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第4部 カント決戦編
第50話 襲撃!渡り廊下攻防戦!
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薄紫の長い髪に、胸元に大きな金色のリボンをつけた女生徒が、マントを翻しながら、指示を出す。
彼女はこの軍団の主、北校舎の最大勢力、エンショウその人である。
「第三渡り廊下が攻略できないのなら、少し離れてますが第二渡り廊下を攻略します。
先陣ガンリョウ、後陣カクト・ジュンウケイ、直ちに攻め落としなさい」
第三渡り廊下は、北校舎と中央校舎を繋ぐ渡り廊下の中で最もエンショウの本拠地から近いところにあったが、そこはソウソウ軍のウキンやソウジンらが固く守っており、攻略は容易ではなかった。
そこでエンショウは、攻撃目標をその東にある第二渡り廊下に移した。
しかし、それに対してウェーブのかかった長い黒髪の女生徒・ソジュが意見を挟む。
「お待ちください。ガンリョウは勇猛ですが、せっかちで慎重さに欠けます。先陣は別の者の方がよろしいかと」
「ソジュ、デンポウの二の舞になりたいの?」
エンショウが冷たく、ソジュを睨み付けた。だが、ソジュも一歩も引かない姿勢であった。
「まあ、いいでしょう。ならばガンリョウに副将をつけます。
リュービ、あなたをガンリョウの補佐とします。共に出陣しなさい」
「わかりました」
早くも俺のエンショウ陣営での最初の戦いとなった。なんとしても手柄を立てなければ。コウソンサン先輩の自由のためにも、俺たちのここでの立場のためにも。
エンショウはソジュに向かって言った。
「ソジュ、今までの功績に免じて今回は目を瞑ります。次からは口を慎みなさい」
「はい…わかりました」
中央校舎・臨時生徒会室~
赤黒い長い髪に、同じ色の瞳、胸元を大きく開け、へそ出しミニスカートとやたら露出の多い中央校舎の雄、ソウソウは対エンショウ戦の準備に頭を悩ましていた。
「では、カコウトン・カコウエン、お前たちに周囲への防衛を任せる」
「後ろのことは俺たちに任せろ」
「私たちがいる限り、決して敵の侵攻を許しはしないわ」
左に黒い眼帯をつけた、ツンツンヘアーにアゴヒゲを生やした男子生徒・カコウトンと、茶髪のショートヘアーに、黒いジャケットにジーパンの女子生徒・カコウエンが力強く答える。
二人はソウソウのイトコで、信任厚い武将だ。本来なら最前線に連れていきたい二人だが、四方を他勢力に囲まれたソウソウは防衛に手を抜くことは出来ない。
「二人とも頼んだぞ。
生徒会にはジュンイクを残す」
「お任せください」
黒髪のショートカットに、小さな丸眼鏡をした、小柄な女生徒・ジュンイクが答える。
彼女はソウソウの参謀筆頭で、生徒会の膨大な仕事と、万が一の時の本拠地の防衛を任せられるのは彼女を置いて他にいなかった。
「後は総力戦といったところか。主力武将及び参謀は対エンショウ戦に投入していこう」
そこへおさげ髪に、メガネの女生徒・ジュンユウが報告に入る。
「ソウソウ様、敵が第二渡り廊下に攻撃、守備隊のリュウエンは中央校舎まで後退したようです」
「すぐに救援に赴かねばリュウエンでは支えきれんな。近くに配置した守備隊のテイイクはどうしている?」
「エンショウ強襲の報に驚き部下が逃亡。残り17名で孤立してるようです」
「それでは一瞬でやられてしまう。テイイクに連絡を入れよう。早く援軍を出さなければ」
ソウソウはすぐにテイイクへ電話をかけた。
「もしもし、テイイクか?
