貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅲ.貴方様と私の計略 ~ 婚約者 ~

126.侯爵令嬢の自覚無き行い

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苦手…と言うよりも、知らないのかもしれませんわね。



私は、ユミナ様と庭園でお茶の時間を楽しんでいました。
暖かな日差しが花々を揺らし、優しく穏やかな時間が流れていました。
今日は、ユミナ様と久しぶりのデートなのですわ。ユミナ様のお仕事が一区切りつき、少し落ち着けるそうおっしゃって、デートに誘ってくださったのです。
シュトラウス領の小さな町にある庭園の花が綺麗に咲いているから見に行かないかと誘ってくださいました。
私は、二つ返事で了承し、今に至りますの。公共の場で人の眼があるためか、ユミナ様は適度な距離を保って私と接してくださっています。ですから、私も少しだけ余裕をもってこのデートを楽しめています。

「お、お客様。お待ちください。そちらは、本日領主様が貸し切られて…」

「知っていましてよ。ですから、こちらに来たのですもの」

穏やかな時間が流れていた空間に、前触れもなくそんな声が飛び込んできましたの。

―――何事ですの?

私とユミナ様は、声のする庭園の入り口へと視線を向け、そこである人を見つけました。

「…マグノリア様」

そう。そこには、深紅のドレスに身を包んだマグノリア様がいらっしゃいました。
何やら物騒な表情をされて、こちらへと歩いてっこられているようです。

―――どうされたのかしら?

「ごきげんよう。シュトラウス辺境伯様」

マグノリア様は私の存在を無視され、ユミナ様へと声をかけている。
その時、微かに香る香りに覚えがあるようで…

「?!マルクスっ」

私は、恥や外聞等気にするなく、慌ててマルクスへと声をかける。
今日の護衛としてついていた、マルクスとメビウスが私の声とほぼ同時に動いていました。
私とユミナ様へと魔力を帯びた障壁を構築しているようです。
先ほど感じた香りを感じなくなりましたもの。

―――二人が気づいてくれてよかったわ。これは、あの秘薬の香りですもの。でも、どうしてマグノリア様からこの香りが?

「テスタメント嬢。少々不躾ではないか?今日は、私がここを貸し切っていたはずだが?」

ユミナ様は私の慌てた姿を見ることもなく、マグノリア様だけを見つめているようです。
ですが、一瞬私へと視線だけを向け、頷いてくださっている様に見えました。
私は、慌てて立ち上がってしまっていたのを何事もなかったように座りましたわ。
ユミナ様の後ろにはマルクスが、私の後ろにはメビウスがわからない程度ですけれど、厳しい表情で立っています。

「申し訳ありません。ただ、小耳にはさんだことがございまして…早急にお耳に入れなければと」

マグノリア様は、口元を扇で隠してはいますけれど、目が意地悪そうに笑っているいます。恐らくですけれど、口元も意地悪そうに弧を描いているのでしょう。

「そこにいらっしゃる、ミリュエラ様とその後ろに控えている方が謀反を考えていると。そう小耳にはさみましたの」

彼女は、私の方を見下したように見つめながら、楽しそうな声音で話されています。

―――そういう話をする場合は、もう少し神妙な声で話すものでしてよ?

「私の伝手で、王都で情報を収集しましたところ、王に奏上もされているようでしたから、信ぴょう性があると思いません?」

マグノリア様は可愛らしく小首を傾げられています。けれど…

―――何故かしら?こう…胸のあたりがもやっとしてイラっとしますわ

少しだけ己の内へと思考を向けていた私の反応が気に入らなかったのか、マグノリア様は少々苛立たし気にユミナ様へ話かけています。

「これは、辺境伯として問題ではございませんの?」

―――なんとなくですけれど…弟君との婚約を破棄されたことを恨んでいらっしゃるのかしら?

「はぁ。不躾にもほどがあるな。これがテスタメント家の品と言うやつなのか?」

重いため息と共に、ユミナ様がそんなことをおっしゃれば、マグノリア様の顔が種に染まりました。

―――ストレートな言葉であれば、馬鹿にされたことは、お分かりになるのね。

ユミナ様は、再三『不躾にもほどがある』とおっしゃっていました。これは、言葉の通りの意味ともう一つ意味があるのですわ。
お前の家は礼儀を教えていないのか。そう、暗に非難し、馬鹿にしているのです。
マグノリア様はそれにお気づきのようではございませんでした。

―――社交の場に初めて出る令嬢でももう少し、駆け引きができると思うのですけれど…苦手…いえ、どちらかと言えばご存じないのかしら?

「それに、古い話を持ってきたものだね。それについては、解決しているはずだが?」

ユミナ様は少々うんざりしたように、眉間に皺をよせていらっしゃいます。

―――そうなのよね。何故今頃その話題を?と言う感じだわ

私がまだ王都に居た頃。ユミナ様と婚約をする前。確かに私は、謀反の疑いを奏上されている。
ユミナ様も王家も私を疑いはしませんでしたけれど、貴族の中には信じられた方もいらっしゃいましたわ。
でも、それもお爺様やクルツ、ユミナ様が言いがかりであり、そんな事実がないことを反論の証拠と共に議会へ提出し、王家も議会もそれを承認しています。
ですから、私の謀反の疑いははれているはずなのです。また、新たな火種が奏上されていれば別ですけれど、お爺様からもクルツからもそんな連絡はありませんし、ユミナ様もご存じない様子。
メビウスについては、古の血約もありますし、私に不利になることはしないでしょう。

「何をおっしゃっていますの?そのような疑いをかけられるような令嬢なのですよ?辺境伯家には相応しくありませんわ」

マグノリア様は自身ありげに、断言されています。けれど…

―――マグノリア様の言い分もわからなくはないですけれど、それを決めるのはあなたではないわ。辺境伯であるユミナ様や王家の方々が決めること。テスタメント侯爵家が越権行為をしたと奏上されてもおかしくありませんわ。

普通の貴族への越権行為であれば、それほど厳しく罰せられることはないけれど、辺境伯への越権行為はその限りではありませんの。
辺境伯は王による指名制。手柄により与えられたり、血筋によって受け継がれる爵位ではない。
ですから、辺境伯への越権行為は間接的に王への越権行為とみなされることがあるのですわ。
そう見なされれば、重い処罰を受けることになります。一番軽いもので爵位のはく奪。重いものでは処刑も過去にはあったと記憶しています。

「テスタメント嬢。君のその発言は、辺境伯への越権行為ととらえられるが、それを認識しているか?」

「何をおっしゃっていますの?私は事実を申し上げただけです」

マグノリア様の返答にユミナ様は、あからさまに顔をしかめられました。
それもそうでしょう。彼女は、越権行為をしている認識なく、それを行っているのですもの。
これは、彼女自身の問題だけではなく、テスタメント侯爵家の問題になっていることを認識していない。
教育がなっていない。馬鹿である。それ以上の問題だというのに。

―――確か、現在のテスタメント侯爵はマグノリア様のお兄様だったはず。あまりいい噂は聞かないけれど、何とか侯爵家としての体面を保っているといった感じだったともうのですけれど。

「そうか。君の話は分かった。これは、辺境伯としてテスタメント侯爵家へと抗議させてもらう。そちらの令嬢が辺境伯への越権行為をはたらいたと。本来であれば、王家へと奏上をするところだが、年若い令嬢のしでかしたことだ。一度目は目をつむろう」

ユミナ様は、穏やかでありながら恐ろしさを含む声音でそうおっしゃられています。そして、シュトラウス家の騎士として警護にあたっていたものに、マグノリア様のお帰り頂くように指示をしていらっしゃいます。

「なっ!?なんで、そうなりますの!私は、何もしていませんわ」

マグノリア様がヒステリックにそう叫んでいましたけれど、指示された騎士は問答無用で庭園から追い出していましたわ。

―――爵位こそテスタメント侯爵の方が高いが、王家の信頼と忠誠はシュトラウス辺境伯爵の方が高いですものね。多分、奏上されたらテスタメント侯爵家に勝ち目はないですわ。

「さて、何があったか話してもらえるかい?」

マグノリア様の姿が庭園から消えるのを確認し、ユミナ様が私へと向き直り問いかけてこられました。
私は頷き返しながら、どう伝えるべきか少しだけ思案し、ゆっくりと口を開いたのですわ。
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