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第4部 カント決戦編
第48話 壊滅!リュービ軍!
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中央校舎・文芸部~
俺たちリュービ軍はソウソウへの反逆を決め、慌ただしく軍整備を行っていた。
全体の指示を出して回る俺の下へ、くせっ毛の女生徒・ビジクが駆け込んでくる。
「リュービさん、ソウソウ軍がこちらに向かってきてます」
早くもソウソウ軍の襲来。だが、まだ予想の範囲内だ。
「さすがに早いな。指揮をとっているのは誰だ?」
「オウチュウとリュウタイだそうです」
「どちらも一線級の指揮官とは言い難いな。やはりエンショウと対峙しているソウソウはこちらにあまり戦力を割けない」
おそらくソウソウは対エンショウ戦線が崩れない程度の戦力をこちらに投入してくるだろう。だが、この程度の戦力なら俺たちの敵ではない。
主力武将をこちらに投入すれば、ソウソウの防衛ラインは崩れる。しかし、出し惜しみしても俺たちは倒せない上に、いずれ戦力が枯渇し、防衛ラインは崩れる。この戦い、充分勝機はある。
俺は全軍への指示を出す。
「カンウ、君は敵将のゾウハたちの牽制と部室の防衛を頼む。チョーヒは俺と共に出撃だ」
「はい」
「わかったぜ」
「敵兵は私たちよりもかなり多いですが、大丈夫ですか?」
ビジクが心配そうにこちらを見てくる。
だが、ビジクの不安は今の俺にとって大した問題ではない。
「戦いで大事なのは兵の数ではないさ」
「リュウタイ、伏兵だ!我らは罠にかかったようだ!」
「せっかく退院したのに見せ場が全くないなんて!クソ!撤退!撤退!」
オウチュウ・リュウタイの二将は血相変えて逃げ出していった。
「アニキ、敵が逃げて行くけど追わなくていいのかぜ?」
「かまわないさ。俺たちの兵数はソウソウ軍より少ないから、損害は少ないに越したことはない。下手に捕虜にしても収用する教室もないしな」
この戦いでソウソウ軍の二軍相手なら俺の力は充分通用することが証明できた。
これが一軍の将相手ならどうだ?ソウソウ本人には?俺の力はどこまで通用するのだろうか…
対エンショウへの橋頭堡として制圧した合気道部の部室にソウソウはいた。彼女はスマホを周囲にも聞こえるように設定して、ジュンイクからリュービとの戦いの情報を聞いていた。
「リュウタイとオウチュウがもう敗れたか。時間稼ぎにもならんかったな」
「すみません、ソウソウ様。もう少し兵を彼らに割くべきでした。
それと前に言われていた我が陣営の様子ですが、どうやらセツエイという者がリュービの下に逃げ出したようです。取り逃がしてしまい申し訳ありません」
「セツエイ?誰だ?」
「はい、昔、リョフがテニス部を占拠した時に、リョフ側についたテニス部員・セツランの弟です。
セツランが敗れてからはリョフに従っていましたが、リョフが倒された後は、他の元テニス部員と共に我らの陣営に加わっていました」
「ふむ、戦力増強のための積極登用が裏目に出たか。
しかし、リュービめ、私との逢瀬を楽しんでる横で、他の者にも色目を使っておったか。けしからんな」
「冗談を言っている場合ではありません!
まさか、リュービがここまで用意周到だったとは。他にも内通者がいる可能性があります。早急に対策を立てます!」
「いや…やはり、私自らリュービと戦わねばならんようだ」
そのソウソウの発言に傍らで聞いていた金髪ギャルのトウショウが割って入った。
「ソウソウ様、お待ちください!
