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第5部 赤壁大戦編
第99話 激戦!赤壁の戦い!
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東校舎・シュウユ本陣~
時は天の日が欠け始め、コウガイがソウソウの本陣に移動を開始した頃、ここシュウユ本陣ではすでに主要な武将たちが参集していた。
その中心に座するは、金髪の長い髪に、西洋人形のような整った目鼻立ちの、ゴスロリ風の衣裳を身に纏った朱塗りの木刀を携えた女生徒、ソンケン軍総司令官・シュウユ。
「どうやら、暗くなる前に全員集まれたようですね」
「シュウユ司令。
では、そろそろ我々にも作戦の内容を教えていただけるのですかな?」
集結した武将たちを代表して、灰色の長い髪に、黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒、この軍の参謀・ロシュクが訊ねる。
そのロシュクの意見に武将たちが頷く。
皆、その作戦の全容はわからずとも、何かが密かに進行していることはすでに察している様子であった。
「時間もありませんので、手短にお話いたします。
先ほど、コウガイさんがソウソウへ偽の降伏をしに行きました。
コウガイさんはソウソウと対峙した後、カラーボールで目印をつけ、閃光弾で目を眩ませ、敵を内部から混乱させる手筈となっています。
我らはその混乱に乗じ、敵陣に攻め込み、ソウソウを討ちます!」
そのシュウユの言葉に武将たちからは感嘆の声が漏れる。
だが、異を唱える者もいる。
「待て、それではコウガイは敵陣に取り残されることになる!
コウガイを捨て駒に使う気か!」
声を発したのは頭に赤いバンダナを巻き、頬に傷がある屈強な男・カントウ。
コウガイとも長い付き合いの彼がこの策に不服を表明した。
「落ち着けカントウ。
コウガイは言われるがままに従う男ではない。
コウガイ本人も納得した上での行動だろう」
そう言って、カントウを止めたのは、細身の眼鏡をかけ、手首に赤いバンダナを巻いた男子生徒、この軍の副司令・テイフであった。
コウガイとともにソンケン(兄)の時代より活躍してきた重鎮・テイフの言葉に、カントウも口を閉じ、着席した。
「シュウユ、君が今回の策を副司令である俺にも伝えなかった件は、コウガイに免じ不問としよう。
そしてこれがソウソウを討つ最大のチャンスというなら、俺は君の指示に従おう」
「テイフさん、ありがとうございます。
では、テイフさんには前線部隊の指揮をお願いいたします」
このテイフとシュウユのやりとりに、座は静まり、一同は両者に視線を注いだ。
総司令官・シュウユと副司令・テイフはこの役職について以来、仲が上手くいってなかったが、ソウソウという共通の敵を前に、わだかまりを越え、ここに両者手を取り合こととなった。
「では、テイフさんを前線部隊の指揮官とし、その部隊にはカントウさん、そして、リョモウ、リョートー、ハンショー、カンネーを配属します。
視界は悪いですが、なんとしてもこの暗闇が続いている間に、南校舎のソウソウ本陣にたどり着いてください。
先ほども伝えた通り、中でコウガイさんが閃光弾を放つ手筈となっておりますので、それを合図にソウソウ軍に一撃を加えてください。
もし、コウガイさんが失敗しても、明るくなる前に攻撃を加え、ソウソウを捕らえるまで追撃を続けてください」
ポニーテールの女生徒・リョモウが元気よく答える。
「わかりました、シュウユ司令!
赤壁目指して行けばいいんですね!」
「赤壁?」
リョモウの言葉にシュウユが聞き返す。
「はい!
こちら側から見ると、南校舎の補修した赤レンガの壁がよく見れるじゃないですか。
なのでみんな、あそこを赤壁って呼んでるんです!」
リョモウの活気ある回答に、シュウユは頷いて返す。
「赤壁ですか。
目標は分かりやすい方がいいかも知れませんね。
では、目標を赤壁とします」
しかし、そのシュウユの言に、黒いローブを羽織った女生徒、参謀・ロシュクが意見する。
「いやいや、シュウユさん。
そのまま赤壁では格好悪くないですかな。
ここは音読みして赤壁でどうです?
