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第6部 西校舎攻略編
第185話 陥落!西校舎!
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リュービによる西校舎の攻略も終盤戦。敵総大将・リュウショウの籠もる教室を包囲し、あと一歩のところまで追い詰めた。
そんな中、リュウショウへの降伏の使者として志願したのは、これまで特に働かなかった悪友・カンヨーであった。
カンヨーは戦力差や情勢を説くのではなく、リュウショウの友人となることで、見事、彼の説得に成功するのであった。
~~~
リュウショウの本拠地・美術室。その隣の準備室で二人だけの会談を行ったリュウショウとカンヨー。
リュウショウの部下たちは会談が終わるのを準備室の扉の前で今か今かと待ち構えていた。リュービからの使者・カンヨーが降伏を勧めに来たのは皆の知るところであった。
多くの部下は徹底抗戦を主張していた。リュウショウ軍はこれまで何度もリュービ軍に敗れている。降伏したい者は疾うの昔に降っていた。現時点で残っている者はリュービと戦う意思を持った精鋭か、タイミングを逃した者ばかりであった。
しかし、そんな精鋭たちも長い包囲を受け、厭戦気分が蔓延していた。心の何処かではリュウショウが降伏を受け入れてくれないかと願う者も少なからずいた。
ついに話は終わったのか、準備室の扉が開かれ、中の二人が出てきた。
太めの体格をした、温和そうな雰囲気の男子生徒、西校舎の盟主・リュウショウは部下の視線の降り注ぐ中、満座の前に立って話し出した。
「今し方、交渉は終わった。
私はリュービに降伏すると決めた」
その言葉に、部下の中より反対とも賛成ともつかぬどよめきが起こった。
その中でまず、真っ先に声を上げたのは、交渉前にもリュウショウの側近くに立っていた彼の弟であった。
「何故だ、兄貴!
この男に丸め込まれたのか!」
リュウショウの弟は、その鋭い目つきでカンヨーをキッと睨んだ。
リュウショウはすぐに彼を宥めた。
「落ち着け、リュウセン。
何も丸め込まれたわけではない。
兄と私、二代に渡って長い間この西校舎を統治してきた。
しかし、我ら兄弟は果たして西校舎の生徒たちに恩徳を施してきたと言えるだろうか。
今、長きに渡って西校舎が戦乱にさらされ、多くの者が害を被ったのは、ひとえにこのリュウショウのせいだ。
これ以上、この状況を見過ごすことはできない」
さすがのリュウショウも先ほどのカンヨーとの友人云々については部下に伝えなかった。
しかし、ここで彼が述べた言葉もまた、彼の本心であった。それが伝わったからこそ、この言葉を聞いた部下たちは下を向き、涙ぐんだ。
だが、リュウショウの弟・リュウセンはなおも納得できぬ様子で、兄に食い下がった。
「だが、兄貴!
うちにはまだ三百の精鋭軍が無傷で残っている。これを温存して投降する気か」
だが、この弟の言葉にも、リュウショウは首を縦には振らなかった。
「その三百の兵士は誰も彼もが戦いたくて兵士になったわけではない。
彼らが無傷で済むのならそれに越したことはない。このまま兵士は無傷のまま投降しよう」
そのリュウショウの言葉に、これ以上の説得の言葉が出てこず、弟・リュウセンは黙りこくってしまった。
リュウセンが黙ったのと入れ替わるように、一人の生徒がリュウショウの前に進み出た。
「リュウショウ様!」
そう呼びかけたのは白衣を着た、そばかす顔の女生徒、先にチョーヒ軍と戦ったチョーエーであった。
彼女はリュウショウの目前にまでやってくると、一礼して話し出した。
「恐れながら申し上げます。
確かにリュウショウ様は非力な主君でございました。
しかし、非道な主君であったとは思いません。
短い期間でしたが、あなたに仕えることができて光栄でした」
その言葉にリュウショウは微笑んで返した。
「ありがとう、チョーエー。そう言ってもらえて救われる思いだ。
感謝ついでに君に一つ頼みがある。
これより返答の使者としてリュービの元に赴き、私が降伏する旨を伝えてきて欲しい」
「慎んでその最後の任務、お受けいたします」
そばかす顔の女生徒・チョーエーはリュービの元に赴いた。彼女の役目はリュウショウの降伏を伝えるものであった。だが、降伏したリュウショウへの礼遇と、西校舎の生徒の身の安全の保証は是が非でも得ておきたい条件であった。
~~~
ここは俺・リュービの陣営~
カンヨーをリュウショウの元に派遣して数十分。あまり期待していない派遣であったが、なんとカンヨーからリュウショウ説得に成功したと連絡があった。さらにそれを裏付けるように、リュウショウ配下のチョーエーが返答の使者として俺の陣営を訪ねてきた。
「……では、降伏の条件はリュウショウの礼遇と、西校舎の生徒の安全保証の大きく二つだね」
「はい。城中の兵士の士気は未だ盛んではあります。ですが、リュウショウ様はこれ以上の犠牲を望んではおりません。
どうか、リュービ様には寛大な処置を何卒よろしくお願いいたします」
俺は少し考える素振りを見せて答えた。
「……わかった。その条件を飲もう」
「ありがとうございます」
使者・チョーエーはそう言って深々と頭を下げた。
教室を包囲された状態での降伏だ。そのためか彼女の態度は極めて低姿勢なものであった。実際、彼女の出してきた条件も最低限のもので、叶えるのは造作もないことだ。
だが、リュウショウの権力だけはしっかりと確保しておかなければならない。
「西校舎の生徒については先に降伏した者たちと同程度の環境を約束しよう。もちろん、君たちリュウショウの部下であった者たちも差別扱おう。
それで、リュウショウの処遇についてだが、西校舎の盟主と美術部部長の地位は譲渡してもらう。それ以外の地位についてはこれまで通り所有してもらって構わない。
また、配下や兵士は全てこちらに渡してもらう。
リュウショウとその弟・リュウセンについては南校舎に身柄を移してもらいたい。彼らの待遇については賓客相当のものを約束しよう」
俺の条件を聞いて、チョーエーはあまり厳しいものでないと判断したのか、ホッと胸をなでおろした様子だった。
「その条件で結構でございます。
リュウショウ様にそのようにお伝えいたします」
俺は条件を書面に起こしてチョーエーに渡し、彼女を送り届けた。
チョーエーが美術室に戻ると、しばらくしてカンヨーを先導にして、リュウショウが俺の陣営にやって来た。
俺はまず、戻ってきたカンヨーに労いの言葉をかけた。
「すごいじゃないか、カンヨー。まさかお前がリュウショウの説得に成功するとは思わなかったよ。
一体、なんて言ったんだい?」
「へへへ、まー、なんていうか企業秘密ってやつだなー」
そう言ってカンヨーはあまり多く語ろうとはしなかった。ここぞとばかりに手柄を自慢してくるかと思っていた俺は少々、面食らった。
しかし、先ほどのチョーエーの出した条件からも、彼が勝手に破格の条件を提示したとかではなさそうだ。こちらに不利益がないのなら、無理に追求することもないか。
「さて、リュウショウのこの後だが、皆の前で俺に降伏したことを宣言してもらう。
その後は南校舎に移るという段取りでいくぞ」
「あー、うん。まー降伏したのならそんな感じだなー。
降伏を宣言して、南校舎に移って……ん?
おい、リュービ! なんでリュウショウを南校舎に移す必要があんだよ!」
突然、カンヨーが噛みついてきて、俺はまたしても面食らうこととなった。俺はコイツが何を怒っているのかいまいちわからぬまま、宥めるように説明した。
「何を突然怒っているんだ。リュウショウは今まで西校舎の盟主であった。権限を譲渡されたとは言え、その影響力を無視することはできない。
西校舎に君主が二人いる状況は避けねばならない。
リュウショウにその気はなくとも、西校舎の生徒が彼を担いで反乱を起こさないとも限らない。
そのために、彼には影響力の及ばない南校舎に移ってもらう必要があるんだ」
天に二日無し、というが、西校舎に俺とリュウショウがいては、まさに二つの太陽があるような状況になってしまう。余計な混乱を避けるためにも、彼には場所を移ってもらう必要がある。
「ま、待てよ。
リュウショウはこれまでずっと一人ぼっちで責任を背負い続けてきたんだ。ようやく責任から解放されて、楽しい学園生活が送れるって時によ、知り合いもいない南校舎に行っちまったら、本当に一人ぼっちになっちまう。
リュービ、お前ならリュウショウがいても西校舎を上手くまとめちまえるだろ?
