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第6部 西校舎攻略編
第138話 決断!西部侵攻!
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「リュービ殿に西校舎を取っていただきたい」
西校舎から来た友好の使者・ホーセーから俺は思わぬお願いをされてしまう。
それは今いる西校舎の主・リュウショウを追い出し、俺・リュービに新たな西校舎の主となって欲しいというものであった。
「ダメだ。それはできない。
西校舎にはリュウショウ殿がおられる。それを敵対しているわけでもないのに奪い取るなんて……」
突然の申し出に俺は思わず断りを入れる。だが、西校舎からの使者、片眼鏡の女生徒・ホーセーは
俺の迷いの感情を読み取ったのか毅然とした態度で反論する。
「リュービ殿、それは違います。
リュウショウは既にソウソウと同盟関係にあり、かつては援軍を送った間柄です。敵の同盟者であるのならばそれはあなたの敵です」
「し、しかし…」
俺はロクに反論もできないまま口籠る。彼女の言葉には一理もニ理もある。ただそれに対して俺があるのは遠慮だ。相手のホーセーもそのことに気づいているのだろう。口籠る俺に対して彼女はさらに容赦なく言葉を重ねる。
「それにリュービ殿は先ほど、西校舎が加われば三方面からソウソウを攻めることが出来ると仰られました。それはつまり、西校舎を戦力として数えているということではありませんか?
西校舎攻略の計画が既にリュービ殿の腹中にあるのではありませんか?」
鋭い指摘を投げかけられる。彼女が天下三分の計の腹案まで知っているとは思えない。だが、彼女は一連のやり取りで自力で俺たちの方針を読み取った。先ほどから感じていたが、相手のホーセーはかなり頭の回る娘のようだ。地位までは聞いていないが、リュウショウの軍師だったりするのだろうか?
未だ迷う俺に対して、さらにホーセーは言葉を続ける。
「リュービ殿に今ここで決断していただければ、私はあなたに臣下の礼を取りましょう」
ホーセーのその真剣な眼差しがその言葉に嘘偽りがないとこを物語っている。何よりこの発言を録音でもされれば、彼女は西校舎での立場を失いかねない。彼女は自身の進退を賭けて俺に問いかけてきている。
だが、それだけの重さがあるからこそ俺は余計に迷う。その俺の躊躇する様を見て、左隣のホウトウがコソッと俺の耳元で囁いてきた。
「リュービさん、以前に申し上げたはずでございましょう。小義のために大義を失ってはならぬと。
リュービさんも一度はそれを受け入れたはずでござんすよ」
ホウトウはかつて俺の西校舎へ侵攻することの迷いを見抜き、大義のために西校舎を取れとアドバイスをしてくれた。そして、その時に確かに俺は一度、西校舎侵攻を決断した。
「わかっている。だけど、まさか向こうから提案してくるなんて思わないじゃないか」
まさか、こんなにも早く、それも向こうから提案してくるとは思わなかった。その突然の迷いもあれば、準備不足による不安もある。それが今の戸惑いとなって現れていた。
その様子を察して、今度は右隣のコウメイが耳元で伝えてきた。
「リュービさんが躊躇するのは、ただ困惑しているからです。落ち着いて考えれば何が最良かわかるはずですよ。
それとも私たちが左右にいてまだ不安に思うことがありますか?」
何故、左右から二人の少女に耳元で囁かれているんだろうか。
それはともかく、確かに既に一度決めたことをここで再び迷っていても仕方がない。そして、今の俺には臥龍・鳳雛の二軍師がついている。不安に思うことだって何もないはずだ。
俺は意を決し、ホーセーの意見に賛同した。
「わかった。
ホーセー、君の申し出を受け入れよう」
その俺の言葉にホーセーは安堵と歓喜の色を浮かべ、頭を深々と下げてお礼を述べてくる。
「お受けいただきありがとうございます。
それではこのホーセー、お約束通りこれよりリュービ様の配下となりましょう」
その言葉に俺も応える。
「ホーセー、君の忠義は受け取った。君を家臣として迎えよう。
だが、これだけは覚えていて欲しい。
確かに君の言う通り、俺たちは西校舎を攻略する計画はあった。
だが、決して力づくで奪い取ろうというつもりではなかった。それはわかって欲しい」
俺はそう忠告した。確かにソウソウと戦うためにも西校舎は必要だが、それはただ土地を得れば良いというものではない。むしろ、西校舎を丸呑みにするような戦略が求められる。
だが、その忠告はホーセー相手には杞憂であったようだ。
「それは先ほどのリュービ様との会話でよくわかっております。リュービ様が求めるのはあくまでも協力者、同志としての仲間でしょう。支配者として君臨するのは望まぬことでありましょう」
ホーセーのその智力と決断力はこの度の話し合いで充分見せてもらった。もしかしたらこの娘はコウメイ・ホウトウに並ぶ第三の軍師にもなるかもしれない。
「ホーセー、やはり君は賢者のようだ。
君を見込んで尋ねたい。それを踏まえた上で西校舎の攻略はどのようにすれば良いと思うか?」
俺の問いかけに、ホーセーは喜んで答えた。
「リュービ様の家臣として私の初仕事ですね。
それでは、申し上げます。
今、西校舎では天敵・チョウロを倒してくれる勢力を探しております。
これに私たちがリュービ様を推薦いたしますので、リュービ様は応じるフリをして西校舎の内部に侵入してください。そこでチョウロと戦うと見せかけながら、内部からリュウショウの配下を口説いて仲間に引き入れていってください。
西校舎の土地を攻めるより先に人を攻略するのです。そうすればリュウショウは何も出来ずにリュービ様に西校舎を譲ることになるでしょう」
なるほど、内部事情を知っているホーセーならではの策だ。これにはコウメイ、さらにホウトウも賛成する。
「リュービさん。これは悪くない策だと思います。外からいきなり攻めかかるよりも、相手を説得するだけの時間が稼げますから、こちらの被害も少なくできるかもしれません」
「それに万一、西の盟主と戦争になっても、内と外から二方面で迎え撃つことが出来るでござんす」
ホーセー、コウメイ、ホウトウの三賢者の意見だ。これ以上にない太鼓判といえる。
「なるほど、ホーセー、君の策はわかった。
だが、まずそのためにはリュウショウを説得しなければいけない。それは出来そうか?」
「私だけでは説得は難しいかと思います。
しかし、西校舎にはチョーショー、モウタツという二人の友人がおります。この二人と協力すれば説得も可能かと思います。
なので、この二人にリュービ様の真意を伝える許可をいただきたい」
「わかった。許可しよう。
では、ホーセー。君は早速、西校舎に戻り、まずはその二人の友人を仲間に引き入れてくれ。そして、チョウロ討伐の任務を俺に頼むようリュウショウを説得してくれ」
「承りました。では、至急西校舎に戻りたいと思います」
西校舎の使者から一転、俺の新たな家臣となったホーセーは、急ぎ西校舎へと戻っていった。
西校舎・リュウショウ陣営~
西校舎と南校舎は隣り合っている。片眼鏡の賢者・ホーセーが西校舎に戻るのにそう時間はかからなかった。
西校舎に戻ったホーセーは、真っ先に同志・チョーショーらの元を訪ねた。
「おお、ホーセー、帰ったか。どうであった?」
まず、彼女を出迎えたのは、やたらと背の低い、瓶底のようなメガネをかけた女生徒・チョーショー。そして……
「同志よ戻ったか。待ちわびたぞ」
肩まで伸びた茶髪に、切れ長の目、近代的な黒い軍服を纏った男子生徒。チョーショー・ホーセーのもう一人の同志・モウタツであった。
この二人に出迎えられ、ホーセーは早速、興奮気味にリュービの話を切り出した。
「二人とも揃っているのならちょうど良い。
リュービ様は私たちが考えるよりもずっと大器であった。あの御方ならば、ソウソウを撃ち破り、この学園に安寧をもたらしてくれるだろう。
私はリュービ様に対して臣下の礼を取ってきた。君たちも是非、リュービ様の陣営に加わって欲しい」
普段、冷静なホーセーが興奮混じりにそんな事を言うものだから、二人は大いに驚いた。
長い茶髪の男子生徒・モウタツが、まず彼女に尋ねた。
「その場で臣下の礼とは、君らしくもない随分、性急なことをしたじゃあないか。それではチョーショーのことをせっかちとは責められないぞ」
モウタツは少々、苦笑いしながらの反応であったが、もう一人の同志・チョーショーもホーセーの興奮に同調した。
「いや、しかし、あの皮肉屋のホーセーがここまで見込んだ相手だ。
いいだろう。君の眼を信じて、私もリュービ殿の傘下に入ろう」
そうなると事態は二対一だ。モウタツはヤレヤレといった様子で答えた。
「チョーショー、君もかい?
ならば、俺一人反対してもつまらない。元々、同志として仲間に加わったのだ。良いだろう、俺も君たちの一味に加わろう」
少々嫌味になったが、彼も二人の智謀を高く評価する一人だ。元々、反対する気もなかった。
その二人の反応にホーセーは喜んだ。
「チョーショー・モウタツ、よく決断してくれた。
ならば、話は早い。それで、チョウロ討伐を誰かに委任する権は何処まで話が進んでいる?」
これは背の低い女生徒・チョーショーの担当であった。だが、チョーショーは苦い顔をして答えた。
「それが思わしくない。
私は会議の席でリュービ殿を推薦したのだが、どうも他の者たちからの反発が思いの外大きい。結局、話は平行線となり一度お開きとなった。
この後、また会議が開かれる。ホーセー、君も会議に出席し、リュウショウを説得して欲しい」
「末席の私の意見では聞かないのではないか?」
チョーショーにそう頼まれて、片眼鏡の女生徒・ホーセーは皮肉混じりにそう答えた。だが、そんな事はお構いなしに、チョーショーは強引に彼女に詰め寄った。
「君はリュービと直に接触している。その分の説得力がある。
それに全員を説得させる必要はない。リュウショウ一人にターゲットを絞り、とにかく彼の心を動かすんだ」
結局、チョーショーに押し切られる形で、ホーセーはリュウショウ陣営の幹部会議に出席することとなった。
西校舎の美術室は校舎のほぼ真ん中に位置している。一般的な教室に比べて随分、広い面積の一室だ。リュウショウ陣営では、この一際広い美術室を拠点とし、有事には会議室として利用していた。
一応、普段の美術の時間などにも用いられているはずだが、教材や作品の多くは片付けられ、教室の隅にいくつか確認できる程度となっている。
空いた広い空間には、机椅子が円形に並べられ、教壇側の席に盟主・リュウショウが腰掛け、その左右に重臣たちの席がおよそ二十ばかりズラリと円を描いて並べられている。
だが、その重臣の席にいくつか空席が目立つ。その空席の多くは武官のもので、現在、チョウロとの戦闘など何かしら任務についているものは欠席している。
そして、ホーセーの同志、背の低い女生徒・チョーショーは、盟主・リュウショウのすぐ側に座っており、陣営内における彼女の地位が高い事を物語っている。
一方の片眼鏡の女生徒・ホーセーだが、彼女の席はその円の中には無く、円の外、リュウショウの真正面に席を増設して、そこに座らされた。
友人関係にある三人だが、陣営内での扱いには大きな開きがあり、会社でいうと役職持ちの正社員と派遣社員くらいには立場が異なっていた。
ホーセーはその円をグルリと見渡し、見つからないように静かにため息をついた。
(コウケンにリュウハもいますね……。
表情を見るに二人は反対派、おそらく反対派は他にもいるでしょう。残りはほぼ中立派。
賛成派はチョーショーくらいではないのか)
彼女は自分が今、圧倒的な劣勢に立たされていることを再認識されられた。そもそも、普段は会議にも参加させてもらえない立場。いつもの会議の様子さえロクに知らないのに、いきなり議題の中心になろうとはと、気を重くしていた。
(チョーショー、頼みますよ)
ホーセーが胸の内で祈っている間に、開始の時間となった。横にいた男子生徒がそれをリュウショウに伝えると、彼は開始の挨拶を始めた。
「では、これより会議を始める。議題は『チョウロへの対処についてリュービに助けを求めるかどうか』だ。
この件に先立ち、私はリュービ殿のもとに使者を派遣して挨拶させた。
ホーセー、使者の役目ご苦労であった。早速で悪いが、君の見たリュービ殿の人となりを教えて欲しい」
ついに始まったかとホーセーは重い腰を上げて立ち上がる。
(さあ、ここからが正念場だ)
西校舎から来た友好の使者・ホーセーから俺は思わぬお願いをされてしまう。
それは今いる西校舎の主・リュウショウを追い出し、俺・リュービに新たな西校舎の主となって欲しいというものであった。
「ダメだ。それはできない。
西校舎にはリュウショウ殿がおられる。それを敵対しているわけでもないのに奪い取るなんて……」
突然の申し出に俺は思わず断りを入れる。だが、西校舎からの使者、片眼鏡の女生徒・ホーセーは
俺の迷いの感情を読み取ったのか毅然とした態度で反論する。
「リュービ殿、それは違います。
リュウショウは既にソウソウと同盟関係にあり、かつては援軍を送った間柄です。敵の同盟者であるのならばそれはあなたの敵です」
「し、しかし…」
俺はロクに反論もできないまま口籠る。彼女の言葉には一理もニ理もある。ただそれに対して俺があるのは遠慮だ。相手のホーセーもそのことに気づいているのだろう。口籠る俺に対して彼女はさらに容赦なく言葉を重ねる。
「それにリュービ殿は先ほど、西校舎が加われば三方面からソウソウを攻めることが出来ると仰られました。それはつまり、西校舎を戦力として数えているということではありませんか?
西校舎攻略の計画が既にリュービ殿の腹中にあるのではありませんか?」
鋭い指摘を投げかけられる。彼女が天下三分の計の腹案まで知っているとは思えない。だが、彼女は一連のやり取りで自力で俺たちの方針を読み取った。先ほどから感じていたが、相手のホーセーはかなり頭の回る娘のようだ。地位までは聞いていないが、リュウショウの軍師だったりするのだろうか?
未だ迷う俺に対して、さらにホーセーは言葉を続ける。
「リュービ殿に今ここで決断していただければ、私はあなたに臣下の礼を取りましょう」
ホーセーのその真剣な眼差しがその言葉に嘘偽りがないとこを物語っている。何よりこの発言を録音でもされれば、彼女は西校舎での立場を失いかねない。彼女は自身の進退を賭けて俺に問いかけてきている。
だが、それだけの重さがあるからこそ俺は余計に迷う。その俺の躊躇する様を見て、左隣のホウトウがコソッと俺の耳元で囁いてきた。
「リュービさん、以前に申し上げたはずでございましょう。小義のために大義を失ってはならぬと。
リュービさんも一度はそれを受け入れたはずでござんすよ」
ホウトウはかつて俺の西校舎へ侵攻することの迷いを見抜き、大義のために西校舎を取れとアドバイスをしてくれた。そして、その時に確かに俺は一度、西校舎侵攻を決断した。
「わかっている。だけど、まさか向こうから提案してくるなんて思わないじゃないか」
まさか、こんなにも早く、それも向こうから提案してくるとは思わなかった。その突然の迷いもあれば、準備不足による不安もある。それが今の戸惑いとなって現れていた。
その様子を察して、今度は右隣のコウメイが耳元で伝えてきた。
「リュービさんが躊躇するのは、ただ困惑しているからです。落ち着いて考えれば何が最良かわかるはずですよ。
それとも私たちが左右にいてまだ不安に思うことがありますか?」
何故、左右から二人の少女に耳元で囁かれているんだろうか。
それはともかく、確かに既に一度決めたことをここで再び迷っていても仕方がない。そして、今の俺には臥龍・鳳雛の二軍師がついている。不安に思うことだって何もないはずだ。
俺は意を決し、ホーセーの意見に賛同した。
「わかった。
ホーセー、君の申し出を受け入れよう」
その俺の言葉にホーセーは安堵と歓喜の色を浮かべ、頭を深々と下げてお礼を述べてくる。
「お受けいただきありがとうございます。
それではこのホーセー、お約束通りこれよりリュービ様の配下となりましょう」
その言葉に俺も応える。
「ホーセー、君の忠義は受け取った。君を家臣として迎えよう。
だが、これだけは覚えていて欲しい。
確かに君の言う通り、俺たちは西校舎を攻略する計画はあった。
だが、決して力づくで奪い取ろうというつもりではなかった。それはわかって欲しい」
俺はそう忠告した。確かにソウソウと戦うためにも西校舎は必要だが、それはただ土地を得れば良いというものではない。むしろ、西校舎を丸呑みにするような戦略が求められる。
だが、その忠告はホーセー相手には杞憂であったようだ。
「それは先ほどのリュービ様との会話でよくわかっております。リュービ様が求めるのはあくまでも協力者、同志としての仲間でしょう。支配者として君臨するのは望まぬことでありましょう」
ホーセーのその智力と決断力はこの度の話し合いで充分見せてもらった。もしかしたらこの娘はコウメイ・ホウトウに並ぶ第三の軍師にもなるかもしれない。
「ホーセー、やはり君は賢者のようだ。
君を見込んで尋ねたい。それを踏まえた上で西校舎の攻略はどのようにすれば良いと思うか?」
俺の問いかけに、ホーセーは喜んで答えた。
「リュービ様の家臣として私の初仕事ですね。
それでは、申し上げます。
今、西校舎では天敵・チョウロを倒してくれる勢力を探しております。
これに私たちがリュービ様を推薦いたしますので、リュービ様は応じるフリをして西校舎の内部に侵入してください。そこでチョウロと戦うと見せかけながら、内部からリュウショウの配下を口説いて仲間に引き入れていってください。
西校舎の土地を攻めるより先に人を攻略するのです。そうすればリュウショウは何も出来ずにリュービ様に西校舎を譲ることになるでしょう」
なるほど、内部事情を知っているホーセーならではの策だ。これにはコウメイ、さらにホウトウも賛成する。
「リュービさん。これは悪くない策だと思います。外からいきなり攻めかかるよりも、相手を説得するだけの時間が稼げますから、こちらの被害も少なくできるかもしれません」
「それに万一、西の盟主と戦争になっても、内と外から二方面で迎え撃つことが出来るでござんす」
ホーセー、コウメイ、ホウトウの三賢者の意見だ。これ以上にない太鼓判といえる。
「なるほど、ホーセー、君の策はわかった。
だが、まずそのためにはリュウショウを説得しなければいけない。それは出来そうか?」
「私だけでは説得は難しいかと思います。
しかし、西校舎にはチョーショー、モウタツという二人の友人がおります。この二人と協力すれば説得も可能かと思います。
なので、この二人にリュービ様の真意を伝える許可をいただきたい」
「わかった。許可しよう。
では、ホーセー。君は早速、西校舎に戻り、まずはその二人の友人を仲間に引き入れてくれ。そして、チョウロ討伐の任務を俺に頼むようリュウショウを説得してくれ」
「承りました。では、至急西校舎に戻りたいと思います」
西校舎の使者から一転、俺の新たな家臣となったホーセーは、急ぎ西校舎へと戻っていった。
西校舎・リュウショウ陣営~
西校舎と南校舎は隣り合っている。片眼鏡の賢者・ホーセーが西校舎に戻るのにそう時間はかからなかった。
西校舎に戻ったホーセーは、真っ先に同志・チョーショーらの元を訪ねた。
「おお、ホーセー、帰ったか。どうであった?」
まず、彼女を出迎えたのは、やたらと背の低い、瓶底のようなメガネをかけた女生徒・チョーショー。そして……
「同志よ戻ったか。待ちわびたぞ」
肩まで伸びた茶髪に、切れ長の目、近代的な黒い軍服を纏った男子生徒。チョーショー・ホーセーのもう一人の同志・モウタツであった。
この二人に出迎えられ、ホーセーは早速、興奮気味にリュービの話を切り出した。
「二人とも揃っているのならちょうど良い。
リュービ様は私たちが考えるよりもずっと大器であった。あの御方ならば、ソウソウを撃ち破り、この学園に安寧をもたらしてくれるだろう。
私はリュービ様に対して臣下の礼を取ってきた。君たちも是非、リュービ様の陣営に加わって欲しい」
普段、冷静なホーセーが興奮混じりにそんな事を言うものだから、二人は大いに驚いた。
長い茶髪の男子生徒・モウタツが、まず彼女に尋ねた。
「その場で臣下の礼とは、君らしくもない随分、性急なことをしたじゃあないか。それではチョーショーのことをせっかちとは責められないぞ」
モウタツは少々、苦笑いしながらの反応であったが、もう一人の同志・チョーショーもホーセーの興奮に同調した。
「いや、しかし、あの皮肉屋のホーセーがここまで見込んだ相手だ。
いいだろう。君の眼を信じて、私もリュービ殿の傘下に入ろう」
そうなると事態は二対一だ。モウタツはヤレヤレといった様子で答えた。
「チョーショー、君もかい?
ならば、俺一人反対してもつまらない。元々、同志として仲間に加わったのだ。良いだろう、俺も君たちの一味に加わろう」
少々嫌味になったが、彼も二人の智謀を高く評価する一人だ。元々、反対する気もなかった。
その二人の反応にホーセーは喜んだ。
「チョーショー・モウタツ、よく決断してくれた。
ならば、話は早い。それで、チョウロ討伐を誰かに委任する権は何処まで話が進んでいる?」
これは背の低い女生徒・チョーショーの担当であった。だが、チョーショーは苦い顔をして答えた。
「それが思わしくない。
私は会議の席でリュービ殿を推薦したのだが、どうも他の者たちからの反発が思いの外大きい。結局、話は平行線となり一度お開きとなった。
この後、また会議が開かれる。ホーセー、君も会議に出席し、リュウショウを説得して欲しい」
「末席の私の意見では聞かないのではないか?」
チョーショーにそう頼まれて、片眼鏡の女生徒・ホーセーは皮肉混じりにそう答えた。だが、そんな事はお構いなしに、チョーショーは強引に彼女に詰め寄った。
「君はリュービと直に接触している。その分の説得力がある。
それに全員を説得させる必要はない。リュウショウ一人にターゲットを絞り、とにかく彼の心を動かすんだ」
結局、チョーショーに押し切られる形で、ホーセーはリュウショウ陣営の幹部会議に出席することとなった。
西校舎の美術室は校舎のほぼ真ん中に位置している。一般的な教室に比べて随分、広い面積の一室だ。リュウショウ陣営では、この一際広い美術室を拠点とし、有事には会議室として利用していた。
一応、普段の美術の時間などにも用いられているはずだが、教材や作品の多くは片付けられ、教室の隅にいくつか確認できる程度となっている。
空いた広い空間には、机椅子が円形に並べられ、教壇側の席に盟主・リュウショウが腰掛け、その左右に重臣たちの席がおよそ二十ばかりズラリと円を描いて並べられている。
だが、その重臣の席にいくつか空席が目立つ。その空席の多くは武官のもので、現在、チョウロとの戦闘など何かしら任務についているものは欠席している。
そして、ホーセーの同志、背の低い女生徒・チョーショーは、盟主・リュウショウのすぐ側に座っており、陣営内における彼女の地位が高い事を物語っている。
一方の片眼鏡の女生徒・ホーセーだが、彼女の席はその円の中には無く、円の外、リュウショウの真正面に席を増設して、そこに座らされた。
友人関係にある三人だが、陣営内での扱いには大きな開きがあり、会社でいうと役職持ちの正社員と派遣社員くらいには立場が異なっていた。
ホーセーはその円をグルリと見渡し、見つからないように静かにため息をついた。
(コウケンにリュウハもいますね……。
表情を見るに二人は反対派、おそらく反対派は他にもいるでしょう。残りはほぼ中立派。
賛成派はチョーショーくらいではないのか)
彼女は自分が今、圧倒的な劣勢に立たされていることを再認識されられた。そもそも、普段は会議にも参加させてもらえない立場。いつもの会議の様子さえロクに知らないのに、いきなり議題の中心になろうとはと、気を重くしていた。
(チョーショー、頼みますよ)
ホーセーが胸の内で祈っている間に、開始の時間となった。横にいた男子生徒がそれをリュウショウに伝えると、彼は開始の挨拶を始めた。
「では、これより会議を始める。議題は『チョウロへの対処についてリュービに助けを求めるかどうか』だ。
この件に先立ち、私はリュービ殿のもとに使者を派遣して挨拶させた。
ホーセー、使者の役目ご苦労であった。早速で悪いが、君の見たリュービ殿の人となりを教えて欲しい」
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