それでも意味は通じますぞ」
ロシュクの意見に、リョモウも笑顔で賛同した。
「赤壁ですか。
確かにそっちの方がカッコイイですね!」
「リョモウにわかるなら、皆わかるでしょう」
「ロシュクさん、また私をバカにしてますね!」
リョモウとロシュクのいつものじゃれあいを流し、シュウユはその意見を取り入れた。
「そうですね。
では、目標地を赤壁と呼ぶことにしましょう」
そう言い、シュウユは一呼吸置いてから、再び口を開いた。
「では、皆さん。
我らの目標は赤壁!
狙うのはソウソウ!
我々はこの赤壁の戦いにてソウソウを討ちます!
皆さん、出撃してください!」
シュウユの号令一下、武将たちは赤壁を目指して、ソウソウ本陣へ急行した。
日食による闇夜の中であったが、度々この地に攻め寄せた兵士たちにとって、その道を進むのに何の不自由もなかった。
「ソウソウ。
あなたが陣取るその場所は、かつて私とサクちゃんが手に入れようと、知恵を出し合い、力を合わせ、試行錯誤を繰り返してきた場所です。
あなたが如何に強大であろうとも、私とサクちゃんの金をも断つこの絆の前に、勝てるはずがありません!」
南校舎赤壁・ソウソウ本陣~
偽の投降を企んだソンケン軍武将・コウガイより放たれた閃光弾の光が周囲を駆け抜けた。
その光により、ソウソウ以下、コウガイを取り囲む兵士たちの視界は一瞬にして奪われることとなった。
「コウガイ!
私たちの目を潰したつもりかもしれんが、お前たちも動けんのだぞ!」
カラーボールをくらい、その蛍光塗料で炎のように赤く発光するソウソウはコウガイに怒鳴った。
「それでいい!
ワシらの役目はここまでじゃからのう!」
このコウガイの言葉に合わせるかのように、ソウソウの耳に無数の足音がこちらに迫ってきているのが聞こえてきた。
その整然と揃う足音から、よく訓練された者たちであることは容易に想像が出来た。
「コウガイ!
私を謀ったお前だけは決して許さん!」
「ソウソウ会長、敵兵がこちらに迫ってきています!
我が軍の大多数は目をやられ、身動きが取れません!
早くお逃げください!」
「離せキョチョ!
奴だけは!
コウガイだけは許さん!」
ソウソウの怒りに呼応するように、一匹の獣がコウガイに飛び掛かった。
それはソウソウの愛猫・絶影であった。
「なんじゃ、こいつ!
やめんか!」
絶影はコウガイの懐に飛び込むと、コウガイがよく見えないのをいいことに、散々に引っ掻き、噛み付いて苦しめた。
「絶影か!
もういい戻れ!」
ソウソウの合図で、絶影は行き掛けの駄賃とばかりに、コウガイの懐より布切れを奪い取ってソウソウの元へと戻っていった。
「よくやった絶影。
なんだ、これは?
布切れか?」
「待て!
それはソンケンの大将の…!」
何が奪い取られたのか、目が見えなくてもコウガイにはすぐわかった。
そして、コウガイの言葉からその布切れが何かはソウソウはすぐに理解した。
それはソンケン(兄)より仲間の証として譲られた赤いバンダナであった。
「お前らがいつもつけている布切れか。
でかしたぞ、絶影!
コウガイ!
お前の首の代わりにこの布切れをいただくぞ!
