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第6部 西校舎攻略編
第107話 集結!リュービ陣営!
しおりを挟む学園の最大勢力となったソウソウにはもはや敵なしーーー学園の大多数はそう思っていた。
俺たちリュービ軍は、リュウヒョウとともにソウソウの支配に抵抗しようとした。だが、リュウヒョウは開戦直前に病に倒れ、俺たちはソウソウの攻撃を振り切り、なんとか命脈を保つ有様であった。
その状況を変えたのは新たな仲間、軍師・コウメイであった。
彼女は東校舎の雄・ソンケン(チュー坊)を説得し、同盟を締結。彼らと協力してついに宿敵・ソウソウを撃ち破った。
―赤壁の戦い―
この勢力図を一夜にして塗り替えた俺たちの勝利を人々はそう呼んだ。
そして、この勝利により、今までリュウヒョウが治め、一度はソウソウに占領された南校舎は三分割されることとなった。
南校舎北部は以前、ソウソウの勢力下にあり、一度敗北したとはいえ、北校舎・中央校舎の領土も加え、最大勢力を維持していた。
中央部はソンケン軍が攻略し、その総司令官としてシュウユが駐屯して、北部のソウソウ軍と睨み合っていた。
そして、南部は俺たちリュービ軍が手に入れ、ついに念願の領地を得ることとなった。
「…と、言うのが、今の俺たちリュービ陣営の状況だな。
長らく放浪や客将を繰り返していたが、ようやく領地を手に入れ、群雄と言えるだけの勢力に返り咲くことができた。
だが、一度破ったとはいえ、ソウソウとは今尚、圧倒的な戦力差があるし、南校舎南部を事後承諾で手に入れたために、同盟相手のソンケン陣営には快く思わない者もいる」
そう、俺、この陣営の盟主を務めるリュービが説明するように語り終わると、息を整えてみんなの方へ振り返った。
「南部占有の件は仕方ないことです。
このままシュウユ軍に任せていては、また、リュービさんは以前のように客将として扱われ、いつまでも群雄として名乗りを上げられない事態となっていたでしょう。
背に腹は代えられません」
そう言って俺を慰めるように発言してくれるのは、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきに、透き通るような白い肌、背は低く、とても華奢な体つきの美少女であった。
彼女こそ、俺の新たな軍師にして、俺を客将から群雄まで引き上げてくれた影の立役者・コウメイである。
俺は彼女の提唱する天下三分の計、すなわち、この学園の天下を、俺・リュービ、ソウソウ、ソンケンの三勢力で分割し、一度戦力を拮抗させてから、勝利するという策を採用し、その第一歩として南校舎の南部を奪取した。
「そうです兄さん、コウメイさんの言うとおりです。
あのままシュウユさんの侵攻軍に任せていては、私たちは以前のように教室の一角に押し込められ、いいように使われるだけでした」
そう言って会話に加わるのは、スラリとした長身に、そのくびれた腰にまで届く長く美しい黒髪をたたえた、お嬢様のような雰囲気の女生徒、このリュービの義妹の一人・カンウであった。
うちの陣営の一番の古参でもある彼女は、俺たちのこれまでの苦難を誰よりもよく知っている。
群雄未満の俺たちはあちらについたと思えばこちらにつき、こちらにつけばまたあちらへと、まるで傭兵のように勢力を渡り歩き、一度は群雄として独立したものの、また流れ流れてリュウヒョウの客将となった。
途中、カンウと俺とが対立することもあったが、それでも最後は俺を選んでついてきてくれた。
その彼女からすれば、ようやく群雄として独り立ちできた今の状況への感慨もひとしおなのだろう。
「なにはともあれ、これで兄さんもソウソウさんやソンケンさんと肩を並べることができましたね」
そう言いながらカンウは俺の手を取った。
彼女は気品を漂わせた満面の笑みを浮かべ、その一連の仕草に俺は思わずドキリとする。
「ああ、これもカンウたちのおかげだよ。
本当にありがとう」
「そんな…兄さん。
私は義妹として当然のことをしたまでです」
「ちょっとリュービ先輩!
何、カンウお姉様といい雰囲気になってるんですか!」
俺とカンウとの間に割って入るように現れたのは、カンウより少し短めの長い黒髪に、緑色のリボンをつけた、少し小柄な女生徒、カンウの妹分・カンペーであった。
「カ、カンペー、これはそういう意味では」
カンウは慌てて俺の手を放すが、なおもカンペーは食い下がる。
「お姉様の清らかな御手は野蛮な男を倒すためにあるんです!
そんな恋愛映画みたいな雰囲気は似合いません!」
「カンペー、あなた結構私に酷いこと言ってる自覚ありますか?」
「やい、カンペー!
カンウの姐御が困ってるだろうが!
姐御の淡い恋も応援するのが弟子の役目だ!」
「シューソー!
あなたも余計なこと言わないでください!」
カンペーを引き離そうとやってきた、カウボーイハットをかぶった、ツンツン頭の小柄な男子生徒、自称カンウの弟子・シューソーであったが、一言多かったために返って怒られてしまった。
最初はたった三人の旗揚げだったが、今ではカンウにもカンペーという妹分と、シューソーという弟子が加わった。
思えば大所帯になったものだと物思いに耽っていると、俺の隣に小柄な少女が歩み寄ってきた。
「アニキー、カン姉と仲深めるのもいいけどよ、オレのことも忘れないでくれだぜ」
「もちろん、俺がチョーヒのことを忘れるわけないだろ」
その小柄で、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けた、元気そうな雰囲気の少女、俺とカンウの義妹・チョーヒは少し甘えた表情で俺の足元に寄ってきた。
俺が自分の言葉に合わせてチョーヒの頭を撫でると、チョーヒは満足したようで、ニカッと八重歯を見せて笑い返した。
「もう、チョーヒちゃんたら。
そんなに寂しいならリンがいるのに!」
「げっ!リン!
お前はお呼びじゃないんだぜ!」
チョーヒに飛び付くように寄ってきたのは、目をハートに輝かせた、薄い桃色の長い髪に、花の髪飾りをつけた女生徒・カコウリンであった。
彼女はソウソウの親戚ながら、チョーヒに惚れ込んで俺の陣営に加わった。
同性だろうが、拒絶されようが構わずグイグイくるところはさすがソウソウの親戚といったところだが、チョーヒも彼女の求愛にうんざりしながらも、仲自体は悪くなく、今はチョーヒの部隊の補佐官を務めている。
「カンウもチョーヒも今じゃ一部隊を率いる指揮官だもんなぁ」
部下?に慕われる二人を見ながら、俺はしみじみとそう呟いた。
先の南校舎占領戦にて、カンウ・チョーヒの二人はシュウユ軍に加わり、最前線でのソウソウ軍との戦いに参加していた。
シュウユ軍とソウソウ軍との戦いは膠着状態に入ってはいるが、現在も続行中であり、本来なら俺とソンケンが同盟を組んでいる関係上、カンウ・チョーヒも俺のもとに勝手に戻すことはできない。
だが、俺が南校舎南部を占領して募兵すると、予想以上に兵が集まってきた。
おかげでシュウユ軍へ派遣する兵の補填も出来、代わりにカンウ・チョーヒをこちらに戻すことができた。
今、この二人にはこちらの陣地の最前線の防衛の任にあたってもらっている。
うちの陣地の北隣というと同盟相手のシュウユ軍の駐屯地となるが、ソンケンにしろシュウユにしろ、俺たちが事後報告で南校舎南部を占領した件を快く思ってはいない。
いつ同盟関係が崩れるかわからないし、ソウソウ軍がシュウユ軍を蹴散らしてさらに南下してくる可能性もある。
北の守りは特に重要といえることから、うちの二枚看板であるカンウ・チョーヒに任せることとなった。
「今のリュービ軍にはカンウ、チョーヒばかりじゃないよ。
この僕、チョーウンを忘れないでね」
自身の胸を軽く叩きながらそう話すのは、野球帽を目深にかぶった、ジャージの上着にスパッツ姿の女生徒・チョーウンであった。
「ああ、チョーウン。
君にも随分助けられているよ」
チョーウンは、カンウ・チョーヒに勝るとも劣らない武勇の持ち主だ。
俺の陣営が弱小ながらも生き残ってこれたのはこのカンウ・チョーヒ・チョーウンの三人がいたからと言っても過言ではないだろう。
カンウ・チョーヒに最前線の防衛を任せているのに対し、チョーウンには領地内の治安維持のための警備を担当してもらっている。
おかげで今のところ特に大きな反乱もなく、南校舎を統治できている。
「今はわしもおることも忘れんでおくれよ。
このコーチュー、武芸の腕なら他の者に引けをとらんぞ」
続いて現れたのは、長い銀髪を三つ編みに結び、カンフー風の道着を着た、大人びた容姿に背の高い女生徒、新たに俺たちの陣営に加わったコーチューだ。
彼女もまた、カンウと互角に渡り合うほどの強者だ。元はリュウヒョウの従兄弟・リュウバンの部下であったが、赤壁の戦いでリュウバンがやられると、俺たちの陣営に加わることとなった。
彼女にはそのままリュウバンの率いていた部隊を預け、遊軍として待機してもらっている。
もちろん、敵の侵攻や内部の反乱があれば救援に赴いて活躍してもらうが、それだけではない。
俺は南校舎の南半分を手に入れたが、それだけではとてもソウソウには太刀打ちできない。対抗するためには新たな領地を…隣にある西校舎をなんとしても手に入れなければならない。
そのために防衛とは別に攻撃部隊を用意しておく必要がある。コーチューも今は遊軍だが、近い将来、西校舎攻撃部隊の一翼を担ってもらうつもりだ。
我が軍の戦力といえば、このカンウ・チョーヒ・チョーウン・コーチューの四名が今は主力だろう。
他に高い戦力を持つ者だとリョフがいる。
腰まで伸びたポニーテールに紅のリボンをつけ、深いスリットの入った長いスカートをはいた長身の女生徒・リョフは、かつては学園最強の生徒として知られていた。だが、今は戦いに敗れ、戦闘を禁止されている上に、本人も戦いを嫌い、進んで戦うことはなくなった。
それでも、ソウソウの追撃に遭い、絶体絶命の危機に陥った時には、般若のお面をかぶって正体を隠し…まあ、バレバレだったが、チントーと名乗って助けてくれた。
一応、今もチントーの名義で加わってくれているが、それでもやはり、戦いは好まないようなので、彼女の意思を尊重して、俺の親衛隊の隊員として必要に応じて活動してもらっている。
そして、親衛隊の隊長には、俺の先輩でもあるコウソンサンに就いてもらうことにした。
この二人が俺の身近で警護することにカンウ・チョーヒは難色を示したが、他にも隊員はいるからとなんとか話をまとめることができた。
かつては群雄として活躍していたコウソンサンの指揮能力と、リョフの戦力に守られれば、これ程安全なことはないだろう。
この他に先の戦いで、俺の弟分となったリュウホウも親衛隊に加えている。彼については今は一隊員だが、そのうち部隊を預け、武将として活動してもらうつもりだ。
そのための兵力も、この度の募兵でかなり集めることができた。リュウホウに一部隊預けてもまだおつりがくるだろう。この兵力で西校舎の攻撃部隊を編成するのが、俺の直近の仕事ということになる。
「リュービさん、そのためには集まった方々、全員の面接をしないといけません」
我らが軍師少女・コウメイは俺の方にグイと顔を向けて、力強くそう言った。
「そうだな。部隊を編成するためにも全員の面接を…全員?
全員って今回の募兵で集まってくれた生徒は二百人くらいいるけど、全員を面接?」
「そうです!全員です!」
コウメイはこちらをまっすぐ見据えて、なお力強くそう答えた。
「今回はただ人を集めただけではありません。
このリュービさんの陣営の次期主力候補を育てるためでもあるんです。
今回集めた人の中からリュービさんのお眼鏡に適った人を部隊長に就け、経験を積ませてゆくゆくは武将へと昇格させる必要があります。
私が文官を担当するので、リュービさんは武官の方全員を頼みます」
「えーと、他の人と分担していいかな?」
「ダメです!
これはリュービさんの率いる戦力なんです。
リュービさん自身が判断する必要があります。
なにより、この陣営で最も経験豊富な指揮官は他でもないリュービさんご自身なんですから」
「はい…」
最近、コウメイの俺への当たりが一層強くなった気がする。軍師としてはこれでいいのだろうし、最初の頃より俺に慣れてくれたということなんだろうが、少し前まで人見知りでおどおどしてたとはとても思えない…
「そうだよ、人見知りだよ。
コウメイ、人見知りなのに文官の面接なんてやって大丈夫なの?」
「う…それは…
私は裏に控えて、表向きの面談はゲツエイちゃんに頼もうかと…」
ゲツエイは、コウメイの友人で発明好きの女の子だ。
コウメイは慣れた相手なら気兼ねなく話せるが、初対面の相手は苦手としている。ゲツエイがそれを補ってくれるなら良い友人関係だろう。
「それなら大丈夫だね。
さて、文官の面接はコウメイとゲツエイに任せて…俺は武官約二百人の面接か。
これは大変だなぁ」
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