73 / 223
番外編
番外!後漢学園文化祭!その4[動物]
しおりを挟む
「イタタ…」
「キャハハハ
リューちゃん、変な顔なのだ!」
「まったく!
兄さんは女の人にだらしないんですから!」
「オレたちのアニキなんだからしっかりしてくれなきゃ困るんだぜ!」
「いや、俺は別に…すみません、気をつけます…」
カンウ・チョーヒの二人に睨まれては我を通すわけにもいかない。とりあえず今は機嫌を損ねないようにしなければ。
「リュービ…ここに…いた…!」
後ろから聞き覚えのある声の女性に突然抱きつかれた。
「リュービ…会いたかった…」
その女性は胸の大きな膨らみを俺の背中に押し付けながら、より強く俺を抱き締めてくる。
「リョフ!今はまずい、離して!」
「い…や…」
「兄さん…」
「アニキ…」
二人の義妹が修羅となってこちらに歩み寄ってくる。
「もー、兄さん、言ってるそばから!」
「アニキ、そんなに胸が大きいのがいいのか!」
チョーヒはなんか違うことに怒ってるような気がするが…とにかく、学園最強クラスの二人の拳が俺に向かって飛んでくる。
しかし、その拳はすんでのところで受け止められた。受け止めたのはそう、先ほどまで俺を抱き締めていた女生徒…長身で、無表情だが、整った顔立ち、腰まで伸びたポニーテールの黒髪に紅のリボンをつけ、深いスリットの入った長いスカートをはいた学園最強の女生徒・リョフだ。
リョフは、最初はトータクの仲間として学園にきたが、後に決裂(※第5~14話)。この学園の生徒となり、選挙戦でソウソウと戦ったが敗れ、謹慎処分となっていた(※第27~41話)。
「やい、リョフ、謹慎処分が明けたからっていつもアニキの周りウロチョロするんじゃないんだぜ!」
「お前…たちも…私と…リュービの…仲…邪魔する…な!」
そう、彼女の謹慎期間は選挙期間中。選挙戦の終わった今、リョフは普通に通学している。
「リョフさん、どうやらあなたとは決着をつけないといけないようですね」
「かかって…こい…お前たち…には…負けな…い」
「まてまて、三人とも落ち着けって。
リョフ、君は暴力沙汰はダメだろ」
リョフはカンウ・チョーヒさえも凌駕する戦闘力の持ち主で、まさに学園最強の存在であった。だが、謹慎処分を受ける折、もう暴力事件を起こしてはいけないと厳命されていた。
「リュービが…そういう…なら…」
「仕方ありません」
「だぜ」
「なのだ!」
「リュービ…この…子は…一体…」
「あ、その子はヒミコちゃんと言って、さっきあったばかりで俺の子とかそういうわけじゃ…」
「小さい…かわいい…尊い…!」
リョフは目をキラキラと輝かせながらヒミコちゃんの目線に合わせて見つめている。
そういえばリョフは子供や動物などの小さくてかわいいものが大好きだったな。
「キャハハハ
あちしヒミコなのだ!
ねーちゃん、乳でかいねー、つんつん」
「うん…いつも…リュービが…かわいがって…くれてる…から…ね」
「兄さん!」
「アニキ!」
「落ち着けって、リョフの嘘だよ。
いつも一緒にいたんだからわかるだろ」
まったく、リョフは何を言い出すかわからん。
「ヒミコちゃん…私の…ところ…動物…いる…見に来…て」
「キャハハハ
行くのだ!行くのだ!」
「リュービも…おいで…」
「私たちも行きますよ」
「アニキと二人にはさせないんだぜ!」
リョフの案内で文芸部前の校庭にやってきた。ここはかつてリョフがカンウ・チョーヒやソウソウ軍の武将たちと戦った場所だ(※第39・40話)。
その一角を柵で囲み、何匹もの犬を放ち、ふれあい動物園に仕立てていた。
「おや、リュービさん、お久しぶりです」
「チンキュウもここにいたのか、久しぶりだね」
この細身のメガネをかけた男子生徒・チンキュウは、リョフの軍師として学園を大きく乱した人物だ。だが、かつては野心に満ちた目をしていたが、今は穏やかな目に変わっていた。
「おかげさまで私やコウジュンは今は穏やかな学園生活を送っております。
ここは『三国志の動物』をテーマにした展示を行っています」
「三国志で動物というとやっぱり馬かな」
三国志の武将の絵なんかだと、だいたい馬に乗ってる姿で描かれることが多い。
「そうですね、まずは“馬”です。
中国では殷(紀元前十七世紀~紀元前十一世紀)の時代に馬を家畜化したと言われていますが、古来より馬には直接乗らず、車を牽かせて移動や戦争に用いてきました。
しかし、北方の異民族は馬に直接乗って戦い、馬に車を牽かせる中国の戦い方ではその速さに差がありました。そこで戦国時代の紀元前307年、趙の武霊王は異民族の服装を取り入れ、馬に乗れる者を採用していきました。これが中国における騎兵の始まりです。
馬に乗る上で必要な道具は大きく分けて4つ。
馬の口に咥えさせる“はみ”、そのはみに繋げ、馬の操縦に使う“手綱”、人が乗る部分につける“鞍”、足を置く“鐙”です。
このうち、はみと手綱の誕生により馬の家畜化が行われ、鞍は漢代(前三世紀~三世紀)に普及していきました。
しかし、鐙の登場は少し遅れて、確認できる最古の記録は西晋時代の四世紀のものです。なので三国時代に鐙があったのかはっきりとはしませんが、あってもあまり普及はしてなかったと思われます。
鐙のない時代、馬に乗るのも大変で、馬に乗ってからも固定のために両足で馬の胴体を強く挟む必要がありました。そのため馬上はとても不安定なもので、騎馬で戦闘するにはかなり技術がいりました」
「キャハハハ
ワンちゃんがいーっぱいなのだー!」
「私の話まったく聞いてませんね…」
「いやチンキュウ、俺は聞いてるから。
でもここ、犬ばかりで馬いないね」
「馬は馬術部から借りようとも思ったんですが、管理が大変ですし、怪我してもいけないので」
「あら、この子は…」
カンウの足下にすり寄ってきたのは、なにやら見覚えのある赤茶けた毛並みの丸々とした子犬だった。
「その子…セキト…私の…友達…」
そういえばリョフは今、このセキトと暮らしてるんだっけ。
「この子、近くで見ると結構可愛いですね」
「なんかこいつカンウに懐いてる?」
カンウに抱き抱えられ、セキトは嬉しそうに尻尾を振っている。こいつただ単に胸のでかい女の子が好きなだけじゃないよな?
「後漢の将軍・呂布の愛馬の名を赤兎と言い、人々は『人中の呂布、馬中の赤兎』(人の中なら呂布、馬の中なら赤兎(が最も良い))と讃えたそうです。
歴史書では以上ですが、小説『三国志演義』では呂布の死後は曹操を経由して蜀漢の将軍関羽の愛馬となり、長く活躍しました」
「私…死んだ…の…?」
「い、いえ、これは三国志のことであなたと直接関係は…いや関係はあるのか、うーん」
「やはり史実ネタすると色々不都合がでるな」
「なぁ…アニキ…」
「どうした?チョーヒ」
振り返るとチョーヒが白い子犬を抱きかかえてこちらを見つめていた。
「アニキ…こいつ連れて帰っちゃダメかな?」
「え?ダメだよ、ここの犬なんだし。
それにチョーヒ、犬の面倒みれないだろ、返して来なさい」
「嫌だぜ!オレとギョクツイは硬い絆で結ばれているんだぜ!」
「ああ、勝手に名前なんてつけて!情が移るからやめなさい!」
「蜀漢の将軍・張飛の愛馬の名は玉追というそうです」
「チンキュウ、冷静に解説するなよ。
ん?なんか俺のところにも犬が寄ってきたぞ」
俺の足下にやってきたのは、額から口もとにかけて白い模様のある子犬だ。確かに見てると可愛いな。
「蜀漢の劉備の愛馬は的盧。
他に三国志の名馬と言えば、魏の曹操の絶影、曹洪の白鶴(白鵠とも)、曹彰(曹操の子)の白鶻などが知られています」
「チンキュウ…馬の…話…ばかり…しすぎ…」
「そうですか。では、他の動物の話を。
牛の話。
牛は馬と同じように労働力として農耕や運搬に使われてきました。食料にもなりましたが、貴重な労働力なのでそうそう調理はされませんでした。まあ、偉い身分の方はちょくちょく食べていたようですが。
牛車は普通、荷車として用いられ、人の乗る車は牛に牽かせませんでしたが、戦乱で次第に馬が不足すると牛に牽かせるようになりました。
牛車は最初、貧乏諸侯が用いましたが、晋代(四世紀頃)になると貴族はむしろ牛車に乗るようになります。この牛車の流行は隋(六世紀頃)に衰え、唐(七世紀~十世紀頃)で牛車が婦人用に定着するまで続きました」
「つまり婦人用としては残ったのか」
「次は驢馬、騾馬の話。
驢馬は元々中国にはおらず、西域より入ってきました。漢初(前二世紀頃)ではまだ貴重でしたが、後漢末(三世紀頃)には数も増え、魏の文人の王粲はその鳴き声を好み、呉の孫権は宴会に驢馬を出すなど生活に馴染んでいました。
騾馬は馬と驢馬を掛け合わせた動物で、こちらも元々中国にはいませんでしたが、驢馬が増えるに従って三国時代頃に増えてきました」
「チンキュウ…そう…じゃなく…て…犬いる…んだから…犬の話…しよ…」
「犬ですか?
犬は番犬や猟犬としてよく飼われていました。
呉の将軍、陸遜の孫の陸機は黄耳という名の犬を飼い、呉の将軍・諸葛恪も犬を飼っていたそうです。
また、当時の住居には狗竇という犬の出入り用の穴を壁に開けることもありました。呉の将軍・朱桓の家にもあった(妖怪の話の落頭民が移動に使用)そうですから、犬を飼っていたかも知れませんね」
「さて、随分話し込んでしましましたね。私たちはそろそろ行きましょうか」
「そうだな。そろそろ行くかだぜ!」
「チョーヒはその子犬離そうね」
「ちぇー
じゃあなギョクツイ、元気でいろよ」
「リュービ…もう…行くの」
「別に今生の別れじゃないだろ。リョフも俺たちの喫茶店に遊びに来てくれ。
さて、次に行く前にトイレ行ってくる」
「トイレ…なら…あそこ…ある」
リョフの指差す方角に、校舎とは別に小屋のようなものがある。小屋は一段高く作られ、横に囲いがある。何か嫌な予感がするが、まあ校舎に戻るより近いか。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「兄さんが戻るまでもう少しここにいましょうか」
「ギョクツイ、おいでー」
「キャハハハハ」
「リョフー!」
「リュービ…おかえり…早かった…ね…」
「ただいま…じゃなくて、ト、トイレに豚がいるんだが!」
「トイレ…だから…ね…豚も…いる…よ」
「トイレも三国時代のものを再現しました。
厠圏というトイレで、小屋で出した排泄物を下に落とし、隣の囲いで飼っている豚の餌にするというものですね。漢字では『溷』と書いたりもします」
「そんなもんまで再現するなよ」
「割りとアジア圏で広く使われていたトイレなんですけどね。沖縄では戦前までよくあったそうですし。
でも、三国時代だと北部に多く、南西の益州にはあまりなかったようです」
「うう、俺住むなら益州がいい…」
「キャハハハ
リューちゃん、変な顔なのだ!」
「まったく!
兄さんは女の人にだらしないんですから!」
「オレたちのアニキなんだからしっかりしてくれなきゃ困るんだぜ!」
「いや、俺は別に…すみません、気をつけます…」
カンウ・チョーヒの二人に睨まれては我を通すわけにもいかない。とりあえず今は機嫌を損ねないようにしなければ。
「リュービ…ここに…いた…!」
後ろから聞き覚えのある声の女性に突然抱きつかれた。
「リュービ…会いたかった…」
その女性は胸の大きな膨らみを俺の背中に押し付けながら、より強く俺を抱き締めてくる。
「リョフ!今はまずい、離して!」
「い…や…」
「兄さん…」
「アニキ…」
二人の義妹が修羅となってこちらに歩み寄ってくる。
「もー、兄さん、言ってるそばから!」
「アニキ、そんなに胸が大きいのがいいのか!」
チョーヒはなんか違うことに怒ってるような気がするが…とにかく、学園最強クラスの二人の拳が俺に向かって飛んでくる。
しかし、その拳はすんでのところで受け止められた。受け止めたのはそう、先ほどまで俺を抱き締めていた女生徒…長身で、無表情だが、整った顔立ち、腰まで伸びたポニーテールの黒髪に紅のリボンをつけ、深いスリットの入った長いスカートをはいた学園最強の女生徒・リョフだ。
リョフは、最初はトータクの仲間として学園にきたが、後に決裂(※第5~14話)。この学園の生徒となり、選挙戦でソウソウと戦ったが敗れ、謹慎処分となっていた(※第27~41話)。
「やい、リョフ、謹慎処分が明けたからっていつもアニキの周りウロチョロするんじゃないんだぜ!」
「お前…たちも…私と…リュービの…仲…邪魔する…な!」
そう、彼女の謹慎期間は選挙期間中。選挙戦の終わった今、リョフは普通に通学している。
「リョフさん、どうやらあなたとは決着をつけないといけないようですね」
「かかって…こい…お前たち…には…負けな…い」
「まてまて、三人とも落ち着けって。
リョフ、君は暴力沙汰はダメだろ」
リョフはカンウ・チョーヒさえも凌駕する戦闘力の持ち主で、まさに学園最強の存在であった。だが、謹慎処分を受ける折、もう暴力事件を起こしてはいけないと厳命されていた。
「リュービが…そういう…なら…」
「仕方ありません」
「だぜ」
「なのだ!」
「リュービ…この…子は…一体…」
「あ、その子はヒミコちゃんと言って、さっきあったばかりで俺の子とかそういうわけじゃ…」
「小さい…かわいい…尊い…!」
リョフは目をキラキラと輝かせながらヒミコちゃんの目線に合わせて見つめている。
そういえばリョフは子供や動物などの小さくてかわいいものが大好きだったな。
「キャハハハ
あちしヒミコなのだ!
ねーちゃん、乳でかいねー、つんつん」
「うん…いつも…リュービが…かわいがって…くれてる…から…ね」
「兄さん!」
「アニキ!」
「落ち着けって、リョフの嘘だよ。
いつも一緒にいたんだからわかるだろ」
まったく、リョフは何を言い出すかわからん。
「ヒミコちゃん…私の…ところ…動物…いる…見に来…て」
「キャハハハ
行くのだ!行くのだ!」
「リュービも…おいで…」
「私たちも行きますよ」
「アニキと二人にはさせないんだぜ!」
リョフの案内で文芸部前の校庭にやってきた。ここはかつてリョフがカンウ・チョーヒやソウソウ軍の武将たちと戦った場所だ(※第39・40話)。
その一角を柵で囲み、何匹もの犬を放ち、ふれあい動物園に仕立てていた。
「おや、リュービさん、お久しぶりです」
「チンキュウもここにいたのか、久しぶりだね」
この細身のメガネをかけた男子生徒・チンキュウは、リョフの軍師として学園を大きく乱した人物だ。だが、かつては野心に満ちた目をしていたが、今は穏やかな目に変わっていた。
「おかげさまで私やコウジュンは今は穏やかな学園生活を送っております。
ここは『三国志の動物』をテーマにした展示を行っています」
「三国志で動物というとやっぱり馬かな」
三国志の武将の絵なんかだと、だいたい馬に乗ってる姿で描かれることが多い。
「そうですね、まずは“馬”です。
中国では殷(紀元前十七世紀~紀元前十一世紀)の時代に馬を家畜化したと言われていますが、古来より馬には直接乗らず、車を牽かせて移動や戦争に用いてきました。
しかし、北方の異民族は馬に直接乗って戦い、馬に車を牽かせる中国の戦い方ではその速さに差がありました。そこで戦国時代の紀元前307年、趙の武霊王は異民族の服装を取り入れ、馬に乗れる者を採用していきました。これが中国における騎兵の始まりです。
馬に乗る上で必要な道具は大きく分けて4つ。
馬の口に咥えさせる“はみ”、そのはみに繋げ、馬の操縦に使う“手綱”、人が乗る部分につける“鞍”、足を置く“鐙”です。
このうち、はみと手綱の誕生により馬の家畜化が行われ、鞍は漢代(前三世紀~三世紀)に普及していきました。
しかし、鐙の登場は少し遅れて、確認できる最古の記録は西晋時代の四世紀のものです。なので三国時代に鐙があったのかはっきりとはしませんが、あってもあまり普及はしてなかったと思われます。
鐙のない時代、馬に乗るのも大変で、馬に乗ってからも固定のために両足で馬の胴体を強く挟む必要がありました。そのため馬上はとても不安定なもので、騎馬で戦闘するにはかなり技術がいりました」
「キャハハハ
ワンちゃんがいーっぱいなのだー!」
「私の話まったく聞いてませんね…」
「いやチンキュウ、俺は聞いてるから。
でもここ、犬ばかりで馬いないね」
「馬は馬術部から借りようとも思ったんですが、管理が大変ですし、怪我してもいけないので」
「あら、この子は…」
カンウの足下にすり寄ってきたのは、なにやら見覚えのある赤茶けた毛並みの丸々とした子犬だった。
「その子…セキト…私の…友達…」
そういえばリョフは今、このセキトと暮らしてるんだっけ。
「この子、近くで見ると結構可愛いですね」
「なんかこいつカンウに懐いてる?」
カンウに抱き抱えられ、セキトは嬉しそうに尻尾を振っている。こいつただ単に胸のでかい女の子が好きなだけじゃないよな?
「後漢の将軍・呂布の愛馬の名を赤兎と言い、人々は『人中の呂布、馬中の赤兎』(人の中なら呂布、馬の中なら赤兎(が最も良い))と讃えたそうです。
歴史書では以上ですが、小説『三国志演義』では呂布の死後は曹操を経由して蜀漢の将軍関羽の愛馬となり、長く活躍しました」
「私…死んだ…の…?」
「い、いえ、これは三国志のことであなたと直接関係は…いや関係はあるのか、うーん」
「やはり史実ネタすると色々不都合がでるな」
「なぁ…アニキ…」
「どうした?チョーヒ」
振り返るとチョーヒが白い子犬を抱きかかえてこちらを見つめていた。
「アニキ…こいつ連れて帰っちゃダメかな?」
「え?ダメだよ、ここの犬なんだし。
それにチョーヒ、犬の面倒みれないだろ、返して来なさい」
「嫌だぜ!オレとギョクツイは硬い絆で結ばれているんだぜ!」
「ああ、勝手に名前なんてつけて!情が移るからやめなさい!」
「蜀漢の将軍・張飛の愛馬の名は玉追というそうです」
「チンキュウ、冷静に解説するなよ。
ん?なんか俺のところにも犬が寄ってきたぞ」
俺の足下にやってきたのは、額から口もとにかけて白い模様のある子犬だ。確かに見てると可愛いな。
「蜀漢の劉備の愛馬は的盧。
他に三国志の名馬と言えば、魏の曹操の絶影、曹洪の白鶴(白鵠とも)、曹彰(曹操の子)の白鶻などが知られています」
「チンキュウ…馬の…話…ばかり…しすぎ…」
「そうですか。では、他の動物の話を。
牛の話。
牛は馬と同じように労働力として農耕や運搬に使われてきました。食料にもなりましたが、貴重な労働力なのでそうそう調理はされませんでした。まあ、偉い身分の方はちょくちょく食べていたようですが。
牛車は普通、荷車として用いられ、人の乗る車は牛に牽かせませんでしたが、戦乱で次第に馬が不足すると牛に牽かせるようになりました。
牛車は最初、貧乏諸侯が用いましたが、晋代(四世紀頃)になると貴族はむしろ牛車に乗るようになります。この牛車の流行は隋(六世紀頃)に衰え、唐(七世紀~十世紀頃)で牛車が婦人用に定着するまで続きました」
「つまり婦人用としては残ったのか」
「次は驢馬、騾馬の話。
驢馬は元々中国にはおらず、西域より入ってきました。漢初(前二世紀頃)ではまだ貴重でしたが、後漢末(三世紀頃)には数も増え、魏の文人の王粲はその鳴き声を好み、呉の孫権は宴会に驢馬を出すなど生活に馴染んでいました。
騾馬は馬と驢馬を掛け合わせた動物で、こちらも元々中国にはいませんでしたが、驢馬が増えるに従って三国時代頃に増えてきました」
「チンキュウ…そう…じゃなく…て…犬いる…んだから…犬の話…しよ…」
「犬ですか?
犬は番犬や猟犬としてよく飼われていました。
呉の将軍、陸遜の孫の陸機は黄耳という名の犬を飼い、呉の将軍・諸葛恪も犬を飼っていたそうです。
また、当時の住居には狗竇という犬の出入り用の穴を壁に開けることもありました。呉の将軍・朱桓の家にもあった(妖怪の話の落頭民が移動に使用)そうですから、犬を飼っていたかも知れませんね」
「さて、随分話し込んでしましましたね。私たちはそろそろ行きましょうか」
「そうだな。そろそろ行くかだぜ!」
「チョーヒはその子犬離そうね」
「ちぇー
じゃあなギョクツイ、元気でいろよ」
「リュービ…もう…行くの」
「別に今生の別れじゃないだろ。リョフも俺たちの喫茶店に遊びに来てくれ。
さて、次に行く前にトイレ行ってくる」
「トイレ…なら…あそこ…ある」
リョフの指差す方角に、校舎とは別に小屋のようなものがある。小屋は一段高く作られ、横に囲いがある。何か嫌な予感がするが、まあ校舎に戻るより近いか。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「兄さんが戻るまでもう少しここにいましょうか」
「ギョクツイ、おいでー」
「キャハハハハ」
「リョフー!」
「リュービ…おかえり…早かった…ね…」
「ただいま…じゃなくて、ト、トイレに豚がいるんだが!」
「トイレ…だから…ね…豚も…いる…よ」
「トイレも三国時代のものを再現しました。
厠圏というトイレで、小屋で出した排泄物を下に落とし、隣の囲いで飼っている豚の餌にするというものですね。漢字では『溷』と書いたりもします」
「そんなもんまで再現するなよ」
「割りとアジア圏で広く使われていたトイレなんですけどね。沖縄では戦前までよくあったそうですし。
でも、三国時代だと北部に多く、南西の益州にはあまりなかったようです」
「うう、俺住むなら益州がいい…」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる