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Ⅱ.貴方様と私の計略 ~ 旅路 ~
117.侯爵令嬢、辺境伯領へ②
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…何かしら。ちょっとした違和感を感じるわ。それが、何かわからないけれど。
「…さま。お…嬢…。お嬢様!」
メルの困惑しきった声にハッと意識を覚醒させる。
あら?馬車が止まっている?
「…メル。既に辺境伯邸へ到着してしまったかしら」
内心冷や汗をかきながら、私はとりあえず現状を確認する。
「いえ。お嬢様が起きないので、辺境伯邸にほど近い場所で、一度止まっていただいています」
メルがそう言いながら、御者へと進んで問題ないと伝えているようですわ。
「ありがとう。…油断していたわ」
私の言葉に、メルが席に戻りながら苦笑を漏らしている。
「仕方ありません。体調も崩されていましたし、それに長旅でしたから」
メルがそう言いながら、席に着きほどなくして再度馬車が動き出す気配を感じる。
私が乗っているのは、侯爵家のそれも一番上等な馬車ですから、乗り心地は悪くありません。
揺れはそれ程感じませんし、座席のクッションもふかふかで、お尻が痛くなるようなこともありません。
けれど、やっぱりずっと馬車の中にいるというのも、精神的にも肉体的にも負荷がかかってきているようですわ。
「そう…ね。でも、この旅路で私の体力がそんなにないことをまじまじと感じましたわ」
「お嬢様は、普通の令嬢とそれほど変わらないと思いますよ。むしろ、少しばかり忍耐はある方だと思います。
普通の令嬢方は、もっと休ませろだのなんだのともっといろいろおっしゃるものです」
メルとそんな他愛のない会話をしていれば、馬車が止まる気配を感じます。
外を見れば、簡素ながら門を通過し塀の中へと入っていくところでした。そして、それほど立たぬうちに再度馬車が止まりましたわ。
「メル…変なところはないかしら?大丈夫?」
「ええ。大丈夫でございますよ。旅の後ですから、多少は陰りが見えますが、普段のお嬢様と大差はございません」
そのメルの言葉に、内心苦笑を漏らす。
―――私、そんなに心配そうだったのかしら
そうこうしている内に、馬車の扉が開かれ小さく声をかけられる。
「ひーさん。降りれるかい?」
メビウスの言葉に、メルが返事を返し私は彼の手を借り、馬車の外へと出る。
降りるために俯いていた顔を上げれば、固い表情をしたシュトラウス家の家令たちが目に入る。
―――私は、歓迎されていない?いいえ、何か不安な事でもあるのかしら
「おかえりなさいませ。旦那様。そして、ようこそお越しくださいました、テイラー様」
家令の代表だと思われる一番年かさな男性が、ユミナ様と私へと声をかけてくださいました。
「ああ。今帰った。ハレス。何か問題は…っと」
そこまで、言ってユミナ様は思い出されたかの様に、くるりと向きを変え私へと向き直られました。
「ミリィ。ようこそ、シュトラウス邸へ」
「ありがとうございます。ユミナ様。お世話になります。皆さんも、よろしくお願いしますわ」
私は、まずはユミナ様へ。そして、シュトラウス家の使用人の皆様へ挨拶をします。
令嬢としては、少々褒められたことではないけれど、笑顔を向けることをができない私は、小さくぺこりと頭を下げる。
それは、ほんの小さなものでしたけれど、使用人の皆さまは驚かれているようでしたわ。
「ミリィ。疲れただろう。今晩は軽い食事を準備させるから、それまで部屋でゆっくり休んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
ユミナ様へとお礼を返せば、メイドの一人へと私の案内を頼んでいるようでした。
「私は少し仕事をしてくるよ。また、夕食のときに」
そう言い残し、ユミナ様はハレスと呼ばれた家令と何故かノヴァを連れ、屋敷へと入っていかれました。
それを見届けていれば、私の前に1人のメイドがやってきました。年齢は、ユミナ様と同じくらいかしら?もう少し上?
