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第5部 赤壁大戦編

第83話 疾風!駆け抜ける武勇!

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 最後尾のチョーヒとソウソウ軍との一戦が行われた頃、リュービ軍に同行した南校舎の生徒たちに動揺が広がり出していた。

「おい、後ろでソウソウ軍との戦闘が始まったようだぞ!」

「何だって!

 おい、リュービについていけば安全じゃなかったのかよ!」

「前の奴遅いぞ!

 さっさと歩けよ!」

「痛っ!

 誰よ、後ろから押したの!」

「喧嘩するならよそに行ってやれよ!」

 ソウソウ軍に追われる中での逃走劇、次第に不満の声が漏れ初めていた。

 薄水色の髪の、華奢きゃしゃな女生徒、軍師・コウメイは、その声に対し不安を覚えた。

「後ろが揉め出したようです。

 リュービさん、このままではますます遅くなるかもしれません」

「こんな時に…」

 俺の陣営には南校舎の人員が加わり、一気に数倍に増えた。

 そんな人数にもなると、急ぐといっても、避難訓練のように押さない、駆けない、しゃべらないで、整然と進むしかない。

 まあ、そもそも廊下は走ってはいけないんだけども。

 しかし、新たに加わった南校舎の人員に強権的に従えるわけにもいかず、次第に隊列に乱れが生じ初めていた。

「コウメイ、なんとかまとめることはできないか」

 「無茶言うなよー、リュービー」

 俺たちの間に間延びしたしゃべり方で入ってきたのは、金髪に、片耳からイヤホンをぶら下げている、へらへら顔の男、俺の悪友・カンヨーであった。


「誰もが皆、お前らみたいにソウソウ倒そうなんて御大層なこと考えちゃいねーのさー。

 ソウソウ怖いー、戦いたくないー、誰かなんとかしてくれー、そうやって集まったのがあいつらさー。

 大きなことは期待すんなよー」

 カンヨーはつらつらと語り、俺の方に向き直る。

「つまりはリュービの熱心な支持者じゃないってわけさー」

「そうかもしれない…

 だけど、そうだからといって、それでも俺についてきてくれた者たちを、ここで見捨てるわけにはいかない…」

 この者たちは俺でなくてもよかったのかもしれない。

 それでも、今、ここにともにいるという事実は変えようがない。

 続けて、黒と緑二色のショートの髪に、フードのついた大きめのパーカーを羽織った女生徒、軍師・ジョショが俺に忠告する。

「しかし、このペースでは、この先の合流地点に敵に先回りされるかも知れませんよ」

 どうやら、後方ではチョーヒとソウソウ軍との接触があったようだ。

 チョーヒが食い止めてくれているようだが、確かにジョショの言う通り、このままでは敵に先回りされ、攻撃される可能性が高い。

「コウメイ、防ぐ手立てはあるか?」

 俺はすぐ隣を歩く、薄水色の髪の、華奢な女生徒、軍師・コウメイに助言を求めた。

「あるにはありますが…

 恐らく、リュービさんは採用されないかと…」

 コウメイがにごすような物言いをする。

 なるほど…コウメイの言いたいことがわかった。

「それはつまり…

 皆を盾にして、俺たちだけ先に逃げろということか?」

 コウメイは悲しそうな表情で答える。

「はい…

 残念ながら、今の戦力ではソウソウ軍の攻撃を防ぎようがありません」



 一方、ソウソウ前軍から割かれ、先回りした別動隊の面々は、リュービ軍の元にたどり着いた。

「どうやら余裕で間に合ったみたいだな」

「話に聞いた通り、戦えそうなのは先頭グループだけのようですね。

 中間にも防衛の兵がいるようですが、あのように分散しては戦力にはなりそうもない。

 兵士として戦えそうなのは100人程度といったところですね」

 黄色い短髪、鷹のブレスレットを左腕につけた男子生徒・コウランと、一つ結びの緑色の髪に、狼のブレスレットを右腕につけた男子生徒・チョーコーのソウソウ軍の二将は、だらだらと歩くリュービ軍を見つけた。

 彼らがたどり着いた時には、すでに半ばほどリュービ軍は通過していたが、隊列はかなり長く、後方のチョーヒらの姿はまだ見えない。

 その隊列はばらばらで、統制が取れているとは思えない状態であった。

 その様子を見て、茶色混じりの短髪に、色黒の、背の高い男子生徒、ソウソウ前軍将・チョウシュウははりきりを見せた。

「こいつは手柄をあげ放題だな。

 全軍突撃!

 リュービ軍を完膚かんぷ無きまでに叩き潰せ!」

 チョウシュウは、自身が部長を務めるサッカー部の部員たちを引き連れ、隊列整わぬリュービ軍に突っ込んだ。

「右通路より敵兵です!」

 俺の後ろより、部下のソンカンの声が響く。

「先回りした敵か!

 もう現れたのか!」

 うろたえる俺の前に、野球帽に、ジャージの上着にスパッツ姿の、手にスケボーを持った、長い眉に、大きな瞳の女生徒、リュービ軍武将・チョーウンが飛び出した。


「リュービさん、ここは危険だ。

 ボクの後ろに隠れて!」

 いつも飄々ひょうひょうとした彼女から、あせりが感じられる。

 それだけの事態ということだが、カンウ・チョーヒに次ぐ我が軍の主力武将を、ここで俺の護衛だけをやらせるわけにはいかない。

「待て、チョーウン。

 俺なら大丈夫だ。

 君は皆を守ってやってくれ」

「でも…」

 「頼む!」

 なおも逡巡しゅんじゅんするチョーウンに、後ろから一喝する声が飛ぶ。

「チョーウン!

 リュービの事は私たちに任せて、あなたは行きなさい!」

 ボブカットの髪型、太めの眉の、なぜかメイド姿の女生徒、リュービ軍客将にして元チョーウンの主・コウソンサンであった。

「わかったよ!

 後はお願いね、コウソンサン!」

 かつての主の言葉に、チョーウンは納得し、敵襲の方へとスケボーで駆けていった。

 その後ろ姿を見送りながら、俺はロングの金髪に、ピンクの特攻服の女生徒、黄巾党のボス・リューヘキの方へ振り返った。


「チョーウン一人では全体は守れない。

 リューヘキ、君も黄巾党を率いて後ろの生徒を守ってくれ」

「任せな!」

 人数の多い黄巾党は、今や俺の主力部隊だが、中間の防衛に向ける戦力は残念ながら他にない。

「俺は無力なのか…

 守られることしかできないのか…」



「ソウソウ軍だー!早く逃げろ!」

「やめろ、押すんじゃねー!」

「うわー!」

 ソウソウ軍の襲撃に、リュービに同行した南校舎の生徒たちは、絶叫し、逃げ惑うばかりであった。

「逃げ惑う敵を一方的に討つなんて良心が痛む快勝だな。

 悪く思うなよ!」

 真っ先に飛び込んだソウソウ軍武将・チョウシュウは、手柄をあげんと、背中を向けたリュービの生徒たちを次々と倒していった。

「キャー!」

「ソウソウ軍だー!」

「皆さん落ち着いてください!

 静かにしてください!」

 飛び交う叫喚きょうかんの中、必死で生徒たちをまとめようとするのは、くせっ毛気味の髪に、眼鏡をかけた、大人びた雰囲気をもつ女生徒、リュービの補佐官・ビジクであった。


 彼女は生徒たちの管理のため中間に赴いたが、そこでこの襲撃に巻き込まれてしまった。

 なんとか生徒たちを落ち着かせようとするが、元来、人をまとめるのは不得手で、部隊を率いたことのない彼女には難しい仕事であった。

 そのビジクに、チョウシュウは目をつけた。

「見覚えのある顔だ。

 お前はリュービの女だな!」

 リュービ陣営の主要な人物として彼女は知られていた。

 南校舎の生徒より何倍も価値のあるビジクめがけて、チョウシュウは突撃した。

 「キャー!」

 ビジクの悲鳴が辺りにこだまする。

「手柄一番乗…り…」

 ドサッ!

 チョウシュウの伸ばした手は、ビジクに届くことなく、彼はその場に崩れ落ちた。

「これ以上の狼藉ろうぜきは、このボクが許さない!」

「チョーウンさん!」

 チョウシュウを一撃で葬ったのは、野球帽に、ジャージ姿の女生徒、リュービ軍武将・チョーウンであった。

「ここはボクが食い止めるよ!

 みんなは今のうちに避難を!」

「チョウシュウ部長が討たれたぞ!」

「敵は一人だ!

 取り囲んで倒せ!」

 一方、指揮官を失ったチョウシュウの部隊は、仇を討とうと動き出した。

「やめときなよ。

 君たちじゃ力不足だよ!」

「チョーウンさん、周りに敵が!」

 チョウシュウが率いるサッカー部員だけで100名近く。

 その部員たちがチョーウン・ビジクを取り囲もうと進みだした。

「まだ敵兵がこんなにもいるのか。

 でも君たちに時間はかけれないんだよ」

「逃がさねーぞ!」

 ドカ!

 掴みかかろうとした一人の敵兵は、一瞬でその場に倒れこんだ。

「勘違いしないでくれ。

 君たち相手なら一秒とかからずに倒せるんだ。

 ただ今はその一秒が惜しいだけだよ

 道を開けてくれるかな」

「・・・」

 チョーウンのその目では追えない早業に、敵兵たちは言葉を失い、取り囲もうとするその足を止めてしまった。

「どうやら次の馬鹿はいないようだね。

 さぁ、ビジク、撤退しよう」



「大変だ!

