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Ⅱ.貴方様と私の計略 ~ 旅路 ~
98.竜の社①
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事件は、旅立ちから3日目に起きたのですわ。
…とはいえ、それほど深刻なものではなかったのですけれど。
王都からシュトラウス領へと向かう旅路は順調に進んでおりました。
天候にも恵まれ、道中で突発的な問題に出会うことなく、順調でした。
今はちょうど半分程進んだ宿場に滞在していました。
順調すぎて、予定よりも半日ほど早く着くことができましたので、宿場の側にある観光名所だという神殿を見ることにしました。
ここの神殿は、現在の神殿ではなく、古代の神殿だというのです。
このあたりの土地神様を祀った社を神殿だと言っていたため、現在も神殿と呼ばれているらしいですわ。
ですから、金の亡者の代名詞とも呼ばれている神殿とは異なるもののようです。
それに、興味をひかれた私は、ユミナ様にお願いして神殿まで連れてきていただきました。
距離も、宿場から歩いて半刻程であったことも、連れてきていただけた理由だと思っています。
「ユミナ様。これが神殿で間違いないでしょうか」
私は、少しだけ戸惑いながら目の前にあるものを眺める。
眼前には、石で作られたと思われる、大きな三角形が存在していた。
どう、積み上げたのかはわからないが、四方どの面からみても三角形に見えましたの。
その一辺の中央に、積み上げられた三角形の中腹まで続く階段があり、その先には入り口の様な大きな穴がありました。
「たぶんそうだとは思うが…」
ユミナ様も少しばかり戸惑いの返答をよこしてきます。
目の前の三角形は、石でできているにも関わらず、どこか神秘さを感じているのですから。
私とユミナ様が戸惑いを見せていれば、答えは思わぬところからもたらされた。
「これは…竜?」
「ああ。ここには竜が祀ってあるな」
メビウスの思わずといったつぶやきに、マルクスは肯定を返している。
「マルクス。どういうことですの」
私の問いに、少しだけ待ってくれと言い残し、三角形の神殿へと歩いていく。
私たちは、おとなしくマルクスの行動を見守ることにする。
彼はまず、階段の始まりと思われるところへと向かい、その両端にあるものに触れている。
私たちのいる距離からでは、何をしているのかわからないですけれど。
「マルクスは何をしているのかしら。それに、あんなに無防備に触れてもよいものなの?」
「たぶん彼なら大丈夫だと思う。ひーさんには無防備に見えるかもしれないが、触れる前に魔力による探査が行われてそうだから」
私の疑問には、少しだけ自身がなさそうにメビウスが答えてくれる。
…メビウスが自身なさげなのは、珍しいですわね。
「ひーさん。俺だって、わらかないことは自身がないよ。どうも、魔力やそれに随する知識は、彼の方が高そう…いや。高いから」
「…私の心を読まないでくれるかしら」
そういえば、メビウスは笑って、別に心は読んでないという。
「ひーさんは、表情はそんなに動かないけど、気を抜いているときは目が物語るから。まぁ、臨戦状態のひーさんからは俺はまだ何も読めないけど」
メビウスの言葉に思わず目元に触れる。
目が物語るってどういうことかしら。目を見ていると何を考え・感じているかがわかるという事?
