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第5部 赤壁大戦編
第103話 論戦!未開の大地!
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南校舎・シュウユ本陣~
赤壁の戦いにて宿敵・ソウソウを破ったリュービ・シュウユ連合軍だが、肝心のソウソウには後一歩のところで逃げられてしまった。
そして舞台は渡り廊下から南校舎へと移り、シュウユの陣に俺・リュービと軍師・コウメイが招かれ、今後の展開を巡って新たな作戦会議が開かれようとしていた。
「よく来られました、リュービさん、それにコウメイさん。
おや、リュービさん、その顔のアザはどうされたんですか?」
「あ、ああ、ちょっと戦場でね。
ハハハ…」
まず会議の口火を開くのは赤壁の勝利の立役者、長い金髪に整った顔立ちのゴスロリ風の衣裳を身に纏ったこの軍の総司令官・シュウユである。
「皆さんの活躍のおかげでソウソウ軍を赤壁にて破ることができました。
しかし、残念ながらソウソウ本人には逃げられてしまいました。
これ以上追撃してもソウソウを捕らえることは難しいでしょう。
なので、これより作戦を第二段階へと移します。
ここでソウソウ追撃は止め、この南校舎占領へと目的を切り替えます」
そのシュウユの言葉に応じ、軍師・ロシュクが南校舎の図面を拡げ、説明を始める。
「この南校舎は大きく北部と南部に別けられますな。
リュウヒョウの勢力は北部を中心にしており、南部の支配は不完全でした。
またリュウヒョウの活動拠点であった図書室は北部の中でもかなり北寄りに位置しておりまして、その他の重要拠点もほとんど北部に片寄っておりますぞ。
それを引き継いだソウソウの拠点もほぼ同じと考えてよろしいかと思います」
俺は元々客将としてリュウヒョウ陣営にいたから、南校舎の事情はよく知っている。
リュウヒョウの拠点がその図書室だったこともあり、リュウヒョウやその幹部たちはほぼ北部のみで活動しており、南部へ足を踏み入れることはなかった。
俺も対ソウソウの最前線で北部に張り付いていたこともあって、ソウソウから逃げる時になって初めて南部へ足を踏み入れたほどだった。
ロシュクの説明を受け、引き続きシュウユが発言する。
「よって私たちの最終攻略目標は北部の一大拠点・図書室となります。
ですが、おそらくソウソウは中部あたりに防衛部隊を展開して私たちの攻撃を阻むことでしょう。
なので私たちの第一目標を中部攻略とします。
リュービさんはいかがでしょうか?」
シュウユが俺へと話を振ってきた。
シュウユは俺たちの戦力をあまり期待していない。
だからといって自由気儘に動くことを許すつもりもないだろう。
だが、俺たちもただ言いなりになるわけにはいかない。
「はい、俺も南校舎を占領するならシュウユさんの攻略ルートが最適だと思います。
俺の義妹・カンウに兵100を預け、援軍としてシュウユさんに合流させます。
カンウを敵・中部防衛軍の後方に送り込み、中部の防衛軍を北部の図書室から切り離して孤立させましょう。
また俺たちリュービ軍も後ろに控え、南部からの攻撃に備えます」
「南部ですか…?」
事実上の空白地帯・南校舎南部。
リュウヒョウは選挙戦開始直後には南部への影響力はほぼなく、リュウバンらを派遣し、支配を強めようとしていた。
南部支配は順調にいっていたようだが、ソウソウの侵攻により中断されてしまった。
そのリュウヒョウの支配領域を受け継いだソウソウだったが、当然、南部支配も中途半端な状態で引き継がれることとなった。
