貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅲ.貴方様と私の計略 ~ 婚約者 ~

136.力の差(マルクス視点)

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油断・・・というよりは、力の差を見せつけられた。それが正しいのだろうな



精霊魔族が説明を求める言葉に、頷きを返しながら辺りを見回し顔をしかめる。

───辺境伯の屋敷からは少し距離があるとは言え、誰も気づいていないだと・・・

そして、木にもたれるように気を失っているヘーゼルに気づく。

───命はあるな。魔力適性故に、生き延びているといったところか?

更に視線を巡らせば、ある球体が目に入る。

───あれは、メビウスか?

衣服がボロボロになり、ほぼ何も纏わぬ状態で球体の中に浮いている姿が確認できる。
目をこらせば、致命傷とも思える傷と一度は吹き飛ばされたと思われる手足が修復しているようだった。
一部の骨が見え、其れ等が少しずつ修復されている光景とそれを包み込むように肉が盛られている。

───生きてはいる?

薄くだが、胸が上下しているのが確認できることから、辛うじて生を繋いでいるのだろう。

「メビウス・・・球体の彼は大丈夫なのか・・・?」

思わずそう問いかけていた。
付き合い事態は、さほど長くはない。
しかし、己が主と仰ぐ彼女が信頼する仲間だ。

「生きてはいる」
「傷は残る。たが、元通り動ける程には回復させることはできる。幸い、欠けたものが無かった。それに、魔力が多いことも」

精霊魔族の回答の意味を考える。
ただ、それは己の範疇を超える話であり、全ては理解ができなかった。
ただ、わかったのは、傷は残るものの元通りになると言うことだけ。

「そうか・・・」

そして、俺はなにがあったのかをノヴァと精霊魔族へと説明を始めた。




「あら?楽しそうね・・・」

そんな言葉と共に、奴は現れた。
現魔王の1柱である、魔王ルージュ。
俺とヘーゼル、メビウスは直ぐに臨戦態勢をとった。
辺りには敵意に等しい、禍々しい魔の気が充満していた。
他の表情を盗み見れば、メビウスの表情は若干青ざめていた。
お嬢を背に庇う旦那も厳しい表情をしている。
おそらくお嬢を除く皆が、現状がおもわしくない事を肌で感じているのだろう。

「何故、あなたがここに・・・」

現在の姿のままで、何処まで対抗できるのか。そんな不安を抱えながら、口を開けば魔王はこちらへと意識を向けてきた。

「あら、あたしを知ってるの?」

小さく小首をかしげる姿は、可愛いのかもしれないが俺の趣味ではない。
整った顔立ちではあるが、女性らしらを感じぬそれは、少々滑稽だと感じてしまった。

「あなたは、魔王ルージュ様でしょう・・・」

油断しているつもりは無かった。
むしろ、全神経で警戒していた。
しかし、

「あら。正解よ・・・でも、あなたに用はなくてよ」

その一言と共に、手をはらわれた動きに反応ができなかった。
不自然のない、自然すぎるその動きに気づいたときには、俺は壁に打ち付けられていた。

「がはっ!」

目の前に一瞬光りがちり、意識が遠のきそうになるのを何とか堪えれば、大きな魔力の動きを感じる。

「他も邪魔よ・・・」

魔王の声と共に、高まる魔力。
咄嗟に、できうる限りの力を旦那へと向ける。
お嬢へは、メビウスの力が流れるのを感じていた。
目に見える光景であるにもかかわらず、どこか遠くのような景色の中でヘーゼルが凄い勢いで吹き飛ばされ、木に激突している。
激突した木の1本は、弾け飛び2本目で折れながらも止まった。
メビウスにいたっては、赤に染まり倒れ込んでいた。
俺自身も膨大な魔の気にさらされ、意識を手放しそうなのを必死に耐え、己の治癒を試みる。
何となく、致命傷とも感じる傷を感知したが、気になどしていられない。

「用があるのはそこのちみっこいのだけなんだけど・・・お前はいいわね。ふふ。それが大事なら抵抗しない事ね」

その声と共に、旦那とお嬢が魔力の渦に飲み込まれ、姿を消した。
そして、それを追うように魔王も姿を消していた。

───まだ、大丈夫だ。旦那へと向けた魔力は消えていない。それに、あの力は多分加護だ。誰の加護かはわからないが・・・だから、大丈夫だ

そう、己に言い聞かせながら治癒を続ける。
視界がぼやけ、体力も魔力も底をつきそうなところで、精霊魔族達が現れた。



そして俺は、説明を終える。
彼らのおかげで、傷も癒え旦那へと向けた魔力を探る。

「あれの加護は彼女の想い」
「彼女の想いの強さだ」

精霊魔族のその言葉に、目線で問いかければ答えはノヴァから返ってきた。

「さやかざり。あれは、いにしえのぎしきみたいなもの。おくるもののおもいのつよさがそのまままもりのちからになるんだ」

───古の儀式か。確かに、古くからの風習だった・・・

「でも、かごといえるほどのちからになることは、ほとんどないんだ。でも、かあさまのあれは、とてもきょうりょくなかごになってる。だからたぶん、あくいでもってきずつけることは、むつかしいよ」

「そうか・・・」

ノヴァの言葉に、少しの安堵を感じながら、これからの行動について考える。
ヘーゼルもメビウスも今は動かせない。動けるのは、俺だけだ。

「どうするの」
「どうするんだ」

俺は精霊魔族の問に頷き、1つの結論を導き出す。

「クロービスの所へ行ってくる。どちらにしろ、あちらで動くには後ろ盾がいる」

「クロービス?」
「魔王の1人だな」

精霊魔族とノヴァの姿を順に見ながら、俺は1つの頼みを口にする。

「厚かましいとは思う。だけど、2人を・・・メビウスとヘーゼルを頼んでも良いか?」

魔王を相手にするのであれば、メビウスやヘーゼルを構っている余裕はない。
高位魔族として力と地位があるとは言え、魔王には及ばない。

「ぼくは、かまわないよ?」

「彼女のためだもの」
「言われるまでも無い」

精霊魔族とノヴァは、軽く頷いてくれる。
けれど、信頼の置ける力強さを感じる。
おれは、「ありがとう」と告げ、魔界へと転移を始めた。

───とりあえずは、まずは魔界の部屋へ

精霊魔族とノヴァに見送られながら、魔界へと転移した。
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