学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

文字の大きさ
上 下
211 / 223
第6部 西校舎攻略編

第177話 憤懣!バチョウの憂鬱!

しおりを挟む
 リュービは第三のとりでを攻略し、チョーヒは北方、チョーウンが南方を平定している頃、同じ西校舎の最北部にある女生徒が寄宿していた。

 美しく輝く長い金髪に、爛爛らんらんと光を放つあおい瞳の彼女の名はバチョウ。



 かつて自身の西涼せいりょう高校が後漢ごかん学園に吸収合併され、三国学園となった。それに激怒したバチョウは西北校舎で番長連合軍を率いて生徒会長・ソウソウ相手に反乱を起こした。

 彼女はソウソウを一度は追い詰め、西北を震撼しんかんさせた。だが、二度の敗北を経て、ここ西校舎最北部の群雄・チョウロの下に落ち延びていた。

 バチョウは元々多弁な人物ではなかったが、チョウロの下に来てからというもの、めっきり押し黙り、鬱屈うっくつとした時間を過ごしていた。

「まあまあ、バチョウ様。

 自分の身は無事だったんですし、チョウロさんも我らを受け入れてくれたんだから、まずはそれを祝いましょうよ」

 ここはチョウロより宛行あてがわれたバチョウと主だった部下が数人入るばかりの狭い教室。

 バチョウがこの部屋に押し込められると部下の一人・トウチュウはバチョウを心配してそう声をかけた。

 これにバチョウは烈火の如く怒った。

「祝うだと!

 あれだけの犠牲を出し、西北を追われて何を祝うことがあるか!」

 バチョウは怒りに任せ、拳を振り下ろした。あわや、というところでその拳は別の男によって受け止められた。

「バチョウ、心配してくれた部下にまで当たってどうする」

 拳を受け止めた男はそう語った。

 わしの羽飾りを頭につけ、ポンチョのような民族衣装に身を包んだ長身の彼の名はホートク。バチョウ第一の家臣であった。

 ホートクは怒らせたトウチュウを下がらせて、バチョウに向き直った。

「離せ、ホートク!」

 バチョウはホートクの手を振り払うと、重ねて彼に尋ねた。

「アタシは西涼せいりょうの自由のために戦った。

 それなのに何故、アタシは西涼せいりょうから追い出されなければならんのだ!」

 彼女はかつての母校・西涼せいりょう高校が一方的に吸収されたのを許せないでいた。そして、同じ思いであろう元西涼せいりょう生のために戦ってきた。彼女自身はそう信じていた。

 だが、先の戦いでは同じ元西涼せいりょう生の手で、西北校舎から追い出されてしまった。チョウロの下に来てからというもの、彼女はその件ばかりを考えていた。

 この問いかけに対して、ホートクは主君ではなく、弟妹を教え導くような口調で語りかけた。

「若大将、あなたは強い。だが、ただ強いだけだ。

 ただ強いだけでは人の上に立てん。あなたには強さ以外が欠けていた。

 かつてバトウ様は……」

 ホートクがバトウの名を出した途端とたん、バチョウは再び怒り狂った。

「ホートク、その名を口に出すなと言ったはずだぞ!」

 バトウはバチョウの兄であり、ホートクの先代の主君であった。そのバトウは西涼せいりょう高校の生徒会長となり、後漢ごかん学園との吸収合併に同意した。自身の兄が吸収合併を承諾したとあって、彼女は兄を深くうらんだ。そのために兄・バトウの名はバチョウ軍の中でタブーとされ、口に出すことさえ許されなかった。

 だが、ホートクはそれでもえてかつての主君・バトウの話を始めた。

「いや、今のお前には話さねばならん。

 バトウ様は両校が合併する前にこう言われた。

 『バチョウは私より強く、才能にあふれた妹だ。

 だからこそ、西涼せいりょう高のみの狭い世界だけで満足してしまうのは大変惜しい。今回の合併でより広い世界に触れ、豊富な経験を積むことを私は願う』と……」

 ホートクから告げられた兄・バトウの言葉に、バチョウはますます怒りをつのらせた。

「なんだそれは!

 それでは兄はアタシのために合併に同意したというのか!」

 今にもつかみかからんとするバチョウをなだめつつ、ホートクは語った。

「違う、そうではない。合併はよい機会になったのではないかという話だ。

 バチョウ、そもそもお前は勘違いをしている。

 学校の合併という大事がただの生徒会長の一存だけで決まるわけがないだろう。

 合併自体は前々から話が出ていた。バトウ様はたまたま決定した時の生徒会長だったというだけだ!」

 ホートクは反対にバチョウを一喝した。

「ふざけるな!

 アタシはそのことで兄を憎み、今まで来たのだぞ……今さらそんな言葉は聞きたくない!」

 バチョウは声を張り上げてホートクに返した。

 実際、バチョウ自身も薄々はわかっていることであった。学校の合併という一大事を生徒会長一人を責めたところでどうにもならないことを。

 だが、彼女は自身の若き憤怒ふんぬを誰かにぶつけねば収めるすべを知らなかった。ソウソウとバトウは絶好の相手であった。

 だが、彼女はその憤怒ふんぬだけでここまで来た。そして、一定の支持を得てしまった。今更収まりのつくものではなかった。

 しかし、ホートクはそれでもなお、バチョウへの言葉を続けた。

「ならん!

 お前が君主として西北に君臨したいと望むならば、向き合わねばならぬ」

 ホートクにはわかっていた。彼女の憤怒が一定の支持を得ても、それだけでは西北の盟主にはなれないことを。だからこその言葉であった。

「うるさい!

 お前は何様だ!」

 だが、それがバチョウの怒りの火にさらに油を注ぐ結果となった。彼女はホートクに対して怒鳴り返した。

「私は若を矯正きょうせいしようと思っているだけだ」

 続けて放ったホートクの言葉に、バチョウはさらに怒りを募らせた。

「それだ!

 お前はアタシを主君とは思っていない。今も私を『若』と呼び、兄を様付けする。それに『矯正きょうせい』なんて言葉は主君に対して使う言葉ではない!

 お前の心はアタシにない!

 今もお前は兄の部下だ!

 お前のような奴はいらない! 何処どこへでも行け!」

 怒りに任せたバチョウがついにホートクにクビを言い渡した。

 辺りが静まり返る中、すかさず一人の男が間に入って仲裁を始めた。

 学帽に片眼鏡、バンカラマントを羽織ったこの男子生徒はバタイ。バチョウの従弟いとこであった。

 彼は血相を変えてバチョウをいさめた。

「バチョウ、なんてことを口にするんだ。

 今、我らは苦境に立っているのに、仲を決裂させるような言葉を言うべきではない」

 その言葉を聞き、バチョウは考えを改めたのか、怒りの形相から神妙な面持ちに変えてバタイらに向き直った。

「そうだな、今や苦境に立っているのだ。

 その責任はアタシにある。

 辞めるべきはアタシだ。

 今日この限りをもってバチョウ軍は解散する!

 お前たちは何処どこにでも行け!」

 突然のバチョウの解散宣言に面食らい、バタイの動きは一瞬止まった。彼はバチョウの発言を改めてさせようと思ったが、バチョウはスタスタと教室から出ていってしまい、そのまま何処どこかへと消えてしまった。

「そんな、バチョウ……」

 バタイはあまりの急な事態にただただ呆然ぼうぜんとするばかりであった。

 対してホートクはバチョウを追う様子もなく、教室を出ようとし始めた。その様子を見て、バタイは慌てて彼を止めようとした。

「ホートク、まさか、あなたも出ていこうと言うんじゃないだろうね?」

「奴が解散すると言ったのだ。ならばそうするのが筋だろう」

「し、しかし……」

 当然だと言わんばかりのホートクに、バタイは上手く言葉が続けられなかった。

 そのバタイの様子にも構わず、ホートクは独り言のように呟いた。

「バチョウ……奴は何もかもが間違っている女であったが、一つ正しいことを言った。

 確かに奴の言う通り、私はバチョウを主君とは思っていなかった。

 遅かれ早かれこうなる運命であったのだろう」

 既に見切りをつけたかのように語るホートクに、バタイは悲しげな声色で、彼を引き留めようと声をかけた。

「……そんな事を言うなよ。

 あなたは確かにバチョウを主とは思っていなかったかもしれないが、それでも主となるようにとこれまで言葉を尽くしてきたじゃないか」

「その結果がこれだ。

 奴が奴であり続けるなら、私も私であり続ける」

「そんな……」

 ホートクの回答にバタイは愕然がくぜんとした。だが、それ以上に彼は言葉を続けられなかった。胸の内ではホートクの言葉に納得もしていた。今の彼を説得するような言葉はバタイには思いつかなかった。

「私の部隊は私が引き取ろう。

 バチョウの部隊は、バタイ、君が決めろ。解散するも良し、君が主になるも良しだ」

 愕然がくぜんとしたまま停止するバタイを余所よそに、ホートクは淡々と話を進めていき、そのまま教室から出ようと扉を開けた。

 その出る間際、ホートクはバタイに言った。

「ここまで付いて来たテーギン、コーセンの両将には私から伝えておく。

 元々、あの二人もこれ以上バチョウに付いて行くことに迷いがあった。よい機会だろう」

 そう言うと、ホートクはそのまま教室から出ていってしまった。

 後には茫然自失ぼうぜんじしつのバタイ、そして急展開の自体にただオロオロするばかりのバチョウの部下たちが残された。

「バチョウ、ホートク……

 君たちは僕にどうしろと言うんだ……」

 ~~~

 教室を一人飛び出したバチョウは、ただ目的もなくうつろな表情で教室を徘徊はいかいした。

 ただでさえ金髪碧眼へきがんの人目を引く容姿をしている上、彼女の活躍はチョウロ陣営内にひびき渡っていた。道行く誰もがバチョウと気付きながらも、そのただならぬ雰囲気を察して、れ物のように誰も彼もが歩く彼女から距離を取った。

 バチョウは何するでもなく彷徨さまようと、購買部へとたどり着いた。彼女はすみにある自販機で飲み物を買うと、影に隠れてそれをすすった。

 今の虚無きょむな彼女には殺気もただよってはいない。影に隠れると多くの者は彼女に気付かぬまま、購買部を利用した。バチョウはその客の姿をぼーっとしながら眺めていた。

「代わり映えのない風景だ。

 アタシがいようがいまいが、昨日も明日も同じ風景が続いているのだろうな」

 そんな事を誰に言うでもなくボヤいていると、突如、彼女の目に“異質な物”が映った。

 いや、異質ではないかもしれない。だが、彼女の目を引くには十分なものであった。

 それは購買部にやってきた一人の男子生徒であった。

 髪は伸び放題、乱れ放題。風呂に入っていないのか辺りに異臭をただよわせている。

 男は何やらボソボソと購買員につぶやくと、購買員は面倒な様子で消しゴムを渡した。それを受け取ると、ボロボロのその男はまるで足を怪我したような奇妙な足取りで、転びそうになりながら購買部を去っていった。

「なんだ、あの男は?」

 一部始終を目撃したバチョウは、その男に強烈な興味を抱いた。だが、あまりにも怪しい。バチョウは先に面識のありそうな購買員に話を聞いた。

「おい」

 購買員は話しかけてきたのがバチョウと瞬時に気付いて驚愕きょうがくした。

「あ、あんたはバチョウ……!」

「今、アタシは誰でもいい。それよりもあの奇妙な男は何者だ?」

 購買員も最初こそ驚いたが、特に問題もなさそうなのでバチョウに質問に答えた。

「ああ、あの男ですか。

 あれはカンピンですよ」

「カンピン?

 それが名か?」

「いえ、本名は知りません。あの男はいつも小銭ばかりで最低限の文具を買っていくんです。

 それで皆はカンピンと呼んでます。素寒貧すかんぴんのカンピンです。

 度々、見かけますが、奇声ばかり発してやり取りもままならんので、それ以上の事はよく知りません」

 どうやら購買員も詳しい素性は知らないようであった。

「むむむ、聞けば聞くほどただの貧乏人にしか見えん。

 だが、何故か興味を覚える……

 このままあの男を見逃すことはできん」

 それでもどうしても気になったバチョウは、そのカンピンなる男の後を追うことにした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最新話まで読んでいただきありがとうございました。

 三国志が好き、三国志に興味が持てたと思っていただけたのなら、お気に入り登録、感想をよろしくお願いいたします。
トベ・イツキtwitterアカウント 

https://twitter.com/tobeitsuki?t=GvdHCowmjKYmZ5RU-DB_iw&s=09

↑作者のtwitterアカウントです。

 作品の話や三国志のことを話してます。よければどうぞ
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...