114 / 146
Ⅱ.貴方様と私の計略 ~ 旅路 ~
114.竜の社の過去(ユミナ視点)
しおりを挟む
さて、どうしたものか。
しばらくして、ミリィの目元から手を離せば、小さな寝息が聞こえてきた。
どうやら、眠ってくれたらしい。体力的に、疲れていないわけはないはずなんだ。
ちょっとした休憩は挟むものの、ほぼ一日馬車で移動していた。そこに来て、竜の社での事件だ。
通常の貴族令嬢からすれば、体力はあるのだろうがそれでも、疲れは蓄積されていたのだろう。
恥じらい、恥ずかしそうにしてはいたものの、寝るまでの時間はそう長くはなかった。
私は、静かに椅子から立ち上がり、控えているメルへと声をかける。
「ミリィを頼む」
彼女がうなずくの確認し、私は部屋を出る。向かいの壁に寄り掛かるように、ヘーゼルが立っていた。
「寝たのか…」
「ああ。他はもう集まっているのか?」
私の言葉に頷きを返し、目線で隣の部屋を指し示している。
どうやら、そこに皆が集まっているらしい。竜の社で起こったことやノヴァの事。話さなければならぬことは多くある。
私は隣の部屋への扉へと向かい、中へと入る。
「旦那様、こちらへ」
我が家の家令が、空いた椅子を指し示している。
私は迷うことなくそこへと向かい、腰をかける。
「待たせたか?」
「いや。お嬢はかわりない?」
マルクスのその問に頷きを返しながら、部屋にいる面々を順にみる。
入り口の扉の側には、ヘーゼルとメビウスが。窓の側には、マルクスが陣取っている。
シュトラウス家の家令は、私の側に立っている。そして、私の正面にはノヴァがおとなしく座っていた。
「さて。とりあえず、現状を確認しようか。私たちが出かけてから、帰ってくるまでに3日経過しているのは間違いないのか」
「ああ。自分とメル、そして、そこの家令殿が証明できる」
「はい。ヘーゼル殿のおっしゃる通り、旦那様方は3日ほどお帰りになりませんでした」
俄かには信じ難いが、彼らが嘘をつく理由はないのだから、事実なのだろう。
「ミリィは、石像に触り転移させられた後、石でできた部屋で目を覚ましたと言っていた。そこにも、天竜と水竜の石像があり、台座に埋め込まれていた壁画を読み解き、その通りに石像へと触れることで、通路が出現したと言っている。
そして、水竜の元へとたどり着いたのだと。魔力の供給を願われそれに答えた。そのあとすぐ、私たちと合流したようだ。体感的には一刻にも満たないほどだと言っていた」
「ひーさんと俺たちとでは、だいぶ時間の感覚が違う気がするな」
メビウスのその言葉に頷きを返しながら、マルクスとヘーゼルへと問う。
「マルクスとメビウスは私と別れてからはどうだったんだ」
「俺たちは、旦那と別れた後は、竜たちの試練とも言えるものをこなしていた。
魔力の質や流れなどを試されていたように感じたが詳細は不明。
かなりの量をこなしていたし、数刻ほどはたっていたと思う」
「俺もそれぐらいかと。数刻後に辺境伯と合流できたと思っている」
マルクスとヘーゼルの言葉を聞きながら、眉間に皺が寄っていくのを自覚する。
「私の体感で言えば、半刻もたたぬうちに合流できた認識だった。天竜と会話を初めて、それほど立っていなかったからな。なんとも不思議なことだ」
「あの…」
そこまで話たところで、ノヴァから遠慮がちな声がかけられる。
「どうした?」
「あのですね。りゅうのやしろ?って、ぼくたちがいたところですよね?」
ノヴァのその言葉に、私たちは顔を見合わせ代表して返答する。
「そうだ。ノヴァや天竜達がいたところだ」
「あそこは、たぶんなんですけど、じかんのかごがはたらいているんだとおもいます」
「時間の加護…カイロス…いや、クロノスか?」
ノヴァの言葉にマルクスが、何か知っているのか考えこんでいるようだ。
私には、どちらも知識として保持していない。恐らく、魔力や古の力に関するものなのだろう。
「うん。せいかくには、えっと…くろのすしんのかごをうけた、こりゅうのかごだけど」
ノヴァは、舌足らずな言葉で、一生懸命に説明をしている。
なんでも、あの竜の社は、クロノス神の加護を受けた、古竜による力が働いているらしい。
―――さっぱり、わからないな。古竜は古の時代の竜なのだろうという事ぐらいしか、理解できない
「古の時代にクロノスの加護を受けた、竜があの社に加護を与えたということか?」
「そうだよ。なんだったかな。もともとあのやしろは、ひととりゅうがきょうぞんするためのものだったかな?
