貴方様と私の計略

羽柴 玲

文字の大きさ
上 下
91 / 146
Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

91.辺境伯の来訪

しおりを挟む
これは、ちょっと恥ずかしいですわ。嬉しいのですけれど。



私への中傷、第二王子であるデュオ様の問題、王族の派閥問題。多くの問題を残したままではあるのですけれど、ユミナ様が久々に我が家にいらしてくださいます。
朝から入念に準備をしてしまって、クルツとメルに笑われてしまいましたわ。
ヘーゼルとマルクスとメビウスは何も言いませんでしたけれど、きっと内心笑っていますわね。
だって、私自身思い出してみれば、少しおかしいですもの。
マルクスは変わらずユミナ様と共に働いているようですわ。一応私に断りを入れてはいますけれど、ちょっと不思議ではあります。
だって、マルクスはあまり人と共に生きることを選ぶような印象はありませんでしたもの。
私としては、ユミナ様のそばに居られるマルクスがちょっとうらやましくもあるのですけれど。

「お嬢様。そろそろシュトラウス辺境伯様がいらっしゃるお時間になります」

自分の思考に囚われていれば、メルがそう声をかけてきました。
もう、そんな時間でしたのね。

「もう、そんな時間なのね。おかしな所はないかしら?」

メルに今日何度目になるかわからない質問をする。自分でも少し気にしすぎな気がしないでもないですけれど。

「大丈夫ですよ。今日のお嬢様も大変かわいらしいです」

「お世辞だったとしても嬉しいわ。でも、ありがとう」

少しメルの言い方に含みを感じましたけれど、気にしないことにします。
今日もメルの見立てのドレスですもの。間違いはないと思いますの。
私はの今日のドレスは、薄い緑と濃い青を合わせたような少しおとなしめのドレスです。
薄い緑はユミナ様の瞳に近い色。濃い青は私の瞳の色に近い色。ちょっとあれな組み合わせな気もしますけれど、デザイン自体は気に入っています。

「お嬢様。シュトラウス辺境伯様がいらっしゃったようです。サロンへお通ししているそうです」

「ありがとうメル。では、向かいましょう」

私はメルと扉の前で控えていたヘーゼルとメビウスと共に、ユミナ様の待つサロンへと向かいます。

「ユミナ様お待たせいたしました」

「いや。待つというほど待ってはいないよ」

ユミナ様は笑顔で私を迎えてくださいました。今日も素敵です。
私は、ユミナ様の前へと腰を落ち着けます。メルはそつなくお茶の準備をしてくれました。
今日のお菓子は、ユミナ様が気に入ってくださった甘みを抑えたクッキーと珈琲ビーンズチョコレートです。

「今日はどうされたのですか?マルクスからとてもお忙しそうにしていると伺っています」

私はユミナ様を見つめ今日の来訪の理由をお伺いします。
今日は、ユミナ様から来訪するというお手紙をくださっただけで、理由は記載されていませんでいた。
マルクスに聞いても理由を特に知らない感じでしたし、私は理由を知らないのです。

「うん。まぁ、それはもう少しあとで。最近はどうだった?」

ユミナ様は私の近況を訪ねてこられましたので、ここ最近の日常についてお話いたしました。
私の日常は特に変わりはなく、むしろ出かけたりしないので暇を持て余していたので、事業に注力してしまいましたわ。
でも、まだそういえば、事業についてはユミナ様へお話していませんでしたわ。

「そういえば、私ユミナ様にお話ししていないことがありましたわ。令嬢としては少々微妙な話なのですけれど」

聞いてくださいますか。そう問えば、ユミナ様は少しだけ神妙な表情でうなずいてくださいました。
私は、どこから話しましょうかと、私と事業について話始めました。

「私はお爺様に引き取られてからすぐのころは、少しだけ心を壊していましたの。
クルツを守ることでどうにか保ってはいましたけれど、両親の死に立ち合い側で過ごしたことは思っていた以上に心をむしばんでいたのだと思いますの。
それでも、お爺様に引き取られ守られている内に、少しずつ癒えてきたのだとは思うのですが。
そんな中、お爺様に何かやってみないかと言われて、始めたことがあるのです」

私は、そこで話を切りお茶を一口飲みのどを潤す。話しながら、自分が少しだけ緊張していることに気づく。
両親の死を話すことも、事業について話すことも勇気がいることですわね。

「私の異能を生かして、事業を始めたのですわ。香りを扱う事業ですの。最初はポプリを扱っていました。
次は、アロマストーンという香る石を。それから、香水を扱うようになりましたわ。
香水を扱うようになってからは、順調に伸びているのですけれど、それまでは採算が合わないモノでした。
お爺様はそれでも、笑って次はがんばれと応援してくださったのです。
今は、ほのかに香る石鹸の販売を始めましたの。少しずつ売り上げも伸びているのです」

そこまで、話したところで後ろから咳払いが聞こえる。すこし、脱線してしまいましたわね。

「申し訳ありません。脱線してしまいましたわ。そういうわけで、私は事業をしていますの。
利益の半分は侯爵家へ半分は私のポケットマネーに入っていますの。
ちょっと、つまらない話でしたね。私の話は終わりですわ」

そういって、紅茶を飲みクッキーに手を付ける。うん。今日のクッキーもいい味ですわ。
私は、ユミナ様を伺う。少しだけ眉間にしわを寄せているようですけれど、それを読み取ることはできそうにありませんでした。

「君はご両親の死と過ごした記憶があるのか」

そうおっしゃって、体を乗り出し私の頭を撫でてくださいました。つらかったねと。

「ユ、ユミナ様?気になさるのはそこですの?」

私は戸惑い、少しだけ慌てたように早口になる。

「事業については、それほど気にするようなものではないし。令嬢としては珍しいけれど、貴族子息では別に珍しいことではないし。
それよりも、両親の死を話す君が少し辛そうだった方が大事だ」

そう言って、また頭をなでてくださっていて。その手は、優しくて少しだけ恥ずかしくて。でも、私の心の柔らかいところを包んでくれるような。そんな感じがしましたの。

「あ、あの。私はもう子供ではないですし、その。ちょっと、はずかしいですわ」

何とかユミナ様にそう言えば、ユミナ様の手は離れていきました。少しだけ、寂しさを残して。

「ああ。すまない。そうだな。少し庭を散歩しないか」

ユミナ様は少しだけ緊張した表情をして、そう提案してきました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...