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Ⅱ.貴方様と私の計略 ~ 旅路 ~
104.竜の社⑥(マルクス視点)
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面倒なことになったな…
俺とメビウスは竜の社を導かれるままに進み、現在に至る。そして、目の前に広がる非現実的な光景に頭が痛くなった。
最初は些細なものだった。魔力を見せろから始まり、魔力の分析に解呪。様々なちょっとした試練とでもいうような魔力に関する指示だった。
大半は、メビウスに任せ、彼が荷が重いと判断したものを俺が担当した。それらの題材が50を超えたあたりから数えるのをやめたが、そろそろ勘弁してほしいと思った矢先に、ここにいた。
見渡せば、木々が鬱蒼とお生い茂る森。目の前には湖があり、頭上には空が見えた。そして、近くに小川が流れているのであろう水の流れる音がしている。
「なぁ。俺たちさっきまで石造りの社にいましたよね?」
メビウスの言葉に我に返り、魔力をめぐらしたところで愕然とした。
だって、これは、あまりにも…
「うそだろ…」
俺の言葉に胡乱げな表情をしつつも、メビウスは俺が説明するまで待っている。
恐らく、魔力の流れから何かをしていると察したのだろう。そうは思いつつも、俺には彼を気にしてやれるだけの余裕はなかった。
魔力をめぐらせてわかったことは、ここが思想空間とでも言うべき作られた空間であったからだ。
転移の魔力によって、強制的に移動させられた感じはなかったから、最高位に近い幻影かと思っていた。
これほど精巧に作られた空間を初めて見たと言ってもいい。
俺自身、作られた空間へ入ったことは2度目だ。1度目は魔王陛下によって作られた空間だった。それでも、これほど精巧に作られたものではなかった。
膝をつき大地に触れてみる。手には確かに、お生い茂る草と土の感触がある。軽く指を立てれば、土がえぐれる。鼻に近づければ確かに土のにおいがした。
目の前の湖に手を付ければ、冷えた水の感触を伝えてくる。
鳥のなく声や獣の気配といった、動物の気配こそないが、草木といった植物や水や土といったものは驚くほど精巧に再現されていた。
「メビウス。お前草木に詳しいか?見える範囲でいい。知っているものがあれば教えてくれ」
その言葉にやはり胡乱げな表情をしながらもあたりを見回し、近場の草や花に触れてみている。そして、近くの湿度の高そうな場所を覗き込み、さらに上空へと目を向けている。
「俺がわかるものは3つですかね。まずこの木。少しだけ品種は古そうですが、これは封樹と呼ばれているものかと。この木は、上の方の若葉に特徴があって、それがほぼ一致しますから。あとは、あそこの岩陰当たりの苔とキノコです。苔はさして珍しいものではないですね。この国に一般的に生えているものです。たしか、名前は…そうだ、蒼苔。古代からあると言われていて、古代種にたしか分類されているやつです。キノコもこれも古代種ですね。この国では近年自生する量が減っていると聞いた記憶がありますね。名前は水茸とも瑞茸とも言われています。特徴はこの水の様な透明感のある青。あまり知られてはいませんが、正しく採取し、火を通せば食べることもできます」
メビウスの説明に頷きだけを返し、俺自身もあたりを再度見渡す。
彼の言う通り、生えている木々の内1つは、封樹だろう。ただし、現在の品種とは少々違う。原種とでも言うべきものだろう。
俺は、湖の中へと視線をうつし、嫌な予想が核心へと変わるのを感じる。
そこには、既に滅した種として記録されている水生植物があったからだ。名を水潜華と言い、水中で繁殖する花だ。生息すためには、日の光や綺麗な水源。そして、魔力通う大地と水が必要であり、特定の微生物が存在しなければならない。滅したとされるのは、水潜華が生息するだけの肥沃な魔力が通う大地と水が存在しなくなったからだ。もちろん、微力であれば魔力通う大地も水も存在している。だが、どちらともを満たせる地があるとき一瞬でもなくなってしまったからだと言われている。
「はぁ。とりあえず、ここは創造された空間だ」
その完結すぎる言葉に、メビウスは顔をしかめている。
「そう判断した理由はなんです」
「まず、ここの空間に存在する木々や草花は全て古代種であったり、既に滅したと記録されているものばかりだ。そこの湖の中を覗いてみろ。俺も実物は見たことないし、絵しか知らないが、水潜華が咲いている」
俺の言葉に従うように、メビウスが湖を覗き込み目を見開いている。
「それだけであれば、まぁ未開の地だと言われても不思議ではないんだが…魔力をめぐらせても応えるものがないんだ。俺は、そういう空間を1つだけ知っている。魔王陛下が創造した亜空庭園と呼ばれている場所だな」
亜空庭園。それは、魔界に存在する魔界らしからぬ場所。青々と草木がお生い茂り、多くの花々が咲き乱れている。そして、誰一人それを荒らすことのできない場所として魔族には知られている。
花や草木をめでる習慣の無い魔族が、何度かその庭園で暴れているが、存在する草木や花々は傷1つつくことはない。
不思議に思い、魔王陛下に尋ねてみれば、彼が創造した空間であると言っていた。別に隠しているわけではないし、隠す気もないが、喧伝するものでもないとそう言っていたように思う。
「ここは、その亜空庭園よりも精巧なものだろう。土に触れ指を立てれば、えぐれたからな。魔王陛下よりも強固な創造ができて魔力量も多いんだろう。おそらく、社に祀られている竜たちが作り出したものじゃないか」
俺の説明を聞きながら、メビウスも魔力をめぐらせているようだ。そして、茫然とした表情で俺を見ている。
まぁそうだよなと思う。魔力を扱うものとして、そうそう体験できるものではない。得手不得手や相性もあるが、空間へと魔力をめぐらせれば必ず何かが答えてくれる。大気であったり、草木であったりさまざまではなるが、何も応えてくれないという事はまずないからだ。
「これ、どうすんですか…」
茫然としながらもなんとか思考が戻ってきたメビウスがそう問いかけてくる。いや、己自身への問いかけだったのかもしれない。
「そうだな…ただ、確証はないがおそらくこの場所は意味があるのだと思う」
「この場所ですが?」
俺の言葉にメビウスは己の足元を見つめている。
「ああ。まず竜たちにとって、招くものと招かざるものがいるのはたしかだろう」
それは、お嬢や旦那を考えればおのずと導き出せた答えだ。この場合、招くものがお嬢と旦那で招かざるものが俺やメビウスだ。
「そして、彼らにとって招かざるものは2種類に分類されていると考えられる」
「…彼らを脅かすものとそうでないものか」
メビウスの言葉に頷きを返す。他の言い方をすれば、訪れる目的が、彼らを傷つけるためのものかそうでないかだ。
「竜である彼らを傷つけることのできるものは限られる。魔族や精霊魔族。人であればそれこそ少数であり一握りだ」
まぁ、お嬢の周りはその一握りがいるわけだが。そう付け加えれば、メビウスは遠い目をしつつ肩をすくめている。
「そして、この空間は恐らく人をふるいにかけるために作られたのではないかと思う」
「なるほど。悪意を持って近づくものを近寄らせないためですか」
メビウスも納得したように言っているが、それでも腑に落ちない部分もあるという言うように続きを促してくる。
「そう。試されるためであれば、この場所に意味はあるんじゃないかと思うわけだ」
試すことを目的としているのであれば、今立っているこの場所は何らかの意味を持っている可能性は高いと考えている。
ただ、初期地点として設定されているだけの可能性もないこともないが、低いのではないかとも思う。
人をふるいにかけ試しているのは恐らく間違いはない。魔力をたどることができれば、それなりに迎え入れる可能性があるのだと、ここに来るまでに出されていた課題が物語っている。
数も多いし無理難題も多かったが、迎え入れる気がないのであればもっと他の手があるだろうと思う。
そんな竜たちが、何のヒントもなくこの空間へと閉じ込めるとは思えなかった。実際、何かを突き止めるには至っていないが、違和感は最初からあった。
「ここに来てから感じている違和感が答えじゃないかとは思うんだが…」
「違和感?…言われてみればありますね」
そうつぶやき、メビウスは再度あたりを見回している。そして、目に見える範囲を先ほどと同じように確認している。
俺自身も違和感の正体を突き止めるため、あたりを見渡すが、認識を阻害されているのか突き止めることができない。
メビウスも同じなのか、首をかしげながら何度も何度も確認をしている。
生息している植物が古代種なのは、この社が作られたころがそれぐらいなのだろうと推測された。だから、それが違和感の正体ではない。
いろいろと考察をしながらも、答えに行き着くことができずにいれば、「あ」とメビウスが小さく声をあげた。
「?どうした」
そう問えば、彼は大地を指さしている。
「違和感は恐らくこれです」
彼の指先へと視線を向ければ、何の変哲もない影が伸びている。
「この影おかしいです。空の太陽の位置はあそこ。この木の伸びる影はこっち。そして、この石が作る影がそこ。俺たちから伸びる影がこれです」
彼の説明を聞きながら、それぞれの影へと視線を移していく。そして、メビウスが何を言いたいのかを理解した。
「なるほどな」
太陽の位置とお生い茂る木々の影は正しく伸びている。だから、気づかなかったし、あまり不振にも感じなかった。
お生い茂る草木や花の影は、太陽の位置からして正しい。ただ、それ以外の影は少しだけおかしかった。
石が作る影は、一見正しいように伸びているが、長さが短すぎた。太陽の位置は、真上よりも少しばかり傾いている。それにもかからず、石の影は太陽がほぼ真上に近い時の様に、短かった。
そして、一番おかしいのは、俺たちから伸びる影だった。太陽の位置からすれば、少しだけ向きがおかしい。木々に作られる影に紛れ、気づきにくくはなっている。伸びる影の長さもおかしいと感じるほどの長さではない。
「魔力を扱うものがこの空間に飛ばされれば、無自覚に焦る。それは、普段の判断力を鈍らせる。そうなれば、自身の足元から伸びる影なんて注意を払わないだろうな」
「ええ。それに、この場を動けばさらに分かりにくくなります」
メビウスの言葉に促されるように再度注意深く周囲を観察する。そして、なるほどなと感心する。
最初のこの位置を除けば、鬱蒼とお生い茂る影や丈の長い草木。そういったものの影に紛れやすかったり、日の光がうまく届かないようになっていた。
恐らくやみくもに動き回れば、己や仲間から伸びる影に目を止めたとしても気づかないだろう。
「よく気付いたな」
そう関心して言えば、メビウスは首を横に振っている。
「俺一人では気づけるかは微妙ですね。あなたがこの場所に意味があり違和感があると言っていたこととあなたから伸びる影で気づいたようなものですから」
そう苦笑を見せたが、観察眼は俺よりも優れているのだろうと思う。敵将としての噂は確かに正しいものだったのだろうと今初めて思った。
メビウスと相対したのは、俺よりもヘーゼルの方が多い。それに、お嬢の護衛として側に控えているメビウスは、頭の切れる将には見えなかったからな。
そう思い、それでたいしたものだと伝えるために、口を開こうとしたその時、俺とメビウスの視界を白く埋め何より圧倒的な力が体を包み込むのを感じた。
俺とメビウスは竜の社を導かれるままに進み、現在に至る。そして、目の前に広がる非現実的な光景に頭が痛くなった。
最初は些細なものだった。魔力を見せろから始まり、魔力の分析に解呪。様々なちょっとした試練とでもいうような魔力に関する指示だった。
大半は、メビウスに任せ、彼が荷が重いと判断したものを俺が担当した。それらの題材が50を超えたあたりから数えるのをやめたが、そろそろ勘弁してほしいと思った矢先に、ここにいた。
見渡せば、木々が鬱蒼とお生い茂る森。目の前には湖があり、頭上には空が見えた。そして、近くに小川が流れているのであろう水の流れる音がしている。
「なぁ。俺たちさっきまで石造りの社にいましたよね?」
メビウスの言葉に我に返り、魔力をめぐらしたところで愕然とした。
だって、これは、あまりにも…
「うそだろ…」
俺の言葉に胡乱げな表情をしつつも、メビウスは俺が説明するまで待っている。
恐らく、魔力の流れから何かをしていると察したのだろう。そうは思いつつも、俺には彼を気にしてやれるだけの余裕はなかった。
魔力をめぐらせてわかったことは、ここが思想空間とでも言うべき作られた空間であったからだ。
転移の魔力によって、強制的に移動させられた感じはなかったから、最高位に近い幻影かと思っていた。
これほど精巧に作られた空間を初めて見たと言ってもいい。
俺自身、作られた空間へ入ったことは2度目だ。1度目は魔王陛下によって作られた空間だった。それでも、これほど精巧に作られたものではなかった。
膝をつき大地に触れてみる。手には確かに、お生い茂る草と土の感触がある。軽く指を立てれば、土がえぐれる。鼻に近づければ確かに土のにおいがした。
目の前の湖に手を付ければ、冷えた水の感触を伝えてくる。
鳥のなく声や獣の気配といった、動物の気配こそないが、草木といった植物や水や土といったものは驚くほど精巧に再現されていた。
「メビウス。お前草木に詳しいか?見える範囲でいい。知っているものがあれば教えてくれ」
その言葉にやはり胡乱げな表情をしながらもあたりを見回し、近場の草や花に触れてみている。そして、近くの湿度の高そうな場所を覗き込み、さらに上空へと目を向けている。
「俺がわかるものは3つですかね。まずこの木。少しだけ品種は古そうですが、これは封樹と呼ばれているものかと。この木は、上の方の若葉に特徴があって、それがほぼ一致しますから。あとは、あそこの岩陰当たりの苔とキノコです。苔はさして珍しいものではないですね。この国に一般的に生えているものです。たしか、名前は…そうだ、蒼苔。古代からあると言われていて、古代種にたしか分類されているやつです。キノコもこれも古代種ですね。この国では近年自生する量が減っていると聞いた記憶がありますね。名前は水茸とも瑞茸とも言われています。特徴はこの水の様な透明感のある青。あまり知られてはいませんが、正しく採取し、火を通せば食べることもできます」
メビウスの説明に頷きだけを返し、俺自身もあたりを再度見渡す。
彼の言う通り、生えている木々の内1つは、封樹だろう。ただし、現在の品種とは少々違う。原種とでも言うべきものだろう。
俺は、湖の中へと視線をうつし、嫌な予想が核心へと変わるのを感じる。
そこには、既に滅した種として記録されている水生植物があったからだ。名を水潜華と言い、水中で繁殖する花だ。生息すためには、日の光や綺麗な水源。そして、魔力通う大地と水が必要であり、特定の微生物が存在しなければならない。滅したとされるのは、水潜華が生息するだけの肥沃な魔力が通う大地と水が存在しなくなったからだ。もちろん、微力であれば魔力通う大地も水も存在している。だが、どちらともを満たせる地があるとき一瞬でもなくなってしまったからだと言われている。
「はぁ。とりあえず、ここは創造された空間だ」
その完結すぎる言葉に、メビウスは顔をしかめている。
「そう判断した理由はなんです」
「まず、ここの空間に存在する木々や草花は全て古代種であったり、既に滅したと記録されているものばかりだ。そこの湖の中を覗いてみろ。俺も実物は見たことないし、絵しか知らないが、水潜華が咲いている」
俺の言葉に従うように、メビウスが湖を覗き込み目を見開いている。
「それだけであれば、まぁ未開の地だと言われても不思議ではないんだが…魔力をめぐらせても応えるものがないんだ。俺は、そういう空間を1つだけ知っている。魔王陛下が創造した亜空庭園と呼ばれている場所だな」
亜空庭園。それは、魔界に存在する魔界らしからぬ場所。青々と草木がお生い茂り、多くの花々が咲き乱れている。そして、誰一人それを荒らすことのできない場所として魔族には知られている。
花や草木をめでる習慣の無い魔族が、何度かその庭園で暴れているが、存在する草木や花々は傷1つつくことはない。
不思議に思い、魔王陛下に尋ねてみれば、彼が創造した空間であると言っていた。別に隠しているわけではないし、隠す気もないが、喧伝するものでもないとそう言っていたように思う。
「ここは、その亜空庭園よりも精巧なものだろう。土に触れ指を立てれば、えぐれたからな。魔王陛下よりも強固な創造ができて魔力量も多いんだろう。おそらく、社に祀られている竜たちが作り出したものじゃないか」
俺の説明を聞きながら、メビウスも魔力をめぐらせているようだ。そして、茫然とした表情で俺を見ている。
まぁそうだよなと思う。魔力を扱うものとして、そうそう体験できるものではない。得手不得手や相性もあるが、空間へと魔力をめぐらせれば必ず何かが答えてくれる。大気であったり、草木であったりさまざまではなるが、何も応えてくれないという事はまずないからだ。
「これ、どうすんですか…」
茫然としながらもなんとか思考が戻ってきたメビウスがそう問いかけてくる。いや、己自身への問いかけだったのかもしれない。
「そうだな…ただ、確証はないがおそらくこの場所は意味があるのだと思う」
「この場所ですが?」
俺の言葉にメビウスは己の足元を見つめている。
「ああ。まず竜たちにとって、招くものと招かざるものがいるのはたしかだろう」
それは、お嬢や旦那を考えればおのずと導き出せた答えだ。この場合、招くものがお嬢と旦那で招かざるものが俺やメビウスだ。
「そして、彼らにとって招かざるものは2種類に分類されていると考えられる」
「…彼らを脅かすものとそうでないものか」
メビウスの言葉に頷きを返す。他の言い方をすれば、訪れる目的が、彼らを傷つけるためのものかそうでないかだ。
「竜である彼らを傷つけることのできるものは限られる。魔族や精霊魔族。人であればそれこそ少数であり一握りだ」
まぁ、お嬢の周りはその一握りがいるわけだが。そう付け加えれば、メビウスは遠い目をしつつ肩をすくめている。
「そして、この空間は恐らく人をふるいにかけるために作られたのではないかと思う」
「なるほど。悪意を持って近づくものを近寄らせないためですか」
メビウスも納得したように言っているが、それでも腑に落ちない部分もあるという言うように続きを促してくる。
「そう。試されるためであれば、この場所に意味はあるんじゃないかと思うわけだ」
試すことを目的としているのであれば、今立っているこの場所は何らかの意味を持っている可能性は高いと考えている。
ただ、初期地点として設定されているだけの可能性もないこともないが、低いのではないかとも思う。
人をふるいにかけ試しているのは恐らく間違いはない。魔力をたどることができれば、それなりに迎え入れる可能性があるのだと、ここに来るまでに出されていた課題が物語っている。
数も多いし無理難題も多かったが、迎え入れる気がないのであればもっと他の手があるだろうと思う。
そんな竜たちが、何のヒントもなくこの空間へと閉じ込めるとは思えなかった。実際、何かを突き止めるには至っていないが、違和感は最初からあった。
「ここに来てから感じている違和感が答えじゃないかとは思うんだが…」
「違和感?…言われてみればありますね」
そうつぶやき、メビウスは再度あたりを見回している。そして、目に見える範囲を先ほどと同じように確認している。
俺自身も違和感の正体を突き止めるため、あたりを見渡すが、認識を阻害されているのか突き止めることができない。
メビウスも同じなのか、首をかしげながら何度も何度も確認をしている。
生息している植物が古代種なのは、この社が作られたころがそれぐらいなのだろうと推測された。だから、それが違和感の正体ではない。
いろいろと考察をしながらも、答えに行き着くことができずにいれば、「あ」とメビウスが小さく声をあげた。
「?どうした」
そう問えば、彼は大地を指さしている。
「違和感は恐らくこれです」
彼の指先へと視線を向ければ、何の変哲もない影が伸びている。
「この影おかしいです。空の太陽の位置はあそこ。この木の伸びる影はこっち。そして、この石が作る影がそこ。俺たちから伸びる影がこれです」
彼の説明を聞きながら、それぞれの影へと視線を移していく。そして、メビウスが何を言いたいのかを理解した。
「なるほどな」
太陽の位置とお生い茂る木々の影は正しく伸びている。だから、気づかなかったし、あまり不振にも感じなかった。
お生い茂る草木や花の影は、太陽の位置からして正しい。ただ、それ以外の影は少しだけおかしかった。
石が作る影は、一見正しいように伸びているが、長さが短すぎた。太陽の位置は、真上よりも少しばかり傾いている。それにもかからず、石の影は太陽がほぼ真上に近い時の様に、短かった。
そして、一番おかしいのは、俺たちから伸びる影だった。太陽の位置からすれば、少しだけ向きがおかしい。木々に作られる影に紛れ、気づきにくくはなっている。伸びる影の長さもおかしいと感じるほどの長さではない。
「魔力を扱うものがこの空間に飛ばされれば、無自覚に焦る。それは、普段の判断力を鈍らせる。そうなれば、自身の足元から伸びる影なんて注意を払わないだろうな」
「ええ。それに、この場を動けばさらに分かりにくくなります」
メビウスの言葉に促されるように再度注意深く周囲を観察する。そして、なるほどなと感心する。
最初のこの位置を除けば、鬱蒼とお生い茂る影や丈の長い草木。そういったものの影に紛れやすかったり、日の光がうまく届かないようになっていた。
恐らくやみくもに動き回れば、己や仲間から伸びる影に目を止めたとしても気づかないだろう。
「よく気付いたな」
そう関心して言えば、メビウスは首を横に振っている。
「俺一人では気づけるかは微妙ですね。あなたがこの場所に意味があり違和感があると言っていたこととあなたから伸びる影で気づいたようなものですから」
そう苦笑を見せたが、観察眼は俺よりも優れているのだろうと思う。敵将としての噂は確かに正しいものだったのだろうと今初めて思った。
メビウスと相対したのは、俺よりもヘーゼルの方が多い。それに、お嬢の護衛として側に控えているメビウスは、頭の切れる将には見えなかったからな。
そう思い、それでたいしたものだと伝えるために、口を開こうとしたその時、俺とメビウスの視界を白く埋め何より圧倒的な力が体を包み込むのを感じた。
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