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第6部 西校舎攻略編
第155話 才知!リゲンの計略!
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リュービの説得を受けて降伏したリゲン。彼女は自ら敵城攻略を願い出、それが認められると喜び勇んで、リュウカイらの籠もる第二の砦へと向かった。
第二砦が視認出来るほどの距離まで来ると、灰色の髪に、黒のコートと短パン姿の女生徒・リゲンは自信に満ちた表情で配下に指示を出した。
「リュウカイらはまだ我々が寝返ったことは知らないはずだ。
これより部隊を半分に分け、片方は私とともにさもリュービ軍に痛めつけられたように装って中に入る。
残り半分は見つからぬよう隠れ、30分経ったら、大声を上げてゆっくり砦を目指して歩け。
皆、しっかり演技しろよ」
既に策が頭の中で練り上がっているリゲンの指示は早く、的確だ。配下もそんな彼女の指揮に慣れているので、指示に従って迅速に行動に移す。
リゲンの部隊は手痛い敗北を被ったように装うと、砦へと戻っていった。幸いリュービ軍との戦闘直後で実際に負傷している者も少なからずいたので、偽装は容易であった。
「おお、リゲン、よく戻った。
帰りが遅いからてっきり敗北したのかと思っていたぞ。しかし、随分ボロボロじゃないか」
リゲンらが戻ってくると、この砦の総指揮を執る茶髪にタレ目、パーカーを着た男子生徒・リュウカイがまず最初に出迎えた。
リゲンの部隊がリュービ軍に単独で戦闘を仕掛けたらしいと知って、リュウカイは全滅するのではと気が気でなかった。戦力差からいって勝てるとは到底思えなかったので、ボロボロでも帰還したことに安堵の表情を浮かべていた。
「ああ、見ての通り手痛い反撃を食らってしまって、部隊の半数を失ってしまった……。
その上、敵は勢いに乗り、こちらを攻めてくるつもりだ。早く迎撃準備を!」
自分の負傷兵を指し示しながら、リゲンは自身の敗戦を語り、迫り来る危機を迫真の表情で彼に知らせた。
その様子を見て、同僚の白髪に三白眼、迷彩服の男・チョウジンも寄ってきた。
「リゲン、兵を失ったことは気の毒に思います。
しかし、これはあなたの思い上がりが招いたことです。最初の約束通り、これからは俺たちの指示に従ってもらいます」
チョウジンは厳しい口調でそう答える。以前のリゲンであれば口論になったところであろうが、彼女は敗戦の傷心でしおらしくなったといった様子で返した。
「ああ、わかっている。だが、迎撃を急がねばならないのは事実だ」
これにも直ぐ様、チョウジンが言い返す。
「迎撃というが、敵は強い。打って出るよりこの砦に籠もり、やり過ごした方が良策です」
チョウジンは先の戦いでリュービ軍の強さを知っている。彼は籠城戦を取るつもりであった。
何としても二人を外に出したいリゲンとしては都合の悪い策だ。だが、リゲンもこの反応は予想できる範囲であった。彼女は落ち着いた口調で自らの策を語り出した。
「まあ、待て。
私たちもただやられたわけではない。あの乱戦の中、敵将の一人・タクヨーを討ち取った」
「それがどうしたというのか。我らの脅威となった敵将のコーチューの方です。タクヨーではない」
チョウジンは間髪入れずに断じる。そして、その意見に総指揮官のリュウカイも同意を示した。
「そ、そうだな。敵将を討ったのは確かに手柄だ。だが、あの暴れん坊のコーチューが健在では、とても我らでは相手にならない」
タクヨーはコーチューとともに先鋒を務める武将だ。だが、無類の強さで猛威を奮ってきたのはコーチューの方だ。タクヨーの方を討ったと言われても、コーチューが健在では、自分たちに有利になったように思えなかった。
しかし、リゲンからすればその意見も承知の上。彼女は一層、落ち着き払った様子で自身の策を述べ始めた。
「チョウジン・リュウカイ、それは了見が狭い。
コーチューは確かに勇将だ。彼女が先頭きって敵に斬り込むために、その家来たちも勇気百倍になって攻めかかってくる。
そう、彼女は勇将であるが故に必ず先頭に立ち、それ故に後方の注意が疎かになりやすい。
