192 / 223
第6部 西校舎攻略編
第158話 再戦!リョウコウの乱!
しおりを挟む
西北校舎。かつて西涼高校が後漢学園に吸収合併し、三国学園と名を変えた時、西涼校生が編入された校舎。
その処遇に不満を抱いた元西涼校生・バチョウらは反乱を起こしたが、生徒会長・ソウソウによって鎮圧された。
今、一度平和になったこの地で再び戦乱が巻き起ころうとしていた……!
「俺は西涼の狂犬・リョウコウ様だ!
テメーら、殺されたくなけりゃー俺に従え!」
多くの子分を引き連れたリーゼントに学ラン姿の男はバットを肩に担ぎ、西北の生徒たち相手に凄んだ。
彼の名はリョウコウ。かつて西涼のバチョウとともに反乱を起こした十番長の一人。ソウソウとの先の戦いに敗北してからは、バチョウらとともに逃走。長らく行方をくらませていた。
今、そのリョウコウがバチョウらと離れ、西北校舎の東部にて反乱を起こした。
「さー、今日からここは群雄・リョウコウ様の領土となった。
テメーら、周辺の教室を襲い領土を拡大しやがれ!」
彼は西北の生徒、約五百人を脅して従えると、教室を占拠して、独立を宣言した。
~~~
この反乱に対して生徒会は後手に回っていた。
生徒会長・ソウソウの学園理事への推薦の一件は、長年の腹心・ジュンイクとの別離という一悶着はあったが、つつがなく就任する運びとなった。
しかし、その準備に追われ、生徒会では周辺の変事に対応しきれなくなっていた。リュービの西校舎侵攻もそのためにソウソウからの妨害をほとんど受けずに進めることが出来た。
この度のリョウコウの反乱もこの間隙をついたものであった。
この反乱に対して生徒会長・ソウソウからこの地の守護を任されていた男子生徒・テイコンは、わずかな兵力での対処を余儀なくされた。
「テイコンさん、敵のリョウコウはバチョウ一派の中でも凶暴さで知られた男です。そのリョウコウが多くの生徒を吸収し、勢いは盛んです。
対して我らは寡兵。ここは逃げて、生徒会に助けを求めましょう!」
部下の一人はこう熱弁したが、テイコンは決して首を縦には振らなかった。
「ならん。
ここは西北校舎の付け根に当たる場所だ。ここを失えば敵は中央校舎になだれ込み、ますます勢いを強くしてしまう。何としてもここで食い止めねばならん。
それにカコウエン将軍には先ほど伝令を出した。じきに助けは来る。それまで我らは時間を稼ぐぞ」
「ですが、どうやって時間を稼ぐのですか?
我らにはとても真正面から挑める兵力はありませんよ」
テイコンの強気な姿勢に部下は疑問を発する。
部下はテイコンの姿を改めて見回す。彼は背は高いものの痩せ細っており、とても荒事に向いているようには見えない。
だが、テイコンはなおも堂々とした態度で答えた。
「敵は多勢と言っても、その多くはリョウコウに脅されて仕方なく従っている者たちだ。元よりリョウコウに従う兵士は百人いるかどうかだろう。
まずは脅されてやむなく従う者の罪は問わないことを広く宣言しろ。
そして、一人でも敵兵を捕まえた者には恩賞を与えるとも伝えろ。これで降伏を促せ」
テイコンは敵の帰順が進むよう敵兵に懸賞をかけた。さらに机椅子をかき集めて、廊下に並べて防壁とし、守りを固めた。
その間にリョウコウ軍内部では徐々に崩壊の兆しを見せていた。リョウコウにやむなく従う兵士たちは、テイコンの宣言に飛びついた。
「おい、俺たちがリョウコウについたことは罪に問わないらしいぞ。
脅されて仕方なく寝返ったが、このまま隙を見て逃げ出すか?」
「いや、敵兵を一人でも捕らえたら恩賞が出るそうだぞ。
リョウコウ相手には勝てぬかも知れんが、敵兵一人くらいなら数人でかかれば勝てんこともない。
小遣い稼ぎに一人くらい捕らえてから投降しよう!」
テイコンの策によりリョウコウの兵士たちの中から投降者が続出。さらに彼らは行き掛けの駄賃とばかりに、兵士を一人二人捕らえて降っていった。一つ一つの被害は小さくても、積もり積もれば大きな被害となる。
中には古参の兵士ですらこれを機に投降する者もおり、リョウコウ軍内では、誰が投降するつもりなのか、誰が自分を捕らえようとしているのかわからず、疑心暗鬼に陥った。
この状況はリョウコウを大いに悩ませることとなった。
「このままではマジーな。これじゃー誰が味方がわからねーぞ。
仕方ねー、ヤローども、一度退いて手頃な教室に籠城するぞ!
教室に籠もり、互いに監視してこれ以上、裏切り者が出ねーよーにしろ!」
ソウソウ陣営のテイコンの策に翻弄されたリョウコウ軍は部隊の半数が降伏。やむなく教室に立て籠もり、防備を固めた。
一方、その間にテイコンの陣営には、西北方面軍のカコウエンらが合流した。
「よく耐えてくれたわね、テイコン。
その上、敵を後退させるなんて大手柄よ」
駆けつけた女将軍・カコウエンは、テイコンを賞してそう伝えた。
「カコウエン将軍、労いの言葉痛み入ります。
敵はあちらの教室にて籠城する構えを見せております」
テイコンの指し示す教室を見て、カコウエンは余裕な様子で答えた。
「籠城したのなら話が早いわね。
それでバチョウらの姿は見たの?」
テイコンは首を横に振って答える。
「いえ、バチョウら他の残党が合流した素振りはありません」
「ふむ、今バチョウらの目撃情報が各所から流れてきているわ。でも、同時多発的に現れて、どれが真実かわからない。
バチョウと繋がっている可能性の高いリョウコウを逃がすわけにはいかないわ」
リョウコウの反乱と時を同じくして、各所でバチョウが乱を起こしたとすでに情報が流れてきていた。しかし、情報を真に受ければバチョウが数人いなければ説明がつかない。虱潰しに探せば、今真のバチョウの被害を受けている者への対応が遅れる。本物はバチョウは今どこにいるのか。カコウエンたちは情報を欲していた。
「バチョウたちの援軍を一応警戒しておきましょう。
でも、敵はもう袋の鼠。私たちの手にかかればすぐに落城するわ」
意気込むカコウエンに対して、燃えるような赤い逆立った髪に、鋭い目付き、緑玉の首飾りを下げた、赤いリストバンドを腕につけた長身の男子生徒が進み出てきた。同じく討伐軍の一員・ジョコーであった。
「カコウエン、リョウコウ攻めの先鋒はこのジョコーに任せてくれないか」
ジョコーは先の戦いでもリョウコウと戦って勝利している。その役に不足はない。
「ふむ、あなたは前の戦いでリョウコウ軍と直接対決していたわね。
いいわ。先鋒はジョコー、後詰めこのカコウエン。残りのチョーコーたちは敵を包囲しつつ、敵の援軍が来ないか周囲を警戒しなさい!」
カコウエンの号令一下、部隊は迅速な速さで敵城包囲へと動き出した。
~~~
対してこちらは籠城するリョウコウ軍。カコウエン軍が迫ってきていることはすでに把握していた。
だが、把握はできていても、あまりにも相手が悪すぎた。
「チッ、討伐軍がもう来やがったか!
