学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第5部 赤壁大戦編

第100話 勝利!捉えた天下!

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 リュービ陣営~

「ソウソウ!

 今こそ決着をつけよう!」

 俺、リュービは今、宿敵・ソウソウとの決着をつけるため、全軍を上げてソウソウ軍へ攻めかかった。

 シュウユ軍がこの日食と時同じくしてソウソウ軍へ総攻撃を仕掛けることは、事前にコウメイから渡されたメモ用紙に書いてあった。

 だから、俺たちは先にこの渡り廊下の蛍光灯がつかないように細工さいくをし、この暗黒の空間を作り出すことに一役買った。

 コウメイの策は見事に当たり、俺たちは今まさにソウソウの退却する場面に出くわしていた。

「さすがコウメイだ。

 ここまで全て彼女の言った通りだ。

 ならばこの戦い、勝つのは我らリュービ・ソンケン連合だ!」



 ソウソウ陣営~

「ここでリュービが来るか!」

「ソウソウ会長。

 カンウ、チョーヒ、さらにチョーウンが参戦すれば、今ある人の盾では防ぎきれない可能性が高いです。

 早く逃げましょう」

 リュービ参戦に、笑みを浮かべながらも怒気どきを表すソウソウに対し、参謀・カクらはソウソウ会長を逃がそうと画策する。

 その様子を見かねた様子で、ソウソウ軍の本隊指揮官・シカンが前に進み出た。

 彼は隣に立つ本隊監督・カンコウに語りかけた。

「なあ、カンコウよ。

 俺たちは名誉ある中央軍の指導者だったな?」

 そう語りかけるシカンの表情にただならぬ気配を感じ取ったカンコウは思い止めようと、思い止めようと、声を張り上げた。

「何を考えてるのですか、シカン!

 相手はあのカンウ・チョーヒにチョーウンですよ。

 一人でも手強てごわいのに、三人同時ではいくらあなたでも無事ではすみませんよ」

「ああ、いくらなんでもあの三人相手じゃ、勝ち目はねぇな」

「なら、早く戻りなさい。

 我らの今の役目はソウソウ会長をお守りすることです」

「だからこそよお!

 俺が動ける部隊を率いて壁になるぜ。

 例えやられたとしても、この狭い廊下をふさぐことはできるはずだ!」

「ならば後ろから指示を出せばいいでしょう。

 何もあなたまで倒れることはない!」

 いつも以上に早口でまくし立てるようにしゃべるシカンに対し、カンコウはあせりをにじませながらも、落ち着いた口調で返答する。

 だが、シカンの早口は止まらない。

「だからよお! だからよお! だからよお!

 指導者である俺が先頭きらねえで、誰が後に続くって言うんだよ!」

「しかし…」

 そのあまりの強い口調にカンコウもついつい押し切られてしまい、シカンはそのままの勢いで飛び出していった。

「ソウソウ会長!

 このシカンが時間を稼ぎます!

 今のうちにお逃げください!」

 そう言うと彼は部隊を率い、自らその先頭に立ってカンウ・チョーヒ・チョーウンのリュービ三将の前に進み出た。

「我こそは名誉あるソウソウ本隊指揮官・史野完治しの・かんじ

 人呼んで侠骨きょうこつのシカン!

 大将首だ!

 我と思わん者は討ち取って手柄としやがれ!」

 名乗りを上げて現れた、頭にハチマキをつけ、黒い法被はっぴを羽織り、腰にベルトの代わりに帯を巻いた男・シカンの登場にリュービ三将は少々面食らうこととなった。

「なんだぜ、あいつ!

 オレたち相手に一騎討ちを挑もうなんて無謀だぜ!」

 お団子ヘアーの小柄なリュービの義妹・チョーヒは、シカンの名乗りを笑い飛ばし、彼を一撃でほうむろうとこぶしを構えた。

 しかし、その行動を隣に立つ彼女の義姉にたしなめられた。

「待ちなさい、チョーヒ。

 シカンと言えばソウソウ軍では名の聞こえた武将です。

 その彼が決死の覚悟で名乗ったのですから、それに返すのが武の礼というものですよ」

 そういうと、美しく長い黒髪の美少女はシカンの前に進み出た。

「私はリュービが義妹・関羽美せき・うみ

 通称、カンウ!

 シカン、名乗りを上げたからには手加減はしませんよ」


 一歩前へと歩み出たカンウはその長い黒髪を美しくなびかせて、前に現れた男に相対した。

 対するシカンは黒い法被はっぴをはためかせ、すでに臨戦態勢を取っている。

 しばしこの戦場に静寂せいじゃくの時が流れる。

 先に動いたのは時間を急ぐカンウであった。

 彼女はまたたく間にシカンとの距離を詰めると、彼が反応するよりもはるかに早くそのえりつかみ、空高くへと投げ飛ばした。

 その一連の動作のあまりの速さにシカンは全く追い付けず、気付いた時にはすでに自身の体は空中に浮いている状態であった。

 カンウ対シカンの戦いは一瞬で決した。

 だが、その結果にシカンはすでに覚悟はできていおり、自身が望む状況でもあった。

 彼は空を舞うその刹那せつな大音声だいおんじょうで辺りに叫んだ。

「名誉あるソウソウ軍の兵士たちよ!

 胸に侠気きょうきがあるならば俺に続けえ!」

 このシカンの絶叫に呼応するように、ソウソウ軍の兵士たちはシカンに続けと壁となり、盾となり、カンウらの行く手を自身の体でもってはばんだ。

 その数はソウソウ軍全体から見ればわずかだが、廊下を封じるには充分な数であった。

 シカンは倒れたが、彼の目論見もくろみは見事達せられた。

「やりますね、シカン。

 自らを犠牲にして兵士の心を奮い起たせましたか」

「ふん、こんな連中オレたちならあっという間に蹴散らせるんだぜ!」

 チョーヒは今にも飛び出さんばかりの様子だ。

「そうだね。

 ボクら三人が集まればなんてことない障害だよ。

 早くこの壁を破ってソウソウを倒そう」

 ジャージにスパッツ姿の女生徒・チョーウンも意気盛んだ。

 カンウ・チョーヒ・チョーウンの三将はリュービ軍はもちろん、この学園の中でも屈指くっしの戦闘力の持ち主だ。

 彼女たちが力を合わせれば突破できぬ壁はないだろう。

 彼女たちはシカンが生み出した人の壁へと挑んでいった。



「シカンは無事…任務を全うしたようです。

 しかし、カンウ・チョーヒ・チョーウンの三将相手では長くは持ちません。

 ソウソウ会長、急ぎましょう」

 シカンの最後の戦いを遠目ながらも見届けたカンコウはソウソウへ退却をうながした。

「シカンには申し訳ないことをした。

 だが、あいつの稼いでくれた時間のおかげで私の視力はだいぶ回復した。

 日食もほぼ終わり、明るくなった。

 シカンの稼いだ時間はわずかかもしれないが、充分に価値のある時間であった」

 ソウソウの言葉が示すように、欠けていた太陽は再び円を描き、闇夜は晴れ、周囲は明るさを取り戻していた。

 依然、塗料をかぶったソウソウの姿は赤く目立つが、闇の中、一人炎のように発光していた頃に比べればだいぶ目立たなくなっていた。

「このまま急いでカコウトンたちに合流すれば、リュービやシュウユらの難は避けれるだろう」

 だが、そのソウソウの言葉をね返すかのように、別の方角より新たな難事が降りそそいだ。

「ソウソウ会長、前方南の方角より新たな部隊がこちらに接近中です」

「なんだと!

 リュービやシュウユとは別方向からの進行だと?

 やつらめ!

 いつの間に南校舎側に部隊をひそませていたのだ!

 すぐに指揮官を探れ!」

 偵察を放つとその謎の部隊の指揮官の名はすぐに判明した。

 参謀・カクはすぐにその名をソウソウに報告する。

「ソウソウ会長、わかりました。

 指揮官は元リュウヒョウ軍の武将・リュウバンという者だそうです」

 リュウバンの名に、同じく元リュウヒョウ軍の武将・ブンペーは反応した。

「ソウソウ会長。

 リュウバンはリュウヒョウのイトコで、遊軍指揮官に任命されていた者です。

 リュウソウ部長がソウソウ会長に降伏するに及び、リュービと結託けったくし、何処いずこかへと行方をくらませておりました」

 南校舎がソウソウに降伏を決定した時、リュウバンは南校舎の南部におり、降伏には従わずそのまま南方面へと逃走した。

 その地でリュービと合流予定であったが、計画は変更され、リュービはソンケンと手を組み南校舎東部へと、リュウバンは第二南校舎へとそれぞれ潜伏せんぷくしていた。

 だがリュウバンもまた、リュービよりソウソウ敗走の連絡を受け、この戦いに加わらんと動き出したのであった。

「リュウバン自身、勇猛で知られ、さらに副将のコーチューはこの南校舎でも一二を争う武芸の達人と言われております」

 副将のコーチューというのは、かつてカンウと試合を行い、互角の名勝負をみせた格闘少女であった。

「またしてもリュービか!

 やつめ、次から次へと策を繰り出しおって」

「リュウバンにさらにコーチューがこのまま突撃してくれば、我らでも防ぐのは難しいかもしれません」

 シュウユ、さらにリュービを防ぐ盾となり、ソウソウ軍の人員はかなり減っていた。

 そこに勇猛な部隊が前方より矢のように突っ込んでくれば、今の戦力で防ぐのは難しい。

 いや、今ここで防御に専念し迎え撃てば、リュウバンの進行を止めることは出来るかもしれない。

 だが、後ろよりシュウユやリュービらがじきに人の盾を打ち破り、進撃してくることだろう。

 リュウバン・シュウユ・リュービの三軍の挟み撃ちをくらえば、間違いなくソウソウ軍は崩壊する。

 その誰の目にも明らかなこの苦境に、ソウソウの武将・ソウジュンは、参謀・カクの肩をつかみ、自身へと引き寄せた。

「カク、このままではソウソウ会長は討たれます。

 何か策はありせんか!」

 ソウジュンの剣幕にカクは押しきられ、言葉をにごしながらも答えた。

「無いこともないですが…」

「もし、犠牲が必要なら私が引き受けます。

 策を教えなさい」

「やればあなたは無事ではすみませんよ。

 構いませんか?」

「先ほどシカンも自らを犠牲にし、見事に防壁を作り上げました。

 シカンでさえ我が身を殺したのですから、ソウソウ会長の親族である私が退くわけにはいきません」

「わかりました。

 では、ソウソウ会長。

 “それ”と“それ”をお貸し願えますか?」



 リュウバン軍~

 ひげたくわえた、大柄で強面こわもての男子生徒・この軍の指揮官・リュウバンは意気揚々とソウソウ軍へと迫っていた。

「リュービに感謝せんといかんな。

 南校舎を追われた我らに憎きソウソウへ一矢報いる機会をくれたのだからな」

「おう、見えたぞ、大将!

 あれこそまさにソウソウ軍!

 わしらでソウソウを討ち果たそうぞ!」

 リュウバンに答えるのは、長い銀髪を三つ編みに結び、カンフー衣裳に、大人びた容姿に背の高い女生徒、この部隊の副隊長・コーチュー。


 そして率いる部隊は約100名。

 長らくリュウバンとともに各地を転戦してきた精鋭たちだ。

 彼らがソウソウ軍を望見すると、向こうもこちらに気付いたのか、慌てたように一人の赤服の女生徒が飛び出し、それを追いかけるように数名の生徒が後に続いた。

「おお、赤い服の女!

 あれこそリュービからの連絡にあったソウソウに間違いない!

 追うぞコーチュー!」

「おう、リュウバンの大将!」

 リュウバン隊は数人の供廻ともまわりのみを連れ、逃亡をはかる赤い女生徒を駆け足で追いかけた。

 だが、100名からなる人数の足並みをそろえようとすれば、自然と移動速度は遅くなる。

 リュウバンの部隊は一向に追い付くことができなかった。

「ソウソウめ、なかなかに足が速いな。

 追い付けんぞ」

「大将、部隊の足並みが乱れてきたぞ。

 この人数でこのまま速度を維持するのは難しい」

「やむを得んな。

 俺が部隊をまとめるから、コーチュー、お前は足の速い数名を率いて先行してソウソウを討て」

「了解!」

 部隊から切り離されたコーチューは全力疾走で赤い女生徒に迫った。

「追い付いたぞ、ソウソウ!

 覚悟せい!

 ん、お主は…?」

 だが、近づいたその女生徒は、服こそ赤い塗料で塗られていたものの、頭に赤いバンダナを巻いたソウソウとは別の生徒であった。

「何者じゃお主は!」

 その女生徒は頭に巻いた赤いバンダナをほどき、自身の黄色い髪をあらわにした。

「私はソウソウ軍武将・ソウジュン!

 こんな罠に引っ掛かるとはね。

 ソウソウ会長から制服と赤いバンダナを借りた甲斐がありました」

「罠じゃと!

 しまった、大将!」

 コーチューが後ろを振り返るのとほぼ同時に、リュウバン隊は側面より強襲を受けた。

「敵襲か!」

 リュウバンの大声に答えるように、その強襲部隊の指揮官が姿を現した。

「久しぶりね、リュウバン!」

 その指揮官は、薄手のタンクトップの上から厚手のジャケットを羽織った女生徒、かつてリュウバンとともにリュウヒョウ陣営に所属していた同僚・ブンペーであった。

「お前はブンペー!

 ソウソウに味方するか、この裏切り者が!」

「逃げ出したお前に言われる筋合いはないわ!」

 ブンペーの激昂とともに、強襲部隊の一撃がリュウバンに炸裂さくれつした。
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