74 / 223
番外編
番外!後漢学園文化祭その5[服装]
しおりを挟む
「さて、気を取り直して次はどこに行くかな」
「リューちゃん、リューちゃん
次はここに入るのだ!」
「エンショウのファッションショー?
嫌な予感がするな」
「つべこべ言わずにさっさと入るのだ!」
「うわっ、ととと」
「ふふふ、よく来たわね、リュービ、それにカンウ・チョーヒ…とその子は誰ですの?」
「あちしはリューちゃんの子供なのだ!」
「うわー、また何言い出すのヒミコちゃん!
この子はさっき知り合って一緒に回ってる子だよ。名前はヒミコちゃん」
「キャハハハハ
よろしくなのだー!」
「相変わらずただれてますわね…」
呆れ顔でこちらを見る薄紫のウェーブがかった長い髪に、白いマントに紺のニーソをはいたこの女生徒はエンショウ。
選挙戦ではコウソンサンと対立(※第17~19話)。後、コウソンサンを破ると、この学園の生徒会長の座を賭け、ソウソウと全面対決。後一歩まで追い詰めるが、敗北し、今はソウソウ配下となっている(※第47~62話)。
「それにあなたたち…
なんですの、そのチャイナドレス。そんななんちゃって中国衣装で三国志の文化を語るなんて片腹痛いですわ!」
エンショウの嫌みな高笑いが会場に木霊する。
うーん、エンショウ、カントの戦いの頃に比べてだいぶ明るくなった感じがするなぁ…
「私だって好きでこんな格好してるわけではありません!」
今さらながらカンウが自身のチャイナドレスのスカートを押さえながら恥ずかしそうに答える。
「私が本当の『三国志の服装』というものを教えて差し上げますわ!
出てきなさいデンポウ!」
エンショウの声に応じて現れたのは白髪のエンショウの参謀兼執事・デンポウであった。
だが、いつもは執事服の彼だが、今回ばかりはその服装ではなかった。
「よく来られましたリュービさん、それに皆さんも。
私がしている格好は三国時代のいわゆる文官の服装です」
デンポウの服装は一見、日本の着物のような黒い服を着、頭に箱型の黒い帽子をかぶっていた。腰には剣を提げ、帯からは長い黒布が伸びていた。
「なんか全身黒いね」
「これは県の長官クラス、日本でいうところの市長くらいの立場の人を想定した服装で、あまり高い身分の服装ではないですね。
漢代(前三世紀~三世紀頃)では青紫の服の色が最も尊ばれ、白色の服が最も低い地位の色でした」
「服装はだいぶ日本の着物に近いかな」
「だいぶ近いですね。
古代中国では下着の上に袴を履き、その上に裾の長い服を着て、帯をしめました。
服は大きく分けて、上下に別れたタイプ(上衣と下裳、この二つを合わせたものを衣裳という)か、浴衣のように上下が繋がったタイプ(深衣)がありました。
現代の着物との大きな違いは襟や袖口に別の布で縁飾りをつけ、紋様をつけました」
「そういえば中国の昔の人って何かしら頭につけているイメージですね」
「そうですね。
古代中国では髪は伸ばして結い、人前では何かしらかぶるのが習わしでした。
その種類は多種多様で全て説明はできませんが、今かぶってる箱型の帽子は、進賢冠という冠の一種で、当時の学者や文官がよくかぶっていました。
文官が用いたものだと他に帽というかぶり物がありました。
山型の絹の帽子で、魏の曹操《そうそう》が作り、色によって貴賤の区別したのが始まりです。
この帽は元々一山でしたが、魏の政治家の荀彧がある時、木の枝にぶつけへこませて、二山にしたのを面白いと喜び、そのままにしていたのを、皆が真似するようになり、真ん中をへこませて二山にするものが一般化しました」
「後、その腰の布はなんなんだぜ?」
「これは綬ですね。
身分ごとに規定があり、これを腰から足らすことで身分の印としました。
皇帝の綬が黄赤で、それに黄、赤、紺、縹(薄い青)の色の紋様を縫い付けます。綬は以下、赤、緑、紫、青、黒、黄、青紺の色の順で身分が下になっていきます」
「剣もあるのだー!」
「そうですね、中国では昔から腰の左側に剣を佩びていました。
しかし、晋代(四世紀頃)には木製の剣になり、装飾品でしかなくなり、次第に廃れていきました。
他、持ち物としては、官吏が受けた命令を書き留める板の笏(三国時代には手版、簿と呼ばれた)、官職を表す公印(はんこ、身分証明を兼ねていた)、文具の筆や板の字を削って消すための小刀・書刀等を持ち歩いていました」
「おい、デンポウ、いつまで喋っている。そろそろ俺と交代しろ」
「ああ、カクトすまんな。では次の衣裳に移ろう」
「だいたい、なんで俺が平民の格好なんだ」
「あなたにまだ居場所があるだけ恩情ではないですかね」
続いて現れたのはエンショウ軍の指揮官の一人・カクトだ。髪は茶髪のままだが、今回は整髪料を使わず、金のネックレスもつけていない。平民の格好というだけあって先ほどデンポウが言ったように白い服装だ。
「カクトの服装は基本的には私と同じ構造ですが、上着の丈が短く、下にスカート状の裳をつけていないので、ズボン状の袴がそのまま見える状態です。
これは襦袴(短い上着とズボン)と呼ばれる格好です。
元々、中国で下の服はスカートタイプでしたが、北方の騎馬民族などは馬に乗るのに適したズボンタイプの服を着ていました。中国でも馬に直接乗るようになり、次第にズボンタイプの服装が広まっていきました」
「おい、デンポウ、今はこのカクト様の番だぞ。俺に喋らせろ。
まあ、だいたい喋られてしまったが、馬に乗るための服なら他に袴褶(うまのりばかま)がある。
見た目はこの襦袴に近いかな。褶は上着で、丈が短く、袖が広い、騎射に向くことから騎服とも呼ばれる。
他に話してないことと言うと頭の巾だな」
カクトの頭に目を向けると、彼は白い帽子のようなものをかぶっていた。
「巾は葛布で作る簡易な帽子の一種だ。漢の時代(前三世紀~三世紀頃)、官吏は冠をつけ、庶民は白巾をつけていたそうだ」
「巾というと三国志では黄巾の乱が有名ですね」
カンウがそう口を挟む。我が校の黄巾党は頭に黄色いバンダナ巻いてたな、そういや…
「よく本などでは黄巾賊は黄色バンダナを巻いたり、ハチマキを巻いてたりするが、実際は帽子のようなかぶりものであったようだ。
黄色にすることで白巾の一般人と区別する意図もあったのだろう。
巾は官吏はつけないと言ったが、後漢末(三世紀頃)になると巾を優雅と考え、一部では常用するようになっていった。
後漢の群雄・袁紹は将軍になっても絹の巾をつけ、文人の孔融なども使っていたようだ」
「へー、袁紹も巾を着用していたのか
あれ、そういえばエンショウはどこ行ったんだろう?」
辺りを見回したが、いつの間にかエンショウの姿が見えなくなっていた。
「エンショウ様なら今支度中です」
「その間は私たちがお相手をして差し上げますわ」
エンショウの代わりに姿を現したのは長身で、水色の髪の女生徒・ガンリョウ、そして桃色の髪のブンシュウの二人だ。
彼女たちは普段は白い制服に牛馬の肩鎧を左右に付けているが、今回はその格好ではなかった。
「では、お次は三国志の鎧のお話に参りましょう」
「なるほど、服の次は鎧か」
まずはガンリョウが口を開いた。
「先に鎧の概要について簡単に話しておきましょう。
中国の鎧は古くから革製と金属製の二種類がありました。これらの素材で小さな板状にしたものを作り、これを革ひもや釘でいくつも繋げ、布のように加工して鎧を作っていきますわ。
このうち板状のものを短冊型に加工したものを『札甲』、楕円形のものを『魚鱗甲』と言います。この構造のため、巻いてたたむことができ、強行軍の時などは巻いて背負って移動したと言われていますわ。
皮革は通常は牛の革で、最上位は犀革、金属は古くは青銅ですが、三国時代は鉄が主流であったようですわ
でも、後漢末(三世紀頃)、物資の欠乏から一般兵士の中には鎧を着用せず戦う者も多かったと考えられていますわ。
さて、概要はここまでにして個々の鎧を紹介していきますわ。ブンシュウをご覧なさい」
「お、私の出番ですわね」
「ブンシュウの着用している鎧は明光鎧、その特徴は胸部と背部にある護心と呼ばれる大型プレートをつけ、これが鏡のように光を反射することから明光鎧と呼ばれますわ。これにより高い防御力を有しておりますわ」
ブンシュウの胸部には二つの円盤がついており、確かに光を放っていた。
「なるほど、確かに鏡みたいに俺の顔も写りこんでるね」
「あの…リュービ…そんなに胸ばかり見つめられると照れてしまいますですわ」
ブンシュウは顔を赤らめしどろもどろに返事をする。
「ご、ごめん、そんなつもりじゃ…」
「兄さん…他の女性の胸を凝視するのは感心しませんね…」
「アニキ…そんなにブンシュウのデカチチが好きなのか…?」
「いや、二人とも、違う…待っ…」
「さて、リュービが制裁を受けている間に捕捉しておきますわ。この明光鎧を耐久性を上げるために漆で黒く塗ったものを黒光鎧、別名、玄鎧とも言って、三国志では魏軍が多く装着していましたわ。
また、この頃の兜は長い札を横に綴って作られ、頭頂部に飾りをつけていたようですわ」
「な、なるほど…」
「おや、リュービ、あなた鎧着なくても防御力高いんですわね」
「そりゃどーも…」
「兄さんは他の女性の体ばかり見すぎです」
「アニキにはオレたちがいるだろ」
「悪かったよ、カンウ、チョーヒ…」
「あなたたち仲良いわね。
では、次は私、ガンリョウの着ている鎧の紹介しますわ。
こちらは両当鎧。板状の札を綴って作った前面と背面で、胴体を挟む形にして肩と腰のベルトで固定した鎧ですわ。
防御力では明光鎧に劣りますが、軽快で騎兵の鎧としてよく使われましたわ」
そのガンリョウの前後を挟んだ鎧は上半身から膝までを防御していた。さらにその鎧の下には鎖帷子のようなものがチラチラ見えていた。
「この鎖帷子のようなものは環鎖鎧、小さな鉄製のリングを繋げた鎧で、他の鎧より軽量で、通気性に優れていますの。他の鎧に比べて防御力は劣りますが、他の鎧に重ねて着用し、その防御力をより高める使い方もできますわ」
ガンリョウが一通り説明を終えたところで、デンポウが会話に入ってきた。
「では、最後に筒袖鎧を紹介しましょう。
これは蜀漢の丞相(宰相)・諸葛孔明(名は亮、字が孔明)が発明したとされる鎧で、袖が付いており、上腕部と急所である脇の下が保護されています。また魚鱗の鉄片を重ねるように作られ、大変防御力の優れた鎧でした。
時代は下って南北朝時代(五世紀~六世紀頃)の南朝で作られたものになりますが、その時作られた筒袖鎧は約670kgの威力の弩(発射装置のついたボーガンのような弓)でも貫通できなかったと伝わっています」
「諸葛孔明ですか。三国志で一番有名な人物ですね」
「オレも孔明の名前は聞いたことあるんだぜ!」
「カンウ、チョーヒ、今回はいいけど、本編に戻ったらその名前は一旦忘れてね」
「「はーい」」
「さて、ではお次は三国志の女性の衣裳に移りましょうか」
続いて現れたのはウェーブのかかった長い黒髪の女生徒・ソジュと、黒髪ポニーテールにメガネをかけた女生徒・ホウキだ。
「ソジュさん、お久しぶりです。それとホウキさんですよね?エンシュウ陣営にいた時には直接話す機会はありませんでしたが」
「ええ、ホウキです。そんな相手の顔まで把握してるなんてさすがですね」
「に・い・さ・ん…」
「イタタタタ、痛いってカンウ。別にちょっかいかけようと思って覚えてたわけじゃないから」
「コホン、ではまず私、ソジュから説明させていただきます。
私が上に着ている服は袿衣(うちかけ)という古い婦人服で、上から下にかけて広がっていく服です。
漢の時代(前三世紀~三世紀頃)の貴婦人は、裾が地面に引きずるほど長い袿衣(うちかけ)を着ていました。
また飾りとして刺繍や色絹の縁飾りを使ったりしていました」
「結構、華やかな感じなんですね」
興味があるのかカンウがまじまじとソジュの衣裳を見ている。
「まあ、色やデザインに関しては想像で補うところが大きいですが、当時も高い位の女性の服はかなり華やかなものだったのではないでしょうか」
「次は私、ホウキが担当します。
こちらは一般的な女性の格好です。
この上衣は衫襦という短い上着、下は長裙という長いスカートを履き、間に大帯(太い帯)を巻いていました。
ちなみに裙は男性も裳や袴の上から着用しました」
裳もスカートタイプの服だし、構造的には男女とも近い感じかな。日本の着物にも近いところがあるようだ。
更にソジュが話を進める。
「少し女性の身だしなみについてもお話しましょうか。
当時の美女とされる人はまず髪の美しさが挙げられます。これは男性も同様ですが、髪が黒くて多いものが美人とされていました。
カンウさんの髪は黒々としているのできっと当時でも美しいとされたと思いますよ」
「確かにカンウの髪は綺麗な黒髪だからなぁ」
「もー、兄さん、そんな誉められるとテレるじゃないですか」
カンウは顔をにやけさせながら、ペシっと俺の肩を叩く。確かに音はペシなのだが、カンウの一撃は強く重い。
「むー、オレの髪はカン姉ほど黒くも長くもないんだぜ」
「そういう時に古代の人たちは、仮髪(髢、添え髪)、今で言うエクステを使っていました」
「これが仮髪かだぜ?
どうだ?アニキ、これでオレも三国志美人だぜ」
「チョーヒはそんなのつけなくても充分可愛いよ」
「もー、アニキ!ホントのことでもテレるじゃねーか」
今度はおもいっきりバシンと殴られる。テレだろうがなんか理不尽だ…
「さて、話を続けますよ。
当時の女性は男性同様髪を伸ばしていました。髪のお手入れには油を塗って光沢を与え、黒い絹の布で包み、歩揺と呼ばれる黄金の台に珠玉(宝石)をつけた髪飾りを付けました。
三国時代の女性の髪型に「霊蛇髻」と呼ばれるものがあります。
これは魏の曹丕(曹操の子)の妻・甄后が蛇の動きから考案したと言われる髪型で、その名の通り一つにまとめた髪を蛇が這うように色々な形にした独特な髪型であったそうです」
ソジュに続けて今度はホウキが話を始める。
「次は女性の化粧にも触れましょう。
当時の化粧品では、紅、白粉、黛が既にあったと言われています。
古来より美人の条件として眉と目が重要視されていました。
「蛾眉」という言葉があり、眉を黛でもって蛾の触覚のように細く長く彎曲させたものを描いていました」
その時、突如ブースの奥から女性の声が会場に響き渡った。
「さて、皆さん、女性の身だしなみの話はそれぐらいにして、そろそろ真打ち登場といきますわよ!」
「その声はエンショウ!」
「さあ、トリを飾るのはこの私エンショウの皇帝姿ですわ」
「ああ…なんか教科書とかでこんな格好見た気がするんだぜ」
「ああ、なんか玉簾垂らしたような帽子に黒い服、なんか教科書で見覚えあるな」
「玉簾とか言わないでくれます?」
満を持しての登場で、俺たちがあまり盛り上がらなかったので、少々エンショウのご機嫌を損ねてしまったようだ。
「まあ、いいですわ。
私が今かぶっている冠は冕冠。帽子の上に板を乗せて、その板の先に玉を通した旒を飾り付けしたものですわ。
旒の色と数は地位によって違いがあって、皇帝は白玉を前後に各十二、三公・諸侯(大臣クラス)は青玉を七、卿大夫(貴族クラス)は黒玉の五。もちろん私が今つけている冕冠は皇帝仕様ですわ!」
「玉簾つけてる様にしか見えない」
「不敬ですわよ、リュービ。
来ている服は袞と言われる礼服ですわ。黒い絹の上衣に、赤い縁のついた襟と袖の中衣(内着)、赤い裳を履きますわ。
三公(最高位の大臣)や九卿(大臣)らもこの服を着用しますが、皇帝はさらに十二の刺繍、すなわち日、月、星辰(星座)、山、龍、華虫(雉)、藻(水草)、火、粉米(米粒)、宗彝(酒器)、黼(斧)、黻(対の弓)を衣裳に施していますわ」
「賑やかな服だな。
あ、月に兎がいる」
「中国には古くから月には兎や蛙が住んでいたと言われていましたわ」
「へー、太陽にも鳥がいるね」
「それはカラスですわ。一説には太陽の黒点をカラスになぞらえたとも言われていますわ。
…ちょっと、リュービ…あまり私の体をじろじろ見ないでくれます?」
「え、いや、そんなつもりじゃ…」
「兄さん…今度はエンショウさんですか!」
「カンウ、今度はってなんだよ、そんな目で見てないから」
「アニキ!やっぱり胸の大きな女が好きなのか!」
「チョーヒも!」
「キャハハハハ!
リューちゃん顔真っ赤なのだ!」
「だから違うって!」
「リューちゃん、リューちゃん
次はここに入るのだ!」
「エンショウのファッションショー?
嫌な予感がするな」
「つべこべ言わずにさっさと入るのだ!」
「うわっ、ととと」
「ふふふ、よく来たわね、リュービ、それにカンウ・チョーヒ…とその子は誰ですの?」
「あちしはリューちゃんの子供なのだ!」
「うわー、また何言い出すのヒミコちゃん!
この子はさっき知り合って一緒に回ってる子だよ。名前はヒミコちゃん」
「キャハハハハ
よろしくなのだー!」
「相変わらずただれてますわね…」
呆れ顔でこちらを見る薄紫のウェーブがかった長い髪に、白いマントに紺のニーソをはいたこの女生徒はエンショウ。
選挙戦ではコウソンサンと対立(※第17~19話)。後、コウソンサンを破ると、この学園の生徒会長の座を賭け、ソウソウと全面対決。後一歩まで追い詰めるが、敗北し、今はソウソウ配下となっている(※第47~62話)。
「それにあなたたち…
なんですの、そのチャイナドレス。そんななんちゃって中国衣装で三国志の文化を語るなんて片腹痛いですわ!」
エンショウの嫌みな高笑いが会場に木霊する。
うーん、エンショウ、カントの戦いの頃に比べてだいぶ明るくなった感じがするなぁ…
「私だって好きでこんな格好してるわけではありません!」
今さらながらカンウが自身のチャイナドレスのスカートを押さえながら恥ずかしそうに答える。
「私が本当の『三国志の服装』というものを教えて差し上げますわ!
出てきなさいデンポウ!」
エンショウの声に応じて現れたのは白髪のエンショウの参謀兼執事・デンポウであった。
だが、いつもは執事服の彼だが、今回ばかりはその服装ではなかった。
「よく来られましたリュービさん、それに皆さんも。
私がしている格好は三国時代のいわゆる文官の服装です」
デンポウの服装は一見、日本の着物のような黒い服を着、頭に箱型の黒い帽子をかぶっていた。腰には剣を提げ、帯からは長い黒布が伸びていた。
「なんか全身黒いね」
「これは県の長官クラス、日本でいうところの市長くらいの立場の人を想定した服装で、あまり高い身分の服装ではないですね。
漢代(前三世紀~三世紀頃)では青紫の服の色が最も尊ばれ、白色の服が最も低い地位の色でした」
「服装はだいぶ日本の着物に近いかな」
「だいぶ近いですね。
古代中国では下着の上に袴を履き、その上に裾の長い服を着て、帯をしめました。
服は大きく分けて、上下に別れたタイプ(上衣と下裳、この二つを合わせたものを衣裳という)か、浴衣のように上下が繋がったタイプ(深衣)がありました。
現代の着物との大きな違いは襟や袖口に別の布で縁飾りをつけ、紋様をつけました」
「そういえば中国の昔の人って何かしら頭につけているイメージですね」
「そうですね。
古代中国では髪は伸ばして結い、人前では何かしらかぶるのが習わしでした。
その種類は多種多様で全て説明はできませんが、今かぶってる箱型の帽子は、進賢冠という冠の一種で、当時の学者や文官がよくかぶっていました。
文官が用いたものだと他に帽というかぶり物がありました。
山型の絹の帽子で、魏の曹操《そうそう》が作り、色によって貴賤の区別したのが始まりです。
この帽は元々一山でしたが、魏の政治家の荀彧がある時、木の枝にぶつけへこませて、二山にしたのを面白いと喜び、そのままにしていたのを、皆が真似するようになり、真ん中をへこませて二山にするものが一般化しました」
「後、その腰の布はなんなんだぜ?」
「これは綬ですね。
身分ごとに規定があり、これを腰から足らすことで身分の印としました。
皇帝の綬が黄赤で、それに黄、赤、紺、縹(薄い青)の色の紋様を縫い付けます。綬は以下、赤、緑、紫、青、黒、黄、青紺の色の順で身分が下になっていきます」
「剣もあるのだー!」
「そうですね、中国では昔から腰の左側に剣を佩びていました。
しかし、晋代(四世紀頃)には木製の剣になり、装飾品でしかなくなり、次第に廃れていきました。
他、持ち物としては、官吏が受けた命令を書き留める板の笏(三国時代には手版、簿と呼ばれた)、官職を表す公印(はんこ、身分証明を兼ねていた)、文具の筆や板の字を削って消すための小刀・書刀等を持ち歩いていました」
「おい、デンポウ、いつまで喋っている。そろそろ俺と交代しろ」
「ああ、カクトすまんな。では次の衣裳に移ろう」
「だいたい、なんで俺が平民の格好なんだ」
「あなたにまだ居場所があるだけ恩情ではないですかね」
続いて現れたのはエンショウ軍の指揮官の一人・カクトだ。髪は茶髪のままだが、今回は整髪料を使わず、金のネックレスもつけていない。平民の格好というだけあって先ほどデンポウが言ったように白い服装だ。
「カクトの服装は基本的には私と同じ構造ですが、上着の丈が短く、下にスカート状の裳をつけていないので、ズボン状の袴がそのまま見える状態です。
これは襦袴(短い上着とズボン)と呼ばれる格好です。
元々、中国で下の服はスカートタイプでしたが、北方の騎馬民族などは馬に乗るのに適したズボンタイプの服を着ていました。中国でも馬に直接乗るようになり、次第にズボンタイプの服装が広まっていきました」
「おい、デンポウ、今はこのカクト様の番だぞ。俺に喋らせろ。
まあ、だいたい喋られてしまったが、馬に乗るための服なら他に袴褶(うまのりばかま)がある。
見た目はこの襦袴に近いかな。褶は上着で、丈が短く、袖が広い、騎射に向くことから騎服とも呼ばれる。
他に話してないことと言うと頭の巾だな」
カクトの頭に目を向けると、彼は白い帽子のようなものをかぶっていた。
「巾は葛布で作る簡易な帽子の一種だ。漢の時代(前三世紀~三世紀頃)、官吏は冠をつけ、庶民は白巾をつけていたそうだ」
「巾というと三国志では黄巾の乱が有名ですね」
カンウがそう口を挟む。我が校の黄巾党は頭に黄色いバンダナ巻いてたな、そういや…
「よく本などでは黄巾賊は黄色バンダナを巻いたり、ハチマキを巻いてたりするが、実際は帽子のようなかぶりものであったようだ。
黄色にすることで白巾の一般人と区別する意図もあったのだろう。
巾は官吏はつけないと言ったが、後漢末(三世紀頃)になると巾を優雅と考え、一部では常用するようになっていった。
後漢の群雄・袁紹は将軍になっても絹の巾をつけ、文人の孔融なども使っていたようだ」
「へー、袁紹も巾を着用していたのか
あれ、そういえばエンショウはどこ行ったんだろう?」
辺りを見回したが、いつの間にかエンショウの姿が見えなくなっていた。
「エンショウ様なら今支度中です」
「その間は私たちがお相手をして差し上げますわ」
エンショウの代わりに姿を現したのは長身で、水色の髪の女生徒・ガンリョウ、そして桃色の髪のブンシュウの二人だ。
彼女たちは普段は白い制服に牛馬の肩鎧を左右に付けているが、今回はその格好ではなかった。
「では、お次は三国志の鎧のお話に参りましょう」
「なるほど、服の次は鎧か」
まずはガンリョウが口を開いた。
「先に鎧の概要について簡単に話しておきましょう。
中国の鎧は古くから革製と金属製の二種類がありました。これらの素材で小さな板状にしたものを作り、これを革ひもや釘でいくつも繋げ、布のように加工して鎧を作っていきますわ。
このうち板状のものを短冊型に加工したものを『札甲』、楕円形のものを『魚鱗甲』と言います。この構造のため、巻いてたたむことができ、強行軍の時などは巻いて背負って移動したと言われていますわ。
皮革は通常は牛の革で、最上位は犀革、金属は古くは青銅ですが、三国時代は鉄が主流であったようですわ
でも、後漢末(三世紀頃)、物資の欠乏から一般兵士の中には鎧を着用せず戦う者も多かったと考えられていますわ。
さて、概要はここまでにして個々の鎧を紹介していきますわ。ブンシュウをご覧なさい」
「お、私の出番ですわね」
「ブンシュウの着用している鎧は明光鎧、その特徴は胸部と背部にある護心と呼ばれる大型プレートをつけ、これが鏡のように光を反射することから明光鎧と呼ばれますわ。これにより高い防御力を有しておりますわ」
ブンシュウの胸部には二つの円盤がついており、確かに光を放っていた。
「なるほど、確かに鏡みたいに俺の顔も写りこんでるね」
「あの…リュービ…そんなに胸ばかり見つめられると照れてしまいますですわ」
ブンシュウは顔を赤らめしどろもどろに返事をする。
「ご、ごめん、そんなつもりじゃ…」
「兄さん…他の女性の胸を凝視するのは感心しませんね…」
「アニキ…そんなにブンシュウのデカチチが好きなのか…?」
「いや、二人とも、違う…待っ…」
「さて、リュービが制裁を受けている間に捕捉しておきますわ。この明光鎧を耐久性を上げるために漆で黒く塗ったものを黒光鎧、別名、玄鎧とも言って、三国志では魏軍が多く装着していましたわ。
また、この頃の兜は長い札を横に綴って作られ、頭頂部に飾りをつけていたようですわ」
「な、なるほど…」
「おや、リュービ、あなた鎧着なくても防御力高いんですわね」
「そりゃどーも…」
「兄さんは他の女性の体ばかり見すぎです」
「アニキにはオレたちがいるだろ」
「悪かったよ、カンウ、チョーヒ…」
「あなたたち仲良いわね。
では、次は私、ガンリョウの着ている鎧の紹介しますわ。
こちらは両当鎧。板状の札を綴って作った前面と背面で、胴体を挟む形にして肩と腰のベルトで固定した鎧ですわ。
防御力では明光鎧に劣りますが、軽快で騎兵の鎧としてよく使われましたわ」
そのガンリョウの前後を挟んだ鎧は上半身から膝までを防御していた。さらにその鎧の下には鎖帷子のようなものがチラチラ見えていた。
「この鎖帷子のようなものは環鎖鎧、小さな鉄製のリングを繋げた鎧で、他の鎧より軽量で、通気性に優れていますの。他の鎧に比べて防御力は劣りますが、他の鎧に重ねて着用し、その防御力をより高める使い方もできますわ」
ガンリョウが一通り説明を終えたところで、デンポウが会話に入ってきた。
「では、最後に筒袖鎧を紹介しましょう。
これは蜀漢の丞相(宰相)・諸葛孔明(名は亮、字が孔明)が発明したとされる鎧で、袖が付いており、上腕部と急所である脇の下が保護されています。また魚鱗の鉄片を重ねるように作られ、大変防御力の優れた鎧でした。
時代は下って南北朝時代(五世紀~六世紀頃)の南朝で作られたものになりますが、その時作られた筒袖鎧は約670kgの威力の弩(発射装置のついたボーガンのような弓)でも貫通できなかったと伝わっています」
「諸葛孔明ですか。三国志で一番有名な人物ですね」
「オレも孔明の名前は聞いたことあるんだぜ!」
「カンウ、チョーヒ、今回はいいけど、本編に戻ったらその名前は一旦忘れてね」
「「はーい」」
「さて、ではお次は三国志の女性の衣裳に移りましょうか」
続いて現れたのはウェーブのかかった長い黒髪の女生徒・ソジュと、黒髪ポニーテールにメガネをかけた女生徒・ホウキだ。
「ソジュさん、お久しぶりです。それとホウキさんですよね?エンシュウ陣営にいた時には直接話す機会はありませんでしたが」
「ええ、ホウキです。そんな相手の顔まで把握してるなんてさすがですね」
「に・い・さ・ん…」
「イタタタタ、痛いってカンウ。別にちょっかいかけようと思って覚えてたわけじゃないから」
「コホン、ではまず私、ソジュから説明させていただきます。
私が上に着ている服は袿衣(うちかけ)という古い婦人服で、上から下にかけて広がっていく服です。
漢の時代(前三世紀~三世紀頃)の貴婦人は、裾が地面に引きずるほど長い袿衣(うちかけ)を着ていました。
また飾りとして刺繍や色絹の縁飾りを使ったりしていました」
「結構、華やかな感じなんですね」
興味があるのかカンウがまじまじとソジュの衣裳を見ている。
「まあ、色やデザインに関しては想像で補うところが大きいですが、当時も高い位の女性の服はかなり華やかなものだったのではないでしょうか」
「次は私、ホウキが担当します。
こちらは一般的な女性の格好です。
この上衣は衫襦という短い上着、下は長裙という長いスカートを履き、間に大帯(太い帯)を巻いていました。
ちなみに裙は男性も裳や袴の上から着用しました」
裳もスカートタイプの服だし、構造的には男女とも近い感じかな。日本の着物にも近いところがあるようだ。
更にソジュが話を進める。
「少し女性の身だしなみについてもお話しましょうか。
当時の美女とされる人はまず髪の美しさが挙げられます。これは男性も同様ですが、髪が黒くて多いものが美人とされていました。
カンウさんの髪は黒々としているのできっと当時でも美しいとされたと思いますよ」
「確かにカンウの髪は綺麗な黒髪だからなぁ」
「もー、兄さん、そんな誉められるとテレるじゃないですか」
カンウは顔をにやけさせながら、ペシっと俺の肩を叩く。確かに音はペシなのだが、カンウの一撃は強く重い。
「むー、オレの髪はカン姉ほど黒くも長くもないんだぜ」
「そういう時に古代の人たちは、仮髪(髢、添え髪)、今で言うエクステを使っていました」
「これが仮髪かだぜ?
どうだ?アニキ、これでオレも三国志美人だぜ」
「チョーヒはそんなのつけなくても充分可愛いよ」
「もー、アニキ!ホントのことでもテレるじゃねーか」
今度はおもいっきりバシンと殴られる。テレだろうがなんか理不尽だ…
「さて、話を続けますよ。
当時の女性は男性同様髪を伸ばしていました。髪のお手入れには油を塗って光沢を与え、黒い絹の布で包み、歩揺と呼ばれる黄金の台に珠玉(宝石)をつけた髪飾りを付けました。
三国時代の女性の髪型に「霊蛇髻」と呼ばれるものがあります。
これは魏の曹丕(曹操の子)の妻・甄后が蛇の動きから考案したと言われる髪型で、その名の通り一つにまとめた髪を蛇が這うように色々な形にした独特な髪型であったそうです」
ソジュに続けて今度はホウキが話を始める。
「次は女性の化粧にも触れましょう。
当時の化粧品では、紅、白粉、黛が既にあったと言われています。
古来より美人の条件として眉と目が重要視されていました。
「蛾眉」という言葉があり、眉を黛でもって蛾の触覚のように細く長く彎曲させたものを描いていました」
その時、突如ブースの奥から女性の声が会場に響き渡った。
「さて、皆さん、女性の身だしなみの話はそれぐらいにして、そろそろ真打ち登場といきますわよ!」
「その声はエンショウ!」
「さあ、トリを飾るのはこの私エンショウの皇帝姿ですわ」
「ああ…なんか教科書とかでこんな格好見た気がするんだぜ」
「ああ、なんか玉簾垂らしたような帽子に黒い服、なんか教科書で見覚えあるな」
「玉簾とか言わないでくれます?」
満を持しての登場で、俺たちがあまり盛り上がらなかったので、少々エンショウのご機嫌を損ねてしまったようだ。
「まあ、いいですわ。
私が今かぶっている冠は冕冠。帽子の上に板を乗せて、その板の先に玉を通した旒を飾り付けしたものですわ。
旒の色と数は地位によって違いがあって、皇帝は白玉を前後に各十二、三公・諸侯(大臣クラス)は青玉を七、卿大夫(貴族クラス)は黒玉の五。もちろん私が今つけている冕冠は皇帝仕様ですわ!」
「玉簾つけてる様にしか見えない」
「不敬ですわよ、リュービ。
来ている服は袞と言われる礼服ですわ。黒い絹の上衣に、赤い縁のついた襟と袖の中衣(内着)、赤い裳を履きますわ。
三公(最高位の大臣)や九卿(大臣)らもこの服を着用しますが、皇帝はさらに十二の刺繍、すなわち日、月、星辰(星座)、山、龍、華虫(雉)、藻(水草)、火、粉米(米粒)、宗彝(酒器)、黼(斧)、黻(対の弓)を衣裳に施していますわ」
「賑やかな服だな。
あ、月に兎がいる」
「中国には古くから月には兎や蛙が住んでいたと言われていましたわ」
「へー、太陽にも鳥がいるね」
「それはカラスですわ。一説には太陽の黒点をカラスになぞらえたとも言われていますわ。
…ちょっと、リュービ…あまり私の体をじろじろ見ないでくれます?」
「え、いや、そんなつもりじゃ…」
「兄さん…今度はエンショウさんですか!」
「カンウ、今度はってなんだよ、そんな目で見てないから」
「アニキ!やっぱり胸の大きな女が好きなのか!」
「チョーヒも!」
「キャハハハハ!
リューちゃん顔真っ赤なのだ!」
「だから違うって!」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる