84 / 223
第5部 赤壁大戦編
第67話 決闘!カンウ対コーチュー!
しおりを挟む
リュウバンに呼ばれ、俺たちの前に長い銀髪を三つ編みに結び、カンフー風の道着を身に纏い、大人びた容姿に背の高い女生徒が現れた。
「わしはリュウバン隊副隊長・黄野忠実。
またの名をコーチュー!
次はわしが相手になろう」
コーチューと名乗る銀髪のカンフー衣裳の女生徒は、腕を組み、仁王立ちで俺たちの前に現れた。
「はっはっは。
こいつが我がリュウバン隊が誇る切り札・コーチューだ!
武勇ならカンウ・チョーヒにも決して引けを取らないだろう」
まだ地面にうずくまったままだが、得意気な様子でリュウバンはコーチューを紹介する。
「アニキ…ヤベーぜ、この女…」
チョーヒが微かに震えている。
無理もない、俺でさえ彼女がタダ者ではないことが伝わってくる。
おそらく武芸の達人であるチョーヒはより彼女の実力が伝わっているのだろう…
「この女…カン姉並みのデカチチだぜ!」
「…チョーヒ、そういうこと大声で言わない」
「デカチチ女は倒さねーといけないんだぜ…」
チョーヒに別のスイッチが入りそうになっている。止めないとまずいか。
「落ち着きなさい、チョーヒ」
「うわ、カン姉!」
暴走しかけたチョーヒを止めたのは、チョーヒの義姉、俺の義妹、美しく長い黒髪の美少女・カンウであった。
「ここは私が相手をします。
チョーヒ、あなたは頭に血が上っています。
それにあなたは先ほど手合わせしているのですから、次は私にやらせてください」
「ちぇー、まあ、カン姉がそういうなら譲ってやるんだぜ」
カンウ-俺とチョーヒと義兄妹の誓いをかわし、チョーヒと並ぶ我がリュービ軍の二枚看板だ。
その武勇は学園でもトップクラスで、トータク軍のカユウ、元リョフ軍で、今はソウソウ軍のチョーリョー、エンショウ軍のガンリョウと、多くの敵主力武将を討ち果たしてきた。
「私は関羽美、またの名をカンウ!
コーチュー、私が相手です」
「ほお、音に聞こえたカンウと手合わせできるとは女冥利に尽きるってもんだな。
さぁ、では行かせてもらうぞ!」
「カン姉、やっつけちまえ!」
先に動いたのはコーチューだった。
彼女は一気にカンウまで間合いを詰めると、無数の蹴り技を繰り出した。
そのあまりの速業に俺なんかは目で追うのがやっとだが、カンウはその全てを防いでみせた。
コーチューの蹴りが一種止まったその瞬間、カンウは一気に近付き、投げの体勢に持ち込もうとする。
しかし、コーチューはカンウの手をすぐに払い退け、すぐに距離をとって身構えた。
「やりますね」
「まだまだこれからよ!」
カンウはコーチューが放つ無数の拳を捌きつつ、自らも攻撃を加え、互いに相手の隙を窺う一進一退の攻防が続いた。
「凄いんだぜ!
あのコーチューってやつ、カン姉と互角にやりあってやがる」
「うん、カンウが投げ技を防がれてるところなんて初めて見た」
「カン姉は打撃技も不得手じゃないけど、好んでは使わないんだぜ。
大体は最初の投げ技で決着がつくし…」
打撃技で相手をねじ伏せるチョーヒに対して、カンウはいつもあっさりと相手を投げ飛ばして勝つイメージだ。
しかし、コーチューは素早く突きや蹴りを繰り出し、カンウに投げる技に持ち込む隙を与えようとしない。
だが、その状況が一瞬崩れた。
「クッ…防ぎきれんか」
連撃を放つコーチューのわずかな隙をついて、打撃技をねじ込んでいくカンウの前に、ついにコーチューの動きが鈍りだした。
「負けるわけには…いかん!」
コーチューは足を真上に振り上げると、渾身の蹴りをカンウに放つ。その振り下ろされる間は俺から見れば一瞬だが、カンウが避けるには充分な一瞬だった。
カンウは瞬時にコーチューの側面に現れると、そのまま足払いでコーチューを倒す。
コーチューは倒れながらも執拗に突きを放つが、その攻撃はカンウに防がれ、彼女はそのまま床に倒れ込んだ。
「まだだ!」
すぐ立ち上がろうとしたコーチューだったが、仁王立ちしたカンウが一睨みでコーチューの動きを押さえつけ、ついにコーチューは観念して白旗を上げた。
「おお、カンウが勝ったぞ!」
「やったんだぜカン姉!」
「ふぅ…コーチューさん、あなたはなかなか強敵でした」
「わしもカンウ殿ほどの猛者は初めてだ」
戦いに敗れたコーチューにリュウバンが近寄り声をかける。
「まさか、コーチューまで敗れるとはな。
いや、天下のカンウ相手にあそこまで善戦したのだから誇るべきか」
「すまんなリュウバンの大将。
カンウの実力は、前に戦ったソンサクのとこのタイシジに匹敵するかそれ以上…
まさに天下に名が轟くに値する腕であったわ、かっかっか!」
その言葉にリュウバンは少し思案に入る。
「やはりリュービ軍、その名は決して虚名ではないな…よし!」
リュウバンは何やら決断したのか、俺の元にやってきた。
「リュービ、君に頼みたいことがある」
「何ですか、リュウバンさん、そんなに改まって」
「弟を…リュウホウを君の部隊で預かってくれないか」
「え、それは構いませんが…
なぜ俺たちのところに?」
「我が隊にいては、やはり兄の贔屓目で甘く扱ってしまう恐れがある。
だが、弟・リュウホウには多くの経験を積んでもらいたいと思っているのだ。
その点、君たちリュービ軍には一騎当千の猛者たちがそろっているし、選挙戦が始まれば対ソウソウ戦の最前線に立つことになる。
これほど経験が積めるところは他にない」
「なるほど、わかりました。
では、リュウホウ君を我が隊で預かります」
「引き受けてくれるか、ありがたい。
リュウホウ、今日からお前はリュービ軍の一員だ!」
リュウバンに呼ばれ、リュウホウがこちらにやってくる。
「は、はい。
リ、リュービさん、よろしくお願いします」
リュウホウも事前にその予定を聞かされていたのか、すでに了承している様子だ。
「よろしく、リュウホウ君」
南校舎・書庫~
薄暗いこの一室で、色黒の男子生徒・チョーインが、長身スーツ姿の男子生徒、リュウヒョウの副将・サイボウに報告を行っていた。
「サイボウさん、リュウバンが弟をリュービに預けたそうです」
「何?あのガサツ男がそこまで入れ込んでいるのか…
リュービ、思った以上に危険な男かもしれんな。
チョーイン、他に我が陣営の者でリュービに近付いている者はいるか」
「他ですと、ゴキョ、リゲン、カクシュン、イセキ、ライキョウ辺りが何度かリュービと接触しております。
どの程度親しくしているかまではわかりません」
「そうか、うーむ、文科系、体育会系区別なく接触しているな。
それにリュウバンやゴキョやリゲンの様に部隊を預かる者がリュービと親しくするのはまずいな。
結託されると南校舎のパワーバランスが崩れかねない」
イセキやライキョウは文科系の学生として名のある者たちだ。
そしてリュウバン他、ゴキョ・リゲン・カクシュンは防衛隊や遊撃隊の指揮官の務めている。
部隊指揮官は名目上では全てサイボウの指揮下にあるが、厳格に管理できているわけではない。
彼らがリュービを中心にまとまり、今後の選挙戦で発言されると、サイボウではそれを退けるだけの力はない。
さらにリュウヒョウが彼らの意見を支持すればサイボウの地位さえ危うくなりかねない。
「それとサイボウさん、リュウヒョウ部長の弟・リュウキが何度かリュービのところを出入りしているそうです」
「何だと!」
リュービは実績はあれど所詮はよそ者。
南校舎の生徒で彼と親しくする者はいても従う者はいない。
だが、リュウキは実績はなくともリュウヒョウ部長の弟だ。南校舎の生徒が彼に従う可能性はある。
そしてリュウヒョウは今年三年生、次期部長を継ぐ者をそのうち考えなければならない。
イトコのリュウバンも三年生だから候補から外れる。
そうなると有力候補は弟のリュウキとリュウソウの二人、リュウキがリュービと手を組むのならリュウキ派、リュウソウ派で南校舎が真っ二つに別れることもありうる。
「まさかリュービ、我が南校舎を乗っ取る気ではないのか…このままではまずい。
親リュービ派を排除せねばならん!」
中央校舎・ソウソウ陣営~
赤黒い瞳と髪を持ち、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート姿の生徒会長・ソウソウは、他の生徒会執行部の面々と会議を開いていた。
「うーむ、烏丸高校が度々わが校生徒にちょっかいをかけてる件は早めに解決した方がいいな。
いっそ生徒会が直接乗り込むか」
今や生徒会長となったソウソウの頭を悩ませるのは学園内の問題ばかりではない。
近隣高校と友好関係を築くのも彼女の仕事である。
しかし、友好的な高校ばかりではない。最近では、北にある烏丸高校との関係がかなり悪化していた。
その関係を力技で解決しようとするソウソウを、丸眼鏡をかけた小柄な女生徒、長らくソウソウの片腕を務めた副会長・ジュンイクがたしなめる。
「直接乗り込むのは危険ではないですか。
しかも間もなく“アレ”を始めようというタイミングで」
「ふふ、それでやつらの出方を見るのも面白いかろう」
「またそうやって遊び事のように言われる」
冗談とも本気ともつかないことを言って周りを困らせるのはソウソウのよく使う手だ。
ジュンイクも何度もこの手に振り回されてきた。
そこへ男装の女生徒・ソウソウの参謀にして生徒会広報を務めるカクカが入ってくる。
「ソウソウ会長、ショーヨーたちが戻ってきました」
「そうか、戻ったか」
ソウソウの前に現れたのは、銀髪に色黒の肌、メガネをかけた着物姿の女生徒、生徒会の一人・ショーヨーであった。
「ソウソウ会長、ショーヨーほか、ただいま戻りましたよぉ」
「ショーヨー、長期間の任務ご苦労であった。
向こうの様子はどうであったか?」
「我らはよそ者ですからねぇ、露骨に敵対行動を取ってくる者も少なくありませんでしたよぉ。
詳しくはチョウキからお聞きくださいませ。
チョウキ、こちらに」
「は、はい!
はじめまして、チョウキと申します」
ショーヨーに促されて挨拶したのは、細身で、ショートの黒髪の、地味な印象を与える女生徒・チョウキであった。
彼女の緊張を感じ取ったソウソウは優しく声をかけた。
「そう畏まらなくていい。
君の活躍はよく聞いている。
今回の交渉をまとめたのはチョウキ、君だそうだな」
ソウソウのその言葉に反応し、横にいたショーヨーもチョウキを称賛した。
「今回の交渉、チョウキでなければ彼も首を縦にはふらなかったでしょう」
「い、いえ、私は何もしていません。
ただ誠心誠意話をしただけです」
生徒会長と生徒会重役の称賛の声に挟まれて、チョウキはただただ恐縮しきりであった。
「ふふふ、そう卑下することはない。
誠心誠意言葉を尽くして相手の心を開かせる。
私にはできない芸当だ」
「ソ、ソウソウ会長、わ、私には勿体ないお言葉です」
「ふふ…それでは早速、“彼”に会おうじゃないか。
来ているのだろう?この学園に」
「はーい、今お連れしますぅ」
ソウソウに言われ、ショーヨーが連れてきたのは、大柄で、彫りの深い顔立ちの男子生徒であった。
「お初にお目にかかります、ソウソウ生徒会長」
ソウソウの前に現れた彼は、畏まった様子で、その長身の頭を深々と下げ、一礼した。
「おお、よく来てくれた。
西涼高校生徒会長・“バトウ”よ」
春、俺たちは来るべき生徒会選挙に向けて動き出し始めた。
しかし、戦乱の始まりの時はすぐそこまで迫ってきていた。
「わしはリュウバン隊副隊長・黄野忠実。
またの名をコーチュー!
次はわしが相手になろう」
コーチューと名乗る銀髪のカンフー衣裳の女生徒は、腕を組み、仁王立ちで俺たちの前に現れた。
「はっはっは。
こいつが我がリュウバン隊が誇る切り札・コーチューだ!
武勇ならカンウ・チョーヒにも決して引けを取らないだろう」
まだ地面にうずくまったままだが、得意気な様子でリュウバンはコーチューを紹介する。
「アニキ…ヤベーぜ、この女…」
チョーヒが微かに震えている。
無理もない、俺でさえ彼女がタダ者ではないことが伝わってくる。
おそらく武芸の達人であるチョーヒはより彼女の実力が伝わっているのだろう…
「この女…カン姉並みのデカチチだぜ!」
「…チョーヒ、そういうこと大声で言わない」
「デカチチ女は倒さねーといけないんだぜ…」
チョーヒに別のスイッチが入りそうになっている。止めないとまずいか。
「落ち着きなさい、チョーヒ」
「うわ、カン姉!」
暴走しかけたチョーヒを止めたのは、チョーヒの義姉、俺の義妹、美しく長い黒髪の美少女・カンウであった。
「ここは私が相手をします。
チョーヒ、あなたは頭に血が上っています。
それにあなたは先ほど手合わせしているのですから、次は私にやらせてください」
「ちぇー、まあ、カン姉がそういうなら譲ってやるんだぜ」
カンウ-俺とチョーヒと義兄妹の誓いをかわし、チョーヒと並ぶ我がリュービ軍の二枚看板だ。
その武勇は学園でもトップクラスで、トータク軍のカユウ、元リョフ軍で、今はソウソウ軍のチョーリョー、エンショウ軍のガンリョウと、多くの敵主力武将を討ち果たしてきた。
「私は関羽美、またの名をカンウ!
コーチュー、私が相手です」
「ほお、音に聞こえたカンウと手合わせできるとは女冥利に尽きるってもんだな。
さぁ、では行かせてもらうぞ!」
「カン姉、やっつけちまえ!」
先に動いたのはコーチューだった。
彼女は一気にカンウまで間合いを詰めると、無数の蹴り技を繰り出した。
そのあまりの速業に俺なんかは目で追うのがやっとだが、カンウはその全てを防いでみせた。
コーチューの蹴りが一種止まったその瞬間、カンウは一気に近付き、投げの体勢に持ち込もうとする。
しかし、コーチューはカンウの手をすぐに払い退け、すぐに距離をとって身構えた。
「やりますね」
「まだまだこれからよ!」
カンウはコーチューが放つ無数の拳を捌きつつ、自らも攻撃を加え、互いに相手の隙を窺う一進一退の攻防が続いた。
「凄いんだぜ!
あのコーチューってやつ、カン姉と互角にやりあってやがる」
「うん、カンウが投げ技を防がれてるところなんて初めて見た」
「カン姉は打撃技も不得手じゃないけど、好んでは使わないんだぜ。
大体は最初の投げ技で決着がつくし…」
打撃技で相手をねじ伏せるチョーヒに対して、カンウはいつもあっさりと相手を投げ飛ばして勝つイメージだ。
しかし、コーチューは素早く突きや蹴りを繰り出し、カンウに投げる技に持ち込む隙を与えようとしない。
だが、その状況が一瞬崩れた。
「クッ…防ぎきれんか」
連撃を放つコーチューのわずかな隙をついて、打撃技をねじ込んでいくカンウの前に、ついにコーチューの動きが鈍りだした。
「負けるわけには…いかん!」
コーチューは足を真上に振り上げると、渾身の蹴りをカンウに放つ。その振り下ろされる間は俺から見れば一瞬だが、カンウが避けるには充分な一瞬だった。
カンウは瞬時にコーチューの側面に現れると、そのまま足払いでコーチューを倒す。
コーチューは倒れながらも執拗に突きを放つが、その攻撃はカンウに防がれ、彼女はそのまま床に倒れ込んだ。
「まだだ!」
すぐ立ち上がろうとしたコーチューだったが、仁王立ちしたカンウが一睨みでコーチューの動きを押さえつけ、ついにコーチューは観念して白旗を上げた。
「おお、カンウが勝ったぞ!」
「やったんだぜカン姉!」
「ふぅ…コーチューさん、あなたはなかなか強敵でした」
「わしもカンウ殿ほどの猛者は初めてだ」
戦いに敗れたコーチューにリュウバンが近寄り声をかける。
「まさか、コーチューまで敗れるとはな。
いや、天下のカンウ相手にあそこまで善戦したのだから誇るべきか」
「すまんなリュウバンの大将。
カンウの実力は、前に戦ったソンサクのとこのタイシジに匹敵するかそれ以上…
まさに天下に名が轟くに値する腕であったわ、かっかっか!」
その言葉にリュウバンは少し思案に入る。
「やはりリュービ軍、その名は決して虚名ではないな…よし!」
リュウバンは何やら決断したのか、俺の元にやってきた。
「リュービ、君に頼みたいことがある」
「何ですか、リュウバンさん、そんなに改まって」
「弟を…リュウホウを君の部隊で預かってくれないか」
「え、それは構いませんが…
なぜ俺たちのところに?」
「我が隊にいては、やはり兄の贔屓目で甘く扱ってしまう恐れがある。
だが、弟・リュウホウには多くの経験を積んでもらいたいと思っているのだ。
その点、君たちリュービ軍には一騎当千の猛者たちがそろっているし、選挙戦が始まれば対ソウソウ戦の最前線に立つことになる。
これほど経験が積めるところは他にない」
「なるほど、わかりました。
では、リュウホウ君を我が隊で預かります」
「引き受けてくれるか、ありがたい。
リュウホウ、今日からお前はリュービ軍の一員だ!」
リュウバンに呼ばれ、リュウホウがこちらにやってくる。
「は、はい。
リ、リュービさん、よろしくお願いします」
リュウホウも事前にその予定を聞かされていたのか、すでに了承している様子だ。
「よろしく、リュウホウ君」
南校舎・書庫~
薄暗いこの一室で、色黒の男子生徒・チョーインが、長身スーツ姿の男子生徒、リュウヒョウの副将・サイボウに報告を行っていた。
「サイボウさん、リュウバンが弟をリュービに預けたそうです」
「何?あのガサツ男がそこまで入れ込んでいるのか…
リュービ、思った以上に危険な男かもしれんな。
チョーイン、他に我が陣営の者でリュービに近付いている者はいるか」
「他ですと、ゴキョ、リゲン、カクシュン、イセキ、ライキョウ辺りが何度かリュービと接触しております。
どの程度親しくしているかまではわかりません」
「そうか、うーむ、文科系、体育会系区別なく接触しているな。
それにリュウバンやゴキョやリゲンの様に部隊を預かる者がリュービと親しくするのはまずいな。
結託されると南校舎のパワーバランスが崩れかねない」
イセキやライキョウは文科系の学生として名のある者たちだ。
そしてリュウバン他、ゴキョ・リゲン・カクシュンは防衛隊や遊撃隊の指揮官の務めている。
部隊指揮官は名目上では全てサイボウの指揮下にあるが、厳格に管理できているわけではない。
彼らがリュービを中心にまとまり、今後の選挙戦で発言されると、サイボウではそれを退けるだけの力はない。
さらにリュウヒョウが彼らの意見を支持すればサイボウの地位さえ危うくなりかねない。
「それとサイボウさん、リュウヒョウ部長の弟・リュウキが何度かリュービのところを出入りしているそうです」
「何だと!」
リュービは実績はあれど所詮はよそ者。
南校舎の生徒で彼と親しくする者はいても従う者はいない。
だが、リュウキは実績はなくともリュウヒョウ部長の弟だ。南校舎の生徒が彼に従う可能性はある。
そしてリュウヒョウは今年三年生、次期部長を継ぐ者をそのうち考えなければならない。
イトコのリュウバンも三年生だから候補から外れる。
そうなると有力候補は弟のリュウキとリュウソウの二人、リュウキがリュービと手を組むのならリュウキ派、リュウソウ派で南校舎が真っ二つに別れることもありうる。
「まさかリュービ、我が南校舎を乗っ取る気ではないのか…このままではまずい。
親リュービ派を排除せねばならん!」
中央校舎・ソウソウ陣営~
赤黒い瞳と髪を持ち、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート姿の生徒会長・ソウソウは、他の生徒会執行部の面々と会議を開いていた。
「うーむ、烏丸高校が度々わが校生徒にちょっかいをかけてる件は早めに解決した方がいいな。
いっそ生徒会が直接乗り込むか」
今や生徒会長となったソウソウの頭を悩ませるのは学園内の問題ばかりではない。
近隣高校と友好関係を築くのも彼女の仕事である。
しかし、友好的な高校ばかりではない。最近では、北にある烏丸高校との関係がかなり悪化していた。
その関係を力技で解決しようとするソウソウを、丸眼鏡をかけた小柄な女生徒、長らくソウソウの片腕を務めた副会長・ジュンイクがたしなめる。
「直接乗り込むのは危険ではないですか。
しかも間もなく“アレ”を始めようというタイミングで」
「ふふ、それでやつらの出方を見るのも面白いかろう」
「またそうやって遊び事のように言われる」
冗談とも本気ともつかないことを言って周りを困らせるのはソウソウのよく使う手だ。
ジュンイクも何度もこの手に振り回されてきた。
そこへ男装の女生徒・ソウソウの参謀にして生徒会広報を務めるカクカが入ってくる。
「ソウソウ会長、ショーヨーたちが戻ってきました」
「そうか、戻ったか」
ソウソウの前に現れたのは、銀髪に色黒の肌、メガネをかけた着物姿の女生徒、生徒会の一人・ショーヨーであった。
「ソウソウ会長、ショーヨーほか、ただいま戻りましたよぉ」
「ショーヨー、長期間の任務ご苦労であった。
向こうの様子はどうであったか?」
「我らはよそ者ですからねぇ、露骨に敵対行動を取ってくる者も少なくありませんでしたよぉ。
詳しくはチョウキからお聞きくださいませ。
チョウキ、こちらに」
「は、はい!
はじめまして、チョウキと申します」
ショーヨーに促されて挨拶したのは、細身で、ショートの黒髪の、地味な印象を与える女生徒・チョウキであった。
彼女の緊張を感じ取ったソウソウは優しく声をかけた。
「そう畏まらなくていい。
君の活躍はよく聞いている。
今回の交渉をまとめたのはチョウキ、君だそうだな」
ソウソウのその言葉に反応し、横にいたショーヨーもチョウキを称賛した。
「今回の交渉、チョウキでなければ彼も首を縦にはふらなかったでしょう」
「い、いえ、私は何もしていません。
ただ誠心誠意話をしただけです」
生徒会長と生徒会重役の称賛の声に挟まれて、チョウキはただただ恐縮しきりであった。
「ふふふ、そう卑下することはない。
誠心誠意言葉を尽くして相手の心を開かせる。
私にはできない芸当だ」
「ソ、ソウソウ会長、わ、私には勿体ないお言葉です」
「ふふ…それでは早速、“彼”に会おうじゃないか。
来ているのだろう?この学園に」
「はーい、今お連れしますぅ」
ソウソウに言われ、ショーヨーが連れてきたのは、大柄で、彫りの深い顔立ちの男子生徒であった。
「お初にお目にかかります、ソウソウ生徒会長」
ソウソウの前に現れた彼は、畏まった様子で、その長身の頭を深々と下げ、一礼した。
「おお、よく来てくれた。
西涼高校生徒会長・“バトウ”よ」
春、俺たちは来るべき生徒会選挙に向けて動き出し始めた。
しかし、戦乱の始まりの時はすぐそこまで迫ってきていた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる