学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

文字の大きさ
上 下
89 / 223
第5部 赤壁大戦編

第72話 暗殺!絶たれた道!

しおりを挟む
 ここは東校舎と南校舎を結ぶ渡り廊下。

 その東側・ソンサク陣営は、この渡り廊下を奪取し、南校舎への進出の足掛かりを確保せんと、南校舎の盟主・リュウヒョウ配下のこの地の守将・コウソを攻めている真っ只中であった。

「前線の様子はどうなってるん!」

 リボンのついたツインテールに、三日月の髪飾り、ミニスカート、ブーツの細身の女生徒、この軍の総指揮官・ソンサクの大声が辺りに響く。

 赤レンガの南校舎へ向けてソンサク軍が殺到し、渡り廊下いっぱいにコウソ軍とともにひしめき合っている。

 ソンサクの陣取る後方からは何がどうなっているのやら、さっぱりわからないほどの混戦となっていた。

 そこへ一人の男子生徒が、渡り廊下のソンサク軍をかき分け、ソンサクのもとに駆け込んできた。

 長い髪を一つ結びにした、その小柄な男子生徒は、この春からソンサク軍に加わった武将・リョートーであった。
 
「ソンサク様!

 先鋒だった我が兄・リョーソーは敵将・カンネーの襲撃に合い重傷!

 先鋒は壊滅状態です!」

 そこへさらに、ソンサクのイコト・ジョコンが重傷を負ったとの続報が入る。

「サクちゃん、これ以上の強行は無謀です。

 ここは退きましょう」

 ソンサクのかたわらに立つ、長い金髪に白い肌、整った顔立ちに、ゴスロリ風の衣裳いしょうを身にまとった美少女、ソンサクの幼馴染み・シュウユが、サクちゃんことソンサクに撤退をうながす。

「仕方ない…!

 コウソ討伐は失敗じゃ!

 全軍撤退!」

「はーはっはっは!

 見よ、ソンサクのやつは尻尾をまいて逃げおったぞ!

 小覇王しょうはおうと呼ばれていても所詮しょせんは小娘。

 この名将・コウソの敵ではないわ!」

 金髪頭の男子生徒・コウソの高笑いが辺りにこだまする。



 ソンサク軍のコウソ討伐は失敗に終わった。

「大丈夫ですか、サクちゃん」

 ゴスロリ風の衣裳いしょうの女生徒・シュウユが、落ち込むソンサクにいたわりの言葉をかける。

「うーん、前回はいいところまでいったのに…

 コウソの弟のコウエキや援軍のリュウコ・カンキらを蹴散らしてさ…」

「しかし、それは私たちの陣地に突出してきた部隊を倒しただけです。

 前回もコウソ本陣まで攻めきれてはいません」

「手厳しいんじゃなぁ、ユーちゃんは」

 ユーちゃんことシュウユは、落ち着いた様子で答えた。

「私はサクちゃんの副将です。

 あなたに嘘偽りは申しませんよ」

「ふふ、それでこそユーちゃんじゃ。

 でも今回の失敗で、リョーソーやジョコンらを失ってしもーた。

 うちは戦いに向かんのかもしれん…」

「そんなことはありません。

 またたく間に東校舎を制圧し、小覇王しょうはおうと呼ばれたあなたが向いてないわけないでしょう」

「でも、うちは戦線を拡大しただけじゃ。

 結局、何もまとめきれとらん」

「あなた以上の指揮官はいないわ。

 言ったでしょう、私はあなたに嘘偽りは言わないと。

 だから、サクちゃん、自信を持って」

「ありがとう、ユーちゃん。

 うちももうちょっと頑張ってみるよ」

「あら、もう大丈夫そうね、ソンサク」

「リョハン、来とったん?」

 そこにやって来たのは、茶髪を縦ロールにした、小柄で、キラキラしたネックレスやブローチを多数着用した派手好きな女生徒・リョハンであった。

 彼女は元はソンサクのクラスメートで、初期から彼女の戦いに同行し、今はソンサク軍の参謀兼武将として活躍していた。

「報告を兼ねてあなたの様子を見に来ましたわ」

「リョハンが来たならちょうどいいですね。

 作戦会議を行いましょう」

 シュウユの提案で作戦会議が開かれた。

「今回の勝利でまたコウソのやつ、自分が名将だとぬかしょんじゃろうな」

 開幕早々にソンサクが愚痴る。

「コウソは油断のならない男ですが、そこまでの名将ではありません。

 それよりも今回の勝敗を左右するのは、“地の利”です。

 戦いの場である渡り廊下では、一度に移動できる生徒の数に限りがあります。

 対して防衛側は渡り廊下の先の開けた場所に大部隊を展開でき、少数で多数と戦う形になってしまいます。

 地の利はコウソにあります」

 渡り廊下を抜けて敵校舎に突入する場合、必然的に少数が多数に囲まれる形になる。

 そのため渡り廊下は、守りやすく、攻めにくい場所であり、前回、コウソが攻めてきた時は、ソンサクがその攻撃部隊を蹴散らし勝利したが、渡り廊下に逃げこもったコウソを倒すまでにはいたらなかった。

 かつてエンショウはカントの戦いにおいて、ソウソウ軍から渡り廊下を奪取したが、それはより大多数の兵を投入するという力業であった。

 しかし、今のソンサクにそれだけの兵を用意することはできなかった。

「やっぱりうちが先頭で突撃して道を切り開くのが手っ取り早いんじゃないかな?」

「サクちゃん、冗談でもやめてくださいね。

 あなたに何かあったら一大事です」

「冗談じゃないんじゃが…」

 ソンサクは個人の武勇でも校内有数の実力者だ。

 だが、今の彼女は東校舎の盟主、危険な行動を周囲は、特に幼馴染みのシュウユは許さなかった。

「確かに現状取れる手は、先頭を精鋭部隊で固めて、強行突破ぐらいしかありませんね。

 もし迂回路うかいろが使えれば、敵の後ろに部隊を送りこんで挟み撃ちにするという手もあるのですが…」

 そのシュウユの言葉に、リョハンが答えた。

「それは難しいですわね。

 今回、報告する第二渡り廊下のタイシジの戦況ですが、去年同様、リュウヒョウのイトコ・リュウバンが守将に選ばれましたわ。

 そしてリュウバンが早速、攻めてきましたが、タイシジは見事に追い返しました。

 この時、タイシジと敵将のコーチューの激しい一騎討ちが行われましたが、引き分けに終わったそうですわ」

「コーチューって確か前にもタイシジと一騎討ちして引き分けになっていたよね。

 そのコーチューってやつ強いんじゃね。

 今度うちも戦ってみたいな」

「まあ、その話は改めてタイシジから聞いてくださいませ。

 防衛には成功しましたが、守るのに手一杯で、タイシジも攻めることは難しそうですわ」

 ここに出てくる第二渡り廊下はかつてカントの戦いでガンリョウが攻めた場所ではなく、東・南校舎を結ぶ、今回のコウソ戦があった渡り廊下の南隣に位置するもう一つの渡り廊下である。

 この地を武将・タイシジに守らせ、リュウヒョウの派遣した武将・リュウバンと戦わせていた。

「猛将・リュウバンにタイシジと互角の武芸者・コーチューですか。

 タイシジに渡せるほどこちらも兵は余っていませんし、第二渡り廊下から迂回うかいするのは難しそうですね」

 さらに南に展開するほどソンサクに兵力はなく、北にはソウソウがおり、こちらのルートも取ることができない。

 コウソを挟み撃ちにする作戦は白紙となった。

「他に策とすれば寝返り工作ですね。

 コウソの部下を寝返らせて、内部と外部から同時に攻撃するのです」

「コウソはプライドばかり高くて、怒りっぽいから人望がないって噂じゃしね。

 それが一番有効な策かな」

「現在、コウソの部下にそれとなく声をかけていますが、良い返事はもらえていませんね。

 コウソが嫌いだからといって、すぐに私たちの味方になるわけほど単純な話ではありませんし、難しいです。

 それにあせってコウソにバレては元も子もないので、こればかりはじっくり待つしかないですね」

「やっぱり、今すぐできることはなさそうじゃね…」

「そうですね…

 しかし、渡り廊下は南校舎進攻の拠点でありるばかりか、我らの東校舎防衛の拠点にもなる重要な地点。

 その力を十二分に発揮するには、両対岸含めた完全占拠が望ましいでしょう」

「ふぅ…今のところ進展は難しそうじゃね。

 ちょっと外の空気吸ってくるね」

「わかりました。

 あまり遠くには行かないでくださいね」



 校庭に出たソンサクは一人、物思いにふけっていた。

 ソンサクは去年の選挙戦で、早々に東校舎の群雄・リュウヨウを倒し、東校舎に割拠かっきょするキョコウを破った。

 さらに南下し、オウロウを追い出し、彼に味方するショウショウを潰し、独立勢力のゲンハクコを蹴散らし、エンジュツ残党のリュウクンを討ち、カキンを降伏させ、東校舎において勢力を拡大した。

 その覇業から、かつて“覇王はおう”と呼ばれた学園のOB・コーウになぞらえて、“小覇王しょうはおう”としょうされた。

 東校舎を瞬く間に従えたソンサクだが、恨みは残った。

 彼女に倒された勢力の残党は、東校舎の各地に分散し、ひそんだ。

 集まって大勢力にこそならなかったが、分散したため戦いは泥沼化し、去年の選挙戦終盤、その勢力をソウソウに利用され、ソンサクは身動きが取らなくなってしまった。

 今のソンサクは、その勢力にはばまれ東校舎内でのこれ以上の勢力拡大が遅々ちちとして進まず、北はソウソウの防波堤ぼうはてい・リュウフクを突破できず、西はリュウヒョウの守将・コウソも倒せず、八方塞はっぽうふさがりな状況であった。

 そんな状況に、ソンサクはついため息をもらした…

「うちは今まで力で敵を倒してきた…

 でも、そのやり方だけでは、もう限界なんじゃないの…」

「そうだ、お前のやり方はもう限界だ…!」

「何者じゃ!」

 ソンサクの周囲を、三人の男子生徒が包囲するように並んだ。

「俺たちは、お前に滅ぼされたキョコウ様の部下だ。

 お前にあの時の礼をしに来た」

「キョコウ?

 残党どもじゃな」

 「行くぞ!ソンサクを逃がすな!」

 三人の男たちは三方から同時にソンサクに襲いかかった。

「たった三人でうちに勝とーなんてナメられたもんじゃね!」

 常人には一瞬の出来事であった。

 三人はいつ殴られたともわからないまま地面の上に転がり、かすかにうめき声を上げていた。


「お前らじゃうちは倒せんよ

 これにりたらバカな事はやめて学業にでも専念しね」

「サクちゃん!大丈夫!」

 外の騒ぎを聞きつけ、あわててシュウユがソンサクの元に駆けつけてきた。

「こんぐらい平気じゃよ。

 こんな奴ら100人来たってうちの敵じゃないね」

「ナメやがって…」

 地面に突っ伏した男は、最後の力を振り絞り、ナイフ片手に、ソンサクではなく、シュウユ目掛けて走り出した!

「危ない、ユーちゃん!」

 ナイフが肉を切り裂く音が辺りに響いた。

 シュウユをかばったソンサクの腹からは血が止めどなく流れ出し、シュウユの絶叫が辺りに木霊こだました。

「どうだ、ソンサク。

 ナメた相手にやられる気分はよ…」

「だからお前は三下なんじゃ…」

 ソンサクの拳が男のあごを砕き、男はその場に倒れ伏す。

「 はぁ…はぁ…

 ユーちゃん、大丈夫…?」

 息も絶え絶えなソンサクに、顔面蒼白そうはくとなり、目に涙をたたえたシュウユが駆け寄る。

「私よりサクちゃんが!

 早く保健室へ!」

「うちなら…大丈夫…」

 膝をつき、ゆっくりとうずくまるソンサク。

「少し休めば…こんなのすぐ治るんよ…」

「何言ってるの!

 しっかりしてサクちゃん!」

「ユーちゃん…

 後…お願いね…」

「サクちゃん!サクちゃん!」

 その後、ソンサクは病院に運び込まれた。

 幸い命に別状はなかったが、入院のため長期休学となった。

 東校舎は、この日あるじを失った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...