だから、リュウショウを西校舎に残してくれないか?」
カンヨーがここまで人のために動くのも珍しい。だが、俺はそれを突っぱねた。
「ダメだ。さっきも言ったようにリュウショウにその気は無くとも、周りが担ぐ可能性がある。
それにこれはリュウショウ側も呑んだ条件だ。今さら変更はない」
しかし、カンヨーはなおも食い下がった。
「ならば、俺も南校舎に戻してくれ。
南校舎の仕事に回してくれよ!」
カンヨーがここまで言うのも珍しい。だが、だからこそ俺はそれを許さなかった。
「それもダメだ。
今のお前はリュウショウに対して思い入れが強すぎる。今のお前をリュウショウの側近くに置くことはできない。
それにそもそもお前は今まで何も仕事してないだろ」
「うう……リュービのバカヤロー!」
カンヨーは捨て台詞を吐くとどこかへと去っていった。まあ、西校舎から出なければ特に問題はないだろうと俺は特に追いかけはしなかった。
カンヨーは何かシンパシーでも感じたのかよくわからないが、どうにもリュウショウに情が湧いているようだ。
カンヨーの提案を聞いてやること自体は特に無理のないことだ。だが、実際はともかく、カンヨーは今は俺の古参の側近と見られている。そのカンヨーが必要以上にリュウショウに近づけば、良からぬことを企む輩も出てくるかもしれない。
これから西校舎を発展させ、ソウソウに戦おうという今、反乱の芽は少しでも摘んでおく必要がある。
カンヨーもそのうちいつものいい加減な男に戻るだろう。
俺はリュウショウの方へと向かった。
~~~
リュウショウの降伏の儀は厳かに行われた。
西校舎の生徒、リュービ陣営の生徒らが居並ぶ中、前西校舎の盟主・リュウショウ、新西校舎の盟主・リュービは前に立ち、彼らに呼びかけるように話し出した。
「私、リュウショウこと益隆璋は先代・益隆延とともに長きに渡って西校舎を治めてきた。
今、西校舎にはチョウロ、さらにはソウソウの脅威が迫ってきている。その差し迫る強大な脅威には、暗愚な私ではとても西校舎の平和を維持することはできない。
そこで私は西校舎の安寧のために、この地を英傑・リュービこと流尾玄徳殿に譲渡することを決断した。
リュービ殿ならこれまで以上に西校舎を栄えさせてくれるだろう。皆もこれまで以上に忠義に励んで欲しい」
「私はこの度リュウショウ殿より西校舎を譲られた流尾玄徳ことリュービという者だ。
今や西校舎のみならず、この学園全体がソウソウに脅威に晒されている。私はそのソウソウの脅威を取り除き、君たちがより良い学園生活を送れるよう邁進していくつもりだ。
君たちには平和と発展を約束しよう。
しかし、もし俺の統治に不満のある者は今この場で去ってくれても構わない。咎めはしない」
リュービの言葉を受けたが、居並ぶ元リュウショウ配下の者たちは誰も立ち去ろうとはしなかった。
「では、ここに残る者たちは俺とともに学園のために働いて欲しい」
リュービがそう締めくくると、万雷の拍手が巻き起こり、儀式は無事に閉幕した。
ここにリュービは新たな西校舎の盟主として迎え入れられた。
そして、代わって南校舎に向かうリュウショウの元に一人の男子生徒が近寄ってきた。
「リュウショウ!」
「おお、カンヨー。別れの挨拶に来てくれたのか?」
金髪頭のその男はカンヨーであった。
「すまない、リュウショウ。俺はお前に楽しい学園生活を送らせるって約束したのに、お前を一人で南校舎に行かせることになっちまった……」
暗くふさぎ込むカンヨーに対し、リュウショウは元の温和な表情で彼に返した。
「そんなことを気にしないでくれ。私は追放されることも覚悟していた。隣の校舎に移動するぐらいなら十分温情な条件だろう。
感謝こそすれ、君を責めるつもりはないよ」
「しかしよぉ……」
「それに君が友人であることを反故したわけではないのだろう。ならば何も約束を違えてはいないさ。
一段落したら南校舎に遊びに来てくれ」
「ああ、必ず行くよ」
こうして、リュウショウ、その弟・リュウセンはカンヨーに送り出され、南校舎へと旅立っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新話まで読んでいただきありがとうございました。
三国志が好き、三国志に興味が持てたと思っていただけたのなら、お気に入り登録、感想をよろしくお願いいたします。
トベ・イツキtwitterアカウント
https://twitter.com/tobeitsuki?t=GvdHCowmjKYmZ5RU-DB_iw&s=09
↑作者のtwitterアカウントです。
作品の話や三国志のことを話してます。よければどうぞ
次回は5月25日20時頃更新予定です。
そんな中、リュウショウへの降伏の使者として志願したのは、これまで特に働かなかった悪友・カンヨーであった。
カンヨーは戦力差や情勢を説くのではなく、リュウショウの友人となることで、見事、彼の説得に成功するのであった。
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リュウショウの本拠地・美術室。その隣の準備室で二人だけの会談を行ったリュウショウとカンヨー。
リュウショウの部下たちは会談が終わるのを準備室の扉の前で今か今かと待ち構えていた。リュービからの使者・カンヨーが降伏を勧めに来たのは皆の知るところであった。
多くの部下は徹底抗戦を主張していた。リュウショウ軍はこれまで何度もリュービ軍に敗れている。降伏したい者は疾うの昔に降っていた。現時点で残っている者はリュービと戦う意思を持った精鋭か、タイミングを逃した者ばかりであった。
しかし、そんな精鋭たちも長い包囲を受け、厭戦気分が蔓延していた。心の何処かではリュウショウが降伏を受け入れてくれないかと願う者も少なからずいた。
ついに話は終わったのか、準備室の扉が開かれ、中の二人が出てきた。
太めの体格をした、温和そうな雰囲気の男子生徒、西校舎の盟主・リュウショウは部下の視線の降り注ぐ中、満座の前に立って話し出した。
「今し方、交渉は終わった。
私はリュービに降伏すると決めた」
その言葉に、部下の中より反対とも賛成ともつかぬどよめきが起こった。
その中でまず、真っ先に声を上げたのは、交渉前にもリュウショウの側近くに立っていた彼の弟であった。
「何故だ、兄貴!
この男に丸め込まれたのか!」
リュウショウの弟は、その鋭い目つきでカンヨーをキッと睨んだ。
リュウショウはすぐに彼を宥めた。
「落ち着け、リュウセン。
何も丸め込まれたわけではない。
兄と私、二代に渡って長い間この西校舎を統治してきた。
しかし、我ら兄弟は果たして西校舎の生徒たちに恩徳を施してきたと言えるだろうか。
今、長きに渡って西校舎が戦乱にさらされ、多くの者が害を被ったのは、ひとえにこのリュウショウのせいだ。
これ以上、この状況を見過ごすことはできない」
さすがのリュウショウも先ほどのカンヨーとの友人云々については部下に伝えなかった。
しかし、ここで彼が述べた言葉もまた、彼の本心であった。それが伝わったからこそ、この言葉を聞いた部下たちは下を向き、涙ぐんだ。
だが、リュウショウの弟・リュウセンはなおも納得できぬ様子で、兄に食い下がった。
「だが、兄貴!
