学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第170話 捕獲!攻略ゲンガン戦!

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 西北校舎でひとしきり暴れたバチョウであったが、烈士・ヨウフらの反撃に遭い、西校舎のチョウロの元へ落ち延びていった。

 一方、同じ西校舎内では、西校舎の勢力・リュウショウと南校舎の勢力・リュービが戦っていた。戦いはリュービ優位に展開されたが、不慮の事故から軍師・ホウトウを失い、リュービ軍の進行が停滞してしまった。

 これに対して、南校舎に残っていたリュービ軍師・コウメイらは援軍として西校舎の東エリアへと進出していった。

 ~~~

 ここは西校舎と南校舎を繋ぐ渡り廊下。

 既にこの地では、リュービ援軍の先鋒と西校舎の防衛軍との戦いが勃発していた。

「オラー、お前たち!

 もっと性根入れて攻めるんだぜ!」



 軍の後方で指示を飛ばすのは、高校生にしては背が低い、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けていた女生徒。元気よく声を出す彼女が、先鋒の将にしてリュービの義妹・チョーヒであった。

 リュービ軍随一ずいいちの猛将と名高いチョーヒ軍が攻め手であったが、その戦いぶりは少々、精彩を欠いていた。

 チョーヒ軍の兵士の多くは南校舎で集めた新兵たちであった。普段であれば先陣切って敵に突撃するのがチョーヒの戦いだった。だが、新兵の実地教育も兼ねたこの戦いでは、彼女はえて後方に陣取り、新兵への指示に専念していた。

 だが、新兵たちの不甲斐ふがいない戦いの様子に、チョーヒは段々と苛立いらだちをつのらせていた。

「ああ、もう、新兵どもは戦い方がなっちゃいないんだぜ!

 ここはオレが行くんだぜ!」

 ついに怒りのたままったチョーヒは居ても立っても居られず、前線へと飛び出そうとした。

 だが、彼女の前に一人の男子生徒が割って入り、両腕を広げて彼女を静止した。

「いけません、チョーヒ将軍!

 あなたはこの先鋒軍の指揮官なのですから、おいそれと最前線に出るべきではありません!」

 止めたのは深青色の短髪、メガネをかけた男子生徒、チョーヒの軍師・ソウヨであった。

「うるさいんだぜ、ソウヨ!

 オレが先陣切って戦い方を教えてやるんだぜ!」

「ダメです!

 このソウヨ、あなたの軍師となったからには、そんな危険な真似を容認するわけにはいきません!」

 押し問答はしばらく続いたが、軍師・ソウヨもなかなか骨のある人物なようで、チョーヒ相手だというのに全く譲ろうとしない。

 チョーヒも腹を立てたはしたが、相手は味方の軍師。彼を殴り飛ばすわけにもいかず、指揮を任せて後退した。

「クソ―、面倒くさい奴だぜ!

 コウメイの奴なーにが、『チョーヒさんの軍も大部隊になったのだから軍師をつけましょう』だぜ!

 あんなのただのお目付け役なんだぜ!」

 怒りながら後退するチョーヒに、周囲の兵士は触らぬ神にたたりなしとばかりに道を開けた。しかし、ただ一人だけ、女生徒が彼女にえて近づいていった。

「まあまあ、チョーヒちゃん。あの子もチョーヒちゃんの身を案じてなんだからそんなに言わないの」

 怒るチョーヒ相手になだめるように話すのは、薄い桃色の長い髪に、花の髪飾りをつけた女生徒・カコウリンであった。

 彼女はソウソウの親族ながら、チョーヒに一目れし、そのままリュービ軍の所属となった人物。この援軍ではチョーヒの副官に任命されていた。

「おい、リン。

 お前、戦えないくせに何ついてきてんだぜ」

「ひどーい!

 戦えなくったってチョーヒちゃんを助けることはできるのよ」

「お目付け役が二人もいる気分なんだぜ……

 うーん、ここで手間取ると後軍のチョーウンやコウメイに追いつかれて手柄が取られちまうんだぜ……」

 チョーウンらが合流する前に勝負を決したいチョーヒは歯噛はがみして事態を見守った。

 ~~~

 一方、渡り廊下の対岸に陣取る西校舎の防衛軍へ視点を移す。

「うむ、敵軍にチョーヒ自身の動きがないな……。

 それがしらが動く好機か」

 誰に聞かせるでもない声量でそうらすのは、大柄で髭面ひげづらの男子生徒、この防衛軍の指揮官・ゲンガンであった。

 かつて西校舎に来たばかりのリュービを出迎えたゲンガンが今、その援軍であるチョーヒの迎撃に当たっていた。

 話はチョーヒ軍の到着前にさかのぼる。

 チョーヒ軍襲来の報に、渡り廊下の防衛指揮官・ゲンガンと渡り廊下付近の教室の管理者・チョウサクらは集まって対策を相談した。

「ゲンガン将軍、先ほどチョーヒ軍から降伏勧告が届いた。

 今こちらに向かっている攻め手の大将・チョーヒは暴虐非道ぼうぎゃくひどうな人物として有名だ。

 その上、中央がリュービ軍と戦っている以上、我らに援軍は望み薄だ。

 ここは大人しく降伏するべきではないか?」

 面長な顔の男子生徒・チョウサクはまゆをハの字に傾けて、弱々しげにそう語った。

 対して髭面ひげづらの男・ゲンガンは力強く返した。

「なりませんぞ、チョウサク殿!

 ここは西校舎への入口に当たる場所。ここを落とされればリュービ軍が際限なく侵攻してきますぞ!」

 このエリアは言うなればお隣の南校舎と西校舎をつなぐ玄関口。防衛担当のゲンガンがが非でも守りたい場所であった。しかし、それだけに敵も容赦ようしゃなく攻めてくることは予想できた。チョウサクはおびえながらもゲンガンに聞き返した。

「しかし、チョーヒに逆らえば血の雨が降ると聞くぞ。

 私たちで勝てるのか?」

「聞くところによれば、奴は攻めるばかりの猪武者という話です。

 策を立てて奴を捕らえましょう。ここはこのゲンガンに一任してくだされ」

「うーむ、私はあくまで教室の管理が仕事で、戦いは未経験だ。君に任せよう」

 防衛担当のゲンガンにそう強く言われては、チョウサクも首を縦に振るしかない。

 開戦を決めたゲンガンらはチョーヒからの降伏勧告をはねのけると、部隊を率いて渡り廊下の出口部分に防御陣を築き、チョーヒ軍を迎え撃った。

 戦いを恐れるチョウサクらに対して啖呵たんかを切ったゲンガンであったが、彼にも恐れはあった。防衛軍を任されているといっても、これまでは南校舎のリュウヒョウ軍と数度、小競こぜり合いをした程度だ。このままでは降伏してしまうので一任してくれと頼んだが、実のところ勝てる自身はなかった。

 だが、前線でチョーヒ軍と対面し、彼女の戦い方を目にしてようやく自信を持ち出していた。

「ゲンガン様、チョーヒ軍の勢いは盛んです。ここは一度撤退するべきではないでしょうか?」

 そうゲンガンに進言するのは、円柱のケピ帽に、白いローブを羽織った細身の男子生徒、ゲンガンの配下・リカイ。

 慎重派の部下の言に、ゲンガンは豪気な態度で答えた。

「心配するな、リカイ。

 奴の動きを見よ。

 チョーヒ軍は一見、勇猛に戦っているが、チョーヒ自身は先ほどから後方にいて指示を飛ばすばかり。うわさのように前線に出向いて、先頭で大暴れする様子をみせない。

 つまり、チョーヒはうわさほどの剛勇の持ち主ではないのではないか?」

 前線に出たゲンガンはずっとチョーヒの動きだけを観察していた。彼の目にはチョーヒは後方で怒鳴るばかりの指揮官に映った。

 思えばうわさに聞くチョーヒの活躍も伝説じみたものばかり。多分に脚色されたものだろうとゲンガンは推測していた。

「いえ、それだけで判断するのは早計じゃないですか?」

 だが、部下のリカイはまだ不安な様子でゲンガンに尋ねた。

「確かに用心するに越したことはない。

 だが、うわさなぞ当てにならん。今、チョーヒを実際に目にしたが、あれほどの小柄な少女に百人力の力はなかろう。

 いずれにせよ、このまま敵に後軍が合流すれば兵力差で押し切られてしまう。ここでチョーヒを討たねば我らに勝機はない!

 者ども! 今が好機だ! 我に続け!」

 髭面ひげづらの指揮官・ゲンガンはリカイを残して、たてを手に前へと進み出た。彼に続いて二十人ばかり、腕力自慢の男たちがたてを手に進んだ。

 ゲンガンは部下を横に整列させ、たてを並べて壁を作ると、そのまま敵兵を押し返してチョーヒの陣地付近にまで迫った。

「チョーヒよ!

 それがしはこの防衛軍の指揮官・ゲンガン!

 貴様がうわさに違わぬ天下無双の豪傑というならここに出てきてそれがしと一戦せよ!」

 陣地奥にてその音声を聞いたチョーヒは、ニヤリと笑って身を乗り出した。

「へへ、向こうにも威勢のいーのがいるんだぜ!」

 だが、彼女の前に再び軍師・ソウヨが飛び出し、チョーヒを押し留めた。

「お待ち下さい。

 指揮官たる者が軽々しく一騎打ちに応じてはいけません!

 それによく見てください。敵将は周りに何人も部下を従えています。これは罠です。行ってはなりません!」

「あー、面倒な奴なんだぜ!

 どんな罠があったってオレなら蹴散らしてやれるんだぜ!」

「いけません!」

 将軍・チョーヒと軍師・ソウヨが押し問答を繰り広げていると、敵将・ゲンガンはさらにチョーヒをあおった。

「チョーヒよ、臆病風に吹かれたか!

 貴様の兄のリュービも軍師を失って閉じもったが、似た者同士の臆病兄妹だな!」

 そう言ってゲンガンは大口を開けて笑い飛ばす。

 聞いたチョーヒは不敵な笑みを浮かべ、静かに闘志を煮えたぎらせた。

「ヤロー……!

 アニキのことまで言うたーいい度胸なんだぜ……!」

 触れずともわかるみなぎる怒気に、うるさくさえずっていた軍師・ソウヨも思わず及び腰になつてしまった。

「チョ、チョーヒ将軍……」

 ソウヨは上ずった声でチョーヒの名を呼ぶが、もう彼女の耳には聞こえていない。

 怒りに燃えたチョーヒは助走も無しに頭上高く跳躍すると、続けて立ちふさがるソウヨの肩を踏み台にして、さらに天高く宙へと舞った。

「覚悟しろだぜー! そこの髭面ひげづらー!」

 味方の頭上を悠々ゆうゆうと飛び越え、チョーヒは敵将・ゲンガンの眼前に降り立った。

 だが、チョーヒの着地と同時にゲンガンは左右の兵士に合図を送る。

「今だ!」

 二十人の力自慢の男たちはチョーヒの周囲を取り囲むと、投げ縄を繰り出して彼女を四方八方からがんじがらめに縛り上げた。

 両腕を封じられたチョーヒはピクリとも動こうとはしない。

「よし、チョーヒを捕らえたぞ!」

 ゲンガンの得意気な絶叫が辺りに木霊こだまする。

「チョーヒよ、お前は一対六の勝負に勝利したとうそぶいていたそうだが、二十対一はどうだ!

 二十人力のその力、身動き一つ取れまい!」

 小柄な少女を外周を埋め尽くすばかりの男二十人がその剛力でからめ捕る。少々、絵面は良くないが、これでチョーヒもさすがに動けまいとゲンガンは勝利を確信した。

 チョーヒの陣地からは軍師・ソウヨが心配そうに様子をのぞき込んでいる。

 だが、チョーヒ一人は不敵な笑みを崩しはしなかった。
 
髭面ひげづらー。

 お前、この程度でこのオレを止められると本気で思ってんだぜ?」

せ我慢をするな。

 痛い目を見たくなければ大人しく捕虜となれ」

「へっ、嫌だぜ!」

 チョーヒは鼻で笑い飛ばすと、右足を踏み込んで大きく体をねじると、それに引きずられて縄を持つ男のうち数人がぎ倒された。

 その怪力ぶりにゲンガンが呆気あっけに取られている間に、チョーヒは縛られたところから飛び出た手首の先で、伸びた縄を二本掴み取った。

 縄の先の男は両腕でしっかり縄を掴んだつもりであったが、チョーヒの片腕の力にも及ばず、もろとも振り回された。

 チョーヒは左右の縄先にいる二人の男を分銅のように振り回すと、周囲の男どもを薙ぎ倒し、さらにゲンガンめがけて投げつけた。

「オレをなめんなだぜ!」

 二十人いた男たちはチョーヒ一人にいとも容易く倒され、さらに加えてゲンガンさえも吹き飛ばされてしまった。

「な、なんたる怪力……」

 男二人分をぶち当てられたゲンガンは、そううめくとそのまま伸びてしまった。

「けっ、なにが二十人力だぜ。

 ソウジンの一発の方がよほど重たかったんだぜ」

 チョーヒはほどいた縄を手に仁王立ちして高らかに叫んだ。

「敵将・ゲンガンはこのチョーヒが討ち取ったんだぜ!

 まだ刃向かう奴はかかってこいだぜ!」

 チョーヒは先ほどまで自身を縛っていた縄で、反対に気を失ったゲンガンを縛り上げた。

 大将・ゲンガンに加え、部隊の主力二十人を一瞬で蹴散らされてしまった防衛軍に、もはや戦意は残っていなかった。防衛軍は一人残らず武器を床に置いてチョーヒに投降した。




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