「ようこそおいでくださいました。テイラー様。私は、メイド長を務めております、シュナと申します。お部屋へご案内させていただきます。」
「ありがとう。シュナさん。私のことは、テイラー様でなくても、呼びやすい呼び方でかまわないわ。私は、侯爵家令嬢としてではなく、ここにはユミナ様の婚約者として来ていますから。これから、お願いしますね」
私の言葉に、シュナさんは驚かれたような表情で、ぎこちなく頷きを返してくださいました。
それから、私を先導するように屋敷へと導いてくださいます。
―――私、何かおかしな態度取ったかしら
そう思い、控えているメルに目線で尋ねれば、横に首を振られた。
そうよね。令嬢としてそれほどおかしな行動をとったわけではないはず。
最初に頭を下げるのは、賛否分かれる行動だけれど、おかしなわけではない。お世話にまるのだから、礼儀は必要だわ。
―――それにしても、何かしら?
屋敷に入り、部屋へと案内される間、ちょっとした違和感に襲われた。
何に対して違和感を感じているかを突き止める前に、私が滞在する部屋へと案内され部屋へと入る。
シュナさんは、何かあればお呼びください。と言いおき、下がっていく。
そして、私は感じていた違和感から解放された。理由はわからないけれど、何か変な感じがしたのよね。
なんだったのかしら…
私は、そう思いながら部屋のソファへと腰を下ろす。
少し固めなそれに、腰を落ち着ければ、無意識に気を張っていたのだと自覚させられた。
今、部屋にはヘーゼルとメビウスがいる。メルとマルクスは、今はいない。
少しばかり使用人の方々にご挨拶してきます。そう言って、メルがマルクスを引きずるように出ていった。
お茶の準備は、しっかりしてくれたけれど。
備え付けの茶器で持ってきたお茶を入れ、持ってきた口になじんだお菓子を添えてくれた。
私は、メルのその心遣いに感謝をしつつ、お茶をのみお菓子を口にした。
「…さま。お…嬢…。お嬢様!」
メルの困惑しきった声にハッと意識を覚醒させる。
あら?馬車が止まっている?
「…メル。既に辺境伯邸へ到着してしまったかしら」
内心冷や汗をかきながら、私はとりあえず現状を確認する。
「いえ。お嬢様が起きないので、辺境伯邸にほど近い場所で、一度止まっていただいています」
メルがそう言いながら、御者へと進んで問題ないと伝えているようですわ。
「ありがとう。…油断していたわ」
私の言葉に、メルが席に戻りながら苦笑を漏らしている。
「仕方ありません。体調も崩されていましたし、それに長旅でしたから」
メルがそう言いながら、席に着きほどなくして再度馬車が動き出す気配を感じる。
私が乗っているのは、侯爵家のそれも一番上等な馬車ですから、乗り心地は悪くありません。
揺れはそれ程感じませんし、座席のクッションもふかふかで、お尻が痛くなるようなこともありません。
けれど、やっぱりずっと馬車の中にいるというのも、精神的にも肉体的にも負荷がかかってきているようですわ。
「そう…ね。でも、この旅路で私の体力がそんなにないことをまじまじと感じましたわ」
「お嬢様は、普通の令嬢とそれほど変わらないと思いますよ。むしろ、少しばかり忍耐はある方だと思います。
普通の令嬢方は、もっと休ませろだのなんだのともっといろいろおっしゃるものです」
メルとそんな他愛のない会話をしていれば、馬車が止まる気配を感じます。
外を見れば、簡素ながら門を通過し塀の中へと入っていくところでした。そして、それほど立たぬうちに再度馬車が止まりましたわ。
「メル…変なところはないかしら?大丈夫?」
「ええ。大丈夫でございますよ。旅の後ですから、多少は陰りが見えますが、普段のお嬢様と大差はございません」
そのメルの言葉に、内心苦笑を漏らす。
―――私、そんなに心配そうだったのかしら
そうこうしている内に、馬車の扉が開かれ小さく声をかけられる。