うちにはまだ三百の精鋭軍が無傷で残っている。これを温存して投降する気か」
だが、この弟の言葉にも、リュウショウは首を縦には振らなかった。
「その三百の兵士は誰も彼もが戦いたくて兵士になったわけではない。
彼らが無傷で済むのならそれに越したことはない。このまま兵士は無傷のまま投降しよう」
そのリュウショウの言葉に、これ以上の説得の言葉が出てこず、弟・リュウセンは黙りこくってしまった。
リュウセンが黙ったのと入れ替わるように、一人の生徒がリュウショウの前に進み出た。
「リュウショウ様!」
そう呼びかけたのは白衣を着た、そばかす顔の女生徒、先にチョーヒ軍と戦ったチョーエーであった。
彼女はリュウショウの目前にまでやってくると、一礼して話し出した。
「恐れながら申し上げます。
確かにリュウショウ様は非力な主君でございました。
しかし、非道な主君であったとは思いません。
短い期間でしたが、あなたに仕えることができて光栄でした」
その言葉にリュウショウは微笑んで返した。
「ありがとう、チョーエー。そう言ってもらえて救われる思いだ。
感謝ついでに君に一つ頼みがある。
これより返答の使者としてリュービの元に赴き、私が降伏する旨を伝えてきて欲しい」
「慎んでその最後の任務、お受けいたします」
そばかす顔の女生徒・チョーエーはリュービの元に赴いた。彼女の役目はリュウショウの降伏を伝えるものであった。だが、降伏したリュウショウへの礼遇と、西校舎の生徒の身の安全の保証は是が非でも得ておきたい条件であった。
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ここは俺・リュービの陣営~
カンヨーをリュウショウの元に派遣して数十分。あまり期待していない派遣であったが、なんとカンヨーからリュウショウ説得に成功したと連絡があった。さらにそれを裏付けるように、リュウショウ配下のチョーエーが返答の使者として俺の陣営を訪ねてきた。
「……では、降伏の条件はリュウショウの礼遇と、西校舎の生徒の安全保証の大きく二つだね」
「はい。城中の兵士の士気は未だ盛んではあります。ですが、リュウショウ様はこれ以上の犠牲を望んではおりません。
どうか、リュービ様には寛大な処置を何卒よろしくお願いいたします」
俺は少し考える素振りを見せて答えた。
「……わかった。その条件を飲もう」
「ありがとうございます」
使者・チョーエーはそう言って深々と頭を下げた。
教室を包囲された状態での降伏だ。そのためか彼女の態度は極めて低姿勢なものであった。実際、彼女の出してきた条件も最低限のもので、叶えるのは造作もないことだ。
だが、リュウショウの権力だけはしっかりと確保しておかなければならない。
「西校舎の生徒については先に降伏した者たちと同程度の環境を約束しよう。もちろん、君たちリュウショウの部下であった者たちも差別扱おう。
それで、リュウショウの処遇についてだが、西校舎の盟主と美術部部長の地位は譲渡してもらう。それ以外の地位についてはこれまで通り所有してもらって構わない。
また、配下や兵士は全てこちらに渡してもらう。
リュウショウとその弟・リュウセンについては南校舎に身柄を移してもらいたい。彼らの待遇については賓客相当のものを約束しよう」
俺の条件を聞いて、チョーエーはあまり厳しいものでないと判断したのか、ホッと胸をなでおろした様子だった。
「その条件で結構でございます。
リュウショウ様にそのようにお伝えいたします」
俺は条件を書面に起こしてチョーエーに渡し、彼女を送り届けた。
チョーエーが美術室に戻ると、しばらくしてカンヨーを先導にして、リュウショウが俺の陣営にやって来た。
俺はまず、戻ってきたカンヨーに労いの言葉をかけた。
「すごいじゃないか、カンヨー。まさかお前がリュウショウの説得に成功するとは思わなかったよ。
一体、なんて言ったんだい?」
「へへへ、まー、なんていうか企業秘密ってやつだなー」
そう言ってカンヨーはあまり多く語ろうとはしなかった。ここぞとばかりに手柄を自慢してくるかと思っていた俺は少々、面食らった。
しかし、先ほどのチョーエーの出した条件からも、彼が勝手に破格の条件を提示したとかではなさそうだ。こちらに不利益がないのなら、無理に追求することもないか。
「さて、リュウショウのこの後だが、皆の前で俺に降伏したことを宣言してもらう。
その後は南校舎に移るという段取りでいくぞ」
「あー、うん。まー降伏したのならそんな感じだなー。
降伏を宣言して、南校舎に移って……ん?
おい、リュービ! なんでリュウショウを南校舎に移す必要があんだよ!」
突然、カンヨーが噛みついてきて、俺はまたしても面食らうこととなった。俺はコイツが何を怒っているのかいまいちわからぬまま、宥めるように説明した。
「何を突然怒っているんだ。リュウショウは今まで西校舎の盟主であった。権限を譲渡されたとは言え、その影響力を無視することはできない。
西校舎に君主が二人いる状況は避けねばならない。
リュウショウにその気はなくとも、西校舎の生徒が彼を担いで反乱を起こさないとも限らない。
そのために、彼には影響力の及ばない南校舎に移ってもらう必要があるんだ」
天に二日無し、というが、西校舎に俺とリュウショウがいては、まさに二つの太陽があるような状況になってしまう。余計な混乱を避けるためにも、彼には場所を移ってもらう必要がある。
「ま、待てよ。
リュウショウはこれまでずっと一人ぼっちで責任を背負い続けてきたんだ。ようやく責任から解放されて、楽しい学園生活が送れるって時によ、知り合いもいない南校舎に行っちまったら、本当に一人ぼっちになっちまう。
リュービ、お前ならリュウショウがいても西校舎を上手くまとめちまえるだろ?
だから、リュウショウを西校舎に残してくれないか?」
カンヨーがここまで人のために動くのも珍しい。だが、俺はそれを突っぱねた。
「ダメだ。さっきも言ったようにリュウショウにその気は無くとも、周りが担ぐ可能性がある。
それにこれはリュウショウ側も呑んだ条件だ。今さら変更はない」
しかし、カンヨーはなおも食い下がった。
「ならば、俺も南校舎に戻してくれ。
南校舎の仕事に回してくれよ!」
カンヨーがここまで言うのも珍しい。だが、だからこそ俺はそれを許さなかった。
「それもダメだ。
今のお前はリュウショウに対して思い入れが強すぎる。今のお前をリュウショウの側近くに置くことはできない。
それにそもそもお前は今まで何も仕事してないだろ」
「うう……リュービのバカヤロー!」
カンヨーは捨て台詞を吐くとどこかへと去っていった。まあ、西校舎から出なければ特に問題はないだろうと俺は特に追いかけはしなかった。
カンヨーは何かシンパシーでも感じたのかよくわからないが、どうにもリュウショウに情が湧いているようだ。
カンヨーの提案を聞いてやること自体は特に無理のないことだ。だが、実際はともかく、カンヨーは今は俺の古参の側近と見られている。そのカンヨーが必要以上にリュウショウに近づけば、良からぬことを企む輩も出てくるかもしれない。
これから西校舎を発展させ、ソウソウに戦おうという今、反乱の芽は少しでも摘んでおく必要がある。
カンヨーもそのうちいつものいい加減な男に戻るだろう。
俺はリュウショウの方へと向かった。
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リュウショウの降伏の儀は厳かに行われた。
西校舎の生徒、リュービ陣営の生徒らが居並ぶ中、前西校舎の盟主・リュウショウ、新西校舎の盟主・リュービは前に立ち、彼らに呼びかけるように話し出した。
「私、リュウショウこと益隆璋は先代・益隆延とともに長きに渡って西校舎を治めてきた。
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そこで私は西校舎の安寧のために、この地を英傑・リュービこと流尾玄徳殿に譲渡することを決断した。
リュービ殿ならこれまで以上に西校舎を栄えさせてくれるだろう。皆もこれまで以上に忠義に励んで欲しい」
「私はこの度リュウショウ殿より西校舎を譲られた流尾玄徳ことリュービという者だ。
今や西校舎のみならず、この学園全体がソウソウに脅威に晒されている。私はそのソウソウの脅威を取り除き、君たちがより良い学園生活を送れるよう邁進していくつもりだ。
君たちには平和と発展を約束しよう。
しかし、もし俺の統治に不満のある者は今この場で去ってくれても構わない。咎めはしない」
リュービの言葉を受けたが、居並ぶ元リュウショウ配下の者たちは誰も立ち去ろうとはしなかった。
「では、ここに残る者たちは俺とともに学園のために働いて欲しい」
リュービがそう締めくくると、万雷の拍手が巻き起こり、儀式は無事に閉幕した。
ここにリュービは新たな西校舎の盟主として迎え入れられた。
そして、代わって南校舎に向かうリュウショウの元に一人の男子生徒が近寄ってきた。
「リュウショウ!」
「おお、カンヨー。別れの挨拶に来てくれたのか?」
金髪頭のその男はカンヨーであった。
「すまない、リュウショウ。俺はお前に楽しい学園生活を送らせるって約束したのに、お前を一人で南校舎に行かせることになっちまった……」
暗くふさぎ込むカンヨーに対し、リュウショウは元の温和な表情で彼に返した。
「そんなことを気にしないでくれ。私は追放されることも覚悟していた。隣の校舎に移動するぐらいなら十分温情な条件だろう。
感謝こそすれ、君を責めるつもりはないよ」
「しかしよぉ……」
「それに君が友人であることを反故したわけではないのだろう。ならば何も約束を違えてはいないさ。
一段落したら南校舎に遊びに来てくれ」
「ああ、必ず行くよ」
こうして、リュウショウ、その弟・リュウセンはカンヨーに送り出され、南校舎へと旅立っていった。
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「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
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