学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第166話 蜂起!打倒バチョウ!

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 西北校舎南部一帯を占領した金髪碧眼へきがんの女将軍・バチョウ。

 その支配にあながうため、列士・ヨウフは、同僚・チョウコウ、その黒髪の恋人・オウイとともに、将軍・キョージョの元を訪ねた。

 その席にて、キョージョの従妹いとこ亜麻あま色の髪の若き麒麟児きりんじ・キョーイと出会い、彼女からバチョウへの対抗策を授けられた。

 さらにキョーイは生徒名簿を盗み見て、計画に協力してくれそうな生徒にも目星をつけていた。彼女は滔々とうとうとその名を語り出した。

「この辺りの生徒にホーキョーという人物がいます。彼はバチョウの腹心・ホートクの親戚にあたります。

 この方なら必ず強力な味方となってくれるでしょう」

 少女・キョーイの口から出た意外な人名に、せた体つきの男子生徒・ヨウフは思わず聞き返した。

「ホートクの親戚?

 それならバチョウの一味じゃないのか?」

 ホートクの名はヨウフも知っている。バチョウ第一の家臣と言っても良い武将だ。キョーイの提案する人物は、その親戚だという。

 ヨウフの疑問に対して、少女・キョーイはなおも得意気な様子で、解説を始めた。

「バチョウの一味ならこのエリアが降伏した後に仲間になっているはずでしょう。

 私の調べた限り、ホーキョーさんがバチョウ軍と接触した様子はありません。この時点でまだバチョウ軍に接近しないなら、彼は白であると言えます」

 なるほど、キョーイの言う通り、親戚だからといって仲間だとは限らない。

 だが、ヨウフは真面目な顔つきで、揚々ようようと語る少女に反論を加える。

「しかし、接触しないということは争いを嫌うタイプだろう。我らで説得して、味方になってくれるか?」

 これに対してキョーイ、

「確かにその疑問はあります。

 しかし、彼はバチョウの腹心の親戚です。

 もし、このまま生徒会がバチョウ一味を捕らえたらたらどうなるでしょうか?

 腹心の親戚であるホーキョーさんもまた協力者と見做されて罰を受ける可能性があります」

 そう答えた。

 その少女の不穏な発言に、ヨウフは慌てて止めに入った。

「待て待て。

 中学生の君は知らないだろうが、この学園の生徒会長・ソウソウ様は聡明な方だ。

 親戚だからといって無実の者を罰するほど無法な方ではない!」

 ヨウフの言葉にチョウコウらもうなずく。彼らはソウソウ陣営の末端に属し、その縁も希薄ではあるが、それでも彼女の聡明さについてはよく聞き知っていた。

 だが、キョーイにとっては見ず知らずの先輩、その聡明さにも興味は無かったし、彼女にとってそんなことはさして重要ではなかった。

「この学園の生徒会長は聡明なのでしょう。ですが、それは今は関係ありません。

 要はそう思わせることが大事なのです。

 あなたは親戚だから関与が疑われている。このままなら彼らに連座して罰せられるだろうと。そう言ってこちらの味方につけるのです。

 皆様は生徒会所属ですから生徒会への信頼もあるでしょうが、この前のカコウエンという将軍の部隊があっさり撤退したのを見て、このエリアの多くの生徒は失望しております。

 生徒会への信頼が失われた今、こういう言い方をされれば、恐らく相手は恐怖を覚えることでしょう」

 キョーイの得意気ながらも淡々と語る策に、ふくよかな体つきの男子生徒・チョウコウは驚いて返した。

「待て、それでは脅しではないか!

 そんな手段で仲間を得るべきではない!」

 だが、そのチョウコウの言葉を、今度はヨウフが押し留めた。

「……いや、今の我らには手段を選んでいる余裕がない。

 良いとは言えぬが、その手でいこう」

 ヨウフは既にキョーイの策を採用する気でいる。

 だが、ブレーキ役でもあるチョウコウは、さらに重ねて疑問をぶつけた。

「しかし、脅したためにホーキョーが気分を害し、改めてバチョウにつく可能性もあるんじゃないのか?

 そうすれば計画は露見するのだぞ」

 これに対して、またもキョーイが堂々とした口調で反論する。

「バチョウの視点になって考えてみてください。

 バチョウから見れば、包囲戦に全く協力しなかったのに、勝利した後になって腹心の親戚であることを理由に仲間にしてもらおうとしている人物です。

 そんな人物を信用すると思いますか?」

 キョーイの言葉に納得しつつも、彼女の従兄いとこ・キョージョ将軍はため息混じりにこぼした。

「なまじ親戚であるがために中立は許されず、今さらバチョウにもつけず、我らに協力することでしか身の潔白が証明できぬということか。

 気の毒ではあるな……」

 キョージョ将軍も彼女の意見に賛同するつもりではあった。ただ、それとは別に同情せずにはおれなかった。

 それに対して若き麒麟児きりんじ・キョーイは答える。

「ですが、だからこそ人一倍働く強力な味方になってくれるのです。

 同じく名簿にあるリョウカンという方もバチョウ一派のリョウコウの親戚です。この方にも声をかけるべきです。

 まだ探せばバチョウ一派の親類縁者はいることでしょう。その方々を集めれば強力な味方を得られることでしょう」

 少女・キョーイの策に、ふくよかな男子生徒・チョウコウは当初こそ嫌悪感を示したものの、覚悟を決めて重い腰を上げた。

「わかった。その説得の役は私とオウイで引き受けよう」

 彼はそう言い、後ろに控える恋人のオウイを振り返る。オウイは黙ってうなずき、彼に賛同する。

 すぐに動こうとする二人に、ヨウフは尋ねた。

「いいのか、チョウコウ?」

 彼の言葉には心配が入り混じっていたが、チョウコウは穏やかな口調で答えた。彼にもう迷いはなかった。

「私の方がまだバチョウに信頼されている。

 万一、誘いをかけたホーキョーたちがバチョウに告げ口しても、多少は誤魔化しが効くだろう。

 彼らを説得した後に、ヨウフらの反乱に合わせてインホウのいた教室で反乱を起こそう。

 それと、その道中にキョーイちゃんを校門まで送ろう」

 チョウコウはキョーイの方へと振り返り、そう告げた。これにキョージョが答え、それに続けてキョーイも返事をした。

「おお、頼む」

「チョウコウさん、オウイさん、よろしくお願いします」

 キョージョにとって、自身の従妹・キョーイをここに残してしまったことだけが心残りであった。彼女を安全に校外に連れ出せるなら、彼のうれいは打ち払われた。

「では、そちらはチョウコウらに任せよう。

 後はインホウと連絡を取り……」

 烈士・ヨウフらはバチョウに対するそれからのことについて話し合った。

 作戦のおおよそが決まり、チョウコウ・オウイ、そして少女・キョーイは技術教室を後にした。

 三人を見送りながら、烈士・ヨウフは、将軍・キョージョに語りかけた。

「キョーイは随分と賢い娘であったな」

「ああ、親族の贔屓目を抜きにしても賢い娘であると思う。惜しむらくはあの娘の入学と入れ替わりでワシが卒業してしまうことだ。あの娘の高校生活を間近で見たかった。

 願わくばキョーイがソウソウ会長を助け、この学園の平和に貢献して欲しいものだ」

 キョージョ将軍はそう語り、もはや見えぬ彼女の後ろ姿に目をやるのであった。


 ~~~

 それはバチョウにとっては寝耳に水、突然の出来事であった。

「何っ!?」

 部下の報告にも、金髪碧眼へきがんの彼女は、その見目麗みめうるわしい容姿をゆがめて、極めて不機嫌そうに声を張り上げて答えた。

 バチョウのいる学習室より南の地・技術教室にて将軍・キョージョと文官・ヨウフが反乱を起こした。くだんの部下の言はその報告であった。

「どういうつもりだ……?」

 ヨウフの従妹いとこたちは、今も軟禁している。キョージョ将軍にしても、数の多いバチョウ軍に真正面から挑めるほどの兵力はなかったはず。なんの勝算があっての蜂起なのかとバチョウはいぶかしんだ。

「おい、インホウを呼べ」

 バチョウが部下に命じて呼び出したのは、ヒョロっとした背の高い男・インホウ。彼はバチョウのいる学習室に残っていたヨウフらの同僚であった。

「インホウよ、貴様の同僚・ヨウフが反乱を起こした。

 単刀直入に聞く。お前はグルか?」

 西涼せいりょう随一の勇将・バチョウに詰め寄られ、インホウは冷や汗を流す。

 実のところ、インホウは既にヨウフらの計画に加わっていた。だが、ここでバチョウにバレるわけにはいかない。ここがインホウの一世一代の大芝居のの場面であった。

「とんでもございません!

 我らはソウソウの魔の手より解放していただき、バチョウ様の恩恵を十二分に受けております。何故、戦う必要があるのでしょうか?

 今回、反乱を起こしたヨウフは頑固で融通ゆうづうの効かぬ男でした。また、過去に生徒会に招かれたこともあります。そのために人一倍恩義を感じていたのでしょう。

 我らには生徒会へヨウフほどの恩義はございません!」

 インホウ、ここが一番の見せ場と腹をくくり、強い口調でそう断言した。

「ならば、お前には反逆する意思はないというのだな?」

 バチョウはギロリと彼をにらむ。インホウはその視線に恐怖を覚えつつも、力強く返答した。

「もちろんです。

 そもそも私は兵も持たぬ非力な文官です。何ができるでしょうか?」

「それもそうだな……。

 やはり、ヨウフらは外部と繋がっていると見るべきだな。大方、態勢を建て直したカコウエンの軍と連携を取っているのだろう」

 バチョウがようやくインホウの言葉に納得してくれると、続く彼女の推理にインホウは強い賛同を示した。

「なるほどなるほど、バチョウ様の言われる通りかと思われます。

 ならば、対応は急いだ方が良いです。

 カコウエンは“疾風”の二つ名を持ち、『三日で五百里、六日で千里』とうたわれるほどの行軍速度を誇ります。

 全力全速で向かわねば、すぐにやってくるでしょう」

「わかっている!

 よし、見せしめだ! 我らは全力でヨウフを討つ!

 インホウ、ここには警備の者たちを残す。すぐに戻るから大人しくしていろ!」

「わかりました。お帰りをお待ちしております」

 バチョウは軍隊をまとめ上げると、ヨウフ・キョージョの反乱を討つために出撃した。

 インホウはそれを見送ると、次の仕事へと動き出した。彼は急いで軟禁された仲間たちの押し込められている教室へと向かった。

 ヨウフの従妹いとこ・ヨウガクと三十人の生徒たちは、先の包囲戦でバチョウ軍と戦った。降伏すると彼女らはバチョウに軟禁され、別の教室へと押し込められた。

 彼女らが押し込められた教室の前には二人の門番が見張っている。インホウは彼らに話しかけた。

「バチョウ様の命令によりヨウガクらの事情聴取を行うことになりました。中に入れてもらえますか?」

「ああ? バチョウ様の指示なら仕方ないな」

 バチョウの名は兵士たちの中で絶大な効果を持つ。バチョウの名を出せばよく確認もせずに従ってしまう。バチョウがいなくなった今、この作業はさらに円滑えんかつに行われた。

 インホウは中に入るとヨウガクらに計画の一切を報告した。

「……という計画だ。この戦いで我らはバチョウを追い出す。

 ヨウガク、それに君たちにも協力して欲しい」

「わかりました」

 ヨウガクも張り切った様子で応じた。

「よし、まずはここを出よう」

 インホウは何事もないかのように扉を開け、門番が応対したところを、三十人の生徒たちで一斉に襲いかかって拘束した。

「バチョウ軍は随分、油断しているようね」

「バチョウのワンマンに依存しているのだろうな。

 とにかく、急いでバチョウの兵士を捕らえよう。バチョウが戻って来るまでが勝負だ」

「班を二つに分けましょう。私たちは入口方面へ向かいますから、インホウさんは学習室を抑えてください。

 チョーク、インホウさんについて行ってください!」

 ヨウガクに呼ばれ、大柄な男がインホウの前に進み出た。

「彼はチョーク。私たちの中では一番の怪力の持ち主です。彼を連れて行ってください」

「ありがたい!

 では、行こう!」

 インホウ・チョークらは学習室へ、ヨウガクらは入口へと向かい、バチョウの残した兵士たちをことごとく捕えた。バチョウがほぼ全軍を引き連れて出撃したので、数名しかいなかったのが幸いであった。

「学習室は占領した!

 では、これより我らもバチョウへ反旗をひるがえす!」




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