貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅱ.貴方様と私の計略 ~ 旅路 ~

118.侯爵令嬢、辺境伯領へ③

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こんなところにも、あの方の影響が出ていましたのね…困ったものですわ。



私が部屋でくつろいでいれば、メルとマルクスが部屋へと帰ってきましたわ。

「おかえりなさい」

そう声をかければ、2人は小さく笑みを返してくれる。

「ただいま戻りました」

「ん」

前者がメルで、後者がマルクスの返答ですわ。マルクスは、片手を挙げていました。

「このお屋敷で働くのは問題なさそう?」

私の問いに、メルが眉根を寄せ、マルクスが小さく笑ったような気配を感じる。

―――え。なんなんですの?

その態度に困惑していれば、メルが説明をしてくれました。

「いえ。私たちが働く環境としては、よい環境ですよ。使用人の方々は、きちんと統制がとれておりますし、良い方ばかりだと思います」

メルの説明からは、先ほどの表情になった理由がわかりません。わかったのは、メル達が働く環境として悪くはないという事だけです。

「それは良かったですわ。でも、それでしたら先ほどはなんであんな表情をしたのですか?」

そう問えば、メルが少しだけ言いよどんでいるようですわね。何かあるのかしら?

「俺たちは問題ないんだけどな、お嬢の環境としてはちょっと微妙な感じっぽいぜ?」

「私ですの?」

「ええ。以前こちらにいらした令嬢のせいで、お嬢様が勘違いされているといいますか…」

メルが言いにくそうにそう付け足してきましたけれど、意味が分かりませんわ。

「どういうことですの?」

そう問えば、メルが少し迷いながらも説明してくれましたわ。
メルの話は、こんな話でしたけれど、こんなところであの方が出てくることに少し驚きましたわ。

なんでも、数年前にある令嬢がこのお屋敷に住んでいた時期があったそうです。
まぁ、テスタメント家のご令嬢、マグノリア様なのですけれど。
お屋敷に住んでいた理由としては、マグノリア様のお兄様がお家を継ぐと共に、王都での勤務になったそうです。
それまでは、シュトラウス領の隣の小さな領土を管理されていたそうなのですが、王家へとそれを返上したようです。
理由は、わかりませんけれど現在は、シュトラウス家の領土になっているようですわ。
それで、マグノリア様はユミナ様の弟君と婚約されていましたし、婚約期間もそれなりに長くなっていましたから婚姻を視野に入れて、シュトラウス家のお屋敷にご厄介になっていたのですって。
その際に、かなりわがまま放題にふるまっていたそうです。
使用人には横柄にふるまい、己の欲望のままに振舞っていたようですわ。
そのせいで、使用人には嫌われていったよう。
ある出来事で、婚約が解消されて使用人一同、胸をなでおろしたのだとか。
そんなことのあった後に、マグノリア様と同じ侯爵家の私がお屋敷に来たことで、戦々恐々している。

そういう話でしたわ。なんといっていいかわかりませんけれど、マグノリア様は思ったよりも困った方なのでしょう。
同じ侯爵家と言えど、テイラー家とテスタメント家は交流がありませんから、知りませんでしたわ。
社交の場でも、話したことはほとんどありませんわね。…実は、避けられていたのかしら?

「そう…。マグノリア様には困ったものね。まぁ、なるようになるでしょう。私は、私らしくいるだけだわ」

そう言えば皆が静かにうなずきを返してくれる。私は、周りの者に恵まれているわね。
少しだけしんみりしていれば、部屋の扉が開け放たれる。
私以外が素早く動き、私をかばうように動いていましたわ。
私は部屋の入り口へと視線を向ければ、そこにはノヴァが慌てたように駆け込んでくるところでした。

「おかあさんいたっ!」

そう言いながら、ノヴァが私に思い切り抱き着いてきます。私は何とか受け止めましたが、少し痛かったですわ。
皆は、侵入者がノヴァだと分かった時点で、警戒を解いていたようです。


「ノヴァ、どうしたのですか?」

そう問いかけると同時に、慌てたようにハレスさんが現れました。

「申し訳ございません。テイラー様」

彼は、丁寧に頭を下げてきました。

「別にかまいません。何かあったのですか?」

私は、ノヴァに問いかけた意味と大差のない意味の問いかけをハレスさんへする。

「いえ。ノヴァ様を屋敷の者へ紹介していましたら、少々可愛さに興奮したものが現れまして…」

そう、言いにくそうに彼が返答をよこしてくる。

―――可愛さに興奮?…何か、危ない嗜好の方でもいらっしゃるのかしら?

「あのね。べつに、ぼくになにかしようってわけじゃないとおもうんだけど、ちょっとこわくなってしまったの。ごめんなさい」

私は、ノヴァの話を聞きながら頭を撫でてやる。少しでも、落ち着いてくれたらよいのですけれど。

「そうなのですね。…ハレスさん。そういうことらしいので、注意してあげてくれますか?」

ノヴァの頭を撫でながら、ハレスさんへそう問いかえれば、少しだけ驚かれているようでしたわ。

「あっ…はい。ええ。それは、注意させていただきます」

「ありがとう。ノヴァ、これで大丈夫かしら?」

「うんっ!ありがとう」

私は、ハレスさんへのお礼を口にした後、ノヴァへと話かける。
そうすれば、ノヴァが私の真似をするように、ありがとうとお礼を言ってくれましたわ。
私とノヴァは、お互いの眼を合わせれば、ノヴァがふふっと楽しそうに笑っている。私も、内心で微笑んでいますわ。

―――ノヴァが可愛いですわ。

私とノヴァは、夕食までの時間をほのぼのと過ごしたのですわ。
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