では、全軍撤退せよ!」
コウガイの赤いバンダナを手に入れ、一先ずの溜飲を下げたソウソウは全軍に撤退を指示した。
しかし、コウガイを取り囲んでいた兵士たちは未だ視界がぼやけ歩行もままならず、その部隊が中央に居座ってしまったため、そのさらに周囲にいる部隊の撤退にまで影響が出る有り様であった。
「中央に陣取る者たちが動けんと、その周辺のの者たちの撤退まで滞るか。
先に一度、シュウユを迎え撃つか。
いや、それでもあの中央の兵士たちが邪魔になる」
視界が悪くとも、周囲の反応から瞬時に状況を理解したソウソウであったが、中央の部隊が混乱してしまった今、撤退であれ、迎撃であれ円滑に部隊を動かすのは不可能であった。
次の動きに逡巡するソウソウの前に一人の生徒が駆け寄ってきた。
「ソウソウ会長、この場に止まるのは危険です。
今、ソウソウ会長の周囲にいた兵士たちが良くも悪くも障壁となり、味方の進行を妨げ、敵の進撃を防いでおります。
こうなってしまった以上、彼らを盾にしてソウソウ会長は先に逃げるべきです」
そう言うのは、後ろに控えていたために目をやられずにすんだ、黄色髪のポニーテールの女生徒・ソウジュンであった。
「しかし、それでは…」
「ソウソウ会長、失礼します。
キョチョ、あなたも後ろから着いてきなさい」
なおも渋るソウソウの手を引き、ソウジュンは強引に彼女を連れ出した。
それとほぼ同時に後ろから喚声が上がった。
おそらく、戦闘が始まったのであろう。
その喚声を背に、ソウソウの脳裏に今は入院している参謀・カクカがかつて言った言葉が過った。
『計略というのは劇薬です。
やり過ぎれば毒にもなります。
過ぎればその身を滅ぼします』
「私は計略に頼りすぎたということか…
カクカ、お前が今この場にいてくれればこの事態を防げたのだろうか…
いや、全ては私の不徳が招いたことか」
ソウソウはソウジュンに手を引かれながら、後ろを振り返り、見えもしない目で攻めてくるシュウユ軍を睨み付けた。
「この私が逃げることになろうとはな。
シュウユめ、コウガイめ。
見事な手並みだ。
私はこの敗北を恥とは思わん!
だが、次は決して許しはしないぞ!」
「いたぞ!
あれがソウソウだ!」
後方より何者かが叫んだ。
まだ戦闘は遥か後方で行われているはずだったが、塗料をかけられ赤く発光するソウソウの姿は、この暗闇の中、遠くソンケンの軍中からでもよく見ることが出来た。
「あの炎のように赤く光る女がソウソウだ!
例え明るくなっても赤いままだからよく目立つぞ!
必ず捕らえよ!」
戦闘と時を同じくして欠けていた太陽は徐々に戻り始め、周囲に明るさが戻りだしていた。
だが、赤いソウソウの姿が目立つことに何も変わりはなかった。
「この赤い姿のままでは良い的ではないか」
だが、その赤い姿は味方にも良い目印となった。
左右に滞陣していたシカン・カンコウ・ブンペーらの武将たち。
さらに後方にいたジュンユウ・テイイク・カクらの軍師たちも次々とソウソウへ合流した。
だが、逃げながら、一度崩れた陣営を立て直すのは難しく、彼らもソウソウとともに撤退を余儀なくされた。
「ソウソウ会長、ソウソウ会長、ソウソウ会長!
このまま逃げてるだけじゃ後手に回ったままだぜ!」
早口で捲し立てるように喋るのは、黒い法被を着たソウソウ軍の本隊指揮官・シカン。
「落ち着けシカン。
私の姿が目立つからと言っても、今盾になっている我が軍の兵士たちを蹴散らしてここまでたどり着くのは難しいだろう。
一度、ソンケン軍を引き離し、開けたところまで後退し、軍を立て直せば充分迎え撃つことができる」
「その通りです、ソウソウ会長。
シカン、あなたも本隊の指揮官ならもう少し落ち着いて発言すべきですよ」
そう言いシカンをたしなめるのは、同じ黒い法被に袖を通した本隊監督・カンコウであった。
しかし、その言葉をかき消す様に、別の方角より新たな喚声が上がった。
「我こそはリュービが義妹・カンウ!
ソウソウさん、おとなしく投降しなさい!」
「同じくリュービが義妹・チョーヒ!
オラオラ、チョーヒ様のお通りだぜ!
道を空けな!」
「リュービ軍武将・チョーウン!