今から第二渡り廊下に救援に行く。お前のところは増援はどのくらい必要だ?」
テイイクはセミロングの茶髪に、高身長の女生徒で、気が強く、どんな相手でも怯まずに持論を述べる人物である。
そのテイイクからの返答は予想外のものであった。
「いえ、その必要には及びません。この人数ならエンショウ軍は相手にせず、素通りするでしょう。しかし、増援がくれば必ずエンショウ軍に攻められ、無駄な損害が出ます。
ソウソウ様は私に構わずリュウエン救援に全力を注いでください」
プッ、ツー、ツー…
「テイイクめ、言うだけ言って切りやがった…さすが、呂布から本拠地を守った女、大した胆だな。
では、急いでリュウエン救援に向かうか」
「それなら、第三渡り廊下のウキン・ガクシンに敵の後方を攻めさせましょう。そうすれば敵包囲網は分散し、その先鋒を虜にできます」
このジュンユウの策はすぐに採用された。
「よし、ではウキン・ガクシンに連絡を入れろ。
そしてリュウエン救援には切り札を使う!」
一方、第二渡り廊下を占拠したエンショウ軍の指揮官たちのもとにソウソウ軍の情報がもたらされていた。
「なにっ、後方からウキン・ガクシンが攻めてきただと!」
開戦当初は幹部の中でも末席にいた茶髪に、金のネックレスをつけた男子生徒・カクトだったが、今や彼はエンショウ本隊の指揮官の一人となっていた。
「カクト様、いかがいたしますか?」
カクトに意見を求めたのはこの軍の先鋒、水色のセミロングの髪に、白いブレザー、右に牛の頭を模した肩鎧をつけた長身の女生徒・ガンリョウであった。
「うーむ、ウキン・ガクシンには俺とジュンウケイで当たる。ガンリョウ、君はこのまま敵を攻撃しろ」
俺にはこの時のカクトの判断が良いとは思えず、たまらず意見した。
「お待ちください。ウキンたちは囮です。ここを手薄にすればソウソウの襲撃を受けます。
ここはリュウエン・テイイクの部隊を捕虜とし、この地を固く守るべきです」
「リュービ君、君は余所者のくせにこの三提督の一人、カクトに意見するのかね?
ソウソウ軍が来る前にウキンを片付ければ問題ない。
それと、テイイクの小部隊なんていてもいなくても同じだ。そんなのは相手にせず、お前はガンリョウに従い、リュウエンを蹴散らせ!
では、行くぞジュンウケイ」
「おう!」
カクトはジュンウケイと共に後陣を率いて、ウキン軍に向かっていった。
「カクトはソウソウの速さを知らない。想像以上に速いぞ、ソウソウは」
そしてガンリョウはそのまま中央校舎への入口へ向けて攻撃を開始した。
「さぁ、あなたたちはリュウエン攻撃に全力を尽くしなさい。
もうあの中央校舎の入口を塞いでいるバリケードも持ちません。休みなく攻撃を続けなさい」
対して攻撃を受けるリュウエンの部隊の防衛は限界が迫っていた。
「リュウエン隊長、もうバリケードが持ちません!」
「仕方がない、ここを放棄する!
皆、一斉に逃げろ!」
ついにリュウエンの防壁は破られ、ガンリョウ軍の侵入を許した。
「バリケードが崩れたわ!さぁ、ソウソウ兵を捕らえなさい!」
ガンリョウの指揮のもと、部隊はリュウエンの部隊に襲いかかった。
その時、女性の声が辺りに響いた。
『 待ちなさい!』
「何?まさかもう援軍が来たの!」
そこに現れたのは腰まで届く長く美しい黒髪に、お嬢様のような雰囲気を漂わせた、長身細身ながら、一際大きな胸が目を引く女生徒だった。
「私はソウソウ軍指揮官・カンウ!」
「カンウ?確かあなたはリュービ軍の…」
「問答無用!」
カンウは一瞬にしてガンリョウとの間合いを詰めると、目にも止まらぬ速さでその襟を掴んだ。
掴まれたガンリョウがその事に気づく時にはもう、彼女の身は宙を舞い、背中に強い衝撃が襲った。ガンリョウは微かに呻き声をあげると、そのまま意識を失った。
「ガンリョウ様が一撃で負けた!」
「カンウ!校内随一の女傑カンウだ!」
「逃げろ!やられるぞ!」
ガンリョウの敗北はその部隊の崩壊を意味した。兵士は取り乱しながら次々と北校舎を目指して遁走し始めた。
「どうした、落ち着け!態勢を整えろ!」
俺の横をすり抜けて、ガンリョウの兵士は逃げ出した。前方で何があったかわからないが、どうやらガンリョウが敗れたようだ。
俺は渡り廊下を進み、そこで“彼女”にあった。
「カンウ!何故、そちらにいる!」
中央校舎の入口に立ちはだかるのは、俺の義妹…だったはずの女性だった。
何故カンウが、ここに…ソウソウの側に立っているんだ。俺の頭は混乱するばかりで全く働かなかった。
「に、兄さん…あなたとは戦いたくありません。退いてください」
「カンウ!手を弛めるな!」
続けて現れたのは逆立った青髪に、鉢金、青い道着姿のソウソウ軍の男性武将・チョーリョーだった。
「チョーリョーまで来たか。全軍撤退!」
俺はガンリョウに代わり部隊に指示を出した。カンウのことは気になるが、カンウ・チョーリョー二将相手に、混乱した部隊ではまず勝ち目がない。今は一旦退かなければ。
「副将にリュービがいたか。だがカンウ、一度戦場に出れば誰が来ようと気を抜いてはいけない」
「すみません…チョーリョーさん」
後ろより今やカンウの大将となった赤黒い髪と瞳の女生徒・ソウソウが現れた。
「カンウ、ソウソウ軍の将としての初陣はどうだ?」
「はい、ソウソウの将としてはまだまだ未熟でした」
「私は私流のやり方でお前を指揮官として育てる。そのつもりでいろ」
「はい」
「では、我らは第二渡り廊下を放棄する。そこに伸びているガンリョウを連れていけ」
「何故ですか、ソウソウさん!何故ここを放棄するのですか!ガンリョウは私が倒したのに!」
ソウソウの予想外の指示にカンウが反発する。だが、ソウソウは冷静に渡り廊下の端を指差した。
「リュービだ。
見よ、見事にガンリョウ軍を建て直し、まるで自分の部隊のように率いて、こちらに向かってきている。
奴に他のエンショウ軍と合流されれば、今の兵力ではとても防ぎきれん」
カンウの目の前には、まだ戦いを諦めず、攻め寄せる義兄・リュービの姿であった。
そのカンウに、ソウソウは声をかける。
「リュービはリュービの道を歩み始めた。カンウ、お前はどの道を歩む」
「私の道…兄さんの道…」
「兄妹がその道まで一緒に歩む必要はない。
事実、エンショウ軍の参謀ジュンシンはジュンイクの兄だ。兄弟姉妹が別陣営で戦うなんて珍しくもない。
自分の道だ、自分で決めろ」
ソウソウはそれだけ言うと、後ろに振り返り部隊に指示を出した。
「では、全軍撤退!」
「兄さん…私は…」
カンウはリュービに振り返りつつ、ソウソウと共に撤退していった。
「全軍、渡り廊下を抑えよ!」
俺はガンリョウ軍を指揮し、渡り廊下に迫った。だが、渡り廊下にたどり着いた時には既にソウソウ軍は撤退を開始していた。
「リュービさん、ソウソウ軍が逃げます!追いますか!」
「いや、俺たちの役目は渡り廊下の制圧だ。追えば反撃をくらう。カクトたちが合流するまでここを死守せよ!」
ガンリョウ軍は鬨の声をあげ、てきぱきと渡り廊下の守備についていった。
「カンウ…ソウソウ軍にいるなんて…俺が不甲斐なかったばかりに…」
彼女はこの軍団の主、北校舎の最大勢力、エンショウその人である。
「第三渡り廊下が攻略できないのなら、少し離れてますが第二渡り廊下を攻略します。
先陣ガンリョウ、後陣カクト・ジュンウケイ、直ちに攻め落としなさい」
第三渡り廊下は、北校舎と中央校舎を繋ぐ渡り廊下の中で最もエンショウの本拠地から近いところにあったが、そこはソウソウ軍のウキンやソウジンらが固く守っており、攻略は容易ではなかった。
そこでエンショウは、攻撃目標をその東にある第二渡り廊下に移した。
しかし、それに対してウェーブのかかった長い黒髪の女生徒・ソジュが意見を挟む。
「お待ちください。ガンリョウは勇猛ですが、せっかちで慎重さに欠けます。先陣は別の者の方がよろしいかと」
「ソジュ、デンポウの二の舞になりたいの?」
エンショウが冷たく、ソジュを睨み付けた。だが、ソジュも一歩も引かない姿勢であった。
「まあ、いいでしょう。ならばガンリョウに副将をつけます。
リュービ、あなたをガンリョウの補佐とします。共に出陣しなさい」
「わかりました」
早くも俺のエンショウ陣営での最初の戦いとなった。なんとしても手柄を立てなければ。コウソンサン先輩の自由のためにも、俺たちのここでの立場のためにも。
エンショウはソジュに向かって言った。
「ソジュ、今までの功績に免じて今回は目を瞑ります。次からは口を慎みなさい」
「はい…わかりました」
中央校舎・臨時生徒会室~
赤黒い長い髪に、同じ色の瞳、胸元を大きく開け、へそ出しミニスカートとやたら露出の多い中央校舎の雄、ソウソウは対エンショウ戦の準備に頭を悩ましていた。
「では、カコウトン・カコウエン、お前たちに周囲への防衛を任せる」
「後ろのことは俺たちに任せろ」
「私たちがいる限り、決して敵の侵攻を許しはしないわ」
左に黒い眼帯をつけた、ツンツンヘアーにアゴヒゲを生やした男子生徒・カコウトンと、茶髪のショートヘアーに、黒いジャケットにジーパンの女子生徒・カコウエンが力強く答える。
二人はソウソウのイトコで、信任厚い武将だ。本来なら最前線に連れていきたい二人だが、四方を他勢力に囲まれたソウソウは防衛に手を抜くことは出来ない。
「二人とも頼んだぞ。
生徒会にはジュンイクを残す」
「お任せください」
黒髪のショートカットに、小さな丸眼鏡をした、小柄な女生徒・ジュンイクが答える。
彼女はソウソウの参謀筆頭で、生徒会の膨大な仕事と、万が一の時の本拠地の防衛を任せられるのは彼女を置いて他にいなかった。
「後は総力戦といったところか。主力武将及び参謀は対エンショウ戦に投入していこう」
そこへおさげ髪に、メガネの女生徒・ジュンユウが報告に入る。
「ソウソウ様、敵が第二渡り廊下に攻撃、守備隊のリュウエンは中央校舎まで後退したようです」
「すぐに救援に赴かねばリュウエンでは支えきれんな。近くに配置した守備隊のテイイクはどうしている?」
「エンショウ強襲の報に驚き部下が逃亡。残り17名で孤立してるようです」
「それでは一瞬でやられてしまう。テイイクに連絡を入れよう。早く援軍を出さなければ」
ソウソウはすぐにテイイクへ電話をかけた。
「もしもし、テイイクか?
今から第二渡り廊下に救援に行く。お前のところは増援はどのくらい必要だ?」
テイイクはセミロングの茶髪に、高身長の女生徒で、気が強く、どんな相手でも怯まずに持論を述べる人物である。
そのテイイクからの返答は予想外のものであった。
「いえ、その必要には及びません。この人数ならエンショウ軍は相手にせず、素通りするでしょう。しかし、増援がくれば必ずエンショウ軍に攻められ、無駄な損害が出ます。
ソウソウ様は私に構わずリュウエン救援に全力を注いでください」
プッ、ツー、ツー…
「テイイクめ、言うだけ言って切りやがった…さすが、呂布から本拠地を守った女、大した胆だな。
では、急いでリュウエン救援に向かうか」
「それなら、第三渡り廊下のウキン・ガクシンに敵の後方を攻めさせましょう。そうすれば敵包囲網は分散し、その先鋒を虜にできます」
このジュンユウの策はすぐに採用された。
「よし、ではウキン・ガクシンに連絡を入れろ。
そしてリュウエン救援には切り札を使う!」
一方、第二渡り廊下を占拠したエンショウ軍の指揮官たちのもとにソウソウ軍の情報がもたらされていた。
「なにっ、後方からウキン・ガクシンが攻めてきただと!」
開戦当初は幹部の中でも末席にいた茶髪に、金のネックレスをつけた男子生徒・カクトだったが、今や彼はエンショウ本隊の指揮官の一人となっていた。
「カクト様、いかがいたしますか?」
カクトに意見を求めたのはこの軍の先鋒、水色のセミロングの髪に、白いブレザー、右に牛の頭を模した肩鎧をつけた長身の女生徒・ガンリョウであった。
「うーむ、ウキン・ガクシンには俺とジュンウケイで当たる。ガンリョウ、君はこのまま敵を攻撃しろ」
俺にはこの時のカクトの判断が良いとは思えず、たまらず意見した。
「お待ちください。ウキンたちは囮です。ここを手薄にすればソウソウの襲撃を受けます。
ここはリュウエン・テイイクの部隊を捕虜とし、この地を固く守るべきです」
「リュービ君、君は余所者のくせにこの三提督の一人、カクトに意見するのかね?
ソウソウ軍が来る前にウキンを片付ければ問題ない。
それと、テイイクの小部隊なんていてもいなくても同じだ。そんなのは相手にせず、お前はガンリョウに従い、リュウエンを蹴散らせ!
では、行くぞジュンウケイ」
「おう!」
カクトはジュンウケイと共に後陣を率いて、ウキン軍に向かっていった。
「カクトはソウソウの速さを知らない。想像以上に速いぞ、ソウソウは」
そしてガンリョウはそのまま中央校舎への入口へ向けて攻撃を開始した。
「さぁ、あなたたちはリュウエン攻撃に全力を尽くしなさい。
もうあの中央校舎の入口を塞いでいるバリケードも持ちません。休みなく攻撃を続けなさい」
対して攻撃を受けるリュウエンの部隊の防衛は限界が迫っていた。
「リュウエン隊長、もうバリケードが持ちません!」
「仕方がない、ここを放棄する!
皆、一斉に逃げろ!」
ついにリュウエンの防壁は破られ、ガンリョウ軍の侵入を許した。
「バリケードが崩れたわ!さぁ、ソウソウ兵を捕らえなさい!」
ガンリョウの指揮のもと、部隊はリュウエンの部隊に襲いかかった。
その時、女性の声が辺りに響いた。
『 待ちなさい!』
「何?まさかもう援軍が来たの!」
そこに現れたのは腰まで届く長く美しい黒髪に、お嬢様のような雰囲気を漂わせた、長身細身ながら、一際大きな胸が目を引く女生徒だった。
「私はソウソウ軍指揮官・カンウ!」
「カンウ?確かあなたはリュービ軍の…」
「問答無用!」
カンウは一瞬にしてガンリョウとの間合いを詰めると、目にも止まらぬ速さでその襟を掴んだ。
掴まれたガンリョウがその事に気づく時にはもう、彼女の身は宙を舞い、背中に強い衝撃が襲った。ガンリョウは微かに呻き声をあげると、そのまま意識を失った。
「ガンリョウ様が一撃で負けた!」
「カンウ!校内随一の女傑カンウだ!」
「逃げろ!やられるぞ!」
ガンリョウの敗北はその部隊の崩壊を意味した。兵士は取り乱しながら次々と北校舎を目指して遁走し始めた。
「どうした、落ち着け!態勢を整えろ!」
俺の横をすり抜けて、ガンリョウの兵士は逃げ出した。前方で何があったかわからないが、どうやらガンリョウが敗れたようだ。
俺は渡り廊下を進み、そこで“彼女”にあった。
「カンウ!何故、そちらにいる!」
中央校舎の入口に立ちはだかるのは、俺の義妹…だったはずの女性だった。
何故カンウが、ここに…ソウソウの側に立っているんだ。俺の頭は混乱するばかりで全く働かなかった。
「に、兄さん…あなたとは戦いたくありません。退いてください」
「カンウ!手を弛めるな!」
続けて現れたのは逆立った青髪に、鉢金、青い道着姿のソウソウ軍の男性武将・チョーリョーだった。
「チョーリョーまで来たか。全軍撤退!」
俺はガンリョウに代わり部隊に指示を出した。カンウのことは気になるが、カンウ・チョーリョー二将相手に、混乱した部隊ではまず勝ち目がない。今は一旦退かなければ。
「副将にリュービがいたか。だがカンウ、一度戦場に出れば誰が来ようと気を抜いてはいけない」
「すみません…チョーリョーさん」
後ろより今やカンウの大将となった赤黒い髪と瞳の女生徒・ソウソウが現れた。
「カンウ、ソウソウ軍の将としての初陣はどうだ?」
「はい、ソウソウの将としてはまだまだ未熟でした」
「私は私流のやり方でお前を指揮官として育てる。そのつもりでいろ」
「はい」
「では、我らは第二渡り廊下を放棄する。そこに伸びているガンリョウを連れていけ」
「何故ですか、ソウソウさん!何故ここを放棄するのですか!ガンリョウは私が倒したのに!」
ソウソウの予想外の指示にカンウが反発する。だが、ソウソウは冷静に渡り廊下の端を指差した。
「リュービだ。
見よ、見事にガンリョウ軍を建て直し、まるで自分の部隊のように率いて、こちらに向かってきている。
奴に他のエンショウ軍と合流されれば、今の兵力ではとても防ぎきれん」
カンウの目の前には、まだ戦いを諦めず、攻め寄せる義兄・リュービの姿であった。
そのカンウに、ソウソウは声をかける。
「リュービはリュービの道を歩み始めた。カンウ、お前はどの道を歩む」
「私の道…兄さんの道…」
「兄妹がその道まで一緒に歩む必要はない。
事実、エンショウ軍の参謀ジュンシンはジュンイクの兄だ。兄弟姉妹が別陣営で戦うなんて珍しくもない。
自分の道だ、自分で決めろ」
ソウソウはそれだけ言うと、後ろに振り返り部隊に指示を出した。
「では、全軍撤退!」
「兄さん…私は…」
カンウはリュービに振り返りつつ、ソウソウと共に撤退していった。
「全軍、渡り廊下を抑えよ!」
俺はガンリョウ軍を指揮し、渡り廊下に迫った。だが、渡り廊下にたどり着いた時には既にソウソウ軍は撤退を開始していた。
「リュービさん、ソウソウ軍が逃げます!追いますか!」
「いや、俺たちの役目は渡り廊下の制圧だ。追えば反撃をくらう。カクトたちが合流するまでここを死守せよ!」
ガンリョウ軍は鬨の声をあげ、てきぱきと渡り廊下の守備についていった。
「カンウ…ソウソウ軍にいるなんて…俺が不甲斐なかったばかりに…」
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