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番外編

番外!後漢学園文化祭!その4[動物]

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「イタタ…」

「キャハハハ

 リューちゃん、変な顔なのだ!」

「まったく!

 兄さんは女の人にだらしないんですから!」

「オレたちのアニキなんだからしっかりしてくれなきゃ困るんだぜ!」

「いや、俺は別に…すみません、気をつけます…」

 カンウ・チョーヒの二人ににらまれては我を通すわけにもいかない。とりあえず今は機嫌を損ねないようにしなければ。

「リュービ…ここに…いた…!」

 後ろから聞き覚えのある声の女性に突然抱きつかれた。

「リュービ…会いたかった…」

 その女性は胸の大きな膨らみを俺の背中に押し付けながら、より強く俺を抱き締めてくる。


「リョフ!今はまずい、離して!」

「い…や…」

「兄さん…」
「アニキ…」

 二人の義妹が修羅しゅらとなってこちらに歩み寄ってくる。

「もー、兄さん、言ってるそばから!」

「アニキ、そんなに胸が大きいのがいいのか!」

 チョーヒはなんか違うことに怒ってるような気がするが…とにかく、学園最強クラスの二人の拳が俺に向かって飛んでくる。

 しかし、その拳はすんでのところで受け止められた。受け止めたのはそう、先ほどまで俺を抱き締めていた女生徒…長身で、無表情だが、整った顔立ち、腰まで伸びたポニーテールの黒髪に紅のリボンをつけ、深いスリットの入った長いスカートをはいた学園最強の女生徒・リョフだ。

 リョフは、最初はトータクの仲間として学園にきたが、後に決裂(※第5~14話)。この学園の生徒となり、選挙戦でソウソウと戦ったが敗れ、謹慎処分となっていた(※第27~41話)。

「やい、リョフ、謹慎処分が明けたからっていつもアニキの周りウロチョロするんじゃないんだぜ!」

「お前…たちも…私と…リュービの…仲…邪魔する…な!」

 そう、彼女の謹慎期間は選挙期間中。選挙戦の終わった今、リョフは普通に通学している。

「リョフさん、どうやらあなたとは決着をつけないといけないようですね」

「かかって…こい…お前たち…には…負けな…い」

「まてまて、三人とも落ち着けって。

 リョフ、君は暴力沙汰はダメだろ」

 リョフはカンウ・チョーヒさえも凌駕する戦闘力の持ち主で、まさに学園最強の存在であった。だが、謹慎処分を受ける折、もう暴力事件を起こしてはいけないと厳命されていた。

「リュービが…そういう…なら…」

「仕方ありません」

「だぜ」

「なのだ!」

「リュービ…この…子は…一体…」

「あ、その子はヒミコちゃんと言って、さっきあったばかりで俺の子とかそういうわけじゃ…」

「小さい…かわいい…尊い…!」

 リョフは目をキラキラと輝かせながらヒミコちゃんの目線に合わせて見つめている。

 そういえばリョフは子供や動物などの小さくてかわいいものが大好きだったな。

「キャハハハ

 あちしヒミコなのだ!

 ねーちゃん、乳でかいねー、つんつん」

「うん…いつも…リュービが…かわいがって…くれてる…から…ね」

「兄さん!」
「アニキ!」

「落ち着けって、リョフの嘘だよ。

 いつも一緒にいたんだからわかるだろ」

 まったく、リョフは何を言い出すかわからん。

「ヒミコちゃん…私の…ところ…動物…いる…見に来…て」

「キャハハハ

 行くのだ!行くのだ!」

「リュービも…おいで…」

「私たちも行きますよ」

「アニキと二人にはさせないんだぜ!」

 リョフの案内で文芸部前の校庭にやってきた。ここはかつてリョフがカンウ・チョーヒやソウソウ軍の武将たちと戦った場所だ(※第39・40話)。

 その一角を柵で囲み、何匹もの犬を放ち、ふれあい動物園に仕立てていた。

「おや、リュービさん、お久しぶりです」

「チンキュウもここにいたのか、久しぶりだね」

 この細身のメガネをかけた男子生徒・チンキュウは、リョフの軍師として学園を大きく乱した人物だ。だが、かつては野心に満ちた目をしていたが、今は穏やかな目に変わっていた。

「おかげさまで私やコウジュンは今は穏やかな学園生活を送っております。

 ここは『三国志の動物』をテーマにした展示を行っています」

「三国志で動物というとやっぱり馬かな」

 三国志の武将の絵なんかだと、だいたい馬に乗ってる姿で描かれることが多い。

「そうですね、まずは“馬”です。

 中国ではいん(紀元前十七世紀~紀元前十一世紀)の時代に馬を家畜化したと言われていますが、古来より馬には直接乗らず、車をかせて移動や戦争に用いてきました。

 しかし、北方の異民族は馬に直接乗って戦い、馬に車をかせる中国の戦い方ではその速さに差がありました。そこで戦国せんごく時代の紀元前307年、ちょう武霊王ぶれいおうは異民族の服装を取り入れ、馬に乗れる者を採用していきました。これが中国における騎兵の始まりです。

 馬に乗る上で必要な道具は大きく分けて4つ。

 馬の口にくわえさせる“はみ”、そのはみにつなげ、馬の操縦に使う“手綱たづな”、人が乗る部分につける“くら”、足を置く“あぶみ”です。

 このうち、はみと手綱たづなの誕生により馬の家畜化が行われ、くらかん代(前三世紀~三世紀)に普及していきました。

 しかし、あぶみの登場は少し遅れて、確認できる最古の記録は西晋せいしん時代の四世紀のものです。なので三国時代にあぶみがあったのかはっきりとはしませんが、あってもあまり普及はしてなかったと思われます。

 あぶみのない時代、馬に乗るのも大変で、馬に乗ってからも固定のために両足で馬の胴体を強く挟む必要がありました。そのため馬上はとても不安定なもので、騎馬で戦闘するにはかなり技術がいりました」

「キャハハハ

 ワンちゃんがいーっぱいなのだー!」

「私の話まったく聞いてませんね…」

「いやチンキュウ、俺は聞いてるから。

 でもここ、犬ばかりで馬いないね」

「馬は馬術部から借りようとも思ったんですが、管理が大変ですし、怪我してもいけないので」

「あら、この子は…」

 カンウの足下にすり寄ってきたのは、なにやら見覚えのある赤茶けた毛並みの丸々とした子犬だった。

「その子…セキト…私の…友達…」

 そういえばリョフは今、このセキトと暮らしてるんだっけ。

「この子、近くで見ると結構可愛いですね」

「なんかこいつカンウに懐いてる?」

 カンウに抱き抱えられ、セキトは嬉しそうに尻尾を振っている。こいつただ単に胸のでかい女の子が好きなだけじゃないよな?

後漢ごかんの将軍・呂布りょふの愛馬の名を赤兎せきとと言い、人々は『人中の呂布りょふ馬中ばちゅうの赤兎』(人の中なら呂布りょふ、馬の中なら赤兎せきと(が最も良い))とたたえたそうです。

 歴史書では以上ですが、小説『三国志演義えんぎ』では呂布りょふの死後は曹操そうそうを経由して蜀漢しょくかんの将軍関羽かんうの愛馬となり、長く活躍しました」

「私…死んだ…の…?」

「い、いえ、これは三国志のことであなたと直接関係は…いや関係はあるのか、うーん」

「やはり史実ネタすると色々不都合がでるな」

「なぁ…アニキ…」

「どうした?チョーヒ」

 振り返るとチョーヒが白い子犬を抱きかかえてこちらを見つめていた。

「アニキ…こいつ連れて帰っちゃダメかな?」

「え?ダメだよ、ここの犬なんだし。

 それにチョーヒ、犬の面倒みれないだろ、返して来なさい」

「嫌だぜ!オレとギョクツイは硬い絆で結ばれているんだぜ!」

「ああ、勝手に名前なんてつけて!情が移るからやめなさい!」

蜀漢しょくかんの将軍・張飛ちょうひの愛馬の名は玉追ぎょくついというそうです」

「チンキュウ、冷静に解説するなよ。

 ん?なんか俺のところにも犬が寄ってきたぞ」

 俺の足下にやってきたのは、ひたいから口もとにかけて白い模様のある子犬だ。確かに見てると可愛いな。

蜀漢しょくかん劉備りゅうびの愛馬は的盧てきろ

 他に三国志の名馬と言えば、曹操そうそう絶影ぜつえい曹洪そうこう白鶴はくかく(白鵠はくこくとも)、曹彰そうしょう(曹操の子)の白鶻はくこつなどが知られています」

「チンキュウ…馬の…話…ばかり…しすぎ…」

「そうですか。では、他の動物の話を。

 牛の話。

 牛は馬と同じように労働力として農耕や運搬に使われてきました。食料にもなりましたが、貴重な労働力なのでそうそう調理はされませんでした。まあ、偉い身分の方はちょくちょく食べていたようですが。

 牛車は普通、荷車として用いられ、人の乗る車は牛にかせませんでしたが、戦乱で次第に馬が不足すると牛にかせるようになりました。

 牛車は最初、貧乏諸侯が用いましたが、しん代(四世紀頃)になると貴族はむしろ牛車に乗るようになります。この牛車の流行はずい(六世紀頃)に衰え、とう(七世紀~十世紀頃)で牛車が婦人用に定着するまで続きました」

「つまり婦人用としては残ったのか」

「次は驢馬ろば騾馬らばの話。

 驢馬ろばは元々中国にはおらず、西域より入ってきました。かん初(前二世紀頃)ではまだ貴重でしたが、後漢ごかん末(三世紀頃)には数も増え、の文人の王粲おうさんはその鳴き声を好み、孫権そんけんは宴会に驢馬ろばを出すなど生活に馴染んでいました。

 騾馬らばは馬と驢馬ろばを掛け合わせた動物で、こちらも元々中国にはいませんでしたが、驢馬ろばが増えるに従って三国時代頃に増えてきました」

「チンキュウ…そう…じゃなく…て…犬いる…んだから…犬の話…しよ…」

「犬ですか?

 犬は番犬や猟犬としてよく飼われていました。

 の将軍、陸遜りくそんの孫の陸機りくき黄耳こうじという名の犬を飼い、の将軍・諸葛恪しょかつかくも犬を飼っていたそうです。

 また、当時の住居には狗竇いぬくぐりという犬の出入り用の穴を壁に開けることもありました。の将軍・朱桓しゅかんの家にもあった(妖怪の話の落頭民が移動に使用)そうですから、犬を飼っていたかも知れませんね」

「さて、随分話し込んでしましましたね。私たちはそろそろ行きましょうか」

「そうだな。そろそろ行くかだぜ!」

「チョーヒはその子犬離そうね」

「ちぇー

 じゃあなギョクツイ、元気でいろよ」

「リュービ…もう…行くの」

「別に今生こんじょうの別れじゃないだろ。リョフも俺たちの喫茶店に遊びに来てくれ。

 さて、次に行く前にトイレ行ってくる」

「トイレ…なら…あそこ…ある」

 リョフの指差す方角に、校舎とは別に小屋のようなものがある。小屋は一段高く作られ、横に囲いがある。何か嫌な予感がするが、まあ校舎に戻るより近いか。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「兄さんが戻るまでもう少しここにいましょうか」

「ギョクツイ、おいでー」

「キャハハハハ」

「リョフー!」

「リュービ…おかえり…早かった…ね…」

「ただいま…じゃなくて、ト、トイレに豚がいるんだが!」

「トイレ…だから…ね…豚も…いる…よ」

「トイレも三国時代のものを再現しました。

 厠圏そくけんというトイレで、小屋で出した排泄物を下に落とし、隣の囲いで飼っている豚の餌にするというものですね。漢字では『こん』と書いたりもします」

「そんなもんまで再現するなよ」

「割りとアジア圏で広く使われていたトイレなんですけどね。沖縄では戦前までよくあったそうですし。

 でも、三国時代だと北部に多く、南西の益州にはあまりなかったようです」

「うう、俺住むなら益州がいい…」
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