今、合気道部を押さえたばかりです。エンショウがここを攻めてきたらひとたまりもありません!」
スマホの向こうのジュンイクも声を大にして反対する。
「そうです!確かにリュービは予想以上に要注意人物ではありましたが、我らの最大の敵はあくまでエンショウ!」
だが、ソウソウは強くリュービ討伐を主張する。
「いや、エンショウとリュービ、害の大きさを比べたらリュービの方が上だ」
その時、横で静かに話を聞いていた男装姿の女生徒・カクカが口を開いた。
「リュービを倒すべきです。エンショウは行動が遅い。恐らくこのチャンスを生かしきれないでしょう」
「そうだ、エンショウが攻めてくるより先にリュービを倒して戻ってくれば何も問題はない」
そこへ黒髪ロングにメガネの女生徒・ウキンが手を上げて発言をする。
「ソウソウ様、エンショウを防ぐのでしたらこのウキンにお任せください」
「頼めるか、ウキン?」
「私の部隊にシュレイ、ロショウの部隊を合流させ、ソウソウ軍有数の大部隊にしたのはこの時のためではないのですか。私にお任せください」
「よし、では第三渡り廊下付近の守備はウキンに任せる。合気道部の守備にはソウジン・シカンを残す。全体の采配はカクカ、お前が執れ!」
ソウソウの指示にカクカが代表して答える。
「はっ、わかりました」
「ガクシン・ジョコーは私と共にリュービ討伐についてこい。お前たちを先鋒とする。トウショウ、お前も来い!」
ガクシン・ジョコー・トウショウの三人はソウソウに応じるとすぐに支度を開始した。
「 時間との勝負だ!急ぐぞ!」
中央校舎・文芸部~
俺はソウソウ軍再来襲に備え、考えつく限りの手を打とうと奔走していた。
「よし、ゾウハ一派のショウキが我らに寝返ると約束してくれた。ゾウハと戦っているカンウに連携を取るよう伝えよう」
そこへくせっ毛の女生徒・ビジクが飛んで入ってきた。
「リュービさん、ソウソウ軍です!また攻めて来ました!」
「さすがに早いな。指揮官は誰だ?」
「ガクシン・ジョコーの様です」
ガクシンは初期からソウソウに従う切り込み隊長。ジョコーも勇猛さと慎重さを兼ね備えた武将。共にソウソウ軍の主力武将だ。
「一軍が来たか。上手く足止めすればソウソウ軍はかなりの戦力ダウンだな。
チョーヒ出陣だ!」
「おう、アニキ」
俺はお団子ヘアーの義妹・チョーヒと共に出撃した。チョーヒはその小柄な体からは想像できない程の怪力の持ち主だ。ガクシン・ジョコー相手でも決して負けないだろう。
ソウソウ軍の先頭に立つ白髪ポニーテールの小柄な女生徒がこちらにまっすぐ向かってきた。それをチョーヒが迎え撃つ。
「お前はガクシンだな!
何がソウソウ軍の切り込み隊長だ!オレの方が強いってこと思い知らせてやるぜ!」
「…」
しかし、ガクシンはチョーヒに目もくれず、まっすぐ突き進んでいった。
「な…
この俺様を無視するとはいい度胸じゃねーか!待ちやがれガクシン!」
チョーヒは隊列を離れ、ガクシン部隊を追いかけた。
「待て、チョーヒ!陣形を乱すな!
おかしい…ガクシン・ジョコーの二部隊にしては兵が多い…後方に別部隊がいるのか…まさか…」
俺が敵後方に目を向けると、日の光に照らされて輝く、赤黒い髪の少女がその目に入った。
「あれはソウソウ!」
はっきりとは見えなかったが、俺がソウソウを見間違えるわけがない。
何故、ソウソウがここにいる!エンショウ軍の備えはどうした?エンショウより俺を優先させたというのか…?
俺は…読み負けた…のか…?
俺はソウソウに負けた!
「チョーヒ!どこだ!戻れ!戻れ!」
「リュービさん、 落ち着いてください!どうされたんですか?」
「ビジク、チョーヒに戻る様に伝えろ!カンウにもだ!急げ時間がない!」
ソウソウ率いる主力軍相手では俺たちには勝ち目がない。いや、読み間違えた時点で俺の負けだったんだ。今は頭を切り替えていかに被害を少なくするかを考えるべきだ。
「リュービさん、カンウさんもチョーヒさんもどちらも電話には出ません。恐らく戦闘中かと…」
チョーヒめ、どこまで行ったんだ。カンウも連絡がつかんのか。
「ソウソウが来ている!
メールでいい、すぐに撤退するように伝えろ!」
部隊後方に立つ、赤黒い長い髪の少女・ソウソウはリュービに狙いを定めた。
「全軍、リュービのみに専念せよ!突撃!」
「来たぞ!全軍撤退!合図を送れ!ビジク逃げるぞ!」
俺はビジクの手を掴んだ。
「きゃっ!あ、あのリュービさん…」
「俺が手を引くからビジク、君はカンウ・チョーヒに連絡を送る事に専念してくれ!」
「は、はい、わかりました」
「俺のミスだ…俺はソウソウを甘く見すぎた…カンウ・チョーヒ、頼む逃げ切ってくれ…」
リュービ軍撤退の合図の鉦の音が辺りに響いた。
「撤退合図?どういう事だぜ?アニキはどこに行ったんだぜ?」
ソウソウ軍との本格的な戦闘を前に鳴り響いた撤退の合図に、多少の混乱はあったが、追撃を振り切り、リュービ軍は逃走に成功した。
「私を見るなり文芸部も捨てて一目散に逃亡するとは。文芸部に残っていた部員を除いてほとんど捕虜にできなかったか」
敵司令官・ソウソウはわずかに残った守備隊を破り、文芸部を再び手中に納めた。
新たな文芸部の主となった彼女の前に、文芸部の名ばかり部長・ソウヒョウが連れてこられた。
「お前が今の文芸部の部長だそうだな?」
「そ、そうだ!」
「では、捕虜はお前一人で良い。連れていけ」
「ま、待ってくれ!俺はソウソウ様のために働く!だから…」
ソウヒョウの訴えは聞き流され、彼はソウソウの本拠地へと連行された。
「エンショウとの前線となるこの部にあのような部長を置くわけにはいかん。
チンケイ、お前が文芸部の新たな部長となるか?」
ソウソウは横に控える、茶髪に黒メガネの男子生徒・チンケイに振った。
「いえ、私はもう三年生、残りの期間は部誌の執筆と受験に専念したいと思います」
「そうか。ではトウショウ、お前がここの部長をやれ。
それとチントウ、お前に部隊を与える。ここの防衛を任せる」
「はい、わかりました」
銀髪ショートに三白眼のチンケイの妹・チントウは、ソウソウの指示を受けると、兄チンケイと共にその場から離れた。
「チントウよ、ソウソウは思っていた以上に、我ら兄妹を警戒しているようだ。
私はこれより宣言通り受験に専念し、部活動は最低限度に止める。
チントウ、お前がもし部長職を打診されても決して受けるな。受ければソウソウの敵となるだろう」
「わかりました。兄さん、すみません…こんなことに巻き込んでしまって…」
「気にするな。妹のワガママを聞くのも兄の役目だ」
一方、文芸部の新部長を任された金髪ギャル・トウショウは情報をまとめ、ソウソウの報告を行った。
「ソウソウ様、どうもカンウはまだ、ゾウハたちと戦闘中の様です」
「ほぉ…カンウがまだ残っていたか」
長く美しい黒髪に、お嬢様のような佇まいのリュービのもう一人の義妹・カンウは、ソウソウの配下となった文芸部のゾウハたちを防ぐため、第一渡り廊下付近で戦闘を行っていた。
「おや…ビジクからメール?『ソウソウが来た。撤退せよ』…」
そのため、リュービからの撤退命令を受け取った時には既に手遅れであった。
「大変です!後方よりソウソウ軍がこちらに向かってきています!」
「なんですって!すみません、兄さん…逃げられそうにないです…」
カンウ軍は、元々少ないリュービ軍から更に割いて作られた少数部隊。ソウソウ本隊を迎え撃てる数ではなかった。
「こうなったら血路をこじ開けます!全軍突撃準備!」
その時、ソウソウ軍より一人の声が轟いた。
「待て、早まるなカンウ!」
声の主はソウソウその人であった。ソウソウは単身、カンウの元に赴くとこう告げた。
「あの時、私とリュービに何があったか、知りたくはないか?」
「ソウソウと兄さんに…それは私についてこいという事ですか?」
「ここで無駄な抵抗をするよりは、それが懸命ではないかな?部隊を怪我させるのも忍びなかろう」
ソウソウお得意のニヤリとした顔をカンウに向ける。カンウは逡巡した。知りたくないと言えば嘘になる。だが、知るのが怖いというのも事実であった。彼女はソウソウに答えた。
「………いいでしょう!
兄さんとの件なんて興味はありませんが、あくまでも部隊の安全の為、ここはあなたに投降します…」
「ふふ、そうでなくては…」
俺たちリュービ軍はソウソウへの反逆を決め、慌ただしく軍整備を行っていた。
全体の指示を出して回る俺の下へ、くせっ毛の女生徒・ビジクが駆け込んでくる。
「リュービさん、ソウソウ軍がこちらに向かってきてます」
早くもソウソウ軍の襲来。だが、まだ予想の範囲内だ。
「さすがに早いな。指揮をとっているのは誰だ?」
「オウチュウとリュウタイだそうです」
「どちらも一線級の指揮官とは言い難いな。やはりエンショウと対峙しているソウソウはこちらにあまり戦力を割けない」
おそらくソウソウは対エンショウ戦線が崩れない程度の戦力をこちらに投入してくるだろう。だが、この程度の戦力なら俺たちの敵ではない。
主力武将をこちらに投入すれば、ソウソウの防衛ラインは崩れる。しかし、出し惜しみしても俺たちは倒せない上に、いずれ戦力が枯渇し、防衛ラインは崩れる。この戦い、充分勝機はある。
俺は全軍への指示を出す。
「カンウ、君は敵将のゾウハたちの牽制と部室の防衛を頼む。チョーヒは俺と共に出撃だ」
「はい」
「わかったぜ」
「敵兵は私たちよりもかなり多いですが、大丈夫ですか?」
ビジクが心配そうにこちらを見てくる。
だが、ビジクの不安は今の俺にとって大した問題ではない。
「戦いで大事なのは兵の数ではないさ」
「リュウタイ、伏兵だ!我らは罠にかかったようだ!」
「せっかく退院したのに見せ場が全くないなんて!クソ!撤退!撤退!」
オウチュウ・リュウタイの二将は血相変えて逃げ出していった。
「アニキ、敵が逃げて行くけど追わなくていいのかぜ?」
「かまわないさ。俺たちの兵数はソウソウ軍より少ないから、損害は少ないに越したことはない。下手に捕虜にしても収用する教室もないしな」
この戦いでソウソウ軍の二軍相手なら俺の力は充分通用することが証明できた。
これが一軍の将相手ならどうだ?ソウソウ本人には?俺の力はどこまで通用するのだろうか…
対エンショウへの橋頭堡として制圧した合気道部の部室にソウソウはいた。彼女はスマホを周囲にも聞こえるように設定して、ジュンイクからリュービとの戦いの情報を聞いていた。
「リュウタイとオウチュウがもう敗れたか。時間稼ぎにもならんかったな」
「すみません、ソウソウ様。もう少し兵を彼らに割くべきでした。
それと前に言われていた我が陣営の様子ですが、どうやらセツエイという者がリュービの下に逃げ出したようです。取り逃がしてしまい申し訳ありません」
「セツエイ?誰だ?」
「はい、昔、リョフがテニス部を占拠した時に、リョフ側についたテニス部員・セツランの弟です。
セツランが敗れてからはリョフに従っていましたが、リョフが倒された後は、他の元テニス部員と共に我らの陣営に加わっていました」
「ふむ、戦力増強のための積極登用が裏目に出たか。
しかし、リュービめ、私との逢瀬を楽しんでる横で、他の者にも色目を使っておったか。けしからんな」
「冗談を言っている場合ではありません!
まさか、リュービがここまで用意周到だったとは。他にも内通者がいる可能性があります。早急に対策を立てます!」
「いや…やはり、私自らリュービと戦わねばならんようだ」
そのソウソウの発言に傍らで聞いていた金髪ギャルのトウショウが割って入った。
「ソウソウ様、お待ちください!
今、合気道部を押さえたばかりです。エンショウがここを攻めてきたらひとたまりもありません!」
スマホの向こうのジュンイクも声を大にして反対する。
「そうです!確かにリュービは予想以上に要注意人物ではありましたが、我らの最大の敵はあくまでエンショウ!」
だが、ソウソウは強くリュービ討伐を主張する。
「いや、エンショウとリュービ、害の大きさを比べたらリュービの方が上だ」
その時、横で静かに話を聞いていた男装姿の女生徒・カクカが口を開いた。
「リュービを倒すべきです。エンショウは行動が遅い。恐らくこのチャンスを生かしきれないでしょう」
「そうだ、エンショウが攻めてくるより先にリュービを倒して戻ってくれば何も問題はない」
そこへ黒髪ロングにメガネの女生徒・ウキンが手を上げて発言をする。
「ソウソウ様、エンショウを防ぐのでしたらこのウキンにお任せください」
「頼めるか、ウキン?」
「私の部隊にシュレイ、ロショウの部隊を合流させ、ソウソウ軍有数の大部隊にしたのはこの時のためではないのですか。私にお任せください」
「よし、では第三渡り廊下付近の守備はウキンに任せる。合気道部の守備にはソウジン・シカンを残す。全体の采配はカクカ、お前が執れ!」
ソウソウの指示にカクカが代表して答える。
「はっ、わかりました」
「ガクシン・ジョコーは私と共にリュービ討伐についてこい。お前たちを先鋒とする。トウショウ、お前も来い!」
ガクシン・ジョコー・トウショウの三人はソウソウに応じるとすぐに支度を開始した。
「 時間との勝負だ!急ぐぞ!」
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俺はソウソウ軍再来襲に備え、考えつく限りの手を打とうと奔走していた。
「よし、ゾウハ一派のショウキが我らに寝返ると約束してくれた。ゾウハと戦っているカンウに連携を取るよう伝えよう」
そこへくせっ毛の女生徒・ビジクが飛んで入ってきた。
「リュービさん、ソウソウ軍です!また攻めて来ました!」
「さすがに早いな。指揮官は誰だ?」
「ガクシン・ジョコーの様です」
ガクシンは初期からソウソウに従う切り込み隊長。ジョコーも勇猛さと慎重さを兼ね備えた武将。共にソウソウ軍の主力武将だ。
「一軍が来たか。上手く足止めすればソウソウ軍はかなりの戦力ダウンだな。
チョーヒ出陣だ!」
「おう、アニキ」
俺はお団子ヘアーの義妹・チョーヒと共に出撃した。チョーヒはその小柄な体からは想像できない程の怪力の持ち主だ。ガクシン・ジョコー相手でも決して負けないだろう。
ソウソウ軍の先頭に立つ白髪ポニーテールの小柄な女生徒がこちらにまっすぐ向かってきた。それをチョーヒが迎え撃つ。
「お前はガクシンだな!
何がソウソウ軍の切り込み隊長だ!オレの方が強いってこと思い知らせてやるぜ!」
「…」
しかし、ガクシンはチョーヒに目もくれず、まっすぐ突き進んでいった。
「な…
この俺様を無視するとはいい度胸じゃねーか!待ちやがれガクシン!」
チョーヒは隊列を離れ、ガクシン部隊を追いかけた。
「待て、チョーヒ!陣形を乱すな!
おかしい…ガクシン・ジョコーの二部隊にしては兵が多い…後方に別部隊がいるのか…まさか…」
俺が敵後方に目を向けると、日の光に照らされて輝く、赤黒い髪の少女がその目に入った。
「あれはソウソウ!」
はっきりとは見えなかったが、俺がソウソウを見間違えるわけがない。
何故、ソウソウがここにいる!エンショウ軍の備えはどうした?エンショウより俺を優先させたというのか…?
俺は…読み負けた…のか…?
俺はソウソウに負けた!
「チョーヒ!どこだ!戻れ!戻れ!」
「リュービさん、 落ち着いてください!どうされたんですか?」
「ビジク、チョーヒに戻る様に伝えろ!カンウにもだ!急げ時間がない!」
ソウソウ率いる主力軍相手では俺たちには勝ち目がない。いや、読み間違えた時点で俺の負けだったんだ。今は頭を切り替えていかに被害を少なくするかを考えるべきだ。
「リュービさん、カンウさんもチョーヒさんもどちらも電話には出ません。恐らく戦闘中かと…」
チョーヒめ、どこまで行ったんだ。カンウも連絡がつかんのか。
「ソウソウが来ている!
メールでいい、すぐに撤退するように伝えろ!」
部隊後方に立つ、赤黒い長い髪の少女・ソウソウはリュービに狙いを定めた。
「全軍、リュービのみに専念せよ!突撃!」
「来たぞ!全軍撤退!合図を送れ!ビジク逃げるぞ!」
俺はビジクの手を掴んだ。
「きゃっ!あ、あのリュービさん…」
「俺が手を引くからビジク、君はカンウ・チョーヒに連絡を送る事に専念してくれ!」
「は、はい、わかりました」
「俺のミスだ…俺はソウソウを甘く見すぎた…カンウ・チョーヒ、頼む逃げ切ってくれ…」
リュービ軍撤退の合図の鉦の音が辺りに響いた。
「撤退合図?どういう事だぜ?アニキはどこに行ったんだぜ?」
ソウソウ軍との本格的な戦闘を前に鳴り響いた撤退の合図に、多少の混乱はあったが、追撃を振り切り、リュービ軍は逃走に成功した。
「私を見るなり文芸部も捨てて一目散に逃亡するとは。文芸部に残っていた部員を除いてほとんど捕虜にできなかったか」
敵司令官・ソウソウはわずかに残った守備隊を破り、文芸部を再び手中に納めた。
新たな文芸部の主となった彼女の前に、文芸部の名ばかり部長・ソウヒョウが連れてこられた。
「お前が今の文芸部の部長だそうだな?」
「そ、そうだ!」
「では、捕虜はお前一人で良い。連れていけ」
「ま、待ってくれ!俺はソウソウ様のために働く!だから…」
ソウヒョウの訴えは聞き流され、彼はソウソウの本拠地へと連行された。
「エンショウとの前線となるこの部にあのような部長を置くわけにはいかん。
チンケイ、お前が文芸部の新たな部長となるか?」
ソウソウは横に控える、茶髪に黒メガネの男子生徒・チンケイに振った。
「いえ、私はもう三年生、残りの期間は部誌の執筆と受験に専念したいと思います」
「そうか。ではトウショウ、お前がここの部長をやれ。
それとチントウ、お前に部隊を与える。ここの防衛を任せる」
「はい、わかりました」
銀髪ショートに三白眼のチンケイの妹・チントウは、ソウソウの指示を受けると、兄チンケイと共にその場から離れた。
「チントウよ、ソウソウは思っていた以上に、我ら兄妹を警戒しているようだ。
私はこれより宣言通り受験に専念し、部活動は最低限度に止める。
チントウ、お前がもし部長職を打診されても決して受けるな。受ければソウソウの敵となるだろう」
「わかりました。兄さん、すみません…こんなことに巻き込んでしまって…」
「気にするな。妹のワガママを聞くのも兄の役目だ」
一方、文芸部の新部長を任された金髪ギャル・トウショウは情報をまとめ、ソウソウの報告を行った。
「ソウソウ様、どうもカンウはまだ、ゾウハたちと戦闘中の様です」
「ほぉ…カンウがまだ残っていたか」
長く美しい黒髪に、お嬢様のような佇まいのリュービのもう一人の義妹・カンウは、ソウソウの配下となった文芸部のゾウハたちを防ぐため、第一渡り廊下付近で戦闘を行っていた。
「おや…ビジクからメール?『ソウソウが来た。撤退せよ』…」
そのため、リュービからの撤退命令を受け取った時には既に手遅れであった。
「大変です!後方よりソウソウ軍がこちらに向かってきています!」
「なんですって!すみません、兄さん…逃げられそうにないです…」
カンウ軍は、元々少ないリュービ軍から更に割いて作られた少数部隊。ソウソウ本隊を迎え撃てる数ではなかった。
「こうなったら血路をこじ開けます!全軍突撃準備!」
その時、ソウソウ軍より一人の声が轟いた。
「待て、早まるなカンウ!」
声の主はソウソウその人であった。ソウソウは単身、カンウの元に赴くとこう告げた。
「あの時、私とリュービに何があったか、知りたくはないか?」
「ソウソウと兄さんに…それは私についてこいという事ですか?」
「ここで無駄な抵抗をするよりは、それが懸命ではないかな?部隊を怪我させるのも忍びなかろう」
ソウソウお得意のニヤリとした顔をカンウに向ける。カンウは逡巡した。知りたくないと言えば嘘になる。だが、知るのが怖いというのも事実であった。彼女はソウソウに答えた。
「………いいでしょう!
兄さんとの件なんて興味はありませんが、あくまでも部隊の安全の為、ここはあなたに投降します…」
「ふふ、そうでなくては…」
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