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第6部 西校舎攻略編
第147話 呉下!猛虎の目覚め!
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ソウソウとソンケンとの戦いは、お互いに決定打を与えることができないまま、ただ無為に時間が経過していた。
視点をソウソウ本陣に移す。
ソンケン勢力との境界である渡り廊下を視認できる位置に机椅子を置き、そこに赤黒い髪と瞳、大きく胸元の開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートの女生徒・ソウソウは腰掛けていた。
その彼女の元に今、敵・ソンケンより手紙が届けられた。彼女はその内容をある程度察しながらも、厳重に封のされたその手紙を開け、速やかに内容に目を通した。
「やはり休戦の提案か。
『このままではお互い得るものはない』か、生意気な意見だが、確かにソンケンの言う通りだな……」
その内容はやはりソウソウの察した通り、休戦の提案であった。
ソウソウとしてもこれ以上この戦いを続けたくはなかった。この戦いの開始直前、長年右腕として連れ添ってきた軍師・ジュンイクを失った。さらに中央ではソウソウの理事就任を目指して様々な動きが展開されており、その報告が逐一ソウソウに届けられていた。
既にソウソウはこの戦いに集中できるような状況ではなかった。
ソウソウからすればこの提案は渡りに船、応じるのも悪くはないなと思いながら手紙を読み進めていくと、後半の一節に思わず吹き出してしまった。
「ふふふ……ハッハッハ!
『あなたが死なない限り、私の平穏はありません』とは、あの小僧、言うに事欠いて随分な一撃を食らわしてくるじゃないか!
フフフ、おい、ジュンイク、これを読んで……」
ソウソウはついいつものクセで、誰もいない虚空へと手紙を見せつけた。
「……そうだったな。ジュンイクはもういなかったか。
戻って、ジュンイクの抜けた穴を埋めなければならんな。ソンケンの休戦に応じよう」
ソウソウは休戦を了承し、撤退を開始した。
「私は撤退するが、今後、この地はソンケンとの戦いの最前線になる。充分な戦力を残しておく必要があるな。しかし、我が軍の兵力にそこまで余裕はない……」
撤退にあたり、ソウソウがこの地の防衛の指揮官として選んだのは、ソウソウ十傑衆より随一の戦闘力を誇る“怒涛のチョーリョー”、寡黙な仕事人“迅雷のガクシン”の二人。これに加えて用心深さに定評のある智将・リテンの計三名。この三人を選出して、各地より呼び寄せることとした。
さらに彼らの軍師として古参の事務官・セツテイをつけることにした。ソウソウはその事務官・セツテイを呼び寄せて伝えた。
「チョーリョーの武勇は我軍内でも突出している。ガクシンも武勇に秀でているが、さらには防衛戦にも長じている。リテンは頭も回り、補佐役としては最適だ。
高火力アタッカーにサブアタッカー兼タンク、そしてサポート役。兵力を多くは置いていけぬが、万全の布陣と言えるだろう。
それにこの地域の担当者・オンカイは軍事に精通している。何かあれば相談すると良いだろう」
休戦したとはいえどもソンケンがいつまでも大人しくするわけはない。この休戦が一時的なものであることは誰もが察していた。
しかし、西に東にと敵を抱えるソウソウは、ソンケンがいずれ攻めてくるとわかっていても、多くの兵をこの地にだけ留めておくわけにはいかない。限られた戦力の中で最良の人材をソウソウなりに選んだつもりであった。
その言葉を聞いた、軍師に抜擢された頭巾に黒いコートを羽織った男子生徒・セツテイは怪訝な顔をしながら彼女に尋ねた。
「ソウソウ会長、確かにチョーリョー、ガクシン、リテンの三名は優れた武将であると思います。
しかしながら、この三人が仲良くしているところを見たことはありませんし、いずれも人と馴れ合うタイプではありません。私が軍師になったところで三人は意見を聞くとは思えませんが?」
そのセツテイからの問いに、ソウソウはふふと笑って答える。
「だからお前を軍師に選んだんだ。セツテイ、お前はこの中で我が陣営に加わった順番なら最も古い。
それにお前はかつてチンキュウが反乱を起こし、リョフを我が陣営に招き入れた時に、最前線で部を守った一人ではないか。何を恐れることがある。
それと万一の時にはこの箱を開けよ」
ソウソウから手渡されたのは細やかな彫刻が施され、漆の塗られた手に持てるほどの小さな木箱であった。さらに開かぬようにと、ご丁寧に錠までつけられている。
「ソウソウ会長、これはなんですか?」
「この箱の中にソンケンが攻めてきた時の対処を書いた紙を入れておいた。もし、チョーリョーらがお前の言う事を聞かず、バラバラに動こうとするならば、この箱を厳かに取り出し、これこそソウソウの命令だと伝えよ。そうなればあいつらも従うしかないはずだ。
これがこの箱の鍵だ」
黒いコートの男子・セツテイは、ソウソウより箱と鍵を受け取り、頭を下げた。
「わかりました。そのお役目引き受けましょう」
ソウソウはチョーリョーらにソンケンの防衛を任せ、理事就任に向けて中央へと戻っていった。
~~~
ソウソウからソンケンに対し、休戦を受け入れる旨が伝達された。これを受けてソンケンは前線よりリョモウらを撤退させ、従兄のソンユを防衛指揮官として残して、残りの軍を引き上げさせた。
今回、ソンケンが休戦を提案した理由の一つは、彼の参謀・チョウコウが入院のため休学したことであった。
チョウコウは今も軍師を務めるチョウショウとともに先代・ソンサクの頃から現当主・ソンケンの今この時まで、軍事に政治にと謀臣として大きく貢献してきた。特にその文才はソンケン陣営内でも傑出しており、これまでソンケンが内外に出した公文書の多くは彼女の筆によるものが大半であった。
帰還したばかりの赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけた、小柄で少年のような容姿のソンケンは、チョウコウから送られたメールを皆の前で読み上げさせた。
「『……以上の理由から私は入院することとなりましたが、ソンケン様にはお変わりなく選挙戦に精進していただくことを望みます。
ソンケン様におかれましては、好悪の情に流されて、甘き言葉を喜び、追従の輩をのさばらせることの無きように。耳に痛い言葉を拒まず、忠義の臣を大事にするようお願い致します』とのことです」
部下の読み上げを聞き終わると、ソンケンは涙を拭いながら家臣たちに語りかけた。
「チョウコウの言葉は良くわかった。僕はまだまだ未熟だ。みんなには遠慮なく僕を諌めて欲しい」
その言葉を伝えると、今度は肩まで届くポニーテールのスタイルの良い、ブラウスに赤いベスト、ミニスカートの女生徒のリョモウ。
そして、栗色の髪をポニーテールにした女生徒・ショーキンの二人の方に向いて話しかけた。
「次にリョモウ。この度の戦いでは防衛の指揮を執り、ソウソウ軍の先鋒を撃ち破った。君が今回の功績第一だ。
そして、ショーキン。君は敵の攻撃を受けた我が軍が無事に帰還するのに大きく貢献した。君が功績第二だ。
ここに君たちの功績を讃えるとともに、先ほどのチョウコウの言葉にもあったように、これからも僕に不行き届きなことがあれば諌める忠義の臣となって欲しい」
そのソンケンの言葉に対し、栗色の髪のショーキンは頭を下げてこれを受けたが、一方、赤いベストの女生徒・リョモウは一歩進み出て発言した。
「ソンケン様、お言葉ありがとうございます。
しかし、私は戦うことにのみ能のある女で、シュウユ・ロシュク両先輩のように頭を使うことには向いておりません。どうか、これからも武将としてお使いください」
あまりにも素直なリョモウの発言に、隣にいたショーキンも手を額にやり、「バカ正直なんだから……」と小声でボヤいた。
だが、ソンケンは真剣な面持ちで、そう自身を語るリョモウに尋ねた。
「リョモウ、君はこれまでも充分な働きをしてきた。何故、そこまで卑下する?」
そう尋ねられ、リョモウは戸惑いを見せた。勉強の苦手なリョモウはこれまでも知力に劣ることを侮られてきた。それを周知の事実だと思っていた彼女は、まさかそんなことを改めて尋ねられるとは思っていなかった。
「え、それはロシュクさんにもよく言われますし、過去にはソウジンとの戦い(※第104話参照)でいいようにあしらわれてしまいました」
ソンケンからすれば、リョモウは見所のある武将だ。それが自身を不当に評価し、そのせいで伸び悩むようなことは避けたい。
「ソウジンとの戦いとは赤壁の後の一戦のことだな。その詳細は聞いている。
確か、ショーキンもともにいたな」
その言葉に隣のショーキンがドキリとする。
「え、ええ、その件はあたいの失敗でもありますね……」
思わぬ飛び火にバツの悪そうな顔で、栗色のポニーテールの女生徒・ショーキンは答えた。
その顔を見てソンケンは、あえて穏やかな口調に切り替えて、二人に語りかけた。
「何も今さらその件を責めようというつもりはない。
ただ、未だにそれが棘として残り、負い目に感じているのであれば改善するべきだろう。
思慮の浅さに劣等感に感じるのなら、例えばそうだな、ここは学問に励み、知識を広げていくのはどうだろうか?」
そう言われたもののリョモウはいまいちピンときてない顔で答えた。
「はぁ……しかし、今は武将として戦いに明け暮れる毎日で、とても本を読むような時間はないかと思います」
リョモウからすれば何を遠回りなと言いたげな顔つきである。だが、そんな彼女に対してソンケンは懇々と説く。
「何も博士になるほど勉強しろと言ってるわけじゃない。ただ広く見聞を広め、自信に繋げて欲しいと言ってるんだ。
それに君は多忙だと言うが、多忙さなら僕だって負けてはいない。それでも君主になったからにはと、歴史や兵書を学び、大いに有益だったと思っている。
敵であるソウソウも、生徒会長の仕事をこなしながら、未だに読書を毎日欠かないと聞く。
リョモウ・ショーキン、君たち二人は聡明で理解力もあるのだから、学べばきっと得るものがあるはずだ。
まずは『孫子』、『六韜』(ともに古代の兵書)あたりから読んでみてはどうだろうか?」
その言葉にようやくリョモウも納得した様子で、晴々とした笑顔で返した。
「わかりました。このままウジウジ悩んでいても解決しません。その『ソンシ』、『リクトー』を読んでみます!」
満足した様子の二人のやり取りを見て、少々蚊帳の外に置かれていた栗色の髪の女武将・ショーキンは困り顔で聞き返した。
「え、あたいもですかい?
一応、あたいは二人の先輩なんだけどなぁ」
その言葉に、少女のように背が低い赤い漢服の女生徒、チョウコウと並ぶ謀臣・チョウショウが窘めるように言い返した。
「ショーキン、学ぶことに歳の上下もなかろう。良い機会だ。リョモウとともに学ぶと良い」
陣営の重鎮として尊敬を一身に受けるチョウショウの言葉とあっては、ショーキンも無碍にはできない。
「チョウショウさんにまで言われちゃしょうがないね。わかったよ。あたいも勉強するよ」
この一件により、武勇一辺倒であったリョモウ、そしてショーキンは勉強に力を入れるようになった。この勉強が後々、ソンケンに大きな成果をもたらすこととなる。
~~~
少し話は遡る。東方にて二大勢力がまさにぶつかろうとするその頃、遠く離れた西校舎で事態は新たな局面へと動こうとしていた。その地の盟主・リュウショウを助けるために南校舎のリュービは、彼の宿敵・チョウロと戦っていた。
だが、リュービは内心、この増援に託つけ、弱主・リュウショウから西校舎の獲ろうと画策していた。その彼にとってソウソウとソンケンの対決は絶好の機会であった。
「我が盟友・ソンケンは東方にてソウソウの侵略を受けている。我がリュービ軍はチョウロとの対戦はまだ中途ではあるが、同盟者を見捨てるのことはできない。リュウショウ殿には悪いが、我らは一度、南校舎に帰らせてもらおう」
このリュービの発言がリュウショウと決定的な対立を生むこととなる。
視点をソウソウ本陣に移す。
ソンケン勢力との境界である渡り廊下を視認できる位置に机椅子を置き、そこに赤黒い髪と瞳、大きく胸元の開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートの女生徒・ソウソウは腰掛けていた。
その彼女の元に今、敵・ソンケンより手紙が届けられた。彼女はその内容をある程度察しながらも、厳重に封のされたその手紙を開け、速やかに内容に目を通した。
「やはり休戦の提案か。
『このままではお互い得るものはない』か、生意気な意見だが、確かにソンケンの言う通りだな……」
その内容はやはりソウソウの察した通り、休戦の提案であった。
ソウソウとしてもこれ以上この戦いを続けたくはなかった。この戦いの開始直前、長年右腕として連れ添ってきた軍師・ジュンイクを失った。さらに中央ではソウソウの理事就任を目指して様々な動きが展開されており、その報告が逐一ソウソウに届けられていた。
既にソウソウはこの戦いに集中できるような状況ではなかった。
ソウソウからすればこの提案は渡りに船、応じるのも悪くはないなと思いながら手紙を読み進めていくと、後半の一節に思わず吹き出してしまった。
「ふふふ……ハッハッハ!
『あなたが死なない限り、私の平穏はありません』とは、あの小僧、言うに事欠いて随分な一撃を食らわしてくるじゃないか!
フフフ、おい、ジュンイク、これを読んで……」
ソウソウはついいつものクセで、誰もいない虚空へと手紙を見せつけた。
「……そうだったな。ジュンイクはもういなかったか。
戻って、ジュンイクの抜けた穴を埋めなければならんな。ソンケンの休戦に応じよう」
ソウソウは休戦を了承し、撤退を開始した。
「私は撤退するが、今後、この地はソンケンとの戦いの最前線になる。充分な戦力を残しておく必要があるな。しかし、我が軍の兵力にそこまで余裕はない……」
撤退にあたり、ソウソウがこの地の防衛の指揮官として選んだのは、ソウソウ十傑衆より随一の戦闘力を誇る“怒涛のチョーリョー”、寡黙な仕事人“迅雷のガクシン”の二人。これに加えて用心深さに定評のある智将・リテンの計三名。この三人を選出して、各地より呼び寄せることとした。
さらに彼らの軍師として古参の事務官・セツテイをつけることにした。ソウソウはその事務官・セツテイを呼び寄せて伝えた。
「チョーリョーの武勇は我軍内でも突出している。ガクシンも武勇に秀でているが、さらには防衛戦にも長じている。リテンは頭も回り、補佐役としては最適だ。
高火力アタッカーにサブアタッカー兼タンク、そしてサポート役。兵力を多くは置いていけぬが、万全の布陣と言えるだろう。
それにこの地域の担当者・オンカイは軍事に精通している。何かあれば相談すると良いだろう」
休戦したとはいえどもソンケンがいつまでも大人しくするわけはない。この休戦が一時的なものであることは誰もが察していた。
しかし、西に東にと敵を抱えるソウソウは、ソンケンがいずれ攻めてくるとわかっていても、多くの兵をこの地にだけ留めておくわけにはいかない。限られた戦力の中で最良の人材をソウソウなりに選んだつもりであった。
その言葉を聞いた、軍師に抜擢された頭巾に黒いコートを羽織った男子生徒・セツテイは怪訝な顔をしながら彼女に尋ねた。
「ソウソウ会長、確かにチョーリョー、ガクシン、リテンの三名は優れた武将であると思います。
しかしながら、この三人が仲良くしているところを見たことはありませんし、いずれも人と馴れ合うタイプではありません。私が軍師になったところで三人は意見を聞くとは思えませんが?」
そのセツテイからの問いに、ソウソウはふふと笑って答える。
「だからお前を軍師に選んだんだ。セツテイ、お前はこの中で我が陣営に加わった順番なら最も古い。
それにお前はかつてチンキュウが反乱を起こし、リョフを我が陣営に招き入れた時に、最前線で部を守った一人ではないか。何を恐れることがある。
それと万一の時にはこの箱を開けよ」
ソウソウから手渡されたのは細やかな彫刻が施され、漆の塗られた手に持てるほどの小さな木箱であった。さらに開かぬようにと、ご丁寧に錠までつけられている。
「ソウソウ会長、これはなんですか?」
「この箱の中にソンケンが攻めてきた時の対処を書いた紙を入れておいた。もし、チョーリョーらがお前の言う事を聞かず、バラバラに動こうとするならば、この箱を厳かに取り出し、これこそソウソウの命令だと伝えよ。そうなればあいつらも従うしかないはずだ。
これがこの箱の鍵だ」
黒いコートの男子・セツテイは、ソウソウより箱と鍵を受け取り、頭を下げた。
「わかりました。そのお役目引き受けましょう」
ソウソウはチョーリョーらにソンケンの防衛を任せ、理事就任に向けて中央へと戻っていった。
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ソウソウからソンケンに対し、休戦を受け入れる旨が伝達された。これを受けてソンケンは前線よりリョモウらを撤退させ、従兄のソンユを防衛指揮官として残して、残りの軍を引き上げさせた。
今回、ソンケンが休戦を提案した理由の一つは、彼の参謀・チョウコウが入院のため休学したことであった。
チョウコウは今も軍師を務めるチョウショウとともに先代・ソンサクの頃から現当主・ソンケンの今この時まで、軍事に政治にと謀臣として大きく貢献してきた。特にその文才はソンケン陣営内でも傑出しており、これまでソンケンが内外に出した公文書の多くは彼女の筆によるものが大半であった。
帰還したばかりの赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけた、小柄で少年のような容姿のソンケンは、チョウコウから送られたメールを皆の前で読み上げさせた。
「『……以上の理由から私は入院することとなりましたが、ソンケン様にはお変わりなく選挙戦に精進していただくことを望みます。
ソンケン様におかれましては、好悪の情に流されて、甘き言葉を喜び、追従の輩をのさばらせることの無きように。耳に痛い言葉を拒まず、忠義の臣を大事にするようお願い致します』とのことです」
部下の読み上げを聞き終わると、ソンケンは涙を拭いながら家臣たちに語りかけた。
「チョウコウの言葉は良くわかった。僕はまだまだ未熟だ。みんなには遠慮なく僕を諌めて欲しい」
その言葉を伝えると、今度は肩まで届くポニーテールのスタイルの良い、ブラウスに赤いベスト、ミニスカートの女生徒のリョモウ。
そして、栗色の髪をポニーテールにした女生徒・ショーキンの二人の方に向いて話しかけた。
「次にリョモウ。この度の戦いでは防衛の指揮を執り、ソウソウ軍の先鋒を撃ち破った。君が今回の功績第一だ。
そして、ショーキン。君は敵の攻撃を受けた我が軍が無事に帰還するのに大きく貢献した。君が功績第二だ。
ここに君たちの功績を讃えるとともに、先ほどのチョウコウの言葉にもあったように、これからも僕に不行き届きなことがあれば諌める忠義の臣となって欲しい」
そのソンケンの言葉に対し、栗色の髪のショーキンは頭を下げてこれを受けたが、一方、赤いベストの女生徒・リョモウは一歩進み出て発言した。
「ソンケン様、お言葉ありがとうございます。
しかし、私は戦うことにのみ能のある女で、シュウユ・ロシュク両先輩のように頭を使うことには向いておりません。どうか、これからも武将としてお使いください」
あまりにも素直なリョモウの発言に、隣にいたショーキンも手を額にやり、「バカ正直なんだから……」と小声でボヤいた。
だが、ソンケンは真剣な面持ちで、そう自身を語るリョモウに尋ねた。
「リョモウ、君はこれまでも充分な働きをしてきた。何故、そこまで卑下する?」
そう尋ねられ、リョモウは戸惑いを見せた。勉強の苦手なリョモウはこれまでも知力に劣ることを侮られてきた。それを周知の事実だと思っていた彼女は、まさかそんなことを改めて尋ねられるとは思っていなかった。
「え、それはロシュクさんにもよく言われますし、過去にはソウジンとの戦い(※第104話参照)でいいようにあしらわれてしまいました」
ソンケンからすれば、リョモウは見所のある武将だ。それが自身を不当に評価し、そのせいで伸び悩むようなことは避けたい。
「ソウジンとの戦いとは赤壁の後の一戦のことだな。その詳細は聞いている。
確か、ショーキンもともにいたな」
その言葉に隣のショーキンがドキリとする。
「え、ええ、その件はあたいの失敗でもありますね……」
思わぬ飛び火にバツの悪そうな顔で、栗色のポニーテールの女生徒・ショーキンは答えた。
その顔を見てソンケンは、あえて穏やかな口調に切り替えて、二人に語りかけた。
「何も今さらその件を責めようというつもりはない。
ただ、未だにそれが棘として残り、負い目に感じているのであれば改善するべきだろう。
思慮の浅さに劣等感に感じるのなら、例えばそうだな、ここは学問に励み、知識を広げていくのはどうだろうか?」
そう言われたもののリョモウはいまいちピンときてない顔で答えた。
「はぁ……しかし、今は武将として戦いに明け暮れる毎日で、とても本を読むような時間はないかと思います」
リョモウからすれば何を遠回りなと言いたげな顔つきである。だが、そんな彼女に対してソンケンは懇々と説く。
「何も博士になるほど勉強しろと言ってるわけじゃない。ただ広く見聞を広め、自信に繋げて欲しいと言ってるんだ。
それに君は多忙だと言うが、多忙さなら僕だって負けてはいない。それでも君主になったからにはと、歴史や兵書を学び、大いに有益だったと思っている。
敵であるソウソウも、生徒会長の仕事をこなしながら、未だに読書を毎日欠かないと聞く。
リョモウ・ショーキン、君たち二人は聡明で理解力もあるのだから、学べばきっと得るものがあるはずだ。
まずは『孫子』、『六韜』(ともに古代の兵書)あたりから読んでみてはどうだろうか?」
その言葉にようやくリョモウも納得した様子で、晴々とした笑顔で返した。
「わかりました。このままウジウジ悩んでいても解決しません。その『ソンシ』、『リクトー』を読んでみます!」
満足した様子の二人のやり取りを見て、少々蚊帳の外に置かれていた栗色の髪の女武将・ショーキンは困り顔で聞き返した。
「え、あたいもですかい?
一応、あたいは二人の先輩なんだけどなぁ」
その言葉に、少女のように背が低い赤い漢服の女生徒、チョウコウと並ぶ謀臣・チョウショウが窘めるように言い返した。
「ショーキン、学ぶことに歳の上下もなかろう。良い機会だ。リョモウとともに学ぶと良い」
陣営の重鎮として尊敬を一身に受けるチョウショウの言葉とあっては、ショーキンも無碍にはできない。
「チョウショウさんにまで言われちゃしょうがないね。わかったよ。あたいも勉強するよ」
この一件により、武勇一辺倒であったリョモウ、そしてショーキンは勉強に力を入れるようになった。この勉強が後々、ソンケンに大きな成果をもたらすこととなる。
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少し話は遡る。東方にて二大勢力がまさにぶつかろうとするその頃、遠く離れた西校舎で事態は新たな局面へと動こうとしていた。その地の盟主・リュウショウを助けるために南校舎のリュービは、彼の宿敵・チョウロと戦っていた。
だが、リュービは内心、この増援に託つけ、弱主・リュウショウから西校舎の獲ろうと画策していた。その彼にとってソウソウとソンケンの対決は絶好の機会であった。
「我が盟友・ソンケンは東方にてソウソウの侵略を受けている。我がリュービ軍はチョウロとの対戦はまだ中途ではあるが、同盟者を見捨てるのことはできない。リュウショウ殿には悪いが、我らは一度、南校舎に帰らせてもらおう」
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