だが、今までタクヨーがいたから後方の備えも万全であった。そのタクヨーを失った今、コーチューはただ強いばかりで、後ろに注意がいかない猪武者だ。
今、我らの部隊のうち、一つは砦の前に立ってコーチューを食い止め、その隙にもう一つの部隊が後ろから攻めかかれば、コーチューを倒すことも容易い」
「な、なるほど、確かにそれならあのコーチューを倒せるかもしれんな」
このリゲンの策に総指揮官のリュウカイも賛同したが、チョウジンの方はなおも渋い顔を見せる。
「それでも必ず倒せるという保証もないだろう」
「この策は今しか使えない。そのうちリュービ本軍が合流すれば、タクヨーの穴を誰かが埋めるだろう。
タクヨーを失い、コーチューが逆上し、まだリュービ本軍が追いついてきていない今この時を逃せば、コーチューを倒すチャンスは永久に失われるぞ!」
「だ、だがしかし、我々は君の指揮には従わないと言ったはずだ。今更策を述べたところで……」
渋るチョウジンを、リゲンは落ち着かせるように言い聞かせる。
「わかっている。約束通り指揮を執るつもりはない。
だが、策を聞くぐらいは良いではないか。ソウソウもリュービも軍師はいるが、軍師が指揮官を務めているわけではないだろう」
その言葉に総指揮官のリュウカイは深く頷く。
「た、確かにそうだ。
チョウジン、いつまでも意固地になるな。ここはリゲンの策を採用しよう」
こうなれば2対1だ。チョウジンも首を縦に振らざるを得ない。
「う、うむ、わかった。
では、リゲン、君も出撃するべきだ」
「無茶を言わんでくれよ。我らは部隊の半数を失い、残った兵も満身創痍だ。
私たちは守備隊長のヒシと共にここに残ろう」
そう言いながら、リゲンは自分の部下たちに目を向けた。確かにボロボロで、リュウカイはこのまま戦うのは無理そうに思えた。
「そうだな、今のリゲンに出動しろというのは酷だ。リゲンの策で我らでリュービ軍を撃ち破ろう」
リュウカイ・チョウジンはリゲンの策に乗ることを決め、急いで迎撃準備にかかった。
それを見届け、リゲンはニヤリと笑った。
「さて、では私たちはヒシと守備について話し合うこととしよう……」
リゲンがヒシの元に向かって、しばし後、準備の整ったリュウカイらは出撃した。
道中、ついに反撃の時来たれりと、上機嫌な総指揮官・リュウカイは、並んで進むチョウジンに話しかけた。
「リゲンはなかなか頭が回る奴だ。部隊が壊滅してのは残念だが、軍師として使うのは有りかもしれんな」
だが、ご機嫌なリュウカイに対し、チョウジンは未だ不安な顔つきのままであった。
「しかし、リゲンを残して大丈夫でしょうか?
ゴイらのようにならねば良いのですが」
「リゲンが裏切るというのか?
裏切ったのならわざわざ戻っては来ないだろう。砦にはヒシもいるし、大丈夫だ。
それより、役割分担だ。我らが後方より攻める役を引き受けるから、チョウジンは正面を頼む」
「いえ、リュウカイ軍の方が兵は多いのですから、リュウカイ軍の方が正面は良いのではないですか?」
リュウカイの提案にチョウジンは難色を示す。チョウジンの言う事はもっともであるが、臆病なリュウカイは勇将・コーチューを真正面から受け止める役をしたくはなかった。
「い、いや、しかし、俺ではとてもコーチューの相手はできん。ここはチョウジンの方が適任じゃないかな?」
そう言い合っていると、後ろでは最後のリュウカイ兵が扉から出た。それを見計らったかのように、扉はバタリと固く閉められ、窓にも鍵がかけられた。
「な、なんだ、どういうつもりだ」
突然の事態にリュウカイが狼狽えていると、ただ一つだけ窓が開けられ、不敵に笑うリゲンが姿を見せた。
「ハッハッハ、砦はこのリゲンがいただいた。
我らはこの砦を手土産に、リュービ様に降伏する!」
このセリフにチョウジンは直ぐ様反応した。
「やはり、裏切ったな、リゲン!
ヒシはどうした!」
「ヒシなら利害を説いたらこちらについてくれたよ」
リゲンは高笑いしながら答える。守備隊長のヒシまで寝返ったとあっては、砦内にチョウジンらの味方はもういないということだ。
チョウジンは怒りを露わにして怒鳴り散らす。
「ならば、この砦を落とすまでだ!
リゲン・ヒシ、覚悟しろ!」
チョウジンの怒気に触れても、リゲンは依然、冷静であった。
「相手になってやろう。
だが、いいのか? コーチューがこちらに向かっているのは事実だぞ。もちろん、タクヨーも討ち取られてはいない」
その時、リゲンの言葉に呼応するかのように、はるか前方より一斉に鬨の声が轟いた。その声を聞いて、思わずリュウカイは肝を冷やした。
「に、逃げよう、チョウジン!
前にコーチュー、後ろにリゲンではとても勝てない!
我らにはまだ第三の砦がある。ここを捨てて、そこに逃げ込もう!」
リュウカイの言う通り、前後から挟み撃ちされては、とてもチョウジンたちでは適いそうもない。リュウカイの判断にチョウジンも納得するしかなかった。
「うう……許さんぞリゲン! 許さんぞリュービ!」
チョウジンは悔しげに歯ぎしりをしながら、リュウカイと共に次の砦へと落ち延びていった。
彼らが逃げていった後、先ほどの鬨の声を上げた一団が砦前にやってきた。だがそれは、最初にリゲンが残した半分の兵士たちであった。
リゲンは笑いながら、その半数の兵たちを砦の中へと招いた。
「ふふふ、私がリュービに降ったということは、半数の兵士も無事ということだ。
こんな事に気づかないとはな。
だから、経験値が足りんと言ったのだ」
リゲンは二将がはるか彼方に逃げていったのを見届けると、拘束していたこの砦の守備隊長・ヒシを連れてこさせた。
「ヒシ殿、時間がなかったためとはいえ、突然、拘束して申し訳ない。非礼を詫びよう」
リゲンに頭を下げられた、鼻筋の通った、右肩を覆うようなマントを羽織った男子生徒・ヒシはおおよそは察したような素振りで答えた。
「どうやらリュウカイらはもういないようだな」
「ああ、残ったのは君たちの部隊だけだ。
ヒシ、君は西校舎の在来組だが、決してリュウショウに重く用いられていたわけではない。リュービ様につくなら私が口利きするが、どうだ?」
そのリゲンの問いかけに、ヒシは少し逡巡の間を挟んで答えた。
「今ここで抵抗したところで、あなたの手土産が一つ増えるだけのことでしょう。
私もリュウショウ様ではこの先生き残ってはいけないと思っておりました。
わかりました。私もリュービ様に降伏しましょう」
「君が話のわかる男で良かった」
砦をまんまと手に入れたリゲンは、悠々とやってきたリュービ軍を迎え入れた。
~~~
「よく来られましたリュービ様、このリゲン、砦を整え待っておりました」
武将・リゲンが先頭に立ち、副将・ヒカン、守備隊長・ヒシの二人を従えて、俺、リュービの前へとやってきた。
「さすがリゲンだ。
本当にわずかな手勢だけで砦を取ってしまうとはな」
「ありがとうございます。
それと。こちらはヒシ、この砦の守備隊長でしたが、リュービ様の御徳を慕い、我が軍への加入を望んでおります。どうか、配下に加えて頂きたく」
リゲンに促され、傍らに立つ鼻筋の通った、右肩を覆うようなマントを羽織った男子生徒・ヒシが一礼した。
「お初にお目にかかります、ここの守備隊長でありましたヒシと申します」
「よく俺の陣営に加わってくれた。君たちの率いている部隊はそのまま安堵しよう。我が本軍に加わってくれ。
西校舎を取った暁にはさらなる地位を約束しよう」
俺はそう言葉をかけ、三人を軍に加えた。
こちらの話が一段落つくと、軍師・ホウトウが俺に話しかけてきた。
「しかし、リュービさん。わずかな部下だけでリゲンの説得に行くなんて大胆なことをしやすな。
一歩間違えれば御大将の身を危うくする危険な賭け。さすがにあっしら軍師では提案できやせん策でございやすな」
「確かに今思えば危険な賭けだったと思うよ。でも、相手を認めていることを証明するには、まず自分から動かないとね。
おかげでリゲンも全力で答えてくれたし」
「しかし、あなたはその危険な賭けをやり、見事勝ちやした。
さすが、あっしの見込んだ“運”をお持ちの御仁だ。
では、この勢いのまま、第三の砦を攻略いたしやしょう」
軍師・ホウトウは大笑しながらそう答えた。
「ああ、その砦を攻略すれば、リュウショウの本拠地である美術室まで目と鼻の先になる。
西校舎攻略戦もいよい大詰めだな!」
第二砦が視認出来るほどの距離まで来ると、灰色の髪に、黒のコートと短パン姿の女生徒・リゲンは自信に満ちた表情で配下に指示を出した。
「リュウカイらはまだ我々が寝返ったことは知らないはずだ。
これより部隊を半分に分け、片方は私とともにさもリュービ軍に痛めつけられたように装って中に入る。
残り半分は見つからぬよう隠れ、30分経ったら、大声を上げてゆっくり砦を目指して歩け。
皆、しっかり演技しろよ」
既に策が頭の中で練り上がっているリゲンの指示は早く、的確だ。配下もそんな彼女の指揮に慣れているので、指示に従って迅速に行動に移す。
リゲンの部隊は手痛い敗北を被ったように装うと、砦へと戻っていった。幸いリュービ軍との戦闘直後で実際に負傷している者も少なからずいたので、偽装は容易であった。
「おお、リゲン、よく戻った。
帰りが遅いからてっきり敗北したのかと思っていたぞ。しかし、随分ボロボロじゃないか」
リゲンらが戻ってくると、この砦の総指揮を執る茶髪にタレ目、パーカーを着た男子生徒・リュウカイがまず最初に出迎えた。
リゲンの部隊がリュービ軍に単独で戦闘を仕掛けたらしいと知って、リュウカイは全滅するのではと気が気でなかった。戦力差からいって勝てるとは到底思えなかったので、ボロボロでも帰還したことに安堵の表情を浮かべていた。
「ああ、見ての通り手痛い反撃を食らってしまって、部隊の半数を失ってしまった……。
その上、敵は勢いに乗り、こちらを攻めてくるつもりだ。早く迎撃準備を!」
自分の負傷兵を指し示しながら、リゲンは自身の敗戦を語り、迫り来る危機を迫真の表情で彼に知らせた。
その様子を見て、同僚の白髪に三白眼、迷彩服の男・チョウジンも寄ってきた。
「リゲン、兵を失ったことは気の毒に思います。
しかし、これはあなたの思い上がりが招いたことです。最初の約束通り、これからは俺たちの指示に従ってもらいます」
チョウジンは厳しい口調でそう答える。以前のリゲンであれば口論になったところであろうが、彼女は敗戦の傷心でしおらしくなったといった様子で返した。
「ああ、わかっている。だが、迎撃を急がねばならないのは事実だ」
これにも直ぐ様、チョウジンが言い返す。
「迎撃というが、敵は強い。打って出るよりこの砦に籠もり、やり過ごした方が良策です」
チョウジンは先の戦いでリュービ軍の強さを知っている。彼は籠城戦を取るつもりであった。
何としても二人を外に出したいリゲンとしては都合の悪い策だ。だが、リゲンもこの反応は予想できる範囲であった。彼女は落ち着いた口調で自らの策を語り出した。
「まあ、待て。
私たちもただやられたわけではない。あの乱戦の中、敵将の一人・タクヨーを討ち取った」
「それがどうしたというのか。我らの脅威となった敵将のコーチューの方です。タクヨーではない」
チョウジンは間髪入れずに断じる。そして、その意見に総指揮官のリュウカイも同意を示した。
「そ、そうだな。敵将を討ったのは確かに手柄だ。だが、あの暴れん坊のコーチューが健在では、とても我らでは相手にならない」
タクヨーはコーチューとともに先鋒を務める武将だ。だが、無類の強さで猛威を奮ってきたのはコーチューの方だ。タクヨーの方を討ったと言われても、コーチューが健在では、自分たちに有利になったように思えなかった。
しかし、リゲンからすればその意見も承知の上。彼女は一層、落ち着き払った様子で自身の策を述べ始めた。
「チョウジン・リュウカイ、それは了見が狭い。
コーチューは確かに勇将だ。彼女が先頭きって敵に斬り込むために、その家来たちも勇気百倍になって攻めかかってくる。
そう、彼女は勇将であるが故に必ず先頭に立ち、それ故に後方の注意が疎かになりやすい。
だが、今までタクヨーがいたから後方の備えも万全であった。そのタクヨーを失った今、コーチューはただ強いばかりで、後ろに注意がいかない猪武者だ。
今、我らの部隊のうち、一つは砦の前に立ってコーチューを食い止め、その隙にもう一つの部隊が後ろから攻めかかれば、コーチューを倒すことも容易い」
「な、なるほど、確かにそれならあのコーチューを倒せるかもしれんな」
このリゲンの策に総指揮官のリュウカイも賛同したが、チョウジンの方はなおも渋い顔を見せる。
「それでも必ず倒せるという保証もないだろう」
「この策は今しか使えない。そのうちリュービ本軍が合流すれば、タクヨーの穴を誰かが埋めるだろう。
タクヨーを失い、コーチューが逆上し、まだリュービ本軍が追いついてきていない今この時を逃せば、コーチューを倒すチャンスは永久に失われるぞ!」
「だ、だがしかし、我々は君の指揮には従わないと言ったはずだ。今更策を述べたところで……」
渋るチョウジンを、リゲンは落ち着かせるように言い聞かせる。
「わかっている。約束通り指揮を執るつもりはない。
だが、策を聞くぐらいは良いではないか。ソウソウもリュービも軍師はいるが、軍師が指揮官を務めているわけではないだろう」
その言葉に総指揮官のリュウカイは深く頷く。
「た、確かにそうだ。
チョウジン、いつまでも意固地になるな。ここはリゲンの策を採用しよう」
こうなれば2対1だ。チョウジンも首を縦に振らざるを得ない。
「う、うむ、わかった。
では、リゲン、君も出撃するべきだ」
「無茶を言わんでくれよ。我らは部隊の半数を失い、残った兵も満身創痍だ。
私たちは守備隊長のヒシと共にここに残ろう」
そう言いながら、リゲンは自分の部下たちに目を向けた。確かにボロボロで、リュウカイはこのまま戦うのは無理そうに思えた。
「そうだな、今のリゲンに出動しろというのは酷だ。リゲンの策で我らでリュービ軍を撃ち破ろう」
リュウカイ・チョウジンはリゲンの策に乗ることを決め、急いで迎撃準備にかかった。
それを見届け、リゲンはニヤリと笑った。
「さて、では私たちはヒシと守備について話し合うこととしよう……」
リゲンがヒシの元に向かって、しばし後、準備の整ったリュウカイらは出撃した。
道中、ついに反撃の時来たれりと、上機嫌な総指揮官・リュウカイは、並んで進むチョウジンに話しかけた。
「リゲンはなかなか頭が回る奴だ。部隊が壊滅してのは残念だが、軍師として使うのは有りかもしれんな」
だが、ご機嫌なリュウカイに対し、チョウジンは未だ不安な顔つきのままであった。
「しかし、リゲンを残して大丈夫でしょうか?
ゴイらのようにならねば良いのですが」
「リゲンが裏切るというのか?
裏切ったのならわざわざ戻っては来ないだろう。砦にはヒシもいるし、大丈夫だ。
それより、役割分担だ。我らが後方より攻める役を引き受けるから、チョウジンは正面を頼む」
「いえ、リュウカイ軍の方が兵は多いのですから、リュウカイ軍の方が正面は良いのではないですか?」
リュウカイの提案にチョウジンは難色を示す。チョウジンの言う事はもっともであるが、臆病なリュウカイは勇将・コーチューを真正面から受け止める役をしたくはなかった。
「い、いや、しかし、俺ではとてもコーチューの相手はできん。ここはチョウジンの方が適任じゃないかな?」
そう言い合っていると、後ろでは最後のリュウカイ兵が扉から出た。それを見計らったかのように、扉はバタリと固く閉められ、窓にも鍵がかけられた。
「な、なんだ、どういうつもりだ」
突然の事態にリュウカイが狼狽えていると、ただ一つだけ窓が開けられ、不敵に笑うリゲンが姿を見せた。
「ハッハッハ、砦はこのリゲンがいただいた。
我らはこの砦を手土産に、リュービ様に降伏する!」
このセリフにチョウジンは直ぐ様反応した。
「やはり、裏切ったな、リゲン!
ヒシはどうした!」
「ヒシなら利害を説いたらこちらについてくれたよ」
リゲンは高笑いしながら答える。守備隊長のヒシまで寝返ったとあっては、砦内にチョウジンらの味方はもういないということだ。
チョウジンは怒りを露わにして怒鳴り散らす。
「ならば、この砦を落とすまでだ!
リゲン・ヒシ、覚悟しろ!」
チョウジンの怒気に触れても、リゲンは依然、冷静であった。
「相手になってやろう。
だが、いいのか? コーチューがこちらに向かっているのは事実だぞ。もちろん、タクヨーも討ち取られてはいない」
その時、リゲンの言葉に呼応するかのように、はるか前方より一斉に鬨の声が轟いた。その声を聞いて、思わずリュウカイは肝を冷やした。
「に、逃げよう、チョウジン!
前にコーチュー、後ろにリゲンではとても勝てない!
我らにはまだ第三の砦がある。ここを捨てて、そこに逃げ込もう!」
リュウカイの言う通り、前後から挟み撃ちされては、とてもチョウジンたちでは適いそうもない。リュウカイの判断にチョウジンも納得するしかなかった。
「うう……許さんぞリゲン! 許さんぞリュービ!」
チョウジンは悔しげに歯ぎしりをしながら、リュウカイと共に次の砦へと落ち延びていった。
彼らが逃げていった後、先ほどの鬨の声を上げた一団が砦前にやってきた。だがそれは、最初にリゲンが残した半分の兵士たちであった。
リゲンは笑いながら、その半数の兵たちを砦の中へと招いた。
「ふふふ、私がリュービに降ったということは、半数の兵士も無事ということだ。
こんな事に気づかないとはな。
だから、経験値が足りんと言ったのだ」
リゲンは二将がはるか彼方に逃げていったのを見届けると、拘束していたこの砦の守備隊長・ヒシを連れてこさせた。
「ヒシ殿、時間がなかったためとはいえ、突然、拘束して申し訳ない。非礼を詫びよう」
リゲンに頭を下げられた、鼻筋の通った、右肩を覆うようなマントを羽織った男子生徒・ヒシはおおよそは察したような素振りで答えた。
「どうやらリュウカイらはもういないようだな」
「ああ、残ったのは君たちの部隊だけだ。
ヒシ、君は西校舎の在来組だが、決してリュウショウに重く用いられていたわけではない。リュービ様につくなら私が口利きするが、どうだ?」
そのリゲンの問いかけに、ヒシは少し逡巡の間を挟んで答えた。
「今ここで抵抗したところで、あなたの手土産が一つ増えるだけのことでしょう。
私もリュウショウ様ではこの先生き残ってはいけないと思っておりました。
わかりました。私もリュービ様に降伏しましょう」
「君が話のわかる男で良かった」
砦をまんまと手に入れたリゲンは、悠々とやってきたリュービ軍を迎え入れた。
~~~
「よく来られましたリュービ様、このリゲン、砦を整え待っておりました」
武将・リゲンが先頭に立ち、副将・ヒカン、守備隊長・ヒシの二人を従えて、俺、リュービの前へとやってきた。
「さすがリゲンだ。
本当にわずかな手勢だけで砦を取ってしまうとはな」
「ありがとうございます。
それと。こちらはヒシ、この砦の守備隊長でしたが、リュービ様の御徳を慕い、我が軍への加入を望んでおります。どうか、配下に加えて頂きたく」
リゲンに促され、傍らに立つ鼻筋の通った、右肩を覆うようなマントを羽織った男子生徒・ヒシが一礼した。
「お初にお目にかかります、ここの守備隊長でありましたヒシと申します」
「よく俺の陣営に加わってくれた。君たちの率いている部隊はそのまま安堵しよう。我が本軍に加わってくれ。
西校舎を取った暁にはさらなる地位を約束しよう」
俺はそう言葉をかけ、三人を軍に加えた。
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一歩間違えれば御大将の身を危うくする危険な賭け。さすがにあっしら軍師では提案できやせん策でございやすな」
「確かに今思えば危険な賭けだったと思うよ。でも、相手を認めていることを証明するには、まず自分から動かないとね。
おかげでリゲンも全力で答えてくれたし」
「しかし、あなたはその危険な賭けをやり、見事勝ちやした。
さすが、あっしの見込んだ“運”をお持ちの御仁だ。
では、この勢いのまま、第三の砦を攻略いたしやしょう」
軍師・ホウトウは大笑しながらそう答えた。
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洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
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