「ひーさん。降りれるかい?」
メビウスの言葉に、メルが返事を返し私は彼の手を借り、馬車の外へと出る。
降りるために俯いていた顔を上げれば、固い表情をしたシュトラウス家の家令たちが目に入る。
―――私は、歓迎されていない?いいえ、何か不安な事でもあるのかしら
「おかえりなさいませ。旦那様。そして、ようこそお越しくださいました、テイラー様」
家令の代表だと思われる一番年かさな男性が、ユミナ様と私へと声をかけてくださいました。
「ああ。今帰った。ハレス。何か問題は…っと」
そこまで、言ってユミナ様は思い出されたかの様に、くるりと向きを変え私へと向き直られました。
「ミリィ。ようこそ、シュトラウス邸へ」
「ありがとうございます。ユミナ様。お世話になります。皆さんも、よろしくお願いしますわ」
私は、まずはユミナ様へ。そして、シュトラウス家の使用人の皆様へ挨拶をします。
令嬢としては、少々褒められたことではないけれど、笑顔を向けることをができない私は、小さくぺこりと頭を下げる。
それは、ほんの小さなものでしたけれど、使用人の皆さまは驚かれているようでしたわ。
「ミリィ。疲れただろう。今晩は軽い食事を準備させるから、それまで部屋でゆっくり休んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
ユミナ様へとお礼を返せば、メイドの一人へと私の案内を頼んでいるようでした。
「私は少し仕事をしてくるよ。また、夕食のときに」
そう言い残し、ユミナ様はハレスと呼ばれた家令と何故かノヴァを連れ、屋敷へと入っていかれました。
それを見届けていれば、私の前に1人のメイドがやってきました。年齢は、ユミナ様と同じくらいかしら?もう少し上?
「ようこそおいでくださいました。テイラー様。私は、メイド長を務めております、シュナと申します。お部屋へご案内させていただきます。」
「ありがとう。シュナさん。私のことは、テイラー様でなくても、呼びやすい呼び方でかまわないわ。私は、侯爵家令嬢としてではなく、ここにはユミナ様の婚約者として来ていますから。これから、お願いしますね」
私の言葉に、シュナさんは驚かれたような表情で、ぎこちなく頷きを返してくださいました。
それから、私を先導するように屋敷へと導いてくださいます。
―――私、何かおかしな態度取ったかしら
そう思い、控えているメルに目線で尋ねれば、横に首を振られた。
そうよね。令嬢としてそれほどおかしな行動をとったわけではないはず。
最初に頭を下げるのは、賛否分かれる行動だけれど、おかしなわけではない。お世話にまるのだから、礼儀は必要だわ。
―――それにしても、何かしら?
屋敷に入り、部屋へと案内される間、ちょっとした違和感に襲われた。
何に対して違和感を感じているかを突き止める前に、私が滞在する部屋へと案内され部屋へと入る。
シュナさんは、何かあればお呼びください。と言いおき、下がっていく。
そして、私は感じていた違和感から解放された。理由はわからないけれど、何か変な感じがしたのよね。
なんだったのかしら…
私は、そう思いながら部屋のソファへと腰を下ろす。
少し固めなそれに、腰を落ち着ければ、無意識に気を張っていたのだと自覚させられた。
今、部屋にはヘーゼルとメビウスがいる。メルとマルクスは、今はいない。
少しばかり使用人の方々にご挨拶してきます。そう言って、メルがマルクスを引きずるように出ていった。
お茶の準備は、しっかりしてくれたけれど。
備え付けの茶器で持ってきたお茶を入れ、持ってきた口になじんだお菓子を添えてくれた。
私は、メルのその心遣いに感謝をしつつ、お茶をのみお菓子を口にした。
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