よくわからないのだけど、あそこではひとが、りゅうとおなじときをすごせていたんだって」
マルクスとノヴァによる、意見交換というか知識交換が行われている。
私も含め、彼らの言葉に口を挟めるだけの知識はないのだろう。二人だけで会話が進んでいる。
「竜と共に生きることを選んだ人族が、住まうための場所だったということか?」
「んー…ちょっと、ちがうとおもう。はじまりは、りゅうによるものだったみたい。えっと、きょうよう?
うん。りゅうがひとにおなじときをいきることをきょうようしたのがはじまり。
ながいねんげつのなかで、ひとがえらんだじだいもあったようだけど」
―――竜が人に同じ時を生きることを強要した?
私には理解できない、力関係でもあるのだろうか。確か、クロービスは古の時代の人族は魔力に長けたものも多かったと言っていたな。
「竜が人に同じ時を生きることを強要した?…番が人だったのか?」
「うん。くろのすのかごをうけたりゅうのつがいがひとぞくだったことがはじまり。
でも、つがいのひとぞくはりゅうとともにいきることをこばんだ。
だから、りゅうはつがいとつがいがすてることのできないものとともにさらって、あのやしろにとじこめた」
私にはそもそも番という概念がよくわからないが、確か竜の伴侶という意味だったと思う。
そして、記憶が正しければ、竜は嫉妬深い生き物であったはずだ。
「なるほど。だから、あの社の魔力は内に向いているものが多かったのか。
守りたい。という思いと共に、閉じ込める効果もあったわけだ。
その基盤へ、水竜と天竜が手を加えて今の形になった。これで、あっているか?」
「うん。だいたいそんなかんじ。ぼくのちしきは、ぼくのものでぼくのものじゃないから、そのときのこまかなかんじょうはわからないけど、じしょうはそれであってるよ」
ノヴァは、疲れた。そういって、机へと突っ伏してしまった。
しばらく観察していれば、小さな寝息が聞こえてきた。どうやら、寝てしまったようだった。
「…すまないが、マルクス。かみ砕いて説明してくれるか」
私の言葉に、少し考えるそぶりをみせ、頷きを返してきた。
そうして、語られた内容は、私からすればやはりよくわからないものだった。
魔力や竜について、もう少し学ぶ必要があるのかもしれない。
マルクス曰く、
竜の社には、クロノスの加護を受けた竜の加護があるという。
クロノスとは、時間を司る神と言われ、古の時代では頻繁に見かけることができたそうだ。
現在では、姿を隠してしまっているため、その存在を見ることはないようだ。
ただ、時間という概念が存在している以上、クロノス神が死んだわけではないという事らしい。
そして、クロノスの加護を受けた竜は、魔力の高さゆえか、時に関する魔力を扱えたらしい。
時に関する魔力を使い、番である人族を社へと閉じ込め、外界と社の時の流れを変えた。
対象は、人族の血を引くもので、あの社では人族は時の流れが遅くなるらしい。
竜は通常の時を生き、人は遅い時の中で生きる。そうすることで、同じ時を生き最後を共にする。
それが、古竜の目的だったようだ。番である人族のいない世界に生きていたくない。そういう思いが始まりだった。
そして古竜の時代よりも、現代にほど近い時代。人からすれば、古の時代と表される時代ではあるが、そこの頃にあの水竜と天竜が社を改造したらしい。
彼らでは、時の魔力に干渉はできないが、己たちを守るためと友を守るために守護の陣を被せた。
それにより、時の魔力が人族に及ぼす影響を緩和させていたらしい。
私たちが、3日程度の際で生還できたのは、そのおかげのようだった。
「…世の中には理解の及ばぬものが多いな」
マルクスが話終わったところで、私は、少しばからい遠い目をしながら、つぶやいた。
壮大な話過ぎて、理解が追い付かないんだ。
「まぁ、旦那からすれば縁も所縁もなかった話だしな。とりあえず、竜が規格外だってことが認識できてればいいんじゃね?」
そう、苦笑しながらマルクスが返してきた。
それは大丈夫だ。竜が規格外な存在であることは認識している。人が竜に勝つことが難しい所以だからだ。
「ああ」
そう返し、私は再度ノヴァを観察する。子竜といえど、持っている知識等は子供とは思えないものだった。
竜族には、知識の共有がされると聞いたことはあるが、実際に目の当たりにするまでは信じていなかった。
「ノヴァ…か。脅威にならぬよう…いや、人を忌避されないように注意したいものだな。
今は可愛いが、恐らく人よりも成長が早いのだろう?」
私の問いに、マルクスは頷く。
「ああ。一定の年齢までの成長は、人よりも早い。人の中で生きさせるなら、人ではないことを周知させることも必要だが、それによる負の念が彼に向かわないように注意もしなければな」
マルクスの表情から、ノヴァを恐れたり忌避するような感情は見受けられない。それと同時に、慈しむという感情も見えはしないのだが。
「自分はどちらでも構わない。彼女に害がなければそれでいい」
ヘーゼルはそれだけ言い、部屋を出ていった。気配を追えばミリィの守護に戻ったのだと分かった。
彼のそのわかりやすい優先順位に少しばかり苦笑をこぼしたくなったが、それ故に信頼しミリィを任せることができるのも事実だ。
「俺は、どちらでも。ノヴァが本気になれば、俺では太刀打ちできない。それだけは、たしかだよ」
メビウスは苦笑をしながら意思表示をしている。その表情からは、守りたいものがあるのは見て取れたが、それが何かはわからない。
「私めは、旦那様の決定に従います。私では到底太刀打ちできる方ではございませんので」
我が家の家令は、そう言いながら部屋のベッドにある毛布をノヴァの肩へとかけている。
私が大事にするものは、彼らも大事にしてくれるようだ。ありがたいものだ。私は、周りの人に恵まれているな。
「俺はまぁ。どうにかなるだろ。お嬢も旦那も下手はしないだろうからな。心配なのは周りだから、まぁがんばれ」
マルクスはそうひらひらと顔の横で、手を振り窓の外へと視線を向けている。
彼は彼で何を考えているかはわからないが、ミリィを大事にしているのはわかっている。
私としてはそれで充分だった。
「そうか。では、今日はお開きにしよう。ミリィの体調が回復次第、残りの行程を進める。
明日は…そうだな。自由にしてくれていい」
私はそれだけ言い残し、私にあてがわれている部屋へと戻っていった。
しばらくして、ミリィの目元から手を離せば、小さな寝息が聞こえてきた。
どうやら、眠ってくれたらしい。体力的に、疲れていないわけはないはずなんだ。
ちょっとした休憩は挟むものの、ほぼ一日馬車で移動していた。そこに来て、竜の社での事件だ。
通常の貴族令嬢からすれば、体力はあるのだろうがそれでも、疲れは蓄積されていたのだろう。
恥じらい、恥ずかしそうにしてはいたものの、寝るまでの時間はそう長くはなかった。
私は、静かに椅子から立ち上がり、控えているメルへと声をかける。
「ミリィを頼む」
彼女がうなずくの確認し、私は部屋を出る。向かいの壁に寄り掛かるように、ヘーゼルが立っていた。
「寝たのか…」
「ああ。他はもう集まっているのか?」
私の言葉に頷きを返し、目線で隣の部屋を指し示している。
どうやら、そこに皆が集まっているらしい。竜の社で起こったことやノヴァの事。話さなければならぬことは多くある。
私は隣の部屋への扉へと向かい、中へと入る。
「旦那様、こちらへ」
我が家の家令が、空いた椅子を指し示している。
私は迷うことなくそこへと向かい、腰をかける。
「待たせたか?」
「いや。お嬢はかわりない?」
マルクスのその問に頷きを返しながら、部屋にいる面々を順にみる。
入り口の扉の側には、ヘーゼルとメビウスが。窓の側には、マルクスが陣取っている。
シュトラウス家の家令は、私の側に立っている。そして、私の正面にはノヴァがおとなしく座っていた。
「さて。とりあえず、現状を確認しようか。私たちが出かけてから、帰ってくるまでに3日経過しているのは間違いないのか」
「ああ。自分とメル、そして、そこの家令殿が証明できる」
「はい。ヘーゼル殿のおっしゃる通り、旦那様方は3日ほどお帰りになりませんでした」
俄かには信じ難いが、彼らが嘘をつく理由はないのだから、事実なのだろう。
「ミリィは、石像に触り転移させられた後、石でできた部屋で目を覚ましたと言っていた。そこにも、天竜と水竜の石像があり、台座に埋め込まれていた壁画を読み解き、その通りに石像へと触れることで、通路が出現したと言っている。
そして、水竜の元へとたどり着いたのだと。魔力の供給を願われそれに答えた。そのあとすぐ、私たちと合流したようだ。体感的には一刻にも満たないほどだと言っていた」
「ひーさんと俺たちとでは、だいぶ時間の感覚が違う気がするな」
メビウスのその言葉に頷きを返しながら、マルクスとヘーゼルへと問う。
「マルクスとメビウスは私と別れてからはどうだったんだ」
「俺たちは、旦那と別れた後は、竜たちの試練とも言えるものをこなしていた。
魔力の質や流れなどを試されていたように感じたが詳細は不明。
かなりの量をこなしていたし、数刻ほどはたっていたと思う」
「俺もそれぐらいかと。数刻後に辺境伯と合流できたと思っている」
マルクスとヘーゼルの言葉を聞きながら、眉間に皺が寄っていくのを自覚する。
「私の体感で言えば、半刻もたたぬうちに合流できた認識だった。天竜と会話を初めて、それほど立っていなかったからな。なんとも不思議なことだ」
「あの…」
そこまで話たところで、ノヴァから遠慮がちな声がかけられる。
「どうした?」
「あのですね。りゅうのやしろ?って、ぼくたちがいたところですよね?」
ノヴァのその言葉に、私たちは顔を見合わせ代表して返答する。
「そうだ。ノヴァや天竜達がいたところだ」
「あそこは、たぶんなんですけど、じかんのかごがはたらいているんだとおもいます」
「時間の加護…カイロス…いや、クロノスか?」
ノヴァの言葉にマルクスが、何か知っているのか考えこんでいるようだ。
私には、どちらも知識として保持していない。恐らく、魔力や古の力に関するものなのだろう。
「うん。せいかくには、えっと…くろのすしんのかごをうけた、こりゅうのかごだけど」
ノヴァは、舌足らずな言葉で、一生懸命に説明をしている。
なんでも、あの竜の社は、クロノス神の加護を受けた、古竜による力が働いているらしい。
―――さっぱり、わからないな。古竜は古の時代の竜なのだろうという事ぐらいしか、理解できない
「古の時代にクロノスの加護を受けた、竜があの社に加護を与えたということか?」
「そうだよ。なんだったかな。もともとあのやしろは、ひととりゅうがきょうぞんするためのものだったかな?
よくわからないのだけど、あそこではひとが、りゅうとおなじときをすごせていたんだって」
マルクスとノヴァによる、意見交換というか知識交換が行われている。
私も含め、彼らの言葉に口を挟めるだけの知識はないのだろう。二人だけで会話が進んでいる。
「竜と共に生きることを選んだ人族が、住まうための場所だったということか?」
「んー…ちょっと、ちがうとおもう。はじまりは、りゅうによるものだったみたい。えっと、きょうよう?
うん。りゅうがひとにおなじときをいきることをきょうようしたのがはじまり。
ながいねんげつのなかで、ひとがえらんだじだいもあったようだけど」
―――竜が人に同じ時を生きることを強要した?
私には理解できない、力関係でもあるのだろうか。確か、クロービスは古の時代の人族は魔力に長けたものも多かったと言っていたな。
「竜が人に同じ時を生きることを強要した?…番が人だったのか?」
「うん。くろのすのかごをうけたりゅうのつがいがひとぞくだったことがはじまり。
でも、つがいのひとぞくはりゅうとともにいきることをこばんだ。
だから、りゅうはつがいとつがいがすてることのできないものとともにさらって、あのやしろにとじこめた」
私にはそもそも番という概念がよくわからないが、確か竜の伴侶という意味だったと思う。
そして、記憶が正しければ、竜は嫉妬深い生き物であったはずだ。
「なるほど。だから、あの社の魔力は内に向いているものが多かったのか。
守りたい。という思いと共に、閉じ込める効果もあったわけだ。
その基盤へ、水竜と天竜が手を加えて今の形になった。これで、あっているか?」
「うん。だいたいそんなかんじ。ぼくのちしきは、ぼくのものでぼくのものじゃないから、そのときのこまかなかんじょうはわからないけど、じしょうはそれであってるよ」
ノヴァは、疲れた。そういって、机へと突っ伏してしまった。
しばらく観察していれば、小さな寝息が聞こえてきた。どうやら、寝てしまったようだった。
「…すまないが、マルクス。かみ砕いて説明してくれるか」
私の言葉に、少し考えるそぶりをみせ、頷きを返してきた。
そうして、語られた内容は、私からすればやはりよくわからないものだった。
魔力や竜について、もう少し学ぶ必要があるのかもしれない。
マルクス曰く、
竜の社には、クロノスの加護を受けた竜の加護があるという。
クロノスとは、時間を司る神と言われ、古の時代では頻繁に見かけることができたそうだ。
現在では、姿を隠してしまっているため、その存在を見ることはないようだ。
ただ、時間という概念が存在している以上、クロノス神が死んだわけではないという事らしい。
そして、クロノスの加護を受けた竜は、魔力の高さゆえか、時に関する魔力を扱えたらしい。
時に関する魔力を使い、番である人族を社へと閉じ込め、外界と社の時の流れを変えた。
対象は、人族の血を引くもので、あの社では人族は時の流れが遅くなるらしい。
竜は通常の時を生き、人は遅い時の中で生きる。そうすることで、同じ時を生き最後を共にする。
それが、古竜の目的だったようだ。番である人族のいない世界に生きていたくない。そういう思いが始まりだった。
そして古竜の時代よりも、現代にほど近い時代。人からすれば、古の時代と表される時代ではあるが、そこの頃にあの水竜と天竜が社を改造したらしい。
彼らでは、時の魔力に干渉はできないが、己たちを守るためと友を守るために守護の陣を被せた。
それにより、時の魔力が人族に及ぼす影響を緩和させていたらしい。
私たちが、3日程度の際で生還できたのは、そのおかげのようだった。
「…世の中には理解の及ばぬものが多いな」
マルクスが話終わったところで、私は、少しばからい遠い目をしながら、つぶやいた。
壮大な話過ぎて、理解が追い付かないんだ。
「まぁ、旦那からすれば縁も所縁もなかった話だしな。とりあえず、竜が規格外だってことが認識できてればいいんじゃね?」
そう、苦笑しながらマルクスが返してきた。
それは大丈夫だ。竜が規格外な存在であることは認識している。人が竜に勝つことが難しい所以だからだ。
「ああ」
そう返し、私は再度ノヴァを観察する。子竜といえど、持っている知識等は子供とは思えないものだった。
竜族には、知識の共有がされると聞いたことはあるが、実際に目の当たりにするまでは信じていなかった。
「ノヴァ…か。脅威にならぬよう…いや、人を忌避されないように注意したいものだな。
今は可愛いが、恐らく人よりも成長が早いのだろう?」
私の問いに、マルクスは頷く。
「ああ。一定の年齢までの成長は、人よりも早い。人の中で生きさせるなら、人ではないことを周知させることも必要だが、それによる負の念が彼に向かわないように注意もしなければな」
マルクスの表情から、ノヴァを恐れたり忌避するような感情は見受けられない。それと同時に、慈しむという感情も見えはしないのだが。
「自分はどちらでも構わない。彼女に害がなければそれでいい」
ヘーゼルはそれだけ言い、部屋を出ていった。気配を追えばミリィの守護に戻ったのだと分かった。
彼のそのわかりやすい優先順位に少しばかり苦笑をこぼしたくなったが、それ故に信頼しミリィを任せることができるのも事実だ。
「俺は、どちらでも。ノヴァが本気になれば、俺では太刀打ちできない。それだけは、たしかだよ」
メビウスは苦笑をしながら意思表示をしている。その表情からは、守りたいものがあるのは見て取れたが、それが何かはわからない。
「私めは、旦那様の決定に従います。私では到底太刀打ちできる方ではございませんので」
我が家の家令は、そう言いながら部屋のベッドにある毛布をノヴァの肩へとかけている。
私が大事にするものは、彼らも大事にしてくれるようだ。ありがたいものだ。私は、周りの人に恵まれているな。
「俺はまぁ。どうにかなるだろ。お嬢も旦那も下手はしないだろうからな。心配なのは周りだから、まぁがんばれ」
マルクスはそうひらひらと顔の横で、手を振り窓の外へと視線を向けている。
彼は彼で何を考えているかはわからないが、ミリィを大事にしているのはわかっている。
私としてはそれで充分だった。
「そうか。では、今日はお開きにしよう。ミリィの体調が回復次第、残りの行程を進める。
明日は…そうだな。自由にしてくれていい」
私はそれだけ言い残し、私にあてがわれている部屋へと戻っていった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる