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第6部 西校舎攻略編
第148話 発覚!秘中の謀略!
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ここは学園の西端、リュービたち一行は西校舎の盟主・リュウショウを助け、チョウロを討つためにこの地へとやってきた。
リュービ軍は前線にある家庭科室を防衛基地に定め、チョウロ軍と何度かの小競り合いを行った。
「リュービ様、チョウロより連絡が来ました」
セミロングの黒髪に色白の肌、帽子に片眼鏡、厚手のコートに黒手袋をした女生徒、新たに俺の軍師となったホーセーが俺、リュービに報告してきた。
「そうか、チョウロはなんと言ってきた?」
「はい、リュービ様がリュウショウから西校舎を獲るのであれば協力すると」
その報告を聞き、俺は頷いて答える。
「そうか、ではこのまま話を進めよう。
チョウロとは表向きは苦戦を装いつつ、持久戦へ移行しよう」
「おお、上手く話が進んでおりますな。リュービさん」
俺とホーセーの会話に入ってきたのは、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝を咥え、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女であった。彼女は俺が南校舎から連れてきた軍師・ホウトウ。
ホウトウは校舎の図面を机いっぱいに広げながら話し続ける。
「チョウロを説得できたのなら順調ですな。では、あっしらは次の策に移らしていただきやす」
「ああ、俺たちの敵はチョウロではないからな。
では、“真の敵”に対する対策を練ろう」
ホウトウの言葉に応じ、俺とホーセーは広げた図面の前に集まった。
この南校舎からきたホウトウ、元リュウショウ配下のホーセーの二人が俺の作戦参謀であった。この二人を中心に“真の目的”に向けて対策を考える。
俺たちは北の勢力・チョウロを倒して欲しいと、西校舎のリュウショウに頼まれてこの地にやってきた。だが、チョウロと戦うのはあくまで表向きのこと。その“真の目的”はリュウショウからこの西校舎を奪うことだ。
そのためにチョウロとはこの地についてすぐ、密かに交渉を行い、協定を結んだ。俺たちがリュウショウと戦うことになっても、後ろからチョウロに攻められないための交渉だ。
俺を頼みと思ってくれているリュウショウから領土を奪うのは心苦しいが、宿敵・ソウソウに対抗するためには是が非でもこの西校舎を手に入れなければならない。
風来坊の軍師・ホウトウは図面で西校舎の上部を指差しつつ、俺に説明してくれる。
「リュービさん、あっしらがいるのはここ、西校舎の北部。チョウロとの境界線付近ですな。そして、西の盟主がいるのは西校舎のほぼ中央。
そのため、西校舎の南部などは無視して良いでしょう。まずは、如何なる策で中央まで行くのか考えねばなりますまいな」
そう言いつつも、何やら胸中に考えのありそうなホウトウに俺は尋ねた。
「ホウトウ、君はどう考える?」
そう聞かれると、ホウトウは得意そうな顔つきで、指を三本立てて答えた。
「そうですな。あっしが提案するのは三策でございやす。
まず一つ、密かに精鋭を集め、一気呵成に西の盟主の籠もる中央に直行して襲撃致しやしょう。西の盟主は武勇に劣り、特段備えをしているわけではございやせん。あっという間に敵を平定できるでしょう。これが上策。
次に、ここで共にチョウロ軍と戦っているリュウショウの将・ヨウカイ、コウハイを欺き捕らえ、両将から兵を奪い、この北部にあっしらが確固たる勢力を築きやす。そしてそれを拠点にリュウショウとやり合います。これが中策。
最後に、一度、南校舎の側まで帰還する。これが下策でございやす」
「ふむ、なるほど、その三つか」
ホウトウは指を折りながら、俺に三策を提示した。その策を聞き、俺が迷う表情をすると、横からもう一人の軍師・ホーセーが意見を出してきた。
「リュービ様、貴方様の率いる軍は天下無敵、弱敵・リュウショウの適う相手ではありません。このまま一気に攻め込んでも充分勝算はあるかと思います」
ふむ、ホーセーの意見にも一理ある。
「確かに最も早く西校舎を手に入れたいなら上策を採るべきだろう。だが、上策は一度躓くと立て直しが難しいという欠点がある。
かと言って下策ではわざわざリュウショウの懐に入った意味がない」
逡巡する俺にホウトウは追加で解説を行う。
「下策は南校舎に残したコウメイらと協力できるメリットがございやす。加えて、もしもの時はすぐに南校舎に撤退もできましょう。なれど、仰る通り、せっかくここまで来たのを全て捨てる策でございやす。故に下策。
このままでは西の盟主に全く歯が立たないと判断した時に採る策でございやしょう」
「なるほど、自信があるなら上策、なければ下策ということか」
「そうでございやす。時間も上策が最も短く、下策が最も時間がかかることでしょう」
「しかし、上策はその分リスクも高い。かと言って下策を取るほど警戒することもないだろう。
ここは中策を採りたいと思う」
俺は中策、この北部に勢力を築き、リュウショウと戦う選択肢を選んだ。そして、ホウトウに続けて尋ねた。
「しかし、共にチョウロと戦うヨウカイ・コウハイの二人は俺は警戒している。どうやって欺く?」
ヨウカイ・コウハイの二人はチョウロと戦うようリュウショウから派遣された武将だ。俺に敬意を払って接してはくれるが、警戒も怠ってはいなかった。
「ヨウカイ・コウハイの二人がリュービさんを警戒しているのは、それだけ二人がリュービさんの実力を認めているということであります。
あっしが探ったところによれば、二人はリュービさんを恐れ、西の盟主を諌め、リュービさんを南校舎に帰すよう求めているそうでございやす。
ならばいっそ、我らは帰ると致しやしょう。
南校舎に危急の事態が迫っていると言って、帰り支度を致しやしょう。リュービさんが帰るとなればヨウカイ・コウハイの二人は喜んで別れの挨拶に来ることでございやしょう。そこを捕らえるのでございやす」
「よし、ならばそれで行こう。俺たちは帰り支度を始て、ヨウカイらを誘き出そう。
ホーセー、君は引き続きチョウロと交渉を行ってくれ。チョウロは協力に応じたとはいえ、信用できる相手ではない。油断せず様子を伺っておいてくれ。少なくともヨウカイらを討つまでは我らの内心をリュウショウにバレるわけにはいかない」
ホーセーは頷いて退出し、残りは帰り支度に取り掛かった頃、俺はふと気になってホウトウに尋ねた。
「なぁホウトウ、ヨウカイらに俺たちが帰還すると伝えるのはいいが、リュウショウには何も言わなくていいのか?」
俺たちが撤退することになって、部下のヨウカイらだけが聞いて、主君のリュウショウが聞いていないのは不自然だ。俺はそう思ってホウトウに聞いた。
「そうですな。リュウショウに伝わっていなければヨウカイらも訝しむかもしれませんな。どうせなら大々的に帰還しなければならなくなったと吹聴しましょう」
この時、東側ではソウソウとソンケンの戦いが今まさに始まろうとする頃合いだった。俺はそれに託つけ、リュウショウに我軍が南校舎に帰還する旨を伝えた。
「リュウショウ殿、急な申し出を失礼致します。
今、我が宿敵・ソウソウが東方に侵出を計り、我が盟友・ソンケンは火急の危機に晒されています。更には南校舎に置いてはソウソウの尖兵・ガクシンが我が義妹・カンウを脅かしております。
我がリュービ軍はチョウロとの対戦はまだ中途ではありますが、ソウソウに何も対処しなければ私の足元を崩れ落ち、チョウロどころではなくなるでしょう。
リュウショウ殿には申し訳ないが、我らは一度、南校舎に帰らせていただきたい」
この知らせをリュウショウ及び周辺の部隊に伝えると、西校舎に衝撃を与えた。
そして早速、俺たちとともにチョウロと戦っていた援軍・ヨウカイ、コウハイの二将は送別の挨拶にやって来た。
「この度はリュービ殿が突然帰還されると聞き、別れの挨拶に参上致しました」
「仕方ない事情とは言え、勇名高きリュービ殿との共闘がこれまでとは非常に残念でございます」
眉の太い男、リュウショウ軍前線守備隊隊長・ヨウカイ、尖った鼻の男、副隊長・コウハイ。二人ともにこやかな笑顔を俺に向けてはいるが、その目には嫌悪感を漂わせていた。
「二将軍にわざわざ挨拶に来ていただき感謝致します。
ところで二人に折り入って相談があるのですが」
「ほお、なんでございましょうか。我らにできることであれば何でもお申し付けください」
ヨウカイ、コウハイ。リュウショウがチョウロとの前線守備を任せるだけあって、堅実な防衛戦が出来る良将だ。俺の本心に薄々勘づいていたのか、共闘しながらも常に俺のことを警戒していた。その勘は大当たりなのだから優秀なのだろう。
それだけに惜しい。
「これまで君たちの働きを見てきたが、ここの守備隊で終わらせるには惜しい。俺たちと一緒に来ないか?」
こう語る俺は今一体、どんな顔をしているんだろうか。自分が後戻り出来ぬ道に踏み込んだことを肌で感じていた。
「それはどういう意味ですかな?」
「まるでリュウショウ様から寝返れと言ってるように聞こえますが?」
「そうだ。
俺の配下になれ。今以上の地位を約束しよう」
その言葉に、両将軍の怒声が飛ぶ。
「本心を現しおったかリュービ!」
「我らがリュウショウ様を裏切ると思うのか!」
ヨウカイ・コウハイの二人は殺気立った目を俺に向け、こちらに襲い掛かろうと一歩踏み出した。
だが、その一歩で彼らの歩みは止まった。二将軍は横から飛び出してきた二人の女生徒にあっという間に組み伏せられ、顔面を床に叩きつけられた。
「ご苦労、ギエン・フユウ」
「はい、リュービさん!」
「このくらい、大した相手ではありません」
男物の学ランに、頭にハチマキをつけ、下駄げたを履はいた、まるで応援団のような姿の女生徒・ギエン。彼女は相変わらず大きな声を出す。
一方、ポニーテールの黒髪に長身、まるで剣士のような雰囲気の女生徒・フユウ。彼女は正反対の落ち着いた口調でそう告げる。
ヨウカイらが登用に応じない時のために腕の立つ二人を左右に潜ませていたが、予想以上の手際の良さだ。これならこの先の活躍も期待できる。
「ヨウカイ・コウハイ、君たちとはより良い関係を築きたかったが、残念だ」
罵声を浴びせてくる二人を奥へ連行させると、俺は気持ちを切り替えて、全軍に指揮を出した。
「これより我がリュービ軍は作戦の第二段階に入る!
各自、持ち場につけ!」
~~~
リュウショウ陣営~
チョウロ討伐を一任していたリュービからの突然の南校舎への帰還のお知らせに、盟主・リュウショウ以下は大きく狼狽えていた。
「なんと、リュービ殿が帰られるだと!
それはまずいぞ!」
短髪にタレ目、太めの体格をした男子生徒、この西校舎の盟主・リュウショウはいつもの温和そうな顔つきが一変、取り乱した様子で叫んだ。
「今帰られてはチョウロとの争いがただ激化しただけではないか!
おい、チョーショー、どうなっているんだ!」
リュウショウが呼びつけたのは、リュービに援軍を依頼するよう提案した張本人、やたらと背の低い、長い髪に瓶底のようなメガネをかけた地味な印象の女生徒・チョーショー。
この度のリュービの突然の帰還は彼女にとっても寝耳に水だったようで、取り乱した様子で答えた。
「そ、それは何かのっぴきならない事情があったのでございましょう。
このチョーショーがリュービ殿に残ってもらえるよう交渉致しますので、何卒、ご安心ください」
「頼むぞ、チョーショー」
チョーショーは会議から退出すると、廊下の影に隠れて、急ぎリュービへメッセージを送った。
チョーショーは既にリュービと内通し、彼の西校舎侵略に手を貸していた。だが、リュービ帰還の報告は受けておらず、事情のわからぬ彼女としては気が気でなかった。
「まったく、どういうことですかな、リュービ様。こんな話は聞いておりませんぞ」
柱の影に隠れて連絡を送るチョーショーに声をかけたのは、彼女とは対象的な長身な男子生徒、チョーショーの兄・チョーシュクであった。
「何を聞いておらぬのだ?」
「げっ、兄さん……」
チョーショーからすれば会いたくない相手であった。その反応をチョーシュクは見逃さなかった。
「げっとはなんだ。そのスマホを見せてみろ」
「お、お待ちを、いくら兄とはいえスマホを見るのはプライバシーの侵害ですよ!」
だが、チョーシュクは強引に妹からスマホを奪い取ると、今し方リュービに送ったであろう文面に目を通した。
「なるほど『今、大業が成ろうとしているのに、何故、それを捨てて立ち去られようとしているのですか?』か……
この“大業”とは何のことだ?」
「そ、それはチョウロ討伐のことで……」
兄の詰問にチョーショーはしどろもどろに答える。しかし、チョーシュクはそれで納得する相手ではなかった。
「コウケンにお前の様子がおかしいと言われて来てみればこの有り様か。
よそ者であるリュービにからすればチョウロ討伐は大業とは言えぬ。
他にもいくつかリュービ相手のメッセージがあるようだな……どうやらお前はクロのようだ」
チョーショーは走り出したが、何人かの兵士が飛び出して、彼女を取り押さえてしまった。
「チョーショー、叛逆の罪でお前を捕える!」
リュービ軍は前線にある家庭科室を防衛基地に定め、チョウロ軍と何度かの小競り合いを行った。
「リュービ様、チョウロより連絡が来ました」
セミロングの黒髪に色白の肌、帽子に片眼鏡、厚手のコートに黒手袋をした女生徒、新たに俺の軍師となったホーセーが俺、リュービに報告してきた。
「そうか、チョウロはなんと言ってきた?」
「はい、リュービ様がリュウショウから西校舎を獲るのであれば協力すると」
その報告を聞き、俺は頷いて答える。
「そうか、ではこのまま話を進めよう。
チョウロとは表向きは苦戦を装いつつ、持久戦へ移行しよう」
「おお、上手く話が進んでおりますな。リュービさん」
俺とホーセーの会話に入ってきたのは、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝を咥え、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女であった。彼女は俺が南校舎から連れてきた軍師・ホウトウ。
ホウトウは校舎の図面を机いっぱいに広げながら話し続ける。
「チョウロを説得できたのなら順調ですな。では、あっしらは次の策に移らしていただきやす」
「ああ、俺たちの敵はチョウロではないからな。
では、“真の敵”に対する対策を練ろう」
ホウトウの言葉に応じ、俺とホーセーは広げた図面の前に集まった。
この南校舎からきたホウトウ、元リュウショウ配下のホーセーの二人が俺の作戦参謀であった。この二人を中心に“真の目的”に向けて対策を考える。
俺たちは北の勢力・チョウロを倒して欲しいと、西校舎のリュウショウに頼まれてこの地にやってきた。だが、チョウロと戦うのはあくまで表向きのこと。その“真の目的”はリュウショウからこの西校舎を奪うことだ。
そのためにチョウロとはこの地についてすぐ、密かに交渉を行い、協定を結んだ。俺たちがリュウショウと戦うことになっても、後ろからチョウロに攻められないための交渉だ。
俺を頼みと思ってくれているリュウショウから領土を奪うのは心苦しいが、宿敵・ソウソウに対抗するためには是が非でもこの西校舎を手に入れなければならない。
風来坊の軍師・ホウトウは図面で西校舎の上部を指差しつつ、俺に説明してくれる。
「リュービさん、あっしらがいるのはここ、西校舎の北部。チョウロとの境界線付近ですな。そして、西の盟主がいるのは西校舎のほぼ中央。
そのため、西校舎の南部などは無視して良いでしょう。まずは、如何なる策で中央まで行くのか考えねばなりますまいな」
そう言いつつも、何やら胸中に考えのありそうなホウトウに俺は尋ねた。
「ホウトウ、君はどう考える?」
そう聞かれると、ホウトウは得意そうな顔つきで、指を三本立てて答えた。
「そうですな。あっしが提案するのは三策でございやす。
まず一つ、密かに精鋭を集め、一気呵成に西の盟主の籠もる中央に直行して襲撃致しやしょう。西の盟主は武勇に劣り、特段備えをしているわけではございやせん。あっという間に敵を平定できるでしょう。これが上策。
次に、ここで共にチョウロ軍と戦っているリュウショウの将・ヨウカイ、コウハイを欺き捕らえ、両将から兵を奪い、この北部にあっしらが確固たる勢力を築きやす。そしてそれを拠点にリュウショウとやり合います。これが中策。
最後に、一度、南校舎の側まで帰還する。これが下策でございやす」
「ふむ、なるほど、その三つか」
ホウトウは指を折りながら、俺に三策を提示した。その策を聞き、俺が迷う表情をすると、横からもう一人の軍師・ホーセーが意見を出してきた。
「リュービ様、貴方様の率いる軍は天下無敵、弱敵・リュウショウの適う相手ではありません。このまま一気に攻め込んでも充分勝算はあるかと思います」
ふむ、ホーセーの意見にも一理ある。
「確かに最も早く西校舎を手に入れたいなら上策を採るべきだろう。だが、上策は一度躓くと立て直しが難しいという欠点がある。
かと言って下策ではわざわざリュウショウの懐に入った意味がない」
逡巡する俺にホウトウは追加で解説を行う。
「下策は南校舎に残したコウメイらと協力できるメリットがございやす。加えて、もしもの時はすぐに南校舎に撤退もできましょう。なれど、仰る通り、せっかくここまで来たのを全て捨てる策でございやす。故に下策。
このままでは西の盟主に全く歯が立たないと判断した時に採る策でございやしょう」
「なるほど、自信があるなら上策、なければ下策ということか」
「そうでございやす。時間も上策が最も短く、下策が最も時間がかかることでしょう」
「しかし、上策はその分リスクも高い。かと言って下策を取るほど警戒することもないだろう。
ここは中策を採りたいと思う」
俺は中策、この北部に勢力を築き、リュウショウと戦う選択肢を選んだ。そして、ホウトウに続けて尋ねた。
「しかし、共にチョウロと戦うヨウカイ・コウハイの二人は俺は警戒している。どうやって欺く?」
ヨウカイ・コウハイの二人はチョウロと戦うようリュウショウから派遣された武将だ。俺に敬意を払って接してはくれるが、警戒も怠ってはいなかった。
「ヨウカイ・コウハイの二人がリュービさんを警戒しているのは、それだけ二人がリュービさんの実力を認めているということであります。
あっしが探ったところによれば、二人はリュービさんを恐れ、西の盟主を諌め、リュービさんを南校舎に帰すよう求めているそうでございやす。
ならばいっそ、我らは帰ると致しやしょう。
南校舎に危急の事態が迫っていると言って、帰り支度を致しやしょう。リュービさんが帰るとなればヨウカイ・コウハイの二人は喜んで別れの挨拶に来ることでございやしょう。そこを捕らえるのでございやす」
「よし、ならばそれで行こう。俺たちは帰り支度を始て、ヨウカイらを誘き出そう。
ホーセー、君は引き続きチョウロと交渉を行ってくれ。チョウロは協力に応じたとはいえ、信用できる相手ではない。油断せず様子を伺っておいてくれ。少なくともヨウカイらを討つまでは我らの内心をリュウショウにバレるわけにはいかない」
ホーセーは頷いて退出し、残りは帰り支度に取り掛かった頃、俺はふと気になってホウトウに尋ねた。
「なぁホウトウ、ヨウカイらに俺たちが帰還すると伝えるのはいいが、リュウショウには何も言わなくていいのか?」
俺たちが撤退することになって、部下のヨウカイらだけが聞いて、主君のリュウショウが聞いていないのは不自然だ。俺はそう思ってホウトウに聞いた。
「そうですな。リュウショウに伝わっていなければヨウカイらも訝しむかもしれませんな。どうせなら大々的に帰還しなければならなくなったと吹聴しましょう」
この時、東側ではソウソウとソンケンの戦いが今まさに始まろうとする頃合いだった。俺はそれに託つけ、リュウショウに我軍が南校舎に帰還する旨を伝えた。
「リュウショウ殿、急な申し出を失礼致します。
今、我が宿敵・ソウソウが東方に侵出を計り、我が盟友・ソンケンは火急の危機に晒されています。更には南校舎に置いてはソウソウの尖兵・ガクシンが我が義妹・カンウを脅かしております。
我がリュービ軍はチョウロとの対戦はまだ中途ではありますが、ソウソウに何も対処しなければ私の足元を崩れ落ち、チョウロどころではなくなるでしょう。
リュウショウ殿には申し訳ないが、我らは一度、南校舎に帰らせていただきたい」
この知らせをリュウショウ及び周辺の部隊に伝えると、西校舎に衝撃を与えた。
そして早速、俺たちとともにチョウロと戦っていた援軍・ヨウカイ、コウハイの二将は送別の挨拶にやって来た。
「この度はリュービ殿が突然帰還されると聞き、別れの挨拶に参上致しました」
「仕方ない事情とは言え、勇名高きリュービ殿との共闘がこれまでとは非常に残念でございます」
眉の太い男、リュウショウ軍前線守備隊隊長・ヨウカイ、尖った鼻の男、副隊長・コウハイ。二人ともにこやかな笑顔を俺に向けてはいるが、その目には嫌悪感を漂わせていた。
「二将軍にわざわざ挨拶に来ていただき感謝致します。
ところで二人に折り入って相談があるのですが」
「ほお、なんでございましょうか。我らにできることであれば何でもお申し付けください」
ヨウカイ、コウハイ。リュウショウがチョウロとの前線守備を任せるだけあって、堅実な防衛戦が出来る良将だ。俺の本心に薄々勘づいていたのか、共闘しながらも常に俺のことを警戒していた。その勘は大当たりなのだから優秀なのだろう。
それだけに惜しい。
「これまで君たちの働きを見てきたが、ここの守備隊で終わらせるには惜しい。俺たちと一緒に来ないか?」
こう語る俺は今一体、どんな顔をしているんだろうか。自分が後戻り出来ぬ道に踏み込んだことを肌で感じていた。
「それはどういう意味ですかな?」
「まるでリュウショウ様から寝返れと言ってるように聞こえますが?」
「そうだ。
俺の配下になれ。今以上の地位を約束しよう」
その言葉に、両将軍の怒声が飛ぶ。
「本心を現しおったかリュービ!」
「我らがリュウショウ様を裏切ると思うのか!」
ヨウカイ・コウハイの二人は殺気立った目を俺に向け、こちらに襲い掛かろうと一歩踏み出した。
だが、その一歩で彼らの歩みは止まった。二将軍は横から飛び出してきた二人の女生徒にあっという間に組み伏せられ、顔面を床に叩きつけられた。
「ご苦労、ギエン・フユウ」
「はい、リュービさん!」
「このくらい、大した相手ではありません」
男物の学ランに、頭にハチマキをつけ、下駄げたを履はいた、まるで応援団のような姿の女生徒・ギエン。彼女は相変わらず大きな声を出す。
一方、ポニーテールの黒髪に長身、まるで剣士のような雰囲気の女生徒・フユウ。彼女は正反対の落ち着いた口調でそう告げる。
ヨウカイらが登用に応じない時のために腕の立つ二人を左右に潜ませていたが、予想以上の手際の良さだ。これならこの先の活躍も期待できる。
「ヨウカイ・コウハイ、君たちとはより良い関係を築きたかったが、残念だ」
罵声を浴びせてくる二人を奥へ連行させると、俺は気持ちを切り替えて、全軍に指揮を出した。
「これより我がリュービ軍は作戦の第二段階に入る!
各自、持ち場につけ!」
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リュウショウ陣営~
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「なんと、リュービ殿が帰られるだと!
それはまずいぞ!」
短髪にタレ目、太めの体格をした男子生徒、この西校舎の盟主・リュウショウはいつもの温和そうな顔つきが一変、取り乱した様子で叫んだ。
「今帰られてはチョウロとの争いがただ激化しただけではないか!
おい、チョーショー、どうなっているんだ!」
リュウショウが呼びつけたのは、リュービに援軍を依頼するよう提案した張本人、やたらと背の低い、長い髪に瓶底のようなメガネをかけた地味な印象の女生徒・チョーショー。
この度のリュービの突然の帰還は彼女にとっても寝耳に水だったようで、取り乱した様子で答えた。
「そ、それは何かのっぴきならない事情があったのでございましょう。
このチョーショーがリュービ殿に残ってもらえるよう交渉致しますので、何卒、ご安心ください」
「頼むぞ、チョーショー」
チョーショーは会議から退出すると、廊下の影に隠れて、急ぎリュービへメッセージを送った。
チョーショーは既にリュービと内通し、彼の西校舎侵略に手を貸していた。だが、リュービ帰還の報告は受けておらず、事情のわからぬ彼女としては気が気でなかった。
「まったく、どういうことですかな、リュービ様。こんな話は聞いておりませんぞ」
柱の影に隠れて連絡を送るチョーショーに声をかけたのは、彼女とは対象的な長身な男子生徒、チョーショーの兄・チョーシュクであった。
「何を聞いておらぬのだ?」
「げっ、兄さん……」
チョーショーからすれば会いたくない相手であった。その反応をチョーシュクは見逃さなかった。
「げっとはなんだ。そのスマホを見せてみろ」
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この“大業”とは何のことだ?」
「そ、それはチョウロ討伐のことで……」
兄の詰問にチョーショーはしどろもどろに答える。しかし、チョーシュクはそれで納得する相手ではなかった。
「コウケンにお前の様子がおかしいと言われて来てみればこの有り様か。
よそ者であるリュービにからすればチョウロ討伐は大業とは言えぬ。
他にもいくつかリュービ相手のメッセージがあるようだな……どうやらお前はクロのようだ」
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そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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