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第5部 赤壁大戦編
第72話 暗殺!絶たれた道!
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ここは東校舎と南校舎を結ぶ渡り廊下。
その東側・ソンサク陣営は、この渡り廊下を奪取し、南校舎への進出の足掛かりを確保せんと、南校舎の盟主・リュウヒョウ配下のこの地の守将・コウソを攻めている真っ只中であった。
「前線の様子はどうなってるん!」
リボンのついたツインテールに、三日月の髪飾り、ミニスカート、ブーツの細身の女生徒、この軍の総指揮官・ソンサクの大声が辺りに響く。
赤レンガの南校舎へ向けてソンサク軍が殺到し、渡り廊下いっぱいにコウソ軍とともにひしめき合っている。
ソンサクの陣取る後方からは何がどうなっているのやら、さっぱりわからないほどの混戦となっていた。
そこへ一人の男子生徒が、渡り廊下のソンサク軍をかき分け、ソンサクのもとに駆け込んできた。
長い髪を一つ結びにした、その小柄な男子生徒は、この春からソンサク軍に加わった武将・リョートーであった。
「ソンサク様!
先鋒だった我が兄・リョーソーは敵将・カンネーの襲撃に合い重傷!
先鋒は壊滅状態です!」
そこへさらに、ソンサクのイコト・ジョコンが重傷を負ったとの続報が入る。
「サクちゃん、これ以上の強行は無謀です。
ここは退きましょう」
ソンサクの傍らに立つ、長い金髪に白い肌、整った顔立ちに、ゴスロリ風の衣裳を身にまとった美少女、ソンサクの幼馴染み・シュウユが、サクちゃんことソンサクに撤退を促す。
「仕方ない…!
コウソ討伐は失敗じゃ!
全軍撤退!」
「はーはっはっは!
見よ、ソンサクのやつは尻尾をまいて逃げおったぞ!
小覇王と呼ばれていても所詮は小娘。
この名将・コウソの敵ではないわ!」
金髪頭の男子生徒・コウソの高笑いが辺りにこだまする。
ソンサク軍のコウソ討伐は失敗に終わった。
「大丈夫ですか、サクちゃん」
ゴスロリ風の衣裳の女生徒・シュウユが、落ち込むソンサクに労りの言葉をかける。
「うーん、前回はいいところまでいったのに…
コウソの弟のコウエキや援軍のリュウコ・カンキらを蹴散らしてさ…」
「しかし、それは私たちの陣地に突出してきた部隊を倒しただけです。
前回もコウソ本陣まで攻めきれてはいません」
「手厳しいんじゃなぁ、ユーちゃんは」
ユーちゃんことシュウユは、落ち着いた様子で答えた。
「私はサクちゃんの副将です。
あなたに嘘偽りは申しませんよ」
「ふふ、それでこそユーちゃんじゃ。
でも今回の失敗で、リョーソーやジョコンらを失ってしもーた。
うちは戦いに向かんのかもしれん…」
「そんなことはありません。
瞬く間に東校舎を制圧し、小覇王と呼ばれたあなたが向いてないわけないでしょう」
「でも、うちは戦線を拡大しただけじゃ。
結局、何もまとめきれとらん」
「あなた以上の指揮官はいないわ。
言ったでしょう、私はあなたに嘘偽りは言わないと。
だから、サクちゃん、自信を持って」
「ありがとう、ユーちゃん。
うちももうちょっと頑張ってみるよ」
「あら、もう大丈夫そうね、ソンサク」
「リョハン、来とったん?」
そこにやって来たのは、茶髪を縦ロールにした、小柄で、キラキラしたネックレスやブローチを多数着用した派手好きな女生徒・リョハンであった。
彼女は元はソンサクのクラスメートで、初期から彼女の戦いに同行し、今はソンサク軍の参謀兼武将として活躍していた。
「報告を兼ねてあなたの様子を見に来ましたわ」
「リョハンが来たならちょうどいいですね。
作戦会議を行いましょう」
シュウユの提案で作戦会議が開かれた。
「今回の勝利でまたコウソのやつ、自分が名将だとぬかしょんじゃろうな」
開幕早々にソンサクが愚痴る。
「コウソは油断のならない男ですが、そこまでの名将ではありません。
それよりも今回の勝敗を左右するのは、“地の利”です。
戦いの場である渡り廊下では、一度に移動できる生徒の数に限りがあります。
対して防衛側は渡り廊下の先の開けた場所に大部隊を展開でき、少数で多数と戦う形になってしまいます。
地の利はコウソにあります」
渡り廊下を抜けて敵校舎に突入する場合、必然的に少数が多数に囲まれる形になる。
そのため渡り廊下は、守りやすく、攻めにくい場所であり、前回、コウソが攻めてきた時は、ソンサクがその攻撃部隊を蹴散らし勝利したが、渡り廊下に逃げ籠ったコウソを倒すまでにはいたらなかった。
かつてエンショウはカントの戦いにおいて、ソウソウ軍から渡り廊下を奪取したが、それはより大多数の兵を投入するという力業であった。
しかし、今のソンサクにそれだけの兵を用意することはできなかった。
「やっぱりうちが先頭で突撃して道を切り開くのが手っ取り早いんじゃないかな?」
「サクちゃん、冗談でもやめてくださいね。
あなたに何かあったら一大事です」
「冗談じゃないんじゃが…」
ソンサクは個人の武勇でも校内有数の実力者だ。
だが、今の彼女は東校舎の盟主、危険な行動を周囲は、特に幼馴染みのシュウユは許さなかった。
「確かに現状取れる手は、先頭を精鋭部隊で固めて、強行突破ぐらいしかありませんね。
もし迂回路が使えれば、敵の後ろに部隊を送りこんで挟み撃ちにするという手もあるのですが…」
そのシュウユの言葉に、リョハンが答えた。
「それは難しいですわね。
今回、報告する第二渡り廊下のタイシジの戦況ですが、去年同様、リュウヒョウのイトコ・リュウバンが守将に選ばれましたわ。
そしてリュウバンが早速、攻めてきましたが、タイシジは見事に追い返しました。
この時、タイシジと敵将のコーチューの激しい一騎討ちが行われましたが、引き分けに終わったそうですわ」
「コーチューって確か前にもタイシジと一騎討ちして引き分けになっていたよね。
そのコーチューってやつ強いんじゃね。
今度うちも戦ってみたいな」
「まあ、その話は改めてタイシジから聞いてくださいませ。
防衛には成功しましたが、守るのに手一杯で、タイシジも攻めることは難しそうですわ」
ここに出てくる第二渡り廊下はかつてカントの戦いでガンリョウが攻めた場所ではなく、東・南校舎を結ぶ、今回のコウソ戦があった渡り廊下の南隣に位置するもう一つの渡り廊下である。
この地を武将・タイシジに守らせ、リュウヒョウの派遣した武将・リュウバンと戦わせていた。
「猛将・リュウバンにタイシジと互角の武芸者・コーチューですか。
タイシジに渡せるほどこちらも兵は余っていませんし、第二渡り廊下から迂回するのは難しそうですね」
さらに南に展開するほどソンサクに兵力はなく、北にはソウソウがおり、こちらのルートも取ることができない。
コウソを挟み撃ちにする作戦は白紙となった。
「他に策とすれば寝返り工作ですね。
コウソの部下を寝返らせて、内部と外部から同時に攻撃するのです」
「コウソはプライドばかり高くて、怒りっぽいから人望がないって噂じゃしね。
それが一番有効な策かな」
「現在、コウソの部下にそれとなく声をかけていますが、良い返事はもらえていませんね。
コウソが嫌いだからといって、すぐに私たちの味方になるわけほど単純な話ではありませんし、難しいです。
それに焦ってコウソにバレては元も子もないので、こればかりはじっくり待つしかないですね」
「やっぱり、今すぐできることはなさそうじゃね…」
「そうですね…
しかし、渡り廊下は南校舎進攻の拠点でありるばかりか、我らの東校舎防衛の拠点にもなる重要な地点。
その力を十二分に発揮するには、両対岸含めた完全占拠が望ましいでしょう」
「ふぅ…今のところ進展は難しそうじゃね。
ちょっと外の空気吸ってくるね」
「わかりました。
あまり遠くには行かないでくださいね」
校庭に出たソンサクは一人、物思いに耽っていた。
ソンサクは去年の選挙戦で、早々に東校舎の群雄・リュウヨウを倒し、東校舎に割拠するキョコウを破った。
さらに南下し、オウロウを追い出し、彼に味方するショウショウを潰し、独立勢力のゲンハクコを蹴散らし、エンジュツ残党のリュウクンを討ち、カキンを降伏させ、東校舎において勢力を拡大した。
その覇業から、かつて“覇王”と呼ばれた学園のOB・コーウに準えて、“小覇王”と称された。
東校舎を瞬く間に従えたソンサクだが、恨みは残った。
彼女に倒された勢力の残党は、東校舎の各地に分散し、潜んだ。
集まって大勢力にこそならなかったが、分散したため戦いは泥沼化し、去年の選挙戦終盤、その勢力をソウソウに利用され、ソンサクは身動きが取らなくなってしまった。
今のソンサクは、その勢力に阻まれ東校舎内でのこれ以上の勢力拡大が遅々として進まず、北はソウソウの防波堤・リュウフクを突破できず、西はリュウヒョウの守将・コウソも倒せず、八方塞がりな状況であった。
そんな状況に、ソンサクはついため息をもらした…
「うちは今まで力で敵を倒してきた…
でも、そのやり方だけでは、もう限界なんじゃないの…」
「そうだ、お前のやり方はもう限界だ…!」
「何者じゃ!」
ソンサクの周囲を、三人の男子生徒が包囲するように並んだ。
「俺たちは、お前に滅ぼされたキョコウ様の部下だ。
お前にあの時の礼をしに来た」
「キョコウ?
残党どもじゃな」
「行くぞ!ソンサクを逃がすな!」
三人の男たちは三方から同時にソンサクに襲いかかった。
「たった三人でうちに勝とーなんてナメられたもんじゃね!」
常人には一瞬の出来事であった。
三人はいつ殴られたともわからないまま地面の上に転がり、微かに呻き声を上げていた。
「お前らじゃうちは倒せんよ
これに懲りたらバカな事はやめて学業にでも専念しね」
「サクちゃん!大丈夫!」
外の騒ぎを聞きつけ、慌ててシュウユがソンサクの元に駆けつけてきた。
「こんぐらい平気じゃよ。
こんな奴ら100人来たってうちの敵じゃないね」
「ナメやがって…」
地面に突っ伏した男は、最後の力を振り絞り、ナイフ片手に、ソンサクではなく、シュウユ目掛けて走り出した!
「危ない、ユーちゃん!」
ナイフが肉を切り裂く音が辺りに響いた。
シュウユを庇ったソンサクの腹からは血が止めどなく流れ出し、シュウユの絶叫が辺りに木霊した。
「どうだ、ソンサク。
ナメた相手にやられる気分はよ…」
「だからお前は三下なんじゃ…」
ソンサクの拳が男の顎を砕き、男はその場に倒れ伏す。
「 はぁ…はぁ…
ユーちゃん、大丈夫…?」
息も絶え絶えなソンサクに、顔面蒼白となり、目に涙を湛えたシュウユが駆け寄る。
「私よりサクちゃんが!
早く保健室へ!」
「うちなら…大丈夫…」
膝をつき、ゆっくりとうずくまるソンサク。
「少し休めば…こんなのすぐ治るんよ…」
「何言ってるの!
しっかりしてサクちゃん!」
「ユーちゃん…
後…お願いね…」
「サクちゃん!サクちゃん!」
その後、ソンサクは病院に運び込まれた。
幸い命に別状はなかったが、入院のため長期休学となった。
東校舎は、この日主を失った。
その東側・ソンサク陣営は、この渡り廊下を奪取し、南校舎への進出の足掛かりを確保せんと、南校舎の盟主・リュウヒョウ配下のこの地の守将・コウソを攻めている真っ只中であった。
「前線の様子はどうなってるん!」
リボンのついたツインテールに、三日月の髪飾り、ミニスカート、ブーツの細身の女生徒、この軍の総指揮官・ソンサクの大声が辺りに響く。
赤レンガの南校舎へ向けてソンサク軍が殺到し、渡り廊下いっぱいにコウソ軍とともにひしめき合っている。
ソンサクの陣取る後方からは何がどうなっているのやら、さっぱりわからないほどの混戦となっていた。
そこへ一人の男子生徒が、渡り廊下のソンサク軍をかき分け、ソンサクのもとに駆け込んできた。
長い髪を一つ結びにした、その小柄な男子生徒は、この春からソンサク軍に加わった武将・リョートーであった。
「ソンサク様!
先鋒だった我が兄・リョーソーは敵将・カンネーの襲撃に合い重傷!
先鋒は壊滅状態です!」
そこへさらに、ソンサクのイコト・ジョコンが重傷を負ったとの続報が入る。
「サクちゃん、これ以上の強行は無謀です。
ここは退きましょう」
ソンサクの傍らに立つ、長い金髪に白い肌、整った顔立ちに、ゴスロリ風の衣裳を身にまとった美少女、ソンサクの幼馴染み・シュウユが、サクちゃんことソンサクに撤退を促す。
「仕方ない…!
コウソ討伐は失敗じゃ!
全軍撤退!」
「はーはっはっは!
見よ、ソンサクのやつは尻尾をまいて逃げおったぞ!
小覇王と呼ばれていても所詮は小娘。
この名将・コウソの敵ではないわ!」
金髪頭の男子生徒・コウソの高笑いが辺りにこだまする。
ソンサク軍のコウソ討伐は失敗に終わった。
「大丈夫ですか、サクちゃん」
ゴスロリ風の衣裳の女生徒・シュウユが、落ち込むソンサクに労りの言葉をかける。
「うーん、前回はいいところまでいったのに…
コウソの弟のコウエキや援軍のリュウコ・カンキらを蹴散らしてさ…」
「しかし、それは私たちの陣地に突出してきた部隊を倒しただけです。
前回もコウソ本陣まで攻めきれてはいません」
「手厳しいんじゃなぁ、ユーちゃんは」
ユーちゃんことシュウユは、落ち着いた様子で答えた。
「私はサクちゃんの副将です。
あなたに嘘偽りは申しませんよ」
「ふふ、それでこそユーちゃんじゃ。
でも今回の失敗で、リョーソーやジョコンらを失ってしもーた。
うちは戦いに向かんのかもしれん…」
「そんなことはありません。
瞬く間に東校舎を制圧し、小覇王と呼ばれたあなたが向いてないわけないでしょう」
「でも、うちは戦線を拡大しただけじゃ。
結局、何もまとめきれとらん」
「あなた以上の指揮官はいないわ。
言ったでしょう、私はあなたに嘘偽りは言わないと。
だから、サクちゃん、自信を持って」
「ありがとう、ユーちゃん。
うちももうちょっと頑張ってみるよ」
「あら、もう大丈夫そうね、ソンサク」
「リョハン、来とったん?」
そこにやって来たのは、茶髪を縦ロールにした、小柄で、キラキラしたネックレスやブローチを多数着用した派手好きな女生徒・リョハンであった。
彼女は元はソンサクのクラスメートで、初期から彼女の戦いに同行し、今はソンサク軍の参謀兼武将として活躍していた。
「報告を兼ねてあなたの様子を見に来ましたわ」
「リョハンが来たならちょうどいいですね。
作戦会議を行いましょう」
シュウユの提案で作戦会議が開かれた。
「今回の勝利でまたコウソのやつ、自分が名将だとぬかしょんじゃろうな」
開幕早々にソンサクが愚痴る。
「コウソは油断のならない男ですが、そこまでの名将ではありません。
それよりも今回の勝敗を左右するのは、“地の利”です。
戦いの場である渡り廊下では、一度に移動できる生徒の数に限りがあります。
対して防衛側は渡り廊下の先の開けた場所に大部隊を展開でき、少数で多数と戦う形になってしまいます。
地の利はコウソにあります」
渡り廊下を抜けて敵校舎に突入する場合、必然的に少数が多数に囲まれる形になる。
そのため渡り廊下は、守りやすく、攻めにくい場所であり、前回、コウソが攻めてきた時は、ソンサクがその攻撃部隊を蹴散らし勝利したが、渡り廊下に逃げ籠ったコウソを倒すまでにはいたらなかった。
かつてエンショウはカントの戦いにおいて、ソウソウ軍から渡り廊下を奪取したが、それはより大多数の兵を投入するという力業であった。
しかし、今のソンサクにそれだけの兵を用意することはできなかった。
「やっぱりうちが先頭で突撃して道を切り開くのが手っ取り早いんじゃないかな?」
「サクちゃん、冗談でもやめてくださいね。
あなたに何かあったら一大事です」
「冗談じゃないんじゃが…」
ソンサクは個人の武勇でも校内有数の実力者だ。
だが、今の彼女は東校舎の盟主、危険な行動を周囲は、特に幼馴染みのシュウユは許さなかった。
「確かに現状取れる手は、先頭を精鋭部隊で固めて、強行突破ぐらいしかありませんね。
もし迂回路が使えれば、敵の後ろに部隊を送りこんで挟み撃ちにするという手もあるのですが…」
そのシュウユの言葉に、リョハンが答えた。
「それは難しいですわね。
今回、報告する第二渡り廊下のタイシジの戦況ですが、去年同様、リュウヒョウのイトコ・リュウバンが守将に選ばれましたわ。
そしてリュウバンが早速、攻めてきましたが、タイシジは見事に追い返しました。
この時、タイシジと敵将のコーチューの激しい一騎討ちが行われましたが、引き分けに終わったそうですわ」
「コーチューって確か前にもタイシジと一騎討ちして引き分けになっていたよね。
そのコーチューってやつ強いんじゃね。
今度うちも戦ってみたいな」
「まあ、その話は改めてタイシジから聞いてくださいませ。
防衛には成功しましたが、守るのに手一杯で、タイシジも攻めることは難しそうですわ」
ここに出てくる第二渡り廊下はかつてカントの戦いでガンリョウが攻めた場所ではなく、東・南校舎を結ぶ、今回のコウソ戦があった渡り廊下の南隣に位置するもう一つの渡り廊下である。
この地を武将・タイシジに守らせ、リュウヒョウの派遣した武将・リュウバンと戦わせていた。
「猛将・リュウバンにタイシジと互角の武芸者・コーチューですか。
タイシジに渡せるほどこちらも兵は余っていませんし、第二渡り廊下から迂回するのは難しそうですね」
さらに南に展開するほどソンサクに兵力はなく、北にはソウソウがおり、こちらのルートも取ることができない。
コウソを挟み撃ちにする作戦は白紙となった。
「他に策とすれば寝返り工作ですね。
コウソの部下を寝返らせて、内部と外部から同時に攻撃するのです」
「コウソはプライドばかり高くて、怒りっぽいから人望がないって噂じゃしね。
それが一番有効な策かな」
「現在、コウソの部下にそれとなく声をかけていますが、良い返事はもらえていませんね。
コウソが嫌いだからといって、すぐに私たちの味方になるわけほど単純な話ではありませんし、難しいです。
それに焦ってコウソにバレては元も子もないので、こればかりはじっくり待つしかないですね」
「やっぱり、今すぐできることはなさそうじゃね…」
「そうですね…
しかし、渡り廊下は南校舎進攻の拠点でありるばかりか、我らの東校舎防衛の拠点にもなる重要な地点。
その力を十二分に発揮するには、両対岸含めた完全占拠が望ましいでしょう」
「ふぅ…今のところ進展は難しそうじゃね。
ちょっと外の空気吸ってくるね」
「わかりました。
あまり遠くには行かないでくださいね」
校庭に出たソンサクは一人、物思いに耽っていた。
ソンサクは去年の選挙戦で、早々に東校舎の群雄・リュウヨウを倒し、東校舎に割拠するキョコウを破った。
さらに南下し、オウロウを追い出し、彼に味方するショウショウを潰し、独立勢力のゲンハクコを蹴散らし、エンジュツ残党のリュウクンを討ち、カキンを降伏させ、東校舎において勢力を拡大した。
その覇業から、かつて“覇王”と呼ばれた学園のOB・コーウに準えて、“小覇王”と称された。
東校舎を瞬く間に従えたソンサクだが、恨みは残った。
彼女に倒された勢力の残党は、東校舎の各地に分散し、潜んだ。
集まって大勢力にこそならなかったが、分散したため戦いは泥沼化し、去年の選挙戦終盤、その勢力をソウソウに利用され、ソンサクは身動きが取らなくなってしまった。
今のソンサクは、その勢力に阻まれ東校舎内でのこれ以上の勢力拡大が遅々として進まず、北はソウソウの防波堤・リュウフクを突破できず、西はリュウヒョウの守将・コウソも倒せず、八方塞がりな状況であった。
そんな状況に、ソンサクはついため息をもらした…
「うちは今まで力で敵を倒してきた…
でも、そのやり方だけでは、もう限界なんじゃないの…」
「そうだ、お前のやり方はもう限界だ…!」
「何者じゃ!」
ソンサクの周囲を、三人の男子生徒が包囲するように並んだ。
「俺たちは、お前に滅ぼされたキョコウ様の部下だ。
お前にあの時の礼をしに来た」
「キョコウ?
残党どもじゃな」
「行くぞ!ソンサクを逃がすな!」
三人の男たちは三方から同時にソンサクに襲いかかった。
「たった三人でうちに勝とーなんてナメられたもんじゃね!」
常人には一瞬の出来事であった。
三人はいつ殴られたともわからないまま地面の上に転がり、微かに呻き声を上げていた。
「お前らじゃうちは倒せんよ
これに懲りたらバカな事はやめて学業にでも専念しね」
「サクちゃん!大丈夫!」
外の騒ぎを聞きつけ、慌ててシュウユがソンサクの元に駆けつけてきた。
「こんぐらい平気じゃよ。
こんな奴ら100人来たってうちの敵じゃないね」
「ナメやがって…」
地面に突っ伏した男は、最後の力を振り絞り、ナイフ片手に、ソンサクではなく、シュウユ目掛けて走り出した!
「危ない、ユーちゃん!」
ナイフが肉を切り裂く音が辺りに響いた。
シュウユを庇ったソンサクの腹からは血が止めどなく流れ出し、シュウユの絶叫が辺りに木霊した。
「どうだ、ソンサク。
ナメた相手にやられる気分はよ…」
「だからお前は三下なんじゃ…」
ソンサクの拳が男の顎を砕き、男はその場に倒れ伏す。
「 はぁ…はぁ…
ユーちゃん、大丈夫…?」
息も絶え絶えなソンサクに、顔面蒼白となり、目に涙を湛えたシュウユが駆け寄る。
「私よりサクちゃんが!
早く保健室へ!」
「うちなら…大丈夫…」
膝をつき、ゆっくりとうずくまるソンサク。
「少し休めば…こんなのすぐ治るんよ…」
「何言ってるの!
しっかりしてサクちゃん!」
「ユーちゃん…
後…お願いね…」
「サクちゃん!サクちゃん!」
その後、ソンサクは病院に運び込まれた。
幸い命に別状はなかったが、入院のため長期休学となった。
東校舎は、この日主を失った。
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