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第4部 カント決戦編

第58話 咆哮!リュービの道!

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「カンウ… 」

 その長く美しい黒髪の美少女…

 忘れもしない、俺とチョーヒと共に兄妹の誓いをかわしたカンウだ。

「兄さん…あの時の答え、聞きに来ました」

 カンウは睨み付けるように俺を見ている。相応の覚悟でここに来たことが伝わってくる。

 俺がその場に立ち止まっていると、しびれを切らしたチョーヒが前に飛び出した。

「やい、カン姉…いやカンウ!なんでアニキを裏切り、ソウソウ軍につきやがった!

 事と次第によっちゃあ、オレがお前を成敗するぜ!」

 激昂するチョーヒを、カンウは静かに、力強く押し止める。

「チョーヒ、あなたも感づいていたはずです。兄さんとソウソウさんの間を…」

「それは…」

 カンウの言葉にチョーヒも拳を下ろす。

「そして兄さんはソウソウさんに反旗を翻した。

 それは大義か痴情のもつれか、私はそれが知りたいのです」

 カンウは俺の方に静かに歩み寄る。

「さぁ、兄さん。あの時の宿題に答えてください。

 あなたは何故、ソウソウと戦うのですか?」

 元はと言えば俺の行動が招いた事態。

 あの時、俺は曖昧な理由でソウソウに反旗を翻した。

「まず、カンウ・チョーヒ、あの時俺はソウソウに抱く感情に整理をつけず、無鉄砲に戦いを挑んでしまった。それを謝りたい。本当にすまなかった」

 しかし、あれから俺はソウソウの敵として彼女を見てきた。そして同じ様にソウソウに反旗を翻す者たちにも会った。

 俺に出来ること、言えることを今ぶつけるしかない。例えそれがカンウの心に届かなかったとしても。

「だが、あの時、確かに違和感を抱き反抗した。口では言えなかったが、ソウソウは危険だと。

  今、ソウソウとエンショウが戦っている。おそらく彼女達の能力は学内随一、頂上決戦に相応しい二人だろう。

 そして、その二人の部下もまた学内有数の実力者達だ。人材活用の差はあれど、どちらも能力に秀でて、実力を持ち、結果を出した者を上手く活用している。

 おそらく、どちらが勝っても歴代有数の生徒会首脳部が生まれるだろう」

 俺はソウソウの陣営もエンショウの陣営も見てきた。だからその実力はわかる。だが…

「だが、この学園にはそこからあぶれた者もたくさん通っている!

 自ら戦うことを望まなかった者がいる!

 戦いに敗れ、立場を失った者がいる!

 馴染めず、飛び出していった者がいる!

 能力を評価されず、加われなかった者もいる!

 そして利用され、囚われの身になった者がいる!」


 リョフ、コウソンサン、カコウリン、リューヘキ、黄巾党、リューキョー学園長…ついでにカンヨーも。他にもたくさんこの学園にいるはずだ。

「そいつら皆ひっくるめてこの学園じゃないのか!

 戦いに敗れた者は!能力が認められなかった者は!従えなかった者は!居場所を奪っていいのか!

 それでもソウソウなら、彼ら彼女らを省みること無く、学園を上手くまとめてしまうだろう。

 だが、結果を出せず、能力を認められず、従えなかったからといって、その人達の居場所まで奪っていい権利なんて誰にも無い!

 全ての生徒が競わず、争わず、縛られない。楽しむ事を許される学園が作りたい!

 だから、俺はここに改めて宣言する。俺はソウソウを倒し、生徒会長になる!」

 俺は一気に思いの丈をぶちまけた。勢いで生徒会長になるとまで言ってしまったが、もう俺に迷いはない。

「それで、生徒会長には具体的にはどうやってなる気なんですか?」

「そ、それは…」

 カンウに痛いところを突かれた。確かに今の俺はソウソウやエンショウと肩を並べられるどころか、群雄の一人に数えてもらえるかどうかも怪しい立場だ。

「全く、具体策もない。甘々な宣言ですね」

 カンウは呆れたようにため息をついた。

 だが、顔を上げたその顔は優しげな表情に変わっていた。

「ですが、私もあなたがの学園が見てみたい…ソウソウさんでもエンショウさんでもなく、あなたの学園が…

 兄さん…私をまたその仲間に加えていただけますか?」

「カンウ…もちろん!」

「アニキ…オレはアニキの心が移ったと思って許せなかった…

 でも、それでも、オレが一緒にいたいのはアニキとカン姉なんだ!オレもまた加えて欲しい…」

「ああ、チョーヒ。

 ごめんな、俺が不甲斐ないばっかりに」

「では兄さん、チョーヒ。

 リュービ三兄妹再結成ですね」

 こうして俺たちは再び義兄妹の仲に戻った。

 だが、その前に一つ…

「待ってくれ。今回二人を振り回したのは俺のせいだ。だから二人とも俺を一発殴ってくれ」

 俺はカンウとチョーヒに頭を下げた。

「え、でもオレたちが殴ったら、アニキの体…」

「構わない!」

「では兄さん、遠慮なくいかせていただきます」

「アニキ、歯食いしばれ!」

 カンウとチョーヒは拳を大きく振りかざす。

「兄さんの甲斐性なし!」
「アニキの甲斐性なし!」

 その言葉と同時に俺の意識は遠退き、体が遠くに吹き飛ばされた。

「ちょっとスッキリしました」

「そもそもアニキが女にだらしないのが悪いんだぜ」

  再び集まった俺たちだが、俺はビジク達を助けるため、カンウは別れの挨拶のため、エンショウ・ソウソウ、双方の陣営に一度戻ることとなった。

 一方、チョーヒ・リューヘキ達には中央校舎南部の拠点確保と仲間集めを任せることとなった。



 中庭・エンショウ本陣~

 エンショウ本陣に戻った俺を、薄紫の長い髪の女生徒、この軍の総大将・エンショウは冷ややかな目で出迎えた。

「ソウジンに敗れ、そのままおめおめと帰ってくるとはいい度胸ですね、リュービ」

 エンショウの俺への心象は最悪か。だが、ここで上手く返してビジクたちを連れ出さなければならない。

「この度の敗戦は不馴れな借り物の兵だったからです。俺に再び自分の部隊を率いることをお許しください」

「何を言い出すかと思えばくだらない提案ですね。人質を解放しろということですか」

 エンショウは馬鹿馬鹿しいとばかりに話を切り上げようとしてきた。

 だけど、ここで退くわけにはいかない。

「お待ちください!今、南部で反ソウソウの気運が高まっているのに、いまいち成果が上がらないのは連携が取れていないからです。

 俺が中央校舎南部に拠点を構え、東部のチンランや寝返り組、東校舎のソンサク、南校舎のリュウヒョウと連携を取れば大連合を結成できます。

 そして北校舎のエンショウ様とソウソウを挟み撃ちにすれば生徒会長に就任すること間違いなしです」

 俺なりにエンショウにも魅力のある提案をしたつもりだ。エンショウは対ソウソウ包囲網を作り出した。しかし、その包囲網を構成する勢力は各々好き勝手に動いている状態であり、協力とは無縁であった。

 しかし、エンショウはこう切り返した。

「しかしリュービ、連携ならこちらからでも指示できますわ」

 確かにエンショウの言うことも一理ある。だが、この役を譲ることは出来ない。俺の強味を最大に生かすしかない。

「ソンサクとリュウヒョウはこの前まで争っていた仲です。誰かが直接睨みを効かさねば従わないでしょう。

 俺ならソンサクと面識がありますし、ソウソウ陣営にいたので寝返り組と面識がある者もいます。これにエンショウ様の威光があればまとめあげることが可能です」

 長らく同盟関係のあったリュウヒョウはともかく、エンショウ陣営にソンサクやソウソウ陣営と面識のある者はいないはずだ。

 あいにく俺はまだリュウヒョウとは面識ないが、そちらはエンショウの名を出せば協力を得やすいはずだ。

「ふーん…確かに同盟者の足並みが揃わないのは懸念事項ではありました。いいでしょう、あなたの部隊の出陣を許可します」

「ありがとうございます。早速、出陣いたします!」

 やった!エンショウの説得に成功した。監視役くらいつけられると思ったが、思ったよりあっさり通ったな。

 俺は仲間たちの待つ教室へ向かった。

 リュービの退出後、茶髪に金のネックレスをつけた男子生徒・カクトはエンショウの前に赴き、苦言を呈した。

「エンショウ様、宜しいのですか、リュービを行かせてしまって?」

「ええ、彼の南部連合構想は私が生徒会長に就任した後も学園支配に活用できるもの。やらせてみるのも面白いわ」

「しかし、もう戻ってこないかもしれませんよ」

「それで、何か変わるの?リュービが例え逃げたところで我が軍に実害は無いし、状況を何か変えられるわけじゃないわ。

 多少足並みが揃わないといえども、ソウソウは最早、四面楚歌。私の勝ちは揺るがないわ!」

 生徒会長の椅子が目前に迫るエンショウにとってリュービはもう些末な問題でしかなかった。逆らうなら会長就任後、ゆっくり討てばよいくらいに考えていた。

「逆らえるものなら逆らってみなさいリュービ。私の学園で逆らって生きていけるとは思わないことね」
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