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第六十五話 王女と王女

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 地下一階も地下二階も非常に盛り上がっているようだ。
 明日はもっと賑やかになるだろう。
 なんせ格闘場でCランク以上の戦いが見られるようになるんだからな。

 今日来た中級以上の冒険者たちはガチャを回さずに様子見といった感じだ。
 新ガチャの金箱以上の商品がいくら一点物といってもすぐになくなるわけがないと思ってるんだろう。

「金貨一枚はキツイよなぁ」
「もっと金貯めとけば良かった……」
「ドワーフラビット狩りでもする?」
「酒場で依頼探すか~」

 ……金がないだけだったか。
 安いと言ってたのは商品価値に対してのことか。
 まぁ金貨一枚は高いからな。

「本当に本物なんでしょうね!?」
「もちろんです」
「なら見せてみなさいよ!?」
「申し訳ありませんが既に商品としてセット済みですので」
「ほらっ! どうせ嘘か偽物に決まってるのよ!」

 ガチャ周りがうるさいな。
 態度の悪い冒険者もいたもんだ。
 可哀想だが即刻お引き取り願おうか。

「あれは……プリン王女です!」
「プリン王女?」
「はい! ババロア王国……この国の王女ですね!」

 ババロア王国のプリン王女……。
 名前が気になって仕方ない。

 それよりついに来たか。
 でもわざわざ王女が来るようなことか?

「私はあの方苦手です。傲慢なんですよ」
「……」

 俺の目の前にはガナッシュ王国のティラミス王女がいる。

 あんなことがあったにも関わらず、あの夜から毎日来てるんだ。
 しかも決まって俺の前のカウンターに陣取るようになった。
 ここはカウンター席の予定じゃなかったんだが……。
 見兼ねたドーラが王女専用の椅子まで作ってしまったしな。

 カウンター内にある大量のモニターがいつバレてもおかしくない。
 だからスイッチ一つで全モニターを収納できるように改良してもらった。
 これはこれでなかなかのスリルがあって楽しいかもしれない。

 さらに王女だけじゃなくトルテばあさんまで通ってるんだ。
 今ではクレアばあさんの横に座ってランク付けまでいっしょにしてる。
 二人とも酒を飲みながらな。
 もちろんドーラにより専用の椅子も作成済みだ。
 二日目に酒を注意したらなぜか逆ギレをされた。
 だからもうこの二人のことは知らん。

 と、そんなことよりプリン王女だ。
 俺が住んでるババロア王国の。

 ジャスミンにいちゃもんをつけてるようだな。
 さすがに王女を追い出すわけにはいかないし。
 さて、どうしたもんか。

「私が行ってきます!」
「え……いや、ちょっと……」

 俺がとめる前に勝手に行ってしまった……。
 任せてみるしかないか……。

「誰に許可取って営業してんのよ!?」
「……」
「こんなギャンブル中毒の冒険者ばかり集めてさ!」
「……」
「仲間モンスターだかなんだか知らないけど町に入れないで!」
「……」
「それに格闘場ってのはどこに作ったのよ!?」
「……」
「モンスターを集めてなにを企んでるの!?」
「……」
「今日限りこの店は潰すからね!」

 なんだこの王女は。
 こんなのがこの世界で一番大きい国の王女なのか?
 罵声を浴びせられてるジャスミンが可哀想だ。

「なんとか言いなさいよ!?」
「プリン王女様。お久しぶりです」
「…………ティラミスね。なんでこんなところにいるのかしら?」
「覚えていていただけて光栄です。私も一応王女ですからね」
「ふ~ん。あなたもギャンブルにハマってるのかしら?」
「私はみなさんに万が一の危険がないように注視してるだけです」
「わざわざ人の国に来てまですることじゃないわよね?」
「普段なにもされてないプリン様にここのなにがおわかりになると?」

 ……バッチバチだな。
 俺からしたら二人とも敵みたいなもんだが、今はティラミス王女を応援したくなる。

「あなた……自分がなに言ってるかわかってるの?」
「もちろんです。私これでも一応魔道士なんですよ?」
「……ふんっ! だからなんだって言うのよ!」
「冒険者のこともモンスターのことも私のほうがわかるってことです」
「あなたねぇ~!? 調子に乗ってると国がどうなっても知らないわよ!?」
「宣戦布告ですか? ここにいるみなさんが今の発言聞きましたよ?」
「……もういい! そこのエルフ! 次はオーナーを呼んでおきなさい!」

 プリン王女と護衛らしき騎士たちはそそくさと店から出ていった。
 さすがにさっきの発言はマズいだろう。
 本当に戦争が起こったりしないよな?

「みなさん! お騒がせして申し訳ありません! 夜はまだこれからですよ! 楽しみましょう!」
「うおぉ~!」

 ティラミス王女の声に冒険者たちは沸き立つ。

「うん? なにかあったのかい? アイリちゃん、ビール二つ」
「遠くてよく聞こえん。アイリちゃん、唐揚げもね」

 こいつら……。
 ランク付けはちゃんとできてるんだろうな?
 明日からもこの調子だとジャスミンと配置を入れ替えようか。
 トルテばあさんなんかタダで飲み食いしてるのにそのうち給料寄こせとか言ってきそうな勢いだ。

「どうでしたか!?」

 王女が俺に向かって嬉しそうに言ってくる。
 だが俺の代わりにアイリが答えてくれる。

「面倒なことにならないといいですけど……」
「えっ……」

 プリン王女は冒険者や仲間モンスター、さらにエルフのことまで見下してるように思えた。
 それに対しティラミス王女は自分は冒険者側であると言った。
 モンスターが敵であり格闘場関連はどうにかしないといけないということは共通してるはずなんだけどな。
 トルテばあさんがあんな調子じゃ矛盾しまくってるし、この店の味方だと思われても仕方ない。

 まぁ今日のところは追い返してくれたお礼としてプリンでも作ってあげようか。
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