貴方様と私の計略

羽柴 玲

文字の大きさ
上 下
130 / 146
Ⅲ.貴方様と私の計略 ~ 婚約者 ~

130.辺境伯の所為

しおりを挟む
全部・・・ユミナ様のせいですわ・・・



馬車が屋敷に着いたことを告げる声が外から聞こえる。
そして、其れが合図だったように、ユミナ様からの長く深い口づけが離れていく。
小さな水音とともに、ユミナ様と私を繋ぐ銀糸が見え、そして切れる。
ぼうっとする思考は其れが何であるかを認識できない。

「あー・・・少しやりすぎてしまったな。ミリィ?」

ユミナ様の言葉に、纏まらない思考のままに彼へと視線を向ける。

「?」

「うん。屋敷に着いたけど、一人で歩けるかい?」

その言葉の意味がわからず、立ち上がろうとすれば、足が立たずストンと再度腰を落としてしまう。
其れを不思議に思っていれば、先程までの記憶と彼に何をされていたかを思い出す。

「なっ・・・え・・・」

自分の頬の火照りを自覚しながらも、何が起きているのかを考える。
ユミナ様から与えられた、長く深い口づけによって、今までに感じた事のない感覚を味わっていたことを思い出す。
頤に触れられていた手はいつの間にか、首と頭を支えるように添えられ、指先が首筋を怪しく動いていた。
もう一方の手は、私を安心させるように優しく私の手を握りしめてくださっていたように思う。
深い口づけによる口腔での接触。それによる水音やもれる・・・

ーーーだめっ!それ以上考えたらだめ・・・むり・・・恥ずかしくて・・・

「うん。さっきまでのミリィも可愛かったけど、真っ赤なミリィも可愛い」

ユミナ様からのその言葉に、これでもかと顔が赤くなっている事を自覚する。

「・・・全部ユミナ様のせいです」

ぼそりとそう言えば、少し嬉しそうな声で笑われてしまう。

「うん。そうだね。ミリィが真っ赤なのも歩けないのも私のせいだね」

そうおっしゃり、立てない私をするりと抱き上げられる。

「恥ずかしければ、寝たふりでもしていればいいよ」

その言葉に、えっ・・・と、戸惑っていれば馬車の扉が開く音がする。
私は慌て、片手で抱き上げている彼の首へと抱きつき、顔を隠すように肩口に埋める。

「あれ?ひーさんどうしたの?」

「ん?疲れたのか眠ってしまったんだ。起こすのも忍びないからこのまま連れて入ろうかなと」

「・・・ふーん?」

「・・・ほどほどにしとけよ」

マルクスとメビウスの言葉の意味はよく分からないけれど、ユミナ様が小さく苦笑されているように感じる。


ーーーそれにしても、ユミナ様は細身なのに力持ちですわね。私はそう軽くもありませんのに、片手で幼子を抱くように抱えられてしまっていますわ

「おかえりなさいませ。旦那様・・・そちらは、お嬢様ですか?」

扉を開く音と共に、ハレスさんのそんな声が聞こえてくる。

「ああ」

「どうかされたのですか?お怪我でも・・・」

「いや。眠っているだけだ。先にミリィを部屋につれていくが、テスタメント侯爵家へ抗議文を出す。その準備をしておいてくれ」

「かしこまりました」

ハレスさんとユミナ様のそんなやりとりを聞き、しばらくすれば扉を開かれる音がする。

「ミリィ。直ぐにメルが来ると思うけど、下ろすのはソファでいいかい?」

ユミナ様の言葉に小さく頷けば、そっとソファへと下ろしてくださる。

「私は仕事があるから行くけど、ゆっくりしてて。これからの事は夕食の後にでも話そう」

「はい」

顔の火照りも大分落ち着いてきてはいるが、ユミナ様の顔を見るのは恥ずかしい。そんな思いから、俯いたまま小さく頷けば笑われた気配を感じる。
そして、ふっと影さしたかと思うと耳元で囁かれた。

「さっきのミリィも可愛かったからまた見せてね」

その言葉に驚いて思わず顔を上げれば、優しい顔をされたユミナ様が直ぐ近くにあって・・・
思わず戸惑う私に、触れるだけの口づけを落とされて・・・

「じゃあ、夕食の時にね」

その言葉と共に去られていきました。
残された私は、真っ赤な顔をしたまま暫く固まっていました。

暫くして部屋を訪れた、メルに心配され、ふわっと事情を話せば苦笑を返されてしまった。

「お嬢様。辺境伯様もご健全な男の方です。だいぶ手加減はして下さっていると思いますよ」

更に少し困った人ですね。というような雰囲気でそんなことを言われてしまう。
そして、何故かその横でノヴァがコクコクと頷いていました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「白い契約書:愛なき結婚に花を」

ゆる
恋愛
公爵家の若き夫人となったクラリティは、形式的な結婚に縛られながらも、公爵ガルフストリームと共に領地の危機に立ち向かう。次第に信頼を築き、本物の夫婦として歩み始める二人。困難を乗り越えた先に待つのは、公爵領の未来と二人の絆を結ぶ新たな始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...