貴方に幸福を

真友

文字の大きさ
上 下
18 / 18

もう一度

しおりを挟む
「一つだけ、聞きたい事がある」

 震える声を何とか押し出して、俺はクニハルに問いかけた。

「初めて会った時、お前は人の可能性は無限大だと言った。絶対に出来ないと思っている事でも、その気になれば案外簡単に出来てしまう事だってあると」
「あぁ……確かに言ったね。それが何か?」
「その言葉は嘘か?」

 クニハルと目が合った。怒っているとも、楽しんでいるとも、何とも言えない無感情な笑みを浮かべて、クニハルが言った。

「……何故そう思うんだい?」
「もしそれが本当なのなら、どうして俺はあの二人を殺さなきゃいけないんだ?別に殺さずとも、俺がこれから幸せになる可能性だってあるんじゃないのか?」
「ははっ、成る程……」

 しばらくして、そうだよ、と言う声が聞こえた。

「ごめんよ。人の可能性は無限大、そんなのは嘘さ」
「……」
「努力は必ず報われる?人は誰でも幸せになれる?本当にそうなら、この世界から夢という言葉は無くなってしまうよ。ロックスターやメジャーリーガー、大金待ちで溢れ返る世界なんて見たくないだろ?」
「そうだな」
「要はそういう事さ。この世界に、不可能は存在する。あの二人を生かしておいて、君が幸せになるのは無理だ。断言する」

 それを聞いて、俺は心の中が晴れていくのを感じた。
 そうか、やっぱりそうだったんだ。もう、夢物語は終わりにしよう。心が固まった。

「アイツらを殺す事は僕のやりたい事であって、君のやりたい事だ。迷うことは無いよ」

 クニハルの言葉が、今まで以上に鮮明に聞こえる。

「分かったよ、お前の言う通りだ。もう迷うのはやめだ」

 握りしめた拳銃を。

「聞けて良かった。ありがとよ」
「……?」
「二人を殺す。それが俺のやりたい事なのだとしたら」

 ゆっくりと持ち上げた。そして。

「俺はもう一度、自分に嘘をつくとするよ」

 銃口を、クニハルに向けた。

「悪いな。あの二人が生きている限り、俺が幸せになれないのは分かった。でも、所詮それだけの事だ」
「……銃を構える相手が違うんじゃないのか?」
「いいや、違わないね。不可能は確かに存在するって自分で言ってただろ?俺には彼女を撃てないって事さ」
「それでも、僕なら撃てると?」
「お前は俺だ。自分を撃つ事に対して抵抗は感じないよ」

 拳銃を向けられたクニハルは、特に驚きもせず、ただ真っ直ぐに俺を見ていた。いつ撃たれてもおかしくないこの状況で、俺の目に映る男は顔色一つ変えなかった。

「…….いいのか?僕と君は一心同体なんだ。僕が死ねば、君も死ぬ事になるんだぞ?」
「それでいい。どうしても、俺は他人から奪った幸せが本当の幸福になるとは思えない。そこまでしないと幸せになれないのなら、なれなくていい」
「また、自分に嘘をつくんだね」
「もうこれで最後だからな」

 そうだ、これは嘘だ。誰だって生きているなら幸せになりたいに決まっている。俺だって、本当は幸せになりたい。
 そんな自分の気持ちに嘘をついて、俺は拳銃を向けたのだ。もう、後には引かない。
 
「は~あ……忘れてたよ。そうだったよ、君はそういう奴だったよ。いつだって綺麗事に身を包んでさ……」
「それが俺なんだ。世話になったな」
「チッ、こんなつもりじゃ無かったのに….…これじゃ無駄死にじゃんか….…」
「中々楽しかったよ。じゃあな詐欺師野郎……!」

 辺り一面に銃声が響き渡った。玉は正確にクニハルの左胸を貫通し、高い血しぶきが舞い上がった。それは、夜の橋を一瞬だけ赤く染めてみせた。
 少し遅れて、俺の心臓にも同じ衝撃が与えられた。徐々に体から力が抜けていく感覚。朦朧とする意識の中で、最後に一度だけ、優衣と目が合った気がした。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ミッドナイトランナー

ばきしむ
ライト文芸
白タク運転手と凶悪殺人鬼のコンビが巨大な陰謀に立ち向かうダークエンターテイメント!!!
 夜の街で働いていた白タク運転手の少女「緑谷」。ある日、仕事を終えた緑谷は逃走中の凶悪殺人鬼「白石」に出会い共に警察から追われる日々が始まる。旅先で出会う様々な人、出来事…そして待ち受ける巨大な陰謀、2人は真実を知ることができるのか!? 
連載の予定ですが我が身が高校BOYなもんで頻度は少なくなっちゃうかも知れません。。。。
読み苦しいところもあると思いますが若気の至りとして消費して下さいまし…

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

斜陽街

日生ななめ
ライト文芸
「早起き、シャワー、朝ご飯」 「お気に入りの音楽と一緒に出勤、事務所で待つ後輩に挨拶」 「そして、人間狩り。これが僕の一日だ」 東北地方最小の県庁所在地、A市。 この街に住む何の変哲もない市民が、突然超能力者へと変貌するようになって数年。 変貌のメカニズムは未だに解明できず、街では超能力を用いた犯罪が多発する。 超能力の伝染防止のため市内への出入りは制限され、超能力者と分かるや否や、「研究サンプル」として連行される。 誰かが物語の中で思い描いた「絶望の郷」と化したA市を、「人間狩り」の青年、谷内要が駆ける。 超能力犯罪防止のため、超能力のメカニズムの解明のため、青年は今日も超能力者を狩る── 初投稿の作品になります。かなり長いお話になりますが お手柔らかにお願いします。

処理中です...