学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第169話 選定!リュービの援軍!

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 突如割り込んだ黒髪の女生徒は、チョーヒの突き出した右腕に軽く手を添えると、あっという間もなく次の瞬間にはチョーヒの背中が床についていた。

 事態を飲む込めぬリューサンは何かの見間違いかとまじまじと見るが、チョーヒの頭は向こうを向き、足はこちらに投げ出されている。投げられたのは間違いないようだ。

「何すんだぜ、カン姉……!」

「チョーヒ、いつも言っているでしょう。あまり厳しい訓練ばかりしてはいけませんと!

 あなた、大丈夫ですか?

 すみません、この娘、あまり手加減できなくて」

「カン姉……後輩の前で子供扱いしないで欲しいんだぜ……」

 チョーヒの愚痴をかわしながら、彼女を投げた女生徒はリューサンへと顔を向けた。

 彼女はリューサンと同じように長い黒髪だが、彼のボサボサ髪とは比べられないほどの美しく光を反射する漆黒。思わず見惚みほれるほどの整った容姿。先ほど人一人投げ飛ばしたとは思えないほど服装に乱れ一つなく、お嬢様のような清楚なたたずまいの女生徒であった。

 その特徴、そしてチョーヒが「カン姉」と呼ぶことから、リューサンはすぐに彼女の正体に気付いた。



 リュービ軍の筆頭将軍、そしてチョーヒの義姉・カンウ、その人だ。一見、アイドル顔負けの美少女だが、油断してはならない。彼女はこの学園でも一二を争う武闘派だ。現にあのチョーヒを一瞬で投げ飛ばしてしまった。

 カンウとわかると、リューサンに緊張が走る。

「は、はい、大丈夫です!

 チョーヒ将軍には武将になるために必要な助言をいただき、ありがたく思っております!」

「へへ、そーだぜ、そーだぜ!」

「チョーヒ、あまり調子に乗らないの。

 あなたも武将を目指すなら、力ばかりではいけませんよ。勉強もしないと。

 歴史の勉強をするといいですよ。昔の偉人の活躍を読むのはとても参考になります。

 私のオススメは『春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん』ですね。『左伝さでん』は孔子こうしの書かれた歴史書『春秋しゅんじゅう』の解説書の一つで、特徴としましては……」

 先ほどまでおしとやかな雰囲気だったカンウは、『春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん』の話になった途端に早口で解説を始めた。

 事情のわからぬリューサンは思わぬ事態に呆気あっけにとられてしまった。

「えーと、カンウ将軍は一体……」

「ああ、カン姉は『左伝さでん』ってのを暗誦できるくらい読み込んでんだぜ。

 おーい、カン姉、新人が困ってるからそのへんにすんだぜ」

「えっ、コホン。すみません。取り乱しました。

 そうですね、いきなり『左伝さでん』もハードルが高いかもしれません。

 まずは『史記しき』、『漢書かんじょ』、『東観漢記とうかんかんき』辺りから読んでみるといいでしょう。備えあれば憂いなしですよ」

「は、はい。本は好きなので読んでみようと思います」

 リューサンが前向きな返答をすると、カンウは嬉しそうな反応を示した。

 ソンケンの密命を受けて忍び込んだリューサンであったが、思わぬところでカンウ・チョーヒというトップクラスの武将と対面してしまった。

 しかし、考えてみればこの二人からアドバイスを貰えるというのは、貴重な体験なのではないかとリューサンは思った。

「もしもし? 本当に大丈夫ですか?」

 リューサンが少し物思いにふけっていると、心配したのかカンウが彼の顔をのぞき込んだ。

「え、は、はい!

 そ、そうですね、少し調子が悪いかもしれません。保健室に行ってきます!」

 心配して付き添おうかとしてくれるカンウに納得してもらい、リューサンは一人で体育館を抜け出した。

「ようやく抜け出せた。貴重な経験ではあったが、自分の役目を果たさねばならん!」

 リューサンは保健室ではなく、当初の目的であるソンショウコウのいる部屋を探した。

 彼はソンケンに命じられ、姉のソンショウコウを連れ戻すためにリュービ陣営に忍び込んだのであった。

 その場所についてはソンショウコウが弟のソンケンとしたやり取りからだいたいの検討はついている。

 リューサンはこれ以上、厄介事に巻き込まれないように気配を消しながらソンショウコウのいると思われる教室を目指した。

「ここだ! ここにソンショウコウ様がいる!」

 リューサンが戸をノックすると、中から女性の返事が返ってくる。リューサンは満を持して戸を開けた。

 戸の向こうにいたのは、ツインテールの結び目に大きめのリボンを2つつけ、三日月の髪飾りをつけた女生徒。かつてソンサクの名で東校舎を平定したソンケンの姉・ソンショウコウである。



「ん? 君は誰じゃったかな?」

 なまり口調で彼女は、侵入してきたリューサンに話しかける。リューサンは写真で知っているが、ソンショウコウとは直接の面識はない。まずは名乗らなければならない。

「お初にお目にかかります、ソンショウコウ様。

 自分はリューサンと申します。この手紙を……」

「はい、そこまでだよ、不審者君!」

 リューサンが手紙を渡す直前、彼の肩に何者かの手が置かれて話が中断された。声をかけられたリューサンから一気に血の気が引く。

 彼が振り返ると、そこにいたのは野球帽をかぶり、ジャージの上着にスパッツ姿、片腕にスケボー
を抱えたボーイッシュな女生徒。

 その容姿とこれまでの流れから、リューサンは彼女がチョーウンであることを察した。



 カンウ・チョーヒに続いて、かつてソウソウ軍を縦横無尽に駆け抜けた伝説の武将にまた出くわしてしまった。

 リューサンとしてはなんとか誤魔化したいところだが、ソンケンの手紙を手に持ち、ソンショウコウを訪ねた今では、とても誤魔化せそうにない。

「な、何故、自分が怪しいとわかった!」

「君、隠密に向いてないよ。

 その図体でコソコソしてれば返って目立つよ」

 さすがの洞察力と褒めるべきかわからぬが、後がないリューサンは、一か八かで脱出をこころみた。

 リューサンは図体のデカさを生かして、チョーウンを力ずくで押し退けようとした。

 チョーウンにドンとぶつかった衝撃で彼女は持っていたスケボーを思わず落とした。

 リューサンはそのスケボーを踏んでしまい、足を取られてそのまま盛大にすっ転んでしまった。

 デカい男のデカい転倒音が辺りに響く。

 リューサンはすぐに立ち上げろうとしたが、足に激痛が走り、立ち上がることもままならない。どうやら、足をくじいてしまったようだ。

「イタッ!

 しまった。足を痛めたか……これでは逃げられん」

「大丈夫かい? そそっかしいスパイさん」

 そう言いながらチョーウンは倒れたリューサンに手を差し伸べる。彼は恥じ入りながらも彼女の手を取った。

 チョーウンはその細腕からは考えられないほどの力で、巨体のリューサンをあっさりと引き上げてしまった。その力の差にリューサンは真正面から挑んで勝てる相手ではないと察した。

「噂に名高いチョーウン将軍に見つかり、その上足まで痛めてしまった。

 もはや、ジタバタはせぬ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「困ったな。君はどこのスパイだい?」

 旧に大人しくなった巨漢にチョーウンが扱いに困っていると、教室より出てきたソンショウコウが仲介に入った。

「チョーウン、待ってほしいんじゃ。

 その人は多分、うちのお客さんのようなんよ」

 見ればソンショウコウは手に、先ほどの転倒で落としたのか、リューサンの持っていた手紙を持っていた。

「うちがあんまり帰らんもんじゃから、弟が心配してこの子を寄こしたみたいなんよ」

「うーん、ソンケンとは一応、同盟相手だし、スパイでないならわかったよ。でも、コウメイには伝えるよ」

「ありがとう、チョーウン。

 君も弟のために散々じゃったね。

 ソンケンに伝えて欲しいんじゃ。『たまには戻るから心配せんどってね』って」

「わかりました。このリューサン、確かに伝言お引き受けいたしました。

 では、これにて失礼いたします」

 それからこの闖入者ちんにゅうしゃ・リューサンが特に機密情報を持ち出してないことの確認が取れると、そのまま東校舎へと送り返された。

「ソンショウコウ様を連れ戻せなかったということは任務は失敗だろうな。

 どうやら、自分に隠密任務は向いていないようだ。しかし、今回の任務は良い経験になった。

 まさか、名だたる武将らから助言を貰えるとは思わなかった。足が治るまでの間、歴史の勉強をするのも良い。いっそ、歌でも歌いながら悠然と戦うのもいいかもしれんな。

 何しろ、カンウ・チョーヒ・チョーウンの三人と対峙したのだ。もう、何が来ても怖いものはない!」

 このリューサン、後に歌いながら戦う名物武将として名をとどろかすが、その日が来るのはもうしばらく先の未来であった。

 ~~~

 ソンケンからの密偵・リューサンが去って幾ばくか、南校舎のリュービ陣営で新たな動きがあった。

 この勢力の主であるリュービ自身は現在、西校舎で戦闘中。この南校舎には留守を任された武将たちが残っていた。

 そこの教室の中、居並ぶ多数の生徒を前に一人の少女が教壇に立つ。

「リュービさんから救援要請がきました。

 ……ホウトウさんが討たれたそうです」

 そう生徒たちに向けて話すのは、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つき、透き通るような白い肌、低い背と、とても華奢きゃしゃな体つきの美少女、神算鬼謀しんさんきぼうの天才軍師・コウメイであった。



 ホウトウが討たれたという報告に、それを聞いていた多くの生徒たちに動揺が走る。

「そんな、ホウトウが……」

「まさか、リュービさんは苦戦しているのですか?」

 今、この南校舎の盟主・リュービは軍の一部を率いて西校舎へ領土を広げるために、そこの盟主・リュウショウと戦っていた。その最中、同行していた軍師・ホウトウは敵に討たれ脱落してしまった。

 ホウトウはコウメイの友人でもあった。悲しみと心配が同時におそってきたが、この陣営の筆頭軍師である以上、そちらの仕事を優先しなければならない。

 狼狽うろたえる諸将をなだめるように、軍師少女・コウメイは報告を続けた。

「幸いリュービ軍自体はそこまで苦戦はされていないようです。

 ですが、戦いが持久戦になってしまったこと。さらには他の地域にまで進軍する余力がないことを考慮して、この南校舎から援軍を出します」

 そう言いながら、コウメイはホワイトボードに校内の見取り図を貼り、指し示しながら説明を始めた。

「まずは状況を整理しましょう。

 皆さんご存知のように、南校舎・西校舎という名前ですが、この二つの校舎は隣同士、東西に並列して並んでいます。

 敵の総大将・リュウショウの本拠地は西校舎の中央やや西寄りの場所にあります。

 リュービさんは北からほぼ真っ直ぐこの本拠地を目指して進軍しております。今はもう、その本拠地の一つ前のとりでまで迫っているそうですが、そこで動きを止められてしまったそうです。

 そこで私たちの援軍は、まだ手付かずの西校舎の東エリアを制圧しつつ、リュービさんが足止めされているとりでを目指して進軍します」

 彼女の説明を聞いて真っ先に反応したのは、腰まで届く長く美しい黒髪、お嬢様のような雰囲気を漂わせる背の高い女生徒であった。

「今は苦戦していなくても、兄さんが足止めされているならこれから悪化することも有り得ます。

 すぐに行きましょう!」

 こう話す彼女はリュービの義妹・カンウ。万夫不当ばんぷふとう、リュービ軍の中でも古参の彼女は、筆頭武将というべき人物であった。

「そうだぜ!

 早く行こうだぜ!」

 カンウに続くのは、彼女とは対象的に背が低く、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けてた、元気そうな雰囲気の女生徒。

 彼女はリュービ、カンウの義妹・チョーヒ。怪力無双、カンウと並ぶ古参の彼女も軍を代表する人物であった。

「そうだね。

 ソウソウの西北侵略も大方完了しているようだし、急いだ方がいいだろうね」

 二人に同意するのは、ジャージの上着にスパッツ姿のボーイッシュな女生徒。

 彼女はチョーウン。豪胆無比ごうたんむひ、カンウ・チョーヒに次ぐリュービ軍の主力武将であった。

 カンウ・チョーヒ・チョーウン。この三人の女生徒がリュービ軍の中心的な武将である。援軍の編成は当然、彼女らと軍師・コウメイを基準に組まれることになる。

 コウメイは既に編成を胸の内に考えていた。彼女はそれを話し出した。

「では、すぐに援軍を送りましょう。

 編成については既にある程度考えてあります。

 援軍がリュービさんの元にいくのも大事ですが、東エリアの制圧も大事です。そのために、三つの部隊が三つのルートを通り、なるべく広範囲を制圧できるようにしようと思います。

 そのために部隊は三軍編成で行います。

 まず、第一陣の指揮官・チョーヒさん!

 次に、第二陣の指揮官・チョーウンさん!

 最後に第三陣の指揮官はこの私、コウメイが務めさせていただきます」

「ま、待ってください!」

 コウメイが軍編成を言い終わるやいなや、食い気味に一人の女生徒が待ったをかけた。

「今の編成に私の名前がありませんが、どういうことですか?」

 待ったをかけたのは、リュービ軍の柱石にしてリュービ義妹・カンウであった。確かにカンウは真っ先に名を挙げるべきであったが、コウメイが挙げた名には含まれていなかった。

「カンウさんのお気持ちはわかります。

 しかし、ここ南校舎を空にするわけにはいきません。この南校舎は北はソウソウ、東はソンケンに囲まれた係争の地です。少し前にもソンケンから密偵が送り込まれました。いつ誰が侵攻してきてもおかしくないのです。

 この南校舎を任せられるのは、武官筆頭であり、智勇兼備の武将・カンウさんを置いて他にはおりません」

「……そこまで言われては仕方がありません。

 わかりました。南校舎は私が守ります。兄さんのことをよろしく頼みます」

「お任せ下さい」

 こうしてリュービへの援軍として軍師・コウメイ、義妹・チョーヒ、将軍・チョーウンは西校舎へと向かった。南校舎にはカンウが守将として残った。



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