 チョウシュウ軍が四散している。

 どうもチョウシュウが倒されたらしいぞ!」

 先行していたチョウシュウ軍の異変に気付き、黄色い短髪の男子生徒・コウランが叫ぶ。

「調子に乗って深入りでもしたんでしょう。

 私がチョウシュウ軍の穴を埋めます」

 小柄で精悍せいかんな顔つきの女生徒・ソウジュンが答え、部隊をまとめ始める。

 だが、その動きを緑髪を一つ結びにした男子生徒・チョーコーが止める。

「いえ、悪い予感がします。

 ソウジュン、あなたには全体の指揮を頼む。

 コウランと私で様子を見てくる」

「何も二人も行くことないわ」

「リュービ軍は少数精鋭、悪い芽は早めに摘んでおくべきです。

 行くぞ、コウラン!」

 チョーコーとコウランは騒乱の火元へと飛び込んでいった。



「さぁ、ボクに続いて!

 邪魔、どいて!」

「凄い。

 まっすぐに道が作られていく…」

 野球帽に、ジャージ、スパッツ姿の女生徒・チョーウンは次々とソウソウ軍を蹴散らし、ビジクを連れて、先頭のリュービまでの道を作っていた。

 しかし、彼女の前に二つの影が立ちふさがる。

「チョウシュウが倒されたと聞いて来てみれば…

 チョーウン、お前だったのか!」

「お互い、主がエンショウ・コウソンサンの時にたびたび戦ってきましたね。

 名を聞かなくなったと思ったらリュービ軍にいたのですか」

 それはソウソウ軍の将・チョーコーとコウランの二人であった。

 彼ら二人はかつてエンショウ軍に属し、そのエンショウ軍と戦っていたコウソンサン軍に元々所属していたチョーウンとは、何度も顔を会わせていた。

「チョーコー・コウラン、久しぶりだね。

 出来れば今は会いたく無かったよ」

 チョーウンも思わず手に力が入る。

 この二人相手では、今までの雑魚兵のようにはいかないことを彼女は知っていた。



 一方、ソウソウ軍の将・ソウジュンは引き続きリュービ軍を掃討していた。

「我らはこのままリュービ軍を押し込みなさい!」

「はい、ソウジュン様!」

 そこへ、そのソウジュン軍の攻勢を断ち切るように、黄色いバンダナを巻いた一隊が現れた。

 黄巾党を率いるピンクの特攻服の女生徒・リューヘキの部隊であった。

「お前たち!

 敵の侵攻を食い止めな!」

 だが、精鋭を率いるソウジュンは身動みじろぎもせず、指示を飛ばした。

「黄巾の残党か。

 奴らは腕っぷしだけの連中だ。

 陣形を組み確実に削っていけ!」

 ソウジュン軍は精鋭というだけあって、元は不良の集まりであった黄巾党とは兵の練度に差があった。

 ソウジュン軍の連携攻撃に、黄巾党は次第に劣勢へと追い込まれていった。

「リューヘキの姉御!

 このままでは敵に突破されるのも時間の問題です!

 姉御だけでも逃げてくだせぇ!」

「お前らを置いて逃げれるか!」

「姉御はリュービの旦那と幸せになってくだせぇ!

 それが俺たちの願いでさ!

 者ども!俺に続け!」

「止めろ!

 引き返せキョウト!」

 黄巾の副将・キョウトはリューヘキの制止も聞かず、果敢かかんにもソウジュン軍に立ち向かっていった。

「俺は黄巾党のキョウト!

 お前ら一人でも多く道連れにしてやるぜ!」

 突進してくるこの無精髭の大男相手でも、ソウジュンは動揺せずに対処する。

「猪武者が!

 複数人で組んで取り押さえなさい!」

「てめえら卑怯だぞ!

 サシで戦えねぇのか!」

 「個人の蛮勇で戦局を変えようなんてリュービ軍らしい時代遅れのやり方ね。

 あなたは新時代に不必要です!」

「うわー!」

「 キョウト!」



 先頭にいるリュービの元に次々と不利な戦況が伝えられていた。

「リュービさん!

 黄巾党の部隊壊滅!

 後方に行ったチョーウンたちとも連絡がつきません!」

「リュービ…私も…戦…う…!」

 ソンカンから聞かされる劣勢の報告に、長身で、腰まで伸びたポニーテールに紅のリボン、深いスリットの入った長いスカートの女生徒、リュービ軍客将・リョフが参戦しようと名乗りをあげる。

 だが、俺はそんなリョフの意見を押し止めた。

「ダメだ!

 ソウソウとの契約がある。

 リョフ、君が戦えば退学させられるかもしれない。

 やらせるわけにはいかない」

 リョフはかつて最強の武将と言われた娘だ。

 だが、かつての敗北の時の条件で、彼女自身が戦うことは許されていなかった。

 リョフ本人が戦うことを望んでいなかったこともあり、非戦闘員として俺の陣営に加わっていたが、この状況に彼女も傍観はできない様子であった。



 一方、最後尾のチョーヒの部隊にも、このリュービ軍の混乱の様子が伝わっていた。

「チョーヒ隊長!

 本隊が側面からの攻撃を受けたようです!」

狼狽うろたえるんじゃねーぜ!

 アニキやチョーウンたちを信じろ!

 オレたちはオレたちの役目を果たすぜ!」
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