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第6部 西校舎攻略編

第110話 亀裂!君臣の絆!

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 中央校舎・ソウソウ陣営~

「おう、ソウジン、戻っていたのか」

 廊下を歩くだいだい色の髪の見知った男子生徒を見つけ、ツンツンヘアーにアゴヒゲを生やした、隻眼せきがんの男・カコウトンが話しかけた。



 カコウトンもソウジンも同じソウソウの親族でよく知った仲だが、今やカコウトンは軍の副司令、ソウジンも南軍司令官と忙しく、直接顔を合わせるのは久しぶりであった。

「おお、カコウトンか。

 いや、“隻眼鬼せきがんき”と呼んだ方がいいのかな」

 声をかけられた中性的な顔つきの男子・ソウジンはからかい気味にそう返した。



「勘弁してくれ、その恥ずかしい二つ名で呼ぶな」

 “隻眼鬼せきがんき”、この陣営の主・ソウソウが新たにカコウトンにつけた二つ名だ。

 ソウソウから二つ名を貰うのは名誉なこととわかっていながらも、その中二臭い名前にカコウトンは少々、恥ずかしく感じていた。

「その二つ名で呼ぶならお前は…“剛毅ごうきなるソウジン”だったな。

 “剛毅ごうきの”とでも呼べばいいのか」

「それは無理に呼ばなくていいんじゃないか」

 ソウジンは強引にやり返すなよと言いながらも、内心、自身の二つ名がカコウトンの二つ名・“隻眼鬼せきがんき”より言いにくくて良かったと、ホッと胸をで下ろしていた。

「あら~、ソウジンにカコウトン、こんなところで会うなんて奇遇きぐうね。

 何、口喧嘩くちげんかでもしてんの?

 なんなら私が相談に乗ってあげるわよ。

 このみんなのアイドル、ソウソウ十傑衆じっけつしゅうの一人・“舞姫まいひめ”ソウコウがね♡」



 カコウトン・ソウジンの二人の前に飛び込んできたのは、ツインテールのピンク髪に、少し幼げな顔つきの女生徒、同じく親族のソウコウであった。

 新しく得た称号にまだ照れのある二人に対し、ソウコウはご機嫌な様子でアピールをしている。

「さすが二つ名を自分で決めただけのことはあるな」

「お前の図太さだけは尊敬するよ」

 あきれて皮肉をしゃべる二人の言葉も、上機嫌なソウコウはそのままめ言葉として受け取って、さらにご満悦まんえつな表情になっていった。

 これより少し前、ソウソウは自身の武将の中から優れた者を十人選び、“隻眼鬼せきがんき・カコウトン”、“剛毅ごうきなるソウジン”、“舞姫まいひめ・ソウコウ”などの二つ名をつけ、ソウソウ十傑衆じっけつしゅうに任命した。



 中央校舎・生徒会室~

「ソウソウ十傑衆じっけつしゅう…我ながら名案であったかな」

 座の中心に鎮座ちんざし、得意気に呵呵かかと笑う女生徒は、赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、背はそこまで高くはなく、スラリとしたモデルの様な体型に、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートと露出の多い服装で、その膝元には愛猫あいびょう絶影ぜつえいがゴロゴロとのどを鳴らし、まどろんでいた。



 彼女こそ、この学園の生徒会長にして、この陣営の主・ソウソウであった。

 その生徒会長・ソウソウを会議の中心に、その周囲を四人の謀臣が列席していた。

 ソウソウの自画自賛ともとれる発言に、謀臣の一人で、彼女の側に座る、髪をおさげに結い、地味めな眼鏡をかけた、おっとりした雰囲気の女生徒、彼女の参謀の一人・ジュンユウが答える。



十傑衆じっけつしゅうですか…

 ソウソウ会長が赤壁での悲劇に見舞われ、らいでしまった威信を少しでも補強し、未だ最強のソウソウ軍は健在だと喧伝けんでんするねらいでしたね…

 申し訳ありませんが、あまり広まっているようには見えないのですが…」

 ジュンユウの指摘にも、ソウソウは含み笑いをまじえながら返す。

「赤壁の敗北をごまかすだけではないぞ。

 任命された者にはほこりが生まれ、任命されなかった者にも目指す目標ができる。

 うちの武将たちの戦意高揚こうようにもなっている。

 なあ、“虎児こじ・キョチョ”」

 ソウソウは後ろに振り返り、背後にひかえる小柄な空手着姿の女生徒、彼女の護衛・キョチョへ話を振る。

 ソウソウ軍屈指の怪力無双の彼女にも、“虎児こじ”の二つ名を与えられていた。

「ハッ!

 私も十傑衆じっけつしゅうに加えていただき、感激しております」

 キョチョの力強い返答に、ソウソウは満足して前へと向き直った。

 だが、その満足気なソウソウのすぐ横に座る少女は、対象的に不満気な様子であった。

 そのショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な少女、ソウソウの右腕・ジュンイクはいつもより怒気どきふくんだ口調で話し始めた。



「ソウソウ会長、十傑衆じっけつしゅうなんてのは瑣末さまつなことです!

 それよりも、それ以上に我らはこの赤壁の敗戦という事実を重く受け止める必要があります!」

 いかに払拭ふっしょくしようとしても、赤壁においての敗戦という事実は消えてなくなりはしない。

 リョフを倒し、エンジュツを蹴散けちらし、エンショウをやぶり、リュウヒョウをくだして、ソウソウは自身の最強神話を作り上げていった。

 後は意地で戦うリュービ一人、そのはずであった。

 だが、リュービはソンケンを戦場に引きずり出し、赤壁でソウソウを破った。

 ソウソウの最強神話の崩壊である。

 ただ、敵がリュービに加えてソンケンが増えただけではない。

 ソウソウの最強神話にかげりが出た以上、これまで面従腹背めんじゅうふくはいを続けていた有象無象うぞうむぞうの勢力が、野心をもたげてソウソウへきばを向けるかもしれない。

 既にその芽は学園のあちこちで息吹いぶき始めていた。

 ジュンイクのこの意見に対し、身長190㎝の長身に、セミロングの茶髪、ツリ目の女生徒、参謀・テイイクがいつもの気の強さを隠して、申し訳無さそうに答える。



「赤壁は我らがやはり止めるべきでした」

 それに続けるように、Tシャツに黄色のパーカー、ショートパンツ姿の、首にヘッドフォンをかけた細身で背の低い少女、参謀・カクも答える。



「ソンサクならともかく、チュー坊、いや、ソンケンが逆らうのは予想外でしたね。

 伝え聞く話では、あまり選挙戦に興味のない少年とのことでしたが」

 彼女もまた、テイイクほどではないが、いつもの不敵さは消え、幾分いくぶんか大人しい様子であった。

 彼女たちもまた、赤壁に同行していた手前、この敗戦には責任を感じずにはいられなかった。

 いつもの二人の元気の無さを感じ取り、おさげ髪の参謀・ジュンユウは代表するようにソウソウへ提案を述べた。

「ソウソウ会長、やはりソンケンには何かしら対策を講じる必要があると思われます」

「ああ、そうだな、ジュンユウ。

 確かにこの度のソンケンの手際は見事であった。

 南校舎への采配は熟練者じゅくれんしゃの手並みのようであった。

 北部への侵攻を見るに、自身の指揮能力はまだ未熟なようだが、早めに芽はんでおくべきかもしれんな」

 ソンケン、東校舎の群雄・ソンサクの弟で、姉の入院を受け、急遽きゅうきょ、東校舎の盟主となった。

 だが、今回の赤壁の勝利で、ソンケンがただの急場しのぎの代役ではないことが証明された。

 ソンケンの実力は認めねばならんなと思いつつも、ソウソウの頭の中は、もう一人の敵の名の方が大きく占められていた。

「だが、やはり赤壁の最大の立役者はリュービであった」

 このソウソウの発言に、参謀一同の間に一瞬にして緊張が走る。いや、正確には一人の表情がみるみる強張こわばり、その変化を感じ取った周囲に緊張が走っていた。

 だが、この空気を広げまいと、ジュウユウは平静をよそおい、落ち着いた口調で話しかけた。

「リュービ…確かに未だ油断ならぬ者ですが、ソンケンをえる程の脅威ではないかと」

「何を言う。

 あの状況下で誰が奴の逆転を予想できた?

 あの絶望的な状況で、奴は逃げ延び、ソンケンを戦場に連れ出し、ついに盤面をひっくり返し、群雄へと返り咲いた。

 さすがは私のリュービだ。

 見事だ、リュービ。

 私は惚れ直したよ」

 まるで惚気のろけるように話すソウソウに、座の緊張はさらに増す。そちらに話を運んでくれるなと願いながらジュンユウは修正をかける。

「ソウソウ会長、それはリュービへの個人的な恋慕れんぼからくる贔屓目ひいきめでしょう。

 今はソンケンの脅威を…」

「そうではない。私こそがリュービを正当に評価している」

「それが問題なのです!!!」

 そのあまりの大音声に、一同はシンと静まり返り、一呼吸おいてから一斉に声の主へと視線を移した。

 その声の主は誰あろうジュンイクであった。

「あなたがリュービを買いかぶり、塩を送り、その結果がこの敗戦です。

 この度の赤壁の敗戦は、ソウソウ会長!

 あなた自身が招いたことです!」

 普段からは考えられない怒声に誰もが口を開くことを躊躇ちゅうちょする。そんな空気の中、ジュンユウは内心、ついに爆発してしまったかと思いながらも、ジュンイクを止める役目は親族である自分であろうとやむなく止めに入る。

「イク姉さん、そんな大声を上げられてどうされなのですか」

「どうされたではありません!

 赤壁のような敗戦は二度とあってはならない以上、その総括そうかつは決して避けては通れません。

 そしてその原因はソウソウ会長、あなた自身にお有りです!」

 そう言い放つジュンイクの目は真っ直ぐに、らすこともなく、ソウソウに注がれていた。

 ソウソウの戦争責任、その追求は避けられないものと皆どこかでわかっていながらも、その直接の言及は誰もが避けていた問題。

 むしろ、ジュンイクでなければここまで直接的な物言いは出来なかったかもしれない。それだけに他の参謀一同は、ひとまず口をつぐむしかなく、ジュンイクの独擅場どくせんじょうとなった。

「私は入学当初、この学園の全ての生徒を見て回りました。

 その中でリュービは特に目立ったところのない男子生徒でした。

 後にカンウ・チョーヒの仲間にはなりましたが、それでもリュービ個人は平凡な男でした」

 ジュンイクの語るリュービ評は、入学当初の彼を知る者なら多くが抱く感想であっただろう。

 だが、そう思わなかった者たちもいた。その最たる者がここにいるソウソウであった。

「だが、リュービは成長した。

 その成長が私の想像を上回っていたのだ」

「あなたが育てた!

 あなたの最大の敵は、あなた自身が育てたものだ!」

 ソウソウの言をなじるように、ジュンイクが反論する。

「私はソウソウ様こそ会長に相応しいと見込み、あなたを会長にしたいと申し出た。

 そして、あなたもその申し出に応じ、会長になることを望んだ。

 しかし、あなたは不敵に笑いながら、御自身でリュービに入れ込み、育て上げ、最大の敵にしてしまった。

 今やあなたの去就きょしゅうはあなた一人の問題ではない。

 それなのに、あなたは自身の快楽で、最大の敵を生み出し、我が陣営に最大の被害を与えた…」

 そう言うジュンイクはさらにソウソウへと詰め寄り、続けて発せられた言葉に、周囲は耳を疑った。

「ソウソウ会長…

 あなたはもはや、生徒会長に相応しくない!」

「イク姉さん!

 それは言い過ぎです!」

 そのジュンイクのあまりの発言に居並ぶ群臣は驚き慌て、ジュンユウを始めテイイク・カクらも冷や汗をかきながら、ジュンイクを必死になだめた。

 さすがのジュンイクも言い過ぎであったことを察して、ソウソウに頭を下げた。

「すみません。先ほどの言葉は失言でした」

「私もかつて失言をして、忘れるようお前に言ったことがあったな。

 わかった、先ほどの言葉は忘れよう」

「ありがとうございます。

 では、今後の対外勢力への対処について話し合いましょう」

 ソウソウがジュンイクの謝罪を受け入れたので、先ほどのジュンイクの発言は大事にならずに済んだ。周囲も先ほどの話題に戻らないよう、次の話題への神経を集中させた。

 テイイク・カクらは無意識に早口になりながらも、状況の分析を行い始めた。

「やはり最大の敵はソンケン・リュービ」

「ですが、リュービの領土獲得に対し、ソンケンは怒りをあらわにしていると聞きますね」

 その意見にソウソウが私見を述べる。

「今後、両者の関係が親密になるとは思えない。

 共同戦線はあの赤壁の一戦のみだろう。

 ならば南校舎の奥地に引っ込むリュービより、勢力も大きく、我らと領地を接しているソンケンを優先して対処を講じるべきだろう」

 それにジュンイクは追加で情報を出す。

「加えて中央校舎の東南部で再びチンランらが反乱を起こしたようです。

 彼らはソンケンやリュービより寡勢かせいですが、我らの領地に食い込んでいる分、対処は早めにすべきでしょう」

「チンラン・バイセイ・ライショらは小規模とはいえ群雄の一角、武将一人二人派遣したのでは対処は難しいだろうな。

 ましてや奴らの拠点は守りやすく攻めにくい。

 だが、赤壁以降の我らの逼迫ひっぱくした状況をかんがみれば大規模な征討軍を組織するのも難しい。

 なにより背後だ…リュービ・ソンケン、どちらがより支援をしているか」

「位置関係からみてもソンケンでしょう」

 このジュンイクの発言に、ソウソウは少し考えを巡らし、軍の配備を指示する。

「よし、既に近くに布陣しているカコウエンをそのまま反乱征討軍の指揮官とする。

 副将はウキン・チョーリョー、チョーコー…うーん、東部防衛軍からゾウハ、後はカコウトンのところのシュガイ・インショをつけよう」

 ウキン・チョーリョー・チョーコーはともかく、東部防衛軍のゾウハやカコウトン率いる中央防衛軍で兵力を補うあたりにソウソウ軍の苦しい台所事情をのぞかせていた。

 だが、それでも問題には対処をしなければならない。

「ソンケンには如何様いかように?」

 そのジュンイクの言葉に、ソウソウは力強く答えた。

「それには私自らが牽制けんせいに当たろう」



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