だが、だからこそ俺たちに付け入る隙がある。
「…なるほど、ソウソウが南部に何も備えをしていないという保証もありませんしね。
確かにリュービさんに後ろを守っていただけるなら心強いです。
しかも、あのカンウさんに兵100もつけて我らに貸していただけるとは」
「それで、シュウユさん、一つ提案なのですが、ご承知のように我らの戦力は少々心許ない。
俺のもう一人の義妹・チョーヒをお貸ししますので、代わりにシュウユさんの兵を100人、貸していただけないでしょうか?」
「リュービさんの兵力はある程度把握しています。
しかし、兵100といえば、私の部隊の実に3分の1の人数にあたります。
チョーヒさんお一人で、兵100人を貸して欲しいというのは少々法外ではありませんか?」
「法外とは言えないでしょう。
貸すのは“あの”チョーヒです。
一騎討ちにおいては敵知らず、前のソウソウとの戦いでは千の兵を一人で食い止め、六将と同時に戦った無敵の勇士です。
兵1000人、いや、万の兵と同じくらい強い彼女と兵100の交換なら安いものではありませんか?」
「…わかりました。
では、チョーヒさんと兵100を交換しましょう」
こうしてカンウ・チョーヒはシュウユと共に南校舎の北部へ侵攻し、俺は南部へと道を進めることとなった。
リュービ退出後、シュウユ本陣にはシュウユとその参謀・ロシュクが残されていた。
「やられました。
リュービの狙いは南校舎の南部です」
独り言か、ロシュクに話しかけたのか、どちらともとれる音量でシュウユが呟いた。
「なるほど、シュウユさんの見立て通りでしょうな。
確かに北部は南校舎の重要拠点が集まっており、戦略的価値は高いでしょう。
ですが、ソウソウと直接戦わねば手に入りません。
対して南部は未知数な部分が多いですが、強大な敵はおらず、取りようによっては北部に匹敵するほどの価値があると言えるでしょう」
つらつらと自身の分析を述べるロシュク。
「このまま南部をリュービの好きにさせるのはあまり好ましくないですね。
ですが、こちらの戦力を考えれば、我ら単体で北部と南部の同時攻略が難しいのは事実…」
「まあ、良いではありませんか。
先ほど申し上げた通り、北部と南部の価値は取りよう次第。
北部の価値が揺らぐわけではありません。
それにリュービさんは未だ領土らしい領土を持たぬ根なし草。
この赤壁の戦いでの勝利で南校舎の南半分を手に入れたとしても、過分の報酬とは言えないでしょう」
確かにロシュクの言い分にも一理あるが、先の赤壁の戦いでは自分が中心となって戦ったという自負がシュウユにはあった。
その自分たちシュウユ軍と、リュービ軍で得た報酬を半分に分けるような行為に納得はいってなかった。
だが、シュウユ軍のみで南校舎全域へ一斉侵攻ができない以上、飲み込むしかなかった。
「まあ、いいでしょう。
こちらにはリュービ軍の二枚看板というべきカンウさんとチョーヒさんがいます。
これでリュービさんの戦力は大幅に低下することでしょう。
もし、私たちが北部を攻略し、まだリュービさんが南部攻略を手間取るようであれば、私たちで南部も取ってしまいましょう」
そのシュウユの意見に、ロシュクの顔が少し曇った。
(むむむ、これはよろしくないですな。
シュウユさんはリュービの能力を少々低く見ておられる。
去年の選挙戦の初め頃にリュービとお会いしているそうですが、その時の印象が尾を引いているのでしょうな。
まあ、この南部攻略戦の手並みでリュービの指揮能力ははっきりすることでしょう。
私が『奇貨』と見込んだその実力。
嘘か実か、じっくり見させてもらいましょう)
リュービ陣営~
「はぁ、緊張したー!
あんなに作戦会議でドキドキしたのは久しぶりだよ」
俺は自陣に戻り、ようやく緊張の糸がほどけて、深くため息をついて、椅子に倒れこむように座った。
「お疲れ様です、リュービさん。
なかなか見事な交渉でしたよ」
そう言って俺に労りの言葉をかけるのは、先ほどの会議にも同席していた、薄水色の髪、とても華奢な体つきの女生徒・うちの軍師・コウメイだ。
労ってはくれているが、元はと言えば先ほどの会議での交渉内容は全てこのコウメイの発案である。
元々、彼女の発案した天下三分の計では俺が南校舎を取る計画となっていた。
だが、シュウユと共にソウソウの破った以上、南校舎全てを手に入れることは不可能と判断し、北部をシュウユに譲る代わりに南部をもらおうという計画である。
「リュービさん、お帰りなさい」
そう挨拶してくれたのは、リュウヒョウの弟・リュウキであった。
彼は双子の弟・リュウソウが姉・リュウヒョウの後を強引に継ぎ、無断でソウソウに降伏した後、俺たちに合流し、共に戦った同盟者であった。
「リュウキ君、部隊を貸してくれてありがとう。
君のおかげで戦いやすくなったよ」
「貸したなんて言わないでください。
その部隊はもうリュービさんにお譲りしたのですから。
リュウバンの言葉を聞いて僕も考えました。
このままでいたらリュウヒョウの弟である僕を担ごうという勢力も現れるでしょう。
しかし、僕はそれを望みません。
リュービさん、僕はあなたの勢力に入ります。
リュービさんへの協力は惜しみません」
「わかったよ、リュウキ君。
君の部隊もありがたく頂戴するよ」
「はい、部隊のことでわからないことがありましたら、副将のソヒにお聞きください。
彼女は先代の部隊長であったコウソの頃より副将をしていますので、僕より部隊については詳しいですよ」
「ああ、わかった。
リュウキ君の部隊はカンウに渡すつもりだから、そう伝えておくよ」
リュウキ率いる東部防衛軍は、前のソウソウからの撤退戦の時に、義妹・カンウが率いていた。
部隊を率いた経験のあるカンウにそのまま率いさせ、別動隊としてシュウユと共に北部戦線に送り出すつもりだ。
その役目をカンウは快く引き受けてくれたが、チョーヒの方は快くとはいかなかった。
「チョーヒの説得には骨が折れたよ。
イテテ…」
俺は顔のアザになった箇所を押さえた。
『なんでオレがシュウユ軍に行かなきゃいけないんだぜ!
アニキは俺が必要じゃないのか!』
そう言って暴れるチョーヒの説得の場はまさに戦場であった。
『チョーヒ、お前が必要ないわけないだろ。
チョーヒのおかげで何度俺が救われたことか。
だからこそチョーヒにお願いするんじゃないか。
たった1人と100人の交換なんて並みの武将じゃ了承してくれない。
チョーヒだから成り立つんだよ。
それに敢えてカンウ・チョーヒの二人を預けることでシュウユの油断を誘うという狙いもあるんだ。
チョーヒほどの強者が俺の側にいたままだとシュウユも油断しないだろ』
『うう…アニキがそこまで言うならわかったぜ…!
でも、アニキ!
オレとカン姉がいないからって、他の女にデレデレするんじゃないんだぜ!』
そんなやり取りを丁々発止渡り合った末、チョーヒはシュウユの援軍に赴くことを了承してくれた。
まあ、その過程で顔だけじゃなく、服の下にもだいぶダメージは負ったが、なんとかチョーヒの説得に成功したといえる。
「しかし、よくシュウユも1人と100人の交換なんて応じてくれたね。
確かにチョーヒは一騎当千の武将だけどさ」
自分でチョーヒを説得しておいて無責任な話だが、話を振るまでシュウユに断られるんじゃないかという不安があった。
結果、多少渋ったものの、シュウユは俺の提案に乗ってチョーヒ1人と兵士100人を交換してくれた。
俺の疑問に、この策の提案者、軍師・コウメイが答えてくれる。
「シュウユさんがこれから攻略するのは拠点、つまり“点”です。
移動人数の制限される廊下を通って“点”を攻略するなら、たくさんの兵隊より、強力な武将の方が向いています。
つまり量より質が欲しい状況でしたので、この交換に応じたのです。
対してリュービさんがこれから攻略するのは南部一帯、つまり“面”です。
できるだけ広く領土を抑え、防衛する必要があるので、質より量が欲しい状況です。
なので強力な武将より、たくさんの兵士を欲しています。
ですから、両者の利害が一致しているので、この交換が成立したのです」
「なるほど…。
でも、そうなるとチョーヒが心配だな。
拠点攻略のために無茶な命令をされたりしないだろうか?」
「大丈夫です。
これが負け戦ならその心配もありますが、この戦いは勝ち戦の延長にあります。
勝って調子が良い時には、更なる手柄はできるだけ自分たちだけで上げたいと思うものです。
おそらくシュウユさんは、余所者であるチョーヒさんを万が一の保険として側近くに置き、実際の戦いは部下に優先的にやらせるでしょう。
そして、シュウユさんの実力なら北部攻略は問題なくやれるでしょう」
「それを聞いて安心したよ。
カンウも危険な役目ではあるが、彼女なら上手く立ち回ってくれるだろうし」
「ええ、お二人よりも問題なのはリュービさんですよ」
「え、俺?」
「そうです!
リュービさんはシュウユさんが北部を攻略するより先に南部を攻略しなければなりません。
そして南部を押さえたら、すぐに兵を募集しなければなりません」
「そうだな。
代わりの100人を集めないとチョーヒを返してもらえないからね」
「何を言ってるんですか、リュービさん!
前に天下三分の計で申し上げたように、リュービさんはソウソウとソンケンさんに対抗できるだけの勢力を作らなければならないのです。
そのためには南校舎南部を足掛かりにして、西校舎を取らねばなりません。
100人では南部の防衛だけで手一杯です。
西校舎を攻める部隊を確保するなら、その倍の200、いえ300人は必要です」
「いきなり300人?
そんなに集まるかな」
「リュービさんはこの赤壁の戦いで名を上げましたから慕ってくる者もいるでしょう。
それにこれはリュービさんの第一歩です。
進めなければ二歩目に繋がりませんよ」
「コウメイ、最近俺に対しては結構厳しいこと言うようになったなぁ」
赤壁の戦いにて宿敵・ソウソウを破ったリュービ・シュウユ連合軍だが、肝心のソウソウには後一歩のところで逃げられてしまった。
そして舞台は渡り廊下から南校舎へと移り、シュウユの陣に俺・リュービと軍師・コウメイが招かれ、今後の展開を巡って新たな作戦会議が開かれようとしていた。
「よく来られました、リュービさん、それにコウメイさん。
おや、リュービさん、その顔のアザはどうされたんですか?」
「あ、ああ、ちょっと戦場でね。
ハハハ…」
まず会議の口火を開くのは赤壁の勝利の立役者、長い金髪に整った顔立ちのゴスロリ風の衣裳を身に纏ったこの軍の総司令官・シュウユである。
「皆さんの活躍のおかげでソウソウ軍を赤壁にて破ることができました。
しかし、残念ながらソウソウ本人には逃げられてしまいました。
これ以上追撃してもソウソウを捕らえることは難しいでしょう。
なので、これより作戦を第二段階へと移します。
ここでソウソウ追撃は止め、この南校舎占領へと目的を切り替えます」
そのシュウユの言葉に応じ、軍師・ロシュクが南校舎の図面を拡げ、説明を始める。
「この南校舎は大きく北部と南部に別けられますな。
リュウヒョウの勢力は北部を中心にしており、南部の支配は不完全でした。
またリュウヒョウの活動拠点であった図書室は北部の中でもかなり北寄りに位置しておりまして、その他の重要拠点もほとんど北部に片寄っておりますぞ。
それを引き継いだソウソウの拠点もほぼ同じと考えてよろしいかと思います」
俺は元々客将としてリュウヒョウ陣営にいたから、南校舎の事情はよく知っている。
リュウヒョウの拠点がその図書室だったこともあり、リュウヒョウやその幹部たちはほぼ北部のみで活動しており、南部へ足を踏み入れることはなかった。
俺も対ソウソウの最前線で北部に張り付いていたこともあって、ソウソウから逃げる時になって初めて南部へ足を踏み入れたほどだった。
ロシュクの説明を受け、引き続きシュウユが発言する。
「よって私たちの最終攻略目標は北部の一大拠点・図書室となります。
ですが、おそらくソウソウは中部あたりに防衛部隊を展開して私たちの攻撃を阻むことでしょう。
なので私たちの第一目標を中部攻略とします。
リュービさんはいかがでしょうか?」
シュウユが俺へと話を振ってきた。
シュウユは俺たちの戦力をあまり期待していない。
だからといって自由気儘に動くことを許すつもりもないだろう。
だが、俺たちもただ言いなりになるわけにはいかない。
「はい、俺も南校舎を占領するならシュウユさんの攻略ルートが最適だと思います。
俺の義妹・カンウに兵100を預け、援軍としてシュウユさんに合流させます。
カンウを敵・中部防衛軍の後方に送り込み、中部の防衛軍を北部の図書室から切り離して孤立させましょう。
また俺たちリュービ軍も後ろに控え、南部からの攻撃に備えます」
「南部ですか…?」
事実上の空白地帯・南校舎南部。
リュウヒョウは選挙戦開始直後には南部への影響力はほぼなく、リュウバンらを派遣し、支配を強めようとしていた。
南部支配は順調にいっていたようだが、ソウソウの侵攻により中断されてしまった。
そのリュウヒョウの支配領域を受け継いだソウソウだったが、当然、南部支配も中途半端な状態で引き継がれることとなった。
だが、だからこそ俺たちに付け入る隙がある。
「…なるほど、ソウソウが南部に何も備えをしていないという保証もありませんしね。
確かにリュービさんに後ろを守っていただけるなら心強いです。
しかも、あのカンウさんに兵100もつけて我らに貸していただけるとは」
「それで、シュウユさん、一つ提案なのですが、ご承知のように我らの戦力は少々心許ない。
俺のもう一人の義妹・チョーヒをお貸ししますので、代わりにシュウユさんの兵を100人、貸していただけないでしょうか?」
「リュービさんの兵力はある程度把握しています。
しかし、兵100といえば、私の部隊の実に3分の1の人数にあたります。
チョーヒさんお一人で、兵100人を貸して欲しいというのは少々法外ではありませんか?」
「法外とは言えないでしょう。
貸すのは“あの”チョーヒです。
一騎討ちにおいては敵知らず、前のソウソウとの戦いでは千の兵を一人で食い止め、六将と同時に戦った無敵の勇士です。
兵1000人、いや、万の兵と同じくらい強い彼女と兵100の交換なら安いものではありませんか?」
「…わかりました。
では、チョーヒさんと兵100を交換しましょう」
こうしてカンウ・チョーヒはシュウユと共に南校舎の北部へ侵攻し、俺は南部へと道を進めることとなった。
リュービ退出後、シュウユ本陣にはシュウユとその参謀・ロシュクが残されていた。
「やられました。
リュービの狙いは南校舎の南部です」
独り言か、ロシュクに話しかけたのか、どちらともとれる音量でシュウユが呟いた。
「なるほど、シュウユさんの見立て通りでしょうな。
確かに北部は南校舎の重要拠点が集まっており、戦略的価値は高いでしょう。
ですが、ソウソウと直接戦わねば手に入りません。
対して南部は未知数な部分が多いですが、強大な敵はおらず、取りようによっては北部に匹敵するほどの価値があると言えるでしょう」
つらつらと自身の分析を述べるロシュク。
「このまま南部をリュービの好きにさせるのはあまり好ましくないですね。
ですが、こちらの戦力を考えれば、我ら単体で北部と南部の同時攻略が難しいのは事実…」
「まあ、良いではありませんか。
先ほど申し上げた通り、北部と南部の価値は取りよう次第。
北部の価値が揺らぐわけではありません。
それにリュービさんは未だ領土らしい領土を持たぬ根なし草。
この赤壁の戦いでの勝利で南校舎の南半分を手に入れたとしても、過分の報酬とは言えないでしょう」
確かにロシュクの言い分にも一理あるが、先の赤壁の戦いでは自分が中心となって戦ったという自負がシュウユにはあった。
その自分たちシュウユ軍と、リュービ軍で得た報酬を半分に分けるような行為に納得はいってなかった。
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「まあ、いいでしょう。
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これでリュービさんの戦力は大幅に低下することでしょう。
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(むむむ、これはよろしくないですな。
シュウユさんはリュービの能力を少々低く見ておられる。
去年の選挙戦の初め頃にリュービとお会いしているそうですが、その時の印象が尾を引いているのでしょうな。
まあ、この南部攻略戦の手並みでリュービの指揮能力ははっきりすることでしょう。
私が『奇貨』と見込んだその実力。
嘘か実か、じっくり見させてもらいましょう)
リュービ陣営~
「はぁ、緊張したー!
あんなに作戦会議でドキドキしたのは久しぶりだよ」
俺は自陣に戻り、ようやく緊張の糸がほどけて、深くため息をついて、椅子に倒れこむように座った。
「お疲れ様です、リュービさん。
なかなか見事な交渉でしたよ」
そう言って俺に労りの言葉をかけるのは、先ほどの会議にも同席していた、薄水色の髪、とても華奢な体つきの女生徒・うちの軍師・コウメイだ。
労ってはくれているが、元はと言えば先ほどの会議での交渉内容は全てこのコウメイの発案である。
元々、彼女の発案した天下三分の計では俺が南校舎を取る計画となっていた。
だが、シュウユと共にソウソウの破った以上、南校舎全てを手に入れることは不可能と判断し、北部をシュウユに譲る代わりに南部をもらおうという計画である。
「リュービさん、お帰りなさい」
そう挨拶してくれたのは、リュウヒョウの弟・リュウキであった。
彼は双子の弟・リュウソウが姉・リュウヒョウの後を強引に継ぎ、無断でソウソウに降伏した後、俺たちに合流し、共に戦った同盟者であった。
「リュウキ君、部隊を貸してくれてありがとう。
君のおかげで戦いやすくなったよ」
「貸したなんて言わないでください。
その部隊はもうリュービさんにお譲りしたのですから。
リュウバンの言葉を聞いて僕も考えました。
このままでいたらリュウヒョウの弟である僕を担ごうという勢力も現れるでしょう。
しかし、僕はそれを望みません。
リュービさん、僕はあなたの勢力に入ります。
リュービさんへの協力は惜しみません」
「わかったよ、リュウキ君。
君の部隊もありがたく頂戴するよ」
「はい、部隊のことでわからないことがありましたら、副将のソヒにお聞きください。
彼女は先代の部隊長であったコウソの頃より副将をしていますので、僕より部隊については詳しいですよ」
「ああ、わかった。
リュウキ君の部隊はカンウに渡すつもりだから、そう伝えておくよ」
リュウキ率いる東部防衛軍は、前のソウソウからの撤退戦の時に、義妹・カンウが率いていた。
部隊を率いた経験のあるカンウにそのまま率いさせ、別動隊としてシュウユと共に北部戦線に送り出すつもりだ。
その役目をカンウは快く引き受けてくれたが、チョーヒの方は快くとはいかなかった。
「チョーヒの説得には骨が折れたよ。
イテテ…」
俺は顔のアザになった箇所を押さえた。
『なんでオレがシュウユ軍に行かなきゃいけないんだぜ!
アニキは俺が必要じゃないのか!』
そう言って暴れるチョーヒの説得の場はまさに戦場であった。
『チョーヒ、お前が必要ないわけないだろ。
チョーヒのおかげで何度俺が救われたことか。
だからこそチョーヒにお願いするんじゃないか。
たった1人と100人の交換なんて並みの武将じゃ了承してくれない。
チョーヒだから成り立つんだよ。
それに敢えてカンウ・チョーヒの二人を預けることでシュウユの油断を誘うという狙いもあるんだ。
チョーヒほどの強者が俺の側にいたままだとシュウユも油断しないだろ』
『うう…アニキがそこまで言うならわかったぜ…!
でも、アニキ!
オレとカン姉がいないからって、他の女にデレデレするんじゃないんだぜ!』
そんなやり取りを丁々発止渡り合った末、チョーヒはシュウユの援軍に赴くことを了承してくれた。
まあ、その過程で顔だけじゃなく、服の下にもだいぶダメージは負ったが、なんとかチョーヒの説得に成功したといえる。
「しかし、よくシュウユも1人と100人の交換なんて応じてくれたね。
確かにチョーヒは一騎当千の武将だけどさ」
自分でチョーヒを説得しておいて無責任な話だが、話を振るまでシュウユに断られるんじゃないかという不安があった。
結果、多少渋ったものの、シュウユは俺の提案に乗ってチョーヒ1人と兵士100人を交換してくれた。
俺の疑問に、この策の提案者、軍師・コウメイが答えてくれる。
「シュウユさんがこれから攻略するのは拠点、つまり“点”です。
移動人数の制限される廊下を通って“点”を攻略するなら、たくさんの兵隊より、強力な武将の方が向いています。
つまり量より質が欲しい状況でしたので、この交換に応じたのです。
対してリュービさんがこれから攻略するのは南部一帯、つまり“面”です。
できるだけ広く領土を抑え、防衛する必要があるので、質より量が欲しい状況です。
なので強力な武将より、たくさんの兵士を欲しています。
ですから、両者の利害が一致しているので、この交換が成立したのです」
「なるほど…。
でも、そうなるとチョーヒが心配だな。
拠点攻略のために無茶な命令をされたりしないだろうか?」
「大丈夫です。
これが負け戦ならその心配もありますが、この戦いは勝ち戦の延長にあります。
勝って調子が良い時には、更なる手柄はできるだけ自分たちだけで上げたいと思うものです。
おそらくシュウユさんは、余所者であるチョーヒさんを万が一の保険として側近くに置き、実際の戦いは部下に優先的にやらせるでしょう。
そして、シュウユさんの実力なら北部攻略は問題なくやれるでしょう」
「それを聞いて安心したよ。
カンウも危険な役目ではあるが、彼女なら上手く立ち回ってくれるだろうし」
「ええ、お二人よりも問題なのはリュービさんですよ」
「え、俺?」
「そうです!
リュービさんはシュウユさんが北部を攻略するより先に南部を攻略しなければなりません。
そして南部を押さえたら、すぐに兵を募集しなければなりません」
「そうだな。
代わりの100人を集めないとチョーヒを返してもらえないからね」
「何を言ってるんですか、リュービさん!
前に天下三分の計で申し上げたように、リュービさんはソウソウとソンケンさんに対抗できるだけの勢力を作らなければならないのです。
そのためには南校舎南部を足掛かりにして、西校舎を取らねばなりません。
100人では南部の防衛だけで手一杯です。
西校舎を攻める部隊を確保するなら、その倍の200、いえ300人は必要です」
「いきなり300人?
そんなに集まるかな」
「リュービさんはこの赤壁の戦いで名を上げましたから慕ってくる者もいるでしょう。
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進めなければ二歩目に繋がりませんよ」
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スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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「カクヨム」さんが先行投稿になります。
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