不審な人物を拘束したようです」
「またか……」

 プリン王女が来て以来、二~三日に一回はこんな調子だ。
 地下一階入り口前で捕らえられるのは決まって王女の手下。
 なにか探ってこいとは言われてるんだろうが彼らも可哀想だ。
 極スライム軍団が相手では彼らはどうにもできない。

「また同じやつらか?」
「いえ、危害を加えてくる様子ではなかったんですが念のため拘束したと」
「ん? 酔っぱらって地下への階段を下りちゃったのかな」
「地下ではなくて一階です。寿司屋前です」
「寿司屋前?」

 それは初めてのことだな。
 ……いや、寿司屋も怪しいと思われたのかもしれない。
 現にティラミス王女には疑われたからな。

「わかった。行こう」

 メラと共に一階に行く。
 外からはかすかにうめき声が聞こえている。

 入り口のドアを静かに開けた。
 不審者がスライム二匹の魔法によって抑え込まれているようだ。
 暗くて顔まではよく見えない。

「もう少しそのままでな」

 メラ以外は言葉を話せない。
 だが人の言葉は理解できる。

「うぅ~……あっ!? 大将! うぅ、助けてください」
「……」

 拘束されていたのは王女だった。
 プリン王女じゃなく、ティラミス王女だ。
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