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第四十四話 モンスターハウス

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 モンスター牧場を訪れた日の夜中、地下の大改装が行われた。
 もちろんいつものように謎の建築魔道士によってな。

 こないだの鍛冶屋や交換所のときとは比べものにならない大改装だ。
 さらに面積は数倍になったであろう。
 今じゃ地下一階も地下二階と同じくらいの広さになっている。

 今回の大改装の目玉は二つ。
 一つはモンスター牧場、もう一つは格闘場だ。

 地下一階の作業部屋の階段横には魔物使いの二人が住む部屋ができた。
 位置的にはリリアンヌの部屋の真上だな。
 家の内装をそのままコピーしようと思ったのだが、クレアばあさんがそれを拒否。
 最新の内装がいいと言ってきたのだ。
 いくつになっても新しいものに興味があるのはいいことだよな。

 地下一階の作業部屋の右隣りには目玉の一つであるモンスター牧場が作られた。
 もちろん芝生だ。
 作業部屋との間に壁などなく、モンスターも自由に行き来できるようになっている。
 牧場は魔物使いの部屋とも隣接してるからモンスターたちも安心してくれるだろう。

 その牧場はガチャ屋奥側の方向へゆるやかな下りになっている。
 そのまま奥まで行くと階層的には地下二階エリアになっているというわけだ。
 もちろん闇ガチャ屋がある地下二階との間には壁がある。
 天井の位置は変わらないから、最奥は実質二階分の高さだ。
 大きなドラゴンでもゆったりできるだろう。
 飛び回るのはさすがに無理だが。

 外を散歩する用の転移魔法陣もこの最奥に設置してある。
 起動させるだけなら魔力があればいいそうで、ジャスミンやマドラーナでもできるそうだ。
 魔物使いの二人には残念ながらそこまでの魔力はないらしい。

 そしてもう一つの目玉、格闘場を地下二階に作った。

 まずリビングから見て闇ガチャ屋の奥の壁はなくした。
 その先にはテーブルと椅子が多く並ぶ広いスペースがある。
 ここは飲食エリアにする予定だ。
 そこからさらに奥に格闘場は存在する。
 客のモンスターたちはガチャと格闘場を同じ空間で楽しめるわけだ。

 といっても格闘場はある程度高さも必要なため、少し掘り下げた位置に作った。
 階層でいうと地下四階くらいにあたるかもしれない。
 戦う際は地下二階の受付から格闘場内に転移で移動させる。
 見るだけなら地下二階から観客席に自由に行くことができる。
 やはり客がいないと盛り上がらないからな。

 本当は地下二階に全ての施設を集結させたかった。
 ガチャ屋、闇ガチャ屋、格闘場の全部をな。
 でも万が一の危険を考えるとそれはできなかった。

 だが格闘場は地下二階にある以上、冒険者をそこまで行かせなくてはならない。

 なので地下一階のガチャ屋奥の壁もなくし、少しだけ奥へ下る階段とスロープを設置。
 その先にはテーブルと椅子が並ぶ広いスペースがある。
 地下二階と同じくここは飲食エリアだ。
 ただし地下二階と違って両脇の壁には大きなモニターが設置されている。
 格闘場の様子が映し出されることになるだろう。

 飲食エリアのさらに奥には階段とスロープがあり、その先の左半分に格闘場の受付と待機場所がある。
 ここはギリギリ地下二階に入っており、ここからなら転移魔法陣を使用することができる。
 この最奥右半分には飲食店を出す予定だ。
 ここは冒険者とモンスターたちの注文を一手に引き受けるわけだから忙しくなるぞ。
 居酒屋料理を作れるスタッフを何人か雇わないとな。

 残念なのは冒険者が格闘場の観客席には行けないことだろうか。
 だがこれも安全を考慮してのことだ。
 冒険者側と魔族側の両方のな。

 以上、これが今回の大改装の全容だ。
 かなりの大掛かりな仕事になってしまった。
 建築魔道士様には感謝だな。
 あとでアイリと感謝の言葉を口に出しておこう。

 早速昼過ぎにでもクレアばあさんとミアさんを呼んでくるか。

◇◇◇

「なんじゃこれは……」
「本当にここ地下ですか……」

 まぁそうなるよな。
 俺としては芝生ができて嬉しい。
 天井を青空にできたりしないかな。

「ではミアちゃん、行きましょうか」
「……はい」

 数分後、二人がモンスターたちを連れて戻ってきた。
 ……こんなにいたのか。
 スライムの数が多すぎないか?
 それにカラフルすぎる。
 まぁ可愛いから許す。

 猛獣たちも喜んでくれてるな。
 新しい牧場が嬉しいんだろう。

 それとドラゴンだが…………

「あなた、意外に広いですね」
「そうだろ。なかなか見どころのある小僧なんだ」

 ……もう一匹いるんですけど。
 おそらく夫婦なんだろうが。

「おぉ? 小僧ここにいたのか」
「……はい。ようこそ」
「うむ。世話になるぞ」
「あら? 可愛らしい坊やね」

 クレアばあさんといいこのドラゴンたちといい俺を子供扱いか……。
 自分がおっさんだってことをつい忘れてしまう。

「それとこの魔法陣のことだが、普段は俺たちが管理するから気にしなくていいぞ」
「そうですよ。牧場の安全を守ることも私たちの仕事ですからね」

 そうか、ドラゴンともなれば魔力も凄いに決まってるか。
 それならこちらとしても助かる。

「ではお願いします。できれば使うとき以外は使用不可の状態にしてくださいね」
「あぁ、これからはお前たちも守ってやるから安心しろ」

 それは非常に心強い言葉だ。
 まぁ仮に向こうから敵が転移してきても地下一階のほうには来れないんだけどな。
 かといって牧場で戦う姿は見たくないからな。

「パパ、紹介してください!」
「おぉ、そうだったな。小僧、こいつは俺たちの娘だ」

 娘ドラゴンまでいたのか……。
 小さすぎて気付かなかった。
 スライムより少し大きいくらいじゃないか?
 でも話せるってことは実力は十分ってことか。
 さすが小さくてもドラゴンだ。

「よろしくな」
「よろしくお願いします! ここ楽しそうですね!」
「名前は?」
「小僧、ドラゴンは称号こそ全てだからお前らみたいな名前なんぞ持たん」

 ……よくわからないが不便そうだな。
 ドラゴンといえど仲間になったモンスターには名前を付けるのが普通なんじゃないのか?

「じゃあなんとお呼びすれば?」
「俺はカイザー、こいつはクイーン、娘はまだベビーだ」

 後ろにドラゴンがつくのか?
 カイザーはまだしもそれじゃそこら中ベビーだらけになるだろ。

「わかりました。カイザーさんとクイーンさん、それにベビー、これからよろしくお願いします」

 こんなドラゴンたちを仲間にできるクレアばあさん凄すぎだろ。
 まさにモンスターばあさんだ。
 そしてここはモンスターハウスになってしまった。

 なんだかまた別の異世界に来たような感覚だ……。
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