ボクのことも忘れないで欲しいね」
そこに現れたのは、ソンケンと同盟を結び、シュウユと共同戦線を張っていたリュービ軍。
そのリュービ軍が誇るカンウ・チョーヒ・チョーウンの最強の三人の女生徒を先頭に、敗走するソウソウ軍目掛けて一斉に攻撃を開始した。
「ふふ、さすが抜け目がないな。
ここでお前が来るか、リュービ!」
「さあ、ソウソウ。
今こそ決着をつけよう!」
時は天の日が欠け始め、コウガイがソウソウの本陣に移動を開始した頃、ここシュウユ本陣ではすでに主要な武将たちが参集していた。
その中心に座するは、金髪の長い髪に、西洋人形のような整った目鼻立ちの、ゴスロリ風の衣裳を身に纏った朱塗りの木刀を携えた女生徒、ソンケン軍総司令官・シュウユ。
「どうやら、暗くなる前に全員集まれたようですね」
「シュウユ司令。
では、そろそろ我々にも作戦の内容を教えていただけるのですかな?」
集結した武将たちを代表して、灰色の長い髪に、黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒、この軍の参謀・ロシュクが訊ねる。
そのロシュクの意見に武将たちが頷く。
皆、その作戦の全容はわからずとも、何かが密かに進行していることはすでに察している様子であった。
「時間もありませんので、手短にお話いたします。
先ほど、コウガイさんがソウソウへ偽の降伏をしに行きました。
コウガイさんはソウソウと対峙した後、カラーボールで目印をつけ、閃光弾で目を眩ませ、敵を内部から混乱させる手筈となっています。
我らはその混乱に乗じ、敵陣に攻め込み、ソウソウを討ちます!」
そのシュウユの言葉に武将たちからは感嘆の声が漏れる。
だが、異を唱える者もいる。
「待て、それではコウガイは敵陣に取り残されることになる!
コウガイを捨て駒に使う気か!」
声を発したのは頭に赤いバンダナを巻き、頬に傷がある屈強な男・カントウ。
コウガイとも長い付き合いの彼がこの策に不服を表明した。
「落ち着けカントウ。
コウガイは言われるがままに従う男ではない。
コウガイ本人も納得した上での行動だろう」
そう言って、カントウを止めたのは、細身の眼鏡をかけ、手首に赤いバンダナを巻いた男子生徒、この軍の副司令・テイフであった。
コウガイとともにソンケン(兄)の時代より活躍してきた重鎮・テイフの言葉に、カントウも口を閉じ、着席した。
「シュウユ、君が今回の策を副司令である俺にも伝えなかった件は、コウガイに免じ不問としよう。
そしてこれがソウソウを討つ最大のチャンスというなら、俺は君の指示に従おう」
「テイフさん、ありがとうございます。
では、テイフさんには前線部隊の指揮をお願いいたします」
このテイフとシュウユのやりとりに、座は静まり、一同は両者に視線を注いだ。
総司令官・シュウユと副司令・テイフはこの役職について以来、仲が上手くいってなかったが、ソウソウという共通の敵を前に、わだかまりを越え、ここに両者手を取り合こととなった。
「では、テイフさんを前線部隊の指揮官とし、その部隊にはカントウさん、そして、リョモウ、リョートー、ハンショー、カンネーを配属します。
視界は悪いですが、なんとしてもこの暗闇が続いている間に、南校舎のソウソウ本陣にたどり着いてください。
先ほども伝えた通り、中でコウガイさんが閃光弾を放つ手筈となっておりますので、それを合図にソウソウ軍に一撃を加えてください。
もし、コウガイさんが失敗しても、明るくなる前に攻撃を加え、ソウソウを捕らえるまで追撃を続けてください」
ポニーテールの女生徒・リョモウが元気よく答える。
「わかりました、シュウユ司令!
赤壁目指して行けばいいんですね!」
「赤壁?」
リョモウの言葉にシュウユが聞き返す。
「はい!
こちら側から見ると、南校舎の補修した赤レンガの壁がよく見れるじゃないですか。
なのでみんな、あそこを赤壁って呼んでるんです!」
リョモウの活気ある回答に、シュウユは頷いて返す。
「赤壁ですか。
目標は分かりやすい方がいいかも知れませんね。
では、目標を赤壁とします」
しかし、そのシュウユの言に、黒いローブを羽織った女生徒、参謀・ロシュクが意見する。
「いやいや、シュウユさん。
そのまま赤壁では格好悪くないですかな。
ここは音読みして赤壁でどうです?
それでも意味は通じますぞ」
ロシュクの意見に、リョモウも笑顔で賛同した。
「赤壁ですか。
確かにそっちの方がカッコイイですね!」
「リョモウにわかるなら、皆わかるでしょう」
「ロシュクさん、また私をバカにしてますね!」
リョモウとロシュクのいつものじゃれあいを流し、シュウユはその意見を取り入れた。
「そうですね。
では、目標地を赤壁と呼ぶことにしましょう」
そう言い、シュウユは一呼吸置いてから、再び口を開いた。
「では、皆さん。
我らの目標は赤壁!
狙うのはソウソウ!
我々はこの赤壁の戦いにてソウソウを討ちます!
皆さん、出撃してください!」
シュウユの号令一下、武将たちは赤壁を目指して、ソウソウ本陣へ急行した。
日食による闇夜の中であったが、度々この地に攻め寄せた兵士たちにとって、その道を進むのに何の不自由もなかった。
「ソウソウ。
あなたが陣取るその場所は、かつて私とサクちゃんが手に入れようと、知恵を出し合い、力を合わせ、試行錯誤を繰り返してきた場所です。
あなたが如何に強大であろうとも、私とサクちゃんの金をも断つこの絆の前に、勝てるはずがありません!」
南校舎赤壁・ソウソウ本陣~
偽の投降を企んだソンケン軍武将・コウガイより放たれた閃光弾の光が周囲を駆け抜けた。
その光により、ソウソウ以下、コウガイを取り囲む兵士たちの視界は一瞬にして奪われることとなった。
「コウガイ!
私たちの目を潰したつもりかもしれんが、お前たちも動けんのだぞ!」
カラーボールをくらい、その蛍光塗料で炎のように赤く発光するソウソウはコウガイに怒鳴った。
「それでいい!
ワシらの役目はここまでじゃからのう!」
このコウガイの言葉に合わせるかのように、ソウソウの耳に無数の足音がこちらに迫ってきているのが聞こえてきた。
その整然と揃う足音から、よく訓練された者たちであることは容易に想像が出来た。
「コウガイ!
私を謀ったお前だけは決して許さん!」
「ソウソウ会長、敵兵がこちらに迫ってきています!
我が軍の大多数は目をやられ、身動きが取れません!
早くお逃げください!」
「離せキョチョ!
奴だけは!
コウガイだけは許さん!」
ソウソウの怒りに呼応するように、一匹の獣がコウガイに飛び掛かった。
それはソウソウの愛猫・絶影であった。
「なんじゃ、こいつ!
やめんか!」
絶影はコウガイの懐に飛び込むと、コウガイがよく見えないのをいいことに、散々に引っ掻き、噛み付いて苦しめた。
「絶影か!
もういい戻れ!」
ソウソウの合図で、絶影は行き掛けの駄賃とばかりに、コウガイの懐より布切れを奪い取ってソウソウの元へと戻っていった。
「よくやった絶影。
なんだ、これは?
布切れか?」
「待て!
それはソンケンの大将の…!」
何が奪い取られたのか、目が見えなくてもコウガイにはすぐわかった。
そして、コウガイの言葉からその布切れが何かはソウソウはすぐに理解した。
それはソンケン(兄)より仲間の証として譲られた赤いバンダナであった。
「お前らがいつもつけている布切れか。
でかしたぞ、絶影!
コウガイ!
お前の首の代わりにこの布切れをいただくぞ!
では、全軍撤退せよ!」
コウガイの赤いバンダナを手に入れ、一先ずの溜飲を下げたソウソウは全軍に撤退を指示した。
しかし、コウガイを取り囲んでいた兵士たちは未だ視界がぼやけ歩行もままならず、その部隊が中央に居座ってしまったため、そのさらに周囲にいる部隊の撤退にまで影響が出る有り様であった。
「中央に陣取る者たちが動けんと、その周辺のの者たちの撤退まで滞るか。
先に一度、シュウユを迎え撃つか。
いや、それでもあの中央の兵士たちが邪魔になる」
視界が悪くとも、周囲の反応から瞬時に状況を理解したソウソウであったが、中央の部隊が混乱してしまった今、撤退であれ、迎撃であれ円滑に部隊を動かすのは不可能であった。
次の動きに逡巡するソウソウの前に一人の生徒が駆け寄ってきた。
「ソウソウ会長、この場に止まるのは危険です。
今、ソウソウ会長の周囲にいた兵士たちが良くも悪くも障壁となり、味方の進行を妨げ、敵の進撃を防いでおります。
こうなってしまった以上、彼らを盾にしてソウソウ会長は先に逃げるべきです」
そう言うのは、後ろに控えていたために目をやられずにすんだ、黄色髪のポニーテールの女生徒・ソウジュンであった。
「しかし、それでは…」
「ソウソウ会長、失礼します。
キョチョ、あなたも後ろから着いてきなさい」
なおも渋るソウソウの手を引き、ソウジュンは強引に彼女を連れ出した。
それとほぼ同時に後ろから喚声が上がった。
おそらく、戦闘が始まったのであろう。
その喚声を背に、ソウソウの脳裏に今は入院している参謀・カクカがかつて言った言葉が過った。
『計略というのは劇薬です。
やり過ぎれば毒にもなります。
過ぎればその身を滅ぼします』
「私は計略に頼りすぎたということか…
カクカ、お前が今この場にいてくれればこの事態を防げたのだろうか…
いや、全ては私の不徳が招いたことか」
ソウソウはソウジュンに手を引かれながら、後ろを振り返り、見えもしない目で攻めてくるシュウユ軍を睨み付けた。
「この私が逃げることになろうとはな。
シュウユめ、コウガイめ。
見事な手並みだ。
私はこの敗北を恥とは思わん!
だが、次は決して許しはしないぞ!」
「いたぞ!
あれがソウソウだ!」
後方より何者かが叫んだ。
まだ戦闘は遥か後方で行われているはずだったが、塗料をかけられ赤く発光するソウソウの姿は、この暗闇の中、遠くソンケンの軍中からでもよく見ることが出来た。
「あの炎のように赤く光る女がソウソウだ!
例え明るくなっても赤いままだからよく目立つぞ!
必ず捕らえよ!」
戦闘と時を同じくして欠けていた太陽は徐々に戻り始め、周囲に明るさが戻りだしていた。
だが、赤いソウソウの姿が目立つことに何も変わりはなかった。
「この赤い姿のままでは良い的ではないか」
だが、その赤い姿は味方にも良い目印となった。
左右に滞陣していたシカン・カンコウ・ブンペーらの武将たち。
さらに後方にいたジュンユウ・テイイク・カクらの軍師たちも次々とソウソウへ合流した。
だが、逃げながら、一度崩れた陣営を立て直すのは難しく、彼らもソウソウとともに撤退を余儀なくされた。
「ソウソウ会長、ソウソウ会長、ソウソウ会長!
このまま逃げてるだけじゃ後手に回ったままだぜ!」
早口で捲し立てるように喋るのは、黒い法被を着たソウソウ軍の本隊指揮官・シカン。
「落ち着けシカン。
私の姿が目立つからと言っても、今盾になっている我が軍の兵士たちを蹴散らしてここまでたどり着くのは難しいだろう。
一度、ソンケン軍を引き離し、開けたところまで後退し、軍を立て直せば充分迎え撃つことができる」
「その通りです、ソウソウ会長。
シカン、あなたも本隊の指揮官ならもう少し落ち着いて発言すべきですよ」
そう言いシカンをたしなめるのは、同じ黒い法被に袖を通した本隊監督・カンコウであった。
しかし、その言葉をかき消す様に、別の方角より新たな喚声が上がった。
「我こそはリュービが義妹・カンウ!
ソウソウさん、おとなしく投降しなさい!」
「同じくリュービが義妹・チョーヒ!
オラオラ、チョーヒ様のお通りだぜ!
道を空けな!」
「リュービ軍武将・チョーウン!
ボクのことも忘れないで欲しいね」
そこに現れたのは、ソンケンと同盟を結び、シュウユと共同戦線を張っていたリュービ軍。
そのリュービ軍が誇るカンウ・チョーヒ・チョーウンの最強の三人の女生徒を先頭に、敗走するソウソウ軍目掛けて一斉に攻撃を開始した。
「ふふ、さすが抜け目がないな。
ここでお前が来るか、リュービ!」
「さあ、ソウソウ。
今こそ決着をつけよう!」
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