上 下
22 / 83

第二十二話 王様御一行、ガチャる

しおりを挟む
 もう何十連目だ?

 モニターには先ほどの四人の客が映っている。
 四人は寿司屋を出た直後、ガチャ屋の開店と同時に入ってきた。
 それからもう二十分は十連ガチャを回し続けている。

「お父様! 次は私ですからね!」

 貴族っぽい二人は順番に引いている。
 騎士の男性はアイテム回収係、魔道士の女性は椅子に座って眺めている。

「装備品は酒場の依頼報酬に回そうか」
「お父様ナイスアイデア! 初級冒険者の方たち困ってるでしょうからね!」

 どういうことだ?
 なにか酒場に依頼を持ち込むということか?

「ポーションやエーテルは騎士や魔道士で使ってくれ」
「はっ! ありがとうございます!」

 騎士や魔道士?
 この二人のことをそんな名前で呼ばないよな?
 他にも騎士や魔道士がいっぱいいるってことだよな。
 大きなお屋敷で複数人の護衛を雇ってるのか?

「あっ! この杖見てください!」

 貴族っぽい女性は魔道士のところへ杖を見せに行く。

「ほう。これは使えそうだね」
「私が使ってもいいですよね!?」
「それはやめときな。成長が遅くなるよ」
「えぇ~。同時に何本も使ったら面白そうですのに」

 杖を使うと成長が遅くなる?
 もしかしてこの女性も魔道士なのか?

「おい、今どれだけ回した?」
「ちょうど十回ですね」
「もっとやりたいが、次の客もいるみたいだからやめとくか」
「はい、そろそろ帰りましょう」

 貴族っぽい男性と騎士の二人はやっと帰る気になったようだ。
 それにしてもこの四人はお互いの名前をいっさい呼ばないな。
 なにか隠してるようにも見えた。

 四人はドリンクを大量に受け取ると、足早に帰っていった。

◇◇◇

「なにかおかしな点はあったか?」
「いえ、全くございませんでした。関係ないんですかね?」
「う~ん。でも他にガチャなんてのはなさそうだしなぁ」
「あの価格にしてはいい商品ばかりじゃないか。あそこは優良店だよ」
「そうなんだよなぁ。おかげで安く装備品が手に入ったし」
「みなさん、さっきからなんの話をしてるんですか!?」

 ガナッシュ城に戻ってきた四人は歩きながらガチャ屋について話をしていた。

「実はな、モンスターがガチャって言葉を叫んでたらしいんだ」
「えっ!? どういうことなんですか?」
「詳しくはわからんのだが、モンスターにやられた冒険者の中にそれを聞いた者がいてな」

 王女はなにも聞かされていなかったようだ。

「……つまりさっきのガチャ屋がモンスター大量発生になにか関係していると?」
「そう思ってたんだがな」
「あやしいところは見当たりませんでした!」
「私も店員と店内をくまなく観察していたがエルフだってこと以外なにもなかったよ」

 騎士と魔道士はそれが役割だったようだ。

「じゃあ今日あの町に行ったのはガチャ屋の調査のためですか?」
「そういうことだ」
「あのお寿司屋さんに行ったのは偶然だったんですか?」
「ガチャ屋ができたのは最近、その少し前にできた聞きなれない寿司屋という店、なにか関係があると思うのは普通のことだろう」
「そんな……てっきりお寿司の噂を聞いて行ったものかと……」
「でも美味しかったのは嬉しい誤算だったな」
「私はまたお寿司が食べたいです!」
「あぁ、ワシも食べたいよ。でもしばらくは忙しくなりそうだからまた今度な」

 王女はがっかりする。
 王様はガチャ屋の当てが外れたことを残念そうにしている。

 そのまま四人は会議室へ向かった。

「あっ、王様! どうでした!?」
「あぁ、今から報告する」

 そこには二人の姿しかなかった。
 当然報告に来ていた冒険者もいない。
 四人が座ったところで会議が再開された。

 まず王様から寿司屋とガチャ屋の件が報告された。

「シロってことですか……」
「そうなるな」
「でもガチャなんて言葉、他に聞いたことないですよ」
「こやつらもしっかり確認しておる。あのガチャ屋は関係ない」
「まぁモンスターじゃなくて冒険者がガチャって言ってただけかもしれませんしね」
「商品は初級冒険者向けの物ばかりだったから誰か行ってた可能性はあるな」
「もう一度聴取してみます」
「そうしてくれ。で、対策はどうなった?」
「中級レベルの冒険者パーティを複数向かわせることにしました」
「なるほど。ではすぐに実行してくれ」
「もう手配済みです。明日の早朝から討伐に出向くでしょう」
「そうか、ご苦労だった。じゃあ今日は解散」

 みんないっせいに立ち上がり、まず王様が部屋から出ていく。
 次に王女が出ていったが、他の四人はこの場に残った。

「で、その寿司屋の店員は実際のところどうなんだ?」
「おそらく全くの素人です! ですが……二人とも不気味です」
「不気味だと?」
「なんていうか、底が見えないというか……」
「私も同感だよ。でも敵意はいっさいなかったんだ。それなのにこのバカは」
「ひぇっ! すみませんでした!」
「はぁ~、わかった。寿司屋もガチャ屋も当分は放置でいいだろう」
「そうですね。しばらくは他の国の動向も注視しましょう」
「だな。明日にはモンスターも大人しくなるだろうしな」

 四人は会議室をあとにした。
 どうやらガチャ屋への疑惑は薄れたようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~

すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。 若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。 魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。 人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で 出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。 その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...