「おまたせ」
そうこうしている内に、マルクスが戻ってきましたわ。
私がマルクスへと視線を向ければ、じゃぁ、説明するか。と、目の前の神殿について説明を始めました。
「まず、さっきも言ったが、あれは竜を祀っている。神殿というよりは、竜の社と言った方が正しい。祀られているのは、水竜と天竜だと思う。ちょっと、こっちにきてくれ」
マルクスに促されるまま、神殿…竜の社へと近づいていく。麓まで近づけばそれが、とてつもなく大きなものであることがわかる。頂上を見上げれば少しばかり、かすんで見える。
「これが、水竜。そして、こっちが天竜」
マルクスの声に、視線を戻せば階段の両脇にある像をそれぞれ指示しながら、説明していた。
向かって左の細長い蛇にも見える像を水竜の像。右側の大きな翼をもつ鳥のフォルムにトカゲを当てはめたような像を天竜。そう説明している。
近づいてみれば、水竜の像はほのかに青色に発光しており、天竜は白色に発光していた。
「この像、微かに光ってますわね」
「ああ。祀られている竜たちの力なんだと思う。で、旦那とお嬢に相談なんだが…」
マルクスは少しだけ言いにくそうに、ユミナ様と私を交互に見てくる。
「なんですの?」
「なんだ?」
ユミナ様と私が同時に返答を返せば、マルクスは目をきらめかせている。
「あのな。ちょっとだけ、中を確認してもいいか?ちょっと、気になるんだ。そもそも、竜種は祀られることも多い種族ではあるが、属性の違う竜が一つの社に祀られることは稀なんだ。だから、ちょっと調査したいな…と」
マルクスの言葉に、私は驚くしかありませんでしたわ。マルクスのそういった主張は聞いたことがありませんでしたから。
ユミナ様を伺えば、少し苦笑をのぞかせているものの、しょうがないなと言った雰囲気を感じます。
「まぁ、いいか。時間もあるし。危険度は」
「んー今のところ、そんなにないかな。ただ、内部は探索を妨害されるから罠の類はわからん」
ユミナ様とマルクスは、どうするのかと言った内容を話し合っているようです。
私はというと、微かに光っている像が気になって仕方がなかった。
何が気になるのかと聞かれれば、返答に困るのですけれど、こう…なんというか、無視をしてはいけないと言われているような感じがするのです。
「マルクス。これは、触れても大丈夫なもの?」
「ん?俺が触れた時はなんともなかったから、たぶん大丈夫だとは思うけど…」
それだけ聞くと私は、何かに引かれるように水竜の像へと手を伸ばす。
指先が触れるか触れないかと言ったところで、私の視界は白一色に塗りつぶされた。
そして、どこか遠くで、慌てたようなユミナ様達の声を聴いていた。
…とはいえ、それほど深刻なものではなかったのですけれど。
王都からシュトラウス領へと向かう旅路は順調に進んでおりました。
天候にも恵まれ、道中で突発的な問題に出会うことなく、順調でした。
今はちょうど半分程進んだ宿場に滞在していました。
順調すぎて、予定よりも半日ほど早く着くことができましたので、宿場の側にある観光名所だという神殿を見ることにしました。
ここの神殿は、現在の神殿ではなく、古代の神殿だというのです。
このあたりの土地神様を祀った社を神殿だと言っていたため、現在も神殿と呼ばれているらしいですわ。
ですから、金の亡者の代名詞とも呼ばれている神殿とは異なるもののようです。
それに、興味をひかれた私は、ユミナ様にお願いして神殿まで連れてきていただきました。
距離も、宿場から歩いて半刻程であったことも、連れてきていただけた理由だと思っています。
「ユミナ様。これが神殿で間違いないでしょうか」
私は、少しだけ戸惑いながら目の前にあるものを眺める。
眼前には、石で作られたと思われる、大きな三角形が存在していた。
どう、積み上げたのかはわからないが、四方どの面からみても三角形に見えましたの。
その一辺の中央に、積み上げられた三角形の中腹まで続く階段があり、その先には入り口の様な大きな穴がありました。
「たぶんそうだとは思うが…」
ユミナ様も少しばかり戸惑いの返答をよこしてきます。
目の前の三角形は、石でできているにも関わらず、どこか神秘さを感じているのですから。
私とユミナ様が戸惑いを見せていれば、答えは思わぬところからもたらされた。
「これは…竜?」
「ああ。ここには竜が祀ってあるな」
メビウスの思わずといったつぶやきに、マルクスは肯定を返している。
「マルクス。どういうことですの」
私の問いに、少しだけ待ってくれと言い残し、三角形の神殿へと歩いていく。
私たちは、おとなしくマルクスの行動を見守ることにする。
彼はまず、階段の始まりと思われるところへと向かい、その両端にあるものに触れている。
私たちのいる距離からでは、何をしているのかわからないですけれど。
「マルクスは何をしているのかしら。それに、あんなに無防備に触れてもよいものなの?」
「たぶん彼なら大丈夫だと思う。ひーさんには無防備に見えるかもしれないが、触れる前に魔力による探査が行われてそうだから」
私の疑問には、少しだけ自身がなさそうにメビウスが答えてくれる。
…メビウスが自身なさげなのは、珍しいですわね。
「ひーさん。俺だって、わらかないことは自身がないよ。どうも、魔力やそれに随する知識は、彼の方が高そう…いや。高いから」
「…私の心を読まないでくれるかしら」
そういえば、メビウスは笑って、別に心は読んでないという。
「ひーさんは、表情はそんなに動かないけど、気を抜いているときは目が物語るから。まぁ、臨戦状態のひーさんからは俺はまだ何も読めないけど」
メビウスの言葉に思わず目元に触れる。
目が物語るってどういうことかしら。目を見ていると何を考え・感じているかがわかるという事?
「おまたせ」
そうこうしている内に、マルクスが戻ってきましたわ。
私がマルクスへと視線を向ければ、じゃぁ、説明するか。と、目の前の神殿について説明を始めました。
「まず、さっきも言ったが、あれは竜を祀っている。神殿というよりは、竜の社と言った方が正しい。祀られているのは、水竜と天竜だと思う。ちょっと、こっちにきてくれ」
マルクスに促されるまま、神殿…竜の社へと近づいていく。麓まで近づけばそれが、とてつもなく大きなものであることがわかる。頂上を見上げれば少しばかり、かすんで見える。
「これが、水竜。そして、こっちが天竜」
マルクスの声に、視線を戻せば階段の両脇にある像をそれぞれ指示しながら、説明していた。
向かって左の細長い蛇にも見える像を水竜の像。右側の大きな翼をもつ鳥のフォルムにトカゲを当てはめたような像を天竜。そう説明している。
近づいてみれば、水竜の像はほのかに青色に発光しており、天竜は白色に発光していた。
「この像、微かに光ってますわね」
「ああ。祀られている竜たちの力なんだと思う。で、旦那とお嬢に相談なんだが…」
マルクスは少しだけ言いにくそうに、ユミナ様と私を交互に見てくる。
「なんですの?」
「なんだ?」
ユミナ様と私が同時に返答を返せば、マルクスは目をきらめかせている。
「あのな。ちょっとだけ、中を確認してもいいか?ちょっと、気になるんだ。そもそも、竜種は祀られることも多い種族ではあるが、属性の違う竜が一つの社に祀られることは稀なんだ。だから、ちょっと調査したいな…と」
マルクスの言葉に、私は驚くしかありませんでしたわ。マルクスのそういった主張は聞いたことがありませんでしたから。
ユミナ様を伺えば、少し苦笑をのぞかせているものの、しょうがないなと言った雰囲気を感じます。
「まぁ、いいか。時間もあるし。危険度は」
「んー今のところ、そんなにないかな。ただ、内部は探索を妨害されるから罠の類はわからん」
ユミナ様とマルクスは、どうするのかと言った内容を話し合っているようです。
私はというと、微かに光っている像が気になって仕方がなかった。
何が気になるのかと聞かれれば、返答に困るのですけれど、こう…なんというか、無視をしてはいけないと言われているような感じがするのです。
「マルクス。これは、触れても大丈夫なもの?」
「ん?俺が触れた時はなんともなかったから、たぶん大丈夫だとは思うけど…」
それだけ聞くと私は、何かに引かれるように水竜の像へと手を伸ばす。
指先が触れるか触れないかと言ったところで、私の視界は白一色に塗りつぶされた。
そして、どこか遠くで、慌てたようなユミナ様達の声を聴いていた。
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