貴方様と私の計略

羽柴 玲

文字の大きさ
上 下
109 / 146
Ⅱ.貴方様と私の計略 ~ 旅路 ~

109.社からの帰還

しおりを挟む
彼は何をしているのかしら。虹色の光が手に灯っているようですわ。



目の前の光がはれれば、ヘーゼルとメルの驚いた顔がありましたわ。

「お嬢様!」

メルが叫び私に飛びつてきました。その声は、少しだけ震えているようでした。

「え。どうしましたの?」

戸惑いつつも、メルを抱きしめ戸惑いを口にのせる。ヘーゼルを見れば、安堵したようにこちらを見ていました。

「3日も何をしていたんだ」

「3日?」

私が首を傾げ、ユミナ様やマルクスを振り返ります。
そしてそこには、若干困惑の表情をしたユミナ様と険しい表情をしたメビウス、諦めたような表情のマルクスが居ました。

「ヘーゼル。3日たっているのか?」

ユミナ様が戸惑いのままにヘーゼルへと問いかけている。

「ああ。確かに3日。自分たちはここで夜を明かした」

「これが最後に天竜が言っていたことか」

ヘーゼルの肯定を聞きながら、メビウスが大きくため息をついている。

「なるほどな。招かれたからか。竜の社の様子がわかる」

マルクスは一人で、竜の社を振り返り関心している。目線を追うように指で空をかいている。
そして、ある一点に達したところで、大きく息を吐きだしている。

「ヘーゼル、ここへの人の訪れはあったか?」

「いや。近づくものすらいなかった」

マルクスはその返答になずくと水竜様と天竜様の石像へと歩いていく。
何をするつもりかはわかりませんが、石像の前で立ち止まり魔力を開放しているようでした。
彼の姿が魔族の姿にほど近くなっていきます。

「揺蕩う空と流る水よ。わが魔力を媒介とし永久の時を」

その言葉と共に、マルクスが石像に触れると彼の手と石像が淡く光りだしました。
それは、白から赤へ。赤から橙へと変わり、虹の色順に色を変えているようです。
最後に紫へと変わり、白へと戻る。

「ノヴァ。手を貸してくれ」

「うん。いいよ。まもってくれるみたいだから」

マルクスがノヴァを呼び、彼がそれに応え石像の元へと歩いていく。ノヴァはマルクスと入れ替わるように石像へと触れ、目をつむり小さく何かを呟いている。

「まりょくのじゅんかん。あおとこうのために」

その声は小さく、私の元には届きませんでしたけれど、マルクスには聞こえていたのでしょう。
白く光っていたノヴァの手から光が消えるの見届け、頭を撫でてあげています。

「マルクス。あなたは何をしていましたの?」

「水竜が死んだことによって、魔力の循環に滞りが出てたからそれを調整しただけ。俺だけじゃ足りなかったみたいだから、ノヴァの力を借りたけどな」

そう何でもないように言っていますけれど、メビウスがとても難しい顔をしていますから、規格外な何かをしていたのでしょう。
そもそも、古代ともいえる程前に作られている建造物で竜族の魔力が通っているものに手を入れる方法なんて想像もつきませんわ。

「あの…お嬢様」

その時控えめに、メルが声をかけてきました。少し困惑した声なのが気になりますが…

「どうしましたの?メル」

「その…その子供はどうされたのですか?」

普通の子ではないようですが。そう言外に聞こえる気がする表情で、そう問いかけてきました。

「え。ああ。この子はノヴァ。竜族の子供よ。ノヴァ。私の護衛のヘーゼルと侍女のメルですわ」

『かさまのごえいとじじょ?ぼくはね、のばっていうの。よろしくね」

その言葉にメルは目を見開いて、ユミナ様と私とノヴァの顔を順にみて最後に私へと視線を戻していましたわ。

「竜族の子?かあさま?お嬢様?」

メルは混乱をしているのか、単語のみを口にしていました。

―――まぁ、そうよね。

「何から離せばいいかしら。…でも、ちょっと疲れたから休みたいわ」

「ああ、そうだな。今後の相談もしなければならないし、宿場まで戻ろうか」

ユミナ様のその言葉に、私以外が頷きを返していました。それを見届けたユミナ様は私へと腕を差し出してくださいました。
私がその腕をとれば、ゆっくりと歩きだされます。目的地は宿場。そう遠くはないですけれど。

―――宿場に着くまでには、メルへ説明することを整理できていればいいけれど

そんなことを思いながら、私はゆっくりと宿場へ向けて歩いていきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

処理中です...