カコウエンにジョコー、チョーコー……どいつもこいつも先の戦いで散々俺たちを痛めつけてくれた奴らだな」
リョウコウの記憶の中に忌まわしく、屈辱的な過去が蘇る。以前の彼なら矢も盾もたまらずに敵陣に斬り掛かったことだろう。
だが、今の彼はその選択を取りはしなかった。
彼の表情は一見キレているようであったが、その内実は極めて冷静であった。
「キンフ! チョウセイリュウ!」
リョウコウは二人の子分の名を叫んだ。名を呼ばれ、リョウコウのように頭をリーゼントにセットした二人の男が前に進み出る。
「リョウコウさん、俺たちが先鋒ですか!」
「いつでも行けますぜ!」
二人ともリョウコウの子分だけあって血の気が多い様子だ。命令一つで今にも敵陣に特攻を仕掛けることだろう。しかし、今のリョウコウはそんな事を命じはしなかった。
「いや、お前たちは敵の包囲が完成する前に部隊を率いて逃げろ」
「逃げろ」という言葉は以前のリョウコウからは決して出ない言葉であった。その言葉に二人の子分は驚いた。だが、彼らもリョウコウの変化を感じ取っており、すんなりと受け止める事ができた。
「まさか、リョウコウさんの口から逃げろと言われる日が来るとは思いませんでした」
「ですが、考えがあっての事でしょう」
従う二人の子分に、リョウコウは落ち着いた様子で答える。
「ああ、そーだ。
敵がカコウエンらじゃどんなに粘ったところで落城は免れねー。だが、俺たちは少しでも時間を稼がなきゃならねー。
だから、お前らは今のうちにどこかに隠れろ。そして、俺がやられたら反乱を起こして、少しでも敵の注意を引きつけろ!」
「わかりました。我ら落ち延びましょう」
「そして、少しでも敵の足止めをしましょう」
自信をもって答える二人の子分に、リョウコウも満足した様子であった。
「頼むぞ」
リョウコウの思わず出た「頼むぞ」の一言に、古くから彼に従う者たちは驚きつつも感極まり、涙を出す者さえいた。
すすり泣く音を背に、子分を代表するようにキンフが発言した。
「リョウコウさん、あなたは変わられた。
以前のあなたなら子分の名さえロクに呼びはしなかった。それが今では「頼む」とまで言われるようになった」
昔のリョウコウならこう言われただけでキレ散らかしたことだろう。だが、今の彼にはそれに落ち着いて返せるほどの余裕があった。
「以前の俺は自分がテッペン取ることだけ考えていた。だが、今は他にテッペンを取って欲しい奴がいやがる。
お前たち、もう少しだけ俺のワガママに付き合ってはくれねーか?」
それは古参の子分でさえ初めて見るような、穏やかな表情であった。
「我ら一同、リョウコウさんに最後まで従います!」
その言葉を受け、リョウコウはバットを構え、子分たちの前に進み出た。
「よし……よし!
これから我らリョウコウ軍の最後の大戦だ!
俺たちは存分に暴れて、敵をこちらに引き付ける!
全ては“バチョウ”のために!」
そう彼らリョウコウ軍の仕事は囮であった。かつての乱の首謀者・バチョウ。彼女は今こうしている間にも密かに勢力を築かんと動いていた。
だが、勢力をしっかりと抑える前にソウソウ軍に攻め込まれては、今のリョウコウのようにひとたまりもない。
そこでリョウコウはわざと目立つように暴れて囮となった。バチョウから敵の目を逸らさせるために、捨て石となる決断を彼はした。
ソウソウ軍の司令官・カコウエンらが迫りくると、リョウコウは一部の子分らを逃がし、徹底抗戦の構えを見せた。
だが、ソウソウ軍の先鋒はかつてリョウコウが辛酸を舐めさせられた十傑衆の一人・“勇壮のジョコー”。さらにその脇を同じく十傑衆のカコウエンやチョーコーが固めている。
対してリョウコウ軍は古参兵の士気こそ高かったが、多くは脅して従えた生徒たち。初めから勝負は決していた。
開戦とともに瞬く間に防備は崩れ去っていった。脅されていた生徒はロクに戦わずに降伏し、ソウソウ軍はどんどん奥へと突き進んでいった。
固く守っていたはずのリョウコウのいる教室の扉はこじ開けられ、ソウソウ軍が中へとなだれ込んできた。
その中心にいるのは燃えるような赤い逆立った髪に、緑玉の首飾りをかけた長身の男。リョウコウが忘れようにも忘れられぬ男・ジョコー。
そのジョコー目掛けて、リョウコウの子分どもが次々と襲い掛かる。だが皆、赤子の手をひねるかの如くあしらわれ、ジョコー一人に倒されていった。
「おい、追い詰めたぞ、田舎のヤンキー!」
リョウコウを追い詰めたジョコーの第一声は、かつてのやり取りを彷彿とさせるものであった。
「俺の名はリョウコウだ!」
怒鳴り返しながらリョウコウは、バットを振りかざし、ジョコーにガンを飛ばす。
「前に言っただろう。名を呼んで欲しければ……」
「希望ならある!」
食い気味に返すリョウコウに対し、ジョコーは一瞬呆気に取られたが、すぐにフッと笑った。
「そうか……ソウソウ会長に降れば俺の部下ぐらいにはなれただろうに、残念だ」
ジョコーのその言い草に、リョウコウはますます怒りを露わにする。
「誰がテメーの部下になりてーか!
てか、オメー調べたらまだ二年じゃねーか! 俺は先輩だぞ、敬え!」
「フッ、ハハハ……
そうか、そいつはすまなかったな、ヤンキー先輩」
今更、先輩面するリョウコウに、ジョコーは思わず吹き出してしまった。
「チッ、ナメやがって……
フフフ、ハッハッハ!」
リョウコウはジョコーに合わせるかのように笑い出すと、手にしていたバットを放して床に転がした。
「おい、ジョコー、テメーに手柄はくれてやる。
俺を討て」
「いいのか、一戦もせずに」
「テメー相手に戦っても時間稼ぎにもなりゃしねー。
さっさと討て」
ジョコーの問いかけに、リョウコウは即答する。
だが、その目は決して諦めていない者の目だ。自暴自棄で言い放った言葉ではない。それを理解したジョコーは彼の提案を受け入れた。
「そうか……今のお前を問い詰めたところで、情報を吐くことはないだろうな。わかった……。
天下の大逆人・リョウコウ!
学園騒乱の罪でお前を討つ!」
バチョウ残党・リョウコウの引き起こした反乱はここに鎮圧された。
「リョウコウのあの口ぶり……
やはりバチョウはすでに動いてやがるな……」
だが、それはまだ西北の乱のほんの序章に過ぎなかった。
その処遇に不満を抱いた元西涼校生・バチョウらは反乱を起こしたが、生徒会長・ソウソウによって鎮圧された。
今、一度平和になったこの地で再び戦乱が巻き起ころうとしていた……!
「俺は西涼の狂犬・リョウコウ様だ!
テメーら、殺されたくなけりゃー俺に従え!」
多くの子分を引き連れたリーゼントに学ラン姿の男はバットを肩に担ぎ、西北の生徒たち相手に凄んだ。
彼の名はリョウコウ。かつて西涼のバチョウとともに反乱を起こした十番長の一人。ソウソウとの先の戦いに敗北してからは、バチョウらとともに逃走。長らく行方をくらませていた。
今、そのリョウコウがバチョウらと離れ、西北校舎の東部にて反乱を起こした。
「さー、今日からここは群雄・リョウコウ様の領土となった。
テメーら、周辺の教室を襲い領土を拡大しやがれ!」
彼は西北の生徒、約五百人を脅して従えると、教室を占拠して、独立を宣言した。
~~~
この反乱に対して生徒会は後手に回っていた。
生徒会長・ソウソウの学園理事への推薦の一件は、長年の腹心・ジュンイクとの別離という一悶着はあったが、つつがなく就任する運びとなった。
しかし、その準備に追われ、生徒会では周辺の変事に対応しきれなくなっていた。リュービの西校舎侵攻もそのためにソウソウからの妨害をほとんど受けずに進めることが出来た。
この度のリョウコウの反乱もこの間隙をついたものであった。
この反乱に対して生徒会長・ソウソウからこの地の守護を任されていた男子生徒・テイコンは、わずかな兵力での対処を余儀なくされた。
「テイコンさん、敵のリョウコウはバチョウ一派の中でも凶暴さで知られた男です。そのリョウコウが多くの生徒を吸収し、勢いは盛んです。
対して我らは寡兵。ここは逃げて、生徒会に助けを求めましょう!」
部下の一人はこう熱弁したが、テイコンは決して首を縦には振らなかった。
「ならん。
ここは西北校舎の付け根に当たる場所だ。ここを失えば敵は中央校舎になだれ込み、ますます勢いを強くしてしまう。何としてもここで食い止めねばならん。
それにカコウエン将軍には先ほど伝令を出した。じきに助けは来る。それまで我らは時間を稼ぐぞ」
「ですが、どうやって時間を稼ぐのですか?
我らにはとても真正面から挑める兵力はありませんよ」
テイコンの強気な姿勢に部下は疑問を発する。
部下はテイコンの姿を改めて見回す。彼は背は高いものの痩せ細っており、とても荒事に向いているようには見えない。
だが、テイコンはなおも堂々とした態度で答えた。
「敵は多勢と言っても、その多くはリョウコウに脅されて仕方なく従っている者たちだ。元よりリョウコウに従う兵士は百人いるかどうかだろう。
まずは脅されてやむなく従う者の罪は問わないことを広く宣言しろ。
そして、一人でも敵兵を捕まえた者には恩賞を与えるとも伝えろ。これで降伏を促せ」
テイコンは敵の帰順が進むよう敵兵に懸賞をかけた。さらに机椅子をかき集めて、廊下に並べて防壁とし、守りを固めた。
その間にリョウコウ軍内部では徐々に崩壊の兆しを見せていた。リョウコウにやむなく従う兵士たちは、テイコンの宣言に飛びついた。
「おい、俺たちがリョウコウについたことは罪に問わないらしいぞ。
脅されて仕方なく寝返ったが、このまま隙を見て逃げ出すか?」
「いや、敵兵を一人でも捕らえたら恩賞が出るそうだぞ。
リョウコウ相手には勝てぬかも知れんが、敵兵一人くらいなら数人でかかれば勝てんこともない。
小遣い稼ぎに一人くらい捕らえてから投降しよう!」
テイコンの策によりリョウコウの兵士たちの中から投降者が続出。さらに彼らは行き掛けの駄賃とばかりに、兵士を一人二人捕らえて降っていった。一つ一つの被害は小さくても、積もり積もれば大きな被害となる。
中には古参の兵士ですらこれを機に投降する者もおり、リョウコウ軍内では、誰が投降するつもりなのか、誰が自分を捕らえようとしているのかわからず、疑心暗鬼に陥った。
この状況はリョウコウを大いに悩ませることとなった。
「このままではマジーな。これじゃー誰が味方がわからねーぞ。
仕方ねー、ヤローども、一度退いて手頃な教室に籠城するぞ!
教室に籠もり、互いに監視してこれ以上、裏切り者が出ねーよーにしろ!」
ソウソウ陣営のテイコンの策に翻弄されたリョウコウ軍は部隊の半数が降伏。やむなく教室に立て籠もり、防備を固めた。
一方、その間にテイコンの陣営には、西北方面軍のカコウエンらが合流した。
「よく耐えてくれたわね、テイコン。
その上、敵を後退させるなんて大手柄よ」
駆けつけた女将軍・カコウエンは、テイコンを賞してそう伝えた。
「カコウエン将軍、労いの言葉痛み入ります。
敵はあちらの教室にて籠城する構えを見せております」
テイコンの指し示す教室を見て、カコウエンは余裕な様子で答えた。
「籠城したのなら話が早いわね。
それでバチョウらの姿は見たの?」
テイコンは首を横に振って答える。
「いえ、バチョウら他の残党が合流した素振りはありません」
「ふむ、今バチョウらの目撃情報が各所から流れてきているわ。でも、同時多発的に現れて、どれが真実かわからない。
バチョウと繋がっている可能性の高いリョウコウを逃がすわけにはいかないわ」
リョウコウの反乱と時を同じくして、各所でバチョウが乱を起こしたとすでに情報が流れてきていた。しかし、情報を真に受ければバチョウが数人いなければ説明がつかない。虱潰しに探せば、今真のバチョウの被害を受けている者への対応が遅れる。本物はバチョウは今どこにいるのか。カコウエンたちは情報を欲していた。
「バチョウたちの援軍を一応警戒しておきましょう。
でも、敵はもう袋の鼠。私たちの手にかかればすぐに落城するわ」
意気込むカコウエンに対して、燃えるような赤い逆立った髪に、鋭い目付き、緑玉の首飾りを下げた、赤いリストバンドを腕につけた長身の男子生徒が進み出てきた。同じく討伐軍の一員・ジョコーであった。
「カコウエン、リョウコウ攻めの先鋒はこのジョコーに任せてくれないか」
ジョコーは先の戦いでもリョウコウと戦って勝利している。その役に不足はない。
「ふむ、あなたは前の戦いでリョウコウ軍と直接対決していたわね。
いいわ。先鋒はジョコー、後詰めこのカコウエン。残りのチョーコーたちは敵を包囲しつつ、敵の援軍が来ないか周囲を警戒しなさい!」
カコウエンの号令一下、部隊は迅速な速さで敵城包囲へと動き出した。
~~~
対してこちらは籠城するリョウコウ軍。カコウエン軍が迫ってきていることはすでに把握していた。
だが、把握はできていても、あまりにも相手が悪すぎた。
「チッ、討伐軍がもう来やがったか!
カコウエンにジョコー、チョーコー……どいつもこいつも先の戦いで散々俺たちを痛めつけてくれた奴らだな」
リョウコウの記憶の中に忌まわしく、屈辱的な過去が蘇る。以前の彼なら矢も盾もたまらずに敵陣に斬り掛かったことだろう。
だが、今の彼はその選択を取りはしなかった。
彼の表情は一見キレているようであったが、その内実は極めて冷静であった。
「キンフ! チョウセイリュウ!」
リョウコウは二人の子分の名を叫んだ。名を呼ばれ、リョウコウのように頭をリーゼントにセットした二人の男が前に進み出る。
「リョウコウさん、俺たちが先鋒ですか!」
「いつでも行けますぜ!」
二人ともリョウコウの子分だけあって血の気が多い様子だ。命令一つで今にも敵陣に特攻を仕掛けることだろう。しかし、今のリョウコウはそんな事を命じはしなかった。
「いや、お前たちは敵の包囲が完成する前に部隊を率いて逃げろ」
「逃げろ」という言葉は以前のリョウコウからは決して出ない言葉であった。その言葉に二人の子分は驚いた。だが、彼らもリョウコウの変化を感じ取っており、すんなりと受け止める事ができた。
「まさか、リョウコウさんの口から逃げろと言われる日が来るとは思いませんでした」
「ですが、考えがあっての事でしょう」
従う二人の子分に、リョウコウは落ち着いた様子で答える。
「ああ、そーだ。
敵がカコウエンらじゃどんなに粘ったところで落城は免れねー。だが、俺たちは少しでも時間を稼がなきゃならねー。
だから、お前らは今のうちにどこかに隠れろ。そして、俺がやられたら反乱を起こして、少しでも敵の注意を引きつけろ!」
「わかりました。我ら落ち延びましょう」
「そして、少しでも敵の足止めをしましょう」
自信をもって答える二人の子分に、リョウコウも満足した様子であった。
「頼むぞ」
リョウコウの思わず出た「頼むぞ」の一言に、古くから彼に従う者たちは驚きつつも感極まり、涙を出す者さえいた。
すすり泣く音を背に、子分を代表するようにキンフが発言した。
「リョウコウさん、あなたは変わられた。
以前のあなたなら子分の名さえロクに呼びはしなかった。それが今では「頼む」とまで言われるようになった」
昔のリョウコウならこう言われただけでキレ散らかしたことだろう。だが、今の彼にはそれに落ち着いて返せるほどの余裕があった。
「以前の俺は自分がテッペン取ることだけ考えていた。だが、今は他にテッペンを取って欲しい奴がいやがる。
お前たち、もう少しだけ俺のワガママに付き合ってはくれねーか?」
それは古参の子分でさえ初めて見るような、穏やかな表情であった。
「我ら一同、リョウコウさんに最後まで従います!」
その言葉を受け、リョウコウはバットを構え、子分たちの前に進み出た。
「よし……よし!
これから我らリョウコウ軍の最後の大戦だ!
俺たちは存分に暴れて、敵をこちらに引き付ける!
全ては“バチョウ”のために!」
そう彼らリョウコウ軍の仕事は囮であった。かつての乱の首謀者・バチョウ。彼女は今こうしている間にも密かに勢力を築かんと動いていた。
だが、勢力をしっかりと抑える前にソウソウ軍に攻め込まれては、今のリョウコウのようにひとたまりもない。
そこでリョウコウはわざと目立つように暴れて囮となった。バチョウから敵の目を逸らさせるために、捨て石となる決断を彼はした。
ソウソウ軍の司令官・カコウエンらが迫りくると、リョウコウは一部の子分らを逃がし、徹底抗戦の構えを見せた。
だが、ソウソウ軍の先鋒はかつてリョウコウが辛酸を舐めさせられた十傑衆の一人・“勇壮のジョコー”。さらにその脇を同じく十傑衆のカコウエンやチョーコーが固めている。
対してリョウコウ軍は古参兵の士気こそ高かったが、多くは脅して従えた生徒たち。初めから勝負は決していた。
開戦とともに瞬く間に防備は崩れ去っていった。脅されていた生徒はロクに戦わずに降伏し、ソウソウ軍はどんどん奥へと突き進んでいった。
固く守っていたはずのリョウコウのいる教室の扉はこじ開けられ、ソウソウ軍が中へとなだれ込んできた。
その中心にいるのは燃えるような赤い逆立った髪に、緑玉の首飾りをかけた長身の男。リョウコウが忘れようにも忘れられぬ男・ジョコー。
そのジョコー目掛けて、リョウコウの子分どもが次々と襲い掛かる。だが皆、赤子の手をひねるかの如くあしらわれ、ジョコー一人に倒されていった。
「おい、追い詰めたぞ、田舎のヤンキー!」
リョウコウを追い詰めたジョコーの第一声は、かつてのやり取りを彷彿とさせるものであった。
「俺の名はリョウコウだ!」
怒鳴り返しながらリョウコウは、バットを振りかざし、ジョコーにガンを飛ばす。
「前に言っただろう。名を呼んで欲しければ……」
「希望ならある!」
食い気味に返すリョウコウに対し、ジョコーは一瞬呆気に取られたが、すぐにフッと笑った。
「そうか……ソウソウ会長に降れば俺の部下ぐらいにはなれただろうに、残念だ」
ジョコーのその言い草に、リョウコウはますます怒りを露わにする。
「誰がテメーの部下になりてーか!
てか、オメー調べたらまだ二年じゃねーか! 俺は先輩だぞ、敬え!」
「フッ、ハハハ……
そうか、そいつはすまなかったな、ヤンキー先輩」
今更、先輩面するリョウコウに、ジョコーは思わず吹き出してしまった。
「チッ、ナメやがって……
フフフ、ハッハッハ!」
リョウコウはジョコーに合わせるかのように笑い出すと、手にしていたバットを放して床に転がした。
「おい、ジョコー、テメーに手柄はくれてやる。
俺を討て」
「いいのか、一戦もせずに」
「テメー相手に戦っても時間稼ぎにもなりゃしねー。
さっさと討て」
ジョコーの問いかけに、リョウコウは即答する。
だが、その目は決して諦めていない者の目だ。自暴自棄で言い放った言葉ではない。それを理解したジョコーは彼の提案を受け入れた。
「そうか……今のお前を問い詰めたところで、情報を吐くことはないだろうな。わかった……。
天下の大逆人・リョウコウ!
学園騒乱の罪でお前を討つ!」
バチョウ残党・リョウコウの引き起こした反乱はここに鎮圧された。
「リョウコウのあの口ぶり……
やはりバチョウはすでに動いてやがるな……」
だが、それはまだ西北の乱のほんの序章に過ぎなかった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる