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第二話 異世界に転移したようだ

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「本当にもう元の世界には戻れないのか?」
「残念ながら……でもあの世界より今度の世界のほうがきっと楽しいわよ?」
「お前になにがわかるんだよ……」
「だってあなた人生に疲れきってるじゃない」

 確かにこいつの言う通りかもしれない。
 俺は毎日ただ仕事をしているだけのつまらない日々を送っている。

 いや、つまらないとさえ考えたことがないな。
 なにも考えてないといったほうが正しい。
 もう三十歳になったというのにな。

「わかった。好きにしてくれ」
「ちょっと……投げやりになるのはやめてくれないかしら? 私が怒られるの……」
「誰に怒られるんだよ」
「それは上司に決まってるじゃない」
「でもお前が悪いんだろ? それなら怒られろよ」
「そうなんだけどね。予定外の人間を転移させるのは法にふれるのよ……」

 こいつがどんな世界のどんな立場なのかは知らないが勝手に怒られてろ。
 もうどうなってもいいや。

「ただアナタが異世界に行きたいと望んでくれたら話は別なのよ」
「……」
「サービスするからさ? ねぇ? どうかな?」

 安っぽい店にでも来た気分だな。

「わかったよ。俺は異世界に行きたくて仕方なかったんだ」

 どうせ元の世界に戻れても先は知れてるからな。
 せめてこいつだけは助けてやるか。

「ホント!? なら改めて聞くけどなにかしたいことある?」
「仕事ってことか? それとも遊びか?」
「それはなんでもいいの!」
「ちなみにどんな世界なんだ? ドラゴンがいるってことはモンスターがいるんだよな?」
「そうね! アナタがやってるようなゲームに近いかも!」

 俺がいつもやってるオンラインRPGのことまでわかるのか。
 本当に神様みたいな存在なのかもしれないな。

 それにしてもゲームの中の世界か。
 実際に戦闘とかあったりするんだよな?
 昔は勇者や冒険者に憧れたこともあったが今はもうそんな気力はない。

「痛い目に合わなければなんでもいいよ」
「え……ある程度の希望は聞けるのよ?」
「特にやりたいこともないしな。お前のやりやすいようにしてくれていい」
「……じゃあ寿司職人でいい? お店と住居と当面の運用資金は用意するから」
「金も用意してくれるのか? なら一生困らないだけの金がもらえればそれでいいぞ?」
「それはダメなの。資金の報告はしないといけないし……」

 面倒くさいシステムだな。
 神様なんだったらなんでも許されるんじゃないのか?

 やりたいことって言われてもな。
 休日はPCでゲームしかしてないし、平日も通勤中や休み時間はスマホでネットを見てるだけだ。

「その世界はPCやスマホはあるのか?」
「ないわね」
「そうか。剣と魔法の世界って感じか?」
「まさにその通りね。勇者と魔王がいるわ」

 勇者と魔王か。
 ゲームの世界そのものじゃないか。
 そんな世界で俺はなにをすればいいんだ?

「ちなみにこの子は勇者希望だそうよ」
「勇者!?」
「はい。私は勇者になりたいんです」

 ……いや、本当に異世界に行けるんだったらそう考えるのはおかしいことではない。
 だが俺はのんびりした生活が送りたい。
 刺激は適度にあればいい。

「なら俺は寿司職人にならせてくれ」
「えっ!? さっきのは冗談だったんだけど……本当にそれでいいの?」
「あぁ。いきなり握れるようにしてくれるのか?」
「それは任せて。有名寿司店の技術を体に染み込ませるわ」

 修行をしなくていいんなら楽でいいな。
 魚の目利きもできるとありがたいんだが、そこまでは望むまい。

「もう一ついいか?」
「いいわよ。サービスするって言ったしね」
「副業でガチャをやりたい」
「「ガチャ!?」」

 そうだ、ガチャで商売をするんだ。
 ただのデータを売るんじゃなくて本物の武器や防具を商品としてな。
 ただし、副業としてだが。

「あぁ、表向きは寿司屋をやる。ガチャはあくまで副業だ」
「それはいいけど……アタシになにをしてほしいの?」
「演出システムを作れる人材……ガチャ職人が欲しい」
「ガチャ職人? 人が欲しいの? アナタがやればいいんじゃないの?」
「いや、俺一人では限界がある」
「……わかったわ。機械に詳しそうな現地人を用意するわ」

 機械か、どのくらい文明が進んでいるんだろうか。
 ガチャシステムは最悪クジ引きみたいなものでもなんとかなるだろう。
 俺は寿司職人に集中したいしな。

「最初だけ商品か金を用意してもらってもいいか?」
「う~ん、じゃあお金でいい? あまり渡せないけど」
「あぁ、それでいい」
「……あの」

 勇者になる予定の女性がなにか言いたそうにしている。

「なに? ペットを連れてくのだって本当はダメなんだからね?」
「その……勇者になるのやっぱりやめてもいいですか?」
「えっ!? ……また死にたいとか言うんじゃないでしょうね?」

 この子は死にたかったのか。

 それは転移させられたからか?
 それとも死にたくてさまよってたところを神様に見つけられたのか?
 俺のことを予定外と言っていたからこの子は予定内だったんだよな?

「今のガチャ職人の話、私じゃダメですか?」
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