70 / 83
第七十話 もしもの話
しおりを挟む
マドラーナが言うには明日にも勇者パーティがここにやってくるらしい。
でももしかしたら今日来るんじゃないかと思ってずっとそわそわしてた。
だがそれは杞憂に終わった。
といっても一日延びただけだ。
それよりも気になるのはアイリのことだ。
あれからずっと元気がない。
なにか隠してるのは間違いないが聞いても教えてくれない。
「なぁ、アイリに聞いてみてくれたか?」
「はい。でも少し体調が悪いだけとしか……」
「ジャスミンでもダメか。ドーラ……じゃ無理に決まってるか」
「ミルク君とココアちゃんならどうでしょう?」
「そうだな。ジェルとサクラにも頼もうか」
あんなに可愛いペットたちと遊べば気も紛れるだろう。
「それとアイリのこととは別件の相談なんだが」
「……なんでしょう?」
「もし地下二階が営業できなくなったらどうなると思う? もしだからな?」
「もしですか……」
それは魔族側が敗北したときだ。
つまりレファがいなくなるということ。
レファが大魔王だということは人間側では俺しか知らない。
「地下一階がどうなるかって話ですよね?」
「あぁ」
「ガチャ屋は商品の仕入れや価格設定が重要になってきます」
「そうだな」
「仕入れ体制が変わるとなると全てを見直す必要があります」
「……」
「でもなんとかしてみせます」
「自信があるのか?」
「もちろんです。さすがに現状に比べると大幅に利益が落ちますが」
「奇遇だな。俺も赤字にはしない自信がある」
モンスターから買取はできなくなるかもしれない。
でも代わりに人間から買取をすればいい。
中古を買い取ってドーラが修理する。
原価は今より多少なりとも上がるだろうがどうにかできるはずだ。
提供割合は考えなければならないがな。
「それに寿司酒場は地下二階のお客様が来なくなるだけですし」
「あぁ。今は忙しすぎるくらいだ」
「牧畜も供給量が少なくなるくらいでちょうどいいと思いますし」
「多い分には町で売ればいいだけだしな」
寿司酒場と牧畜は地下二階の影響はあまりないだろう。
寿司屋のランチ営業は全くと言っていいほど関係ないしな。
「……以上のことより、なんとかなると思います」
「うん。だがいつそうなってもいいように覚悟しておいてくれ」
「……わかりました」
ジャスミンには今後のことだけを考えていてほしい。
レファたちに情が移るようだとダークエルフになってしまう危険がある。
人間側でいてもらうためにはこれ以上の負担はかけられない。
もちろんジャスミンなら俺の考えもわかってくれてるはずだ。
「ドーラにも話してくれるか?」
「はい。……あの」
「大丈夫だ。ここはなくならない。なにがあっても」
「すみません。……力になってあげてください」
レファたちの力になれということか?
それ以上は言うなよ?
「モンスターがいなくなったらどうなるか考えたことあるか?」
「……はい。ここに来てから考えるようになりました」
「俺は今の状態を守る必要があると思ってる」
「……」
ジャスミンもドーラもミアもわかっているはずだ。
だからこそここにいるんだろ?
「もし俺がいなくなったらここを任せてもいいか?」
「…………はい」
「そうか。でも一つだけ約束してくれ」
「……」
「ダークエルフにはなるなよ」
「…………それは……約束できません」
「おいおい、ダークエルフになったら店を守れないだろ」
「……そうでした」
俺は微笑んで見せる。
「まぁもしもの話だから深く考えるな」
「そうですよね。もしもですもんね」
「あぁ。もちろん最悪の状況にならないように手は打つしな」
「なにか考えがあるんですか?」
「いや、今から考える。といっても俺にできることは限られてるんだけどな」
俺は寿司職人なんだからな。
戦闘面では全く役に立てないだろう。
勇者たちが食べるものに毒を仕込むとかはできるだろうが。
それはやってはいけないよな。
せめて正々堂々と戦いで決着がつくところを見たい。
同じ転移者として卑怯なことはしたくないし。
「報告です」
「うぉっ!」
極メタスラーのメラだ。
素早さ特化にしたのはいいが速すぎていつも急に現れる。
「どうした?」
「一階入り口前で不審な人物を拘束したようです」
「またか……」
プリン王女が来て以来、二~三日に一回はこんな調子だ。
地下一階入り口前で捕らえられるのは決まって王女の手下。
なにか探ってこいとは言われてるんだろうが彼らも可哀想だ。
極スライム軍団が相手では彼らはどうにもできない。
「また同じやつらか?」
「いえ、危害を加えてくる様子ではなかったんですが念のため拘束したと」
「ん? 酔っぱらって地下への階段を下りちゃったのかな」
「地下ではなくて一階です。寿司屋前です」
「寿司屋前?」
それは初めてのことだな。
……いや、寿司屋も怪しいと思われたのかもしれない。
現にティラミス王女には疑われたからな。
「わかった。行こう」
メラと共に一階に行く。
外からはかすかにうめき声が聞こえている。
入り口のドアを静かに開けた。
不審者がスライム二匹の魔法によって抑え込まれているようだ。
暗くて顔まではよく見えない。
「もう少しそのままでな」
メラ以外は言葉を話せない。
だが人の言葉は理解できる。
「うぅ~……あっ!? 大将! うぅ、助けてください」
「……」
拘束されていたのは王女だった。
プリン王女じゃなく、ティラミス王女だ。
でももしかしたら今日来るんじゃないかと思ってずっとそわそわしてた。
だがそれは杞憂に終わった。
といっても一日延びただけだ。
それよりも気になるのはアイリのことだ。
あれからずっと元気がない。
なにか隠してるのは間違いないが聞いても教えてくれない。
「なぁ、アイリに聞いてみてくれたか?」
「はい。でも少し体調が悪いだけとしか……」
「ジャスミンでもダメか。ドーラ……じゃ無理に決まってるか」
「ミルク君とココアちゃんならどうでしょう?」
「そうだな。ジェルとサクラにも頼もうか」
あんなに可愛いペットたちと遊べば気も紛れるだろう。
「それとアイリのこととは別件の相談なんだが」
「……なんでしょう?」
「もし地下二階が営業できなくなったらどうなると思う? もしだからな?」
「もしですか……」
それは魔族側が敗北したときだ。
つまりレファがいなくなるということ。
レファが大魔王だということは人間側では俺しか知らない。
「地下一階がどうなるかって話ですよね?」
「あぁ」
「ガチャ屋は商品の仕入れや価格設定が重要になってきます」
「そうだな」
「仕入れ体制が変わるとなると全てを見直す必要があります」
「……」
「でもなんとかしてみせます」
「自信があるのか?」
「もちろんです。さすがに現状に比べると大幅に利益が落ちますが」
「奇遇だな。俺も赤字にはしない自信がある」
モンスターから買取はできなくなるかもしれない。
でも代わりに人間から買取をすればいい。
中古を買い取ってドーラが修理する。
原価は今より多少なりとも上がるだろうがどうにかできるはずだ。
提供割合は考えなければならないがな。
「それに寿司酒場は地下二階のお客様が来なくなるだけですし」
「あぁ。今は忙しすぎるくらいだ」
「牧畜も供給量が少なくなるくらいでちょうどいいと思いますし」
「多い分には町で売ればいいだけだしな」
寿司酒場と牧畜は地下二階の影響はあまりないだろう。
寿司屋のランチ営業は全くと言っていいほど関係ないしな。
「……以上のことより、なんとかなると思います」
「うん。だがいつそうなってもいいように覚悟しておいてくれ」
「……わかりました」
ジャスミンには今後のことだけを考えていてほしい。
レファたちに情が移るようだとダークエルフになってしまう危険がある。
人間側でいてもらうためにはこれ以上の負担はかけられない。
もちろんジャスミンなら俺の考えもわかってくれてるはずだ。
「ドーラにも話してくれるか?」
「はい。……あの」
「大丈夫だ。ここはなくならない。なにがあっても」
「すみません。……力になってあげてください」
レファたちの力になれということか?
それ以上は言うなよ?
「モンスターがいなくなったらどうなるか考えたことあるか?」
「……はい。ここに来てから考えるようになりました」
「俺は今の状態を守る必要があると思ってる」
「……」
ジャスミンもドーラもミアもわかっているはずだ。
だからこそここにいるんだろ?
「もし俺がいなくなったらここを任せてもいいか?」
「…………はい」
「そうか。でも一つだけ約束してくれ」
「……」
「ダークエルフにはなるなよ」
「…………それは……約束できません」
「おいおい、ダークエルフになったら店を守れないだろ」
「……そうでした」
俺は微笑んで見せる。
「まぁもしもの話だから深く考えるな」
「そうですよね。もしもですもんね」
「あぁ。もちろん最悪の状況にならないように手は打つしな」
「なにか考えがあるんですか?」
「いや、今から考える。といっても俺にできることは限られてるんだけどな」
俺は寿司職人なんだからな。
戦闘面では全く役に立てないだろう。
勇者たちが食べるものに毒を仕込むとかはできるだろうが。
それはやってはいけないよな。
せめて正々堂々と戦いで決着がつくところを見たい。
同じ転移者として卑怯なことはしたくないし。
「報告です」
「うぉっ!」
極メタスラーのメラだ。
素早さ特化にしたのはいいが速すぎていつも急に現れる。
「どうした?」
「一階入り口前で不審な人物を拘束したようです」
「またか……」
プリン王女が来て以来、二~三日に一回はこんな調子だ。
地下一階入り口前で捕らえられるのは決まって王女の手下。
なにか探ってこいとは言われてるんだろうが彼らも可哀想だ。
極スライム軍団が相手では彼らはどうにもできない。
「また同じやつらか?」
「いえ、危害を加えてくる様子ではなかったんですが念のため拘束したと」
「ん? 酔っぱらって地下への階段を下りちゃったのかな」
「地下ではなくて一階です。寿司屋前です」
「寿司屋前?」
それは初めてのことだな。
……いや、寿司屋も怪しいと思われたのかもしれない。
現にティラミス王女には疑われたからな。
「わかった。行こう」
メラと共に一階に行く。
外からはかすかにうめき声が聞こえている。
入り口のドアを静かに開けた。
不審者がスライム二匹の魔法によって抑え込まれているようだ。
暗くて顔まではよく見えない。
「もう少しそのままでな」
メラ以外は言葉を話せない。
だが人の言葉は理解できる。
「うぅ~……あっ!? 大将! うぅ、助けてください」
「……」
拘束されていたのは王女だった。
プリン王女じゃなく、ティラミス王女だ。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる