貴方様と私の計略

羽柴 玲

文字の大きさ
上 下
84 / 146
Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

84.貴族という名の伏魔殿⑤(ユミナ視点)

しおりを挟む
不満と焦燥。久しく忘れていた感情だった。
彼女によって感じさせられているこの感情は、煩わしいと思うと同時に彼女を愛しいと感じる故の物だ。



あれか。ミリィは人たらしの才能でもあるのか?
敵を作ることも多そうだが、その分味方を増やすことも多そうだ。
そんなことを思いながら、目の前で繰り広げられる会話を眺める。
面識があるのは知っていたが、何というか仲が良すぎるだろう。
そんなことを思いながら、私の思考は過去へと遡っていった。



「ミリィ。時間だ。カミラ殿下の元へ行くよ」

私はミリィと戯れた後、時間までの間仕事をかたづけていた。
ミリィには、好きに過ごせば良いと言えば、同じ部屋で読書をすることにしたようだ。
この部屋にいれば、護衛の心配もさほど無いということで、マルクスの他にヘーゼルとメビウスが手伝ってくれた。
メビウスについては、信用はまだそこまでないからほぼ雑用を頼んではいたが、能力の高さには驚かされる。
軍人や護衛ではなく、文官として出世が望めるほどだった。
本人に問えば、責任ある仕事は面倒だから好まないと返された。気軽に気ままに出来るくらいが丁度良いのだと言っていた。
メルと呼ばれた侍女については、ミリィ専属なのだと聞いた。
彼女は傭兵から侍女へ転職したらしい。没落こそしているが元々それなりの貴族だたったのだと本人が言っていた。
だから、一通りの礼儀作法は身についているから、転職はさして難しくはなかったのだと笑っていた。
傭兵時代の話を聞けば、一応通り名があったと言うから聞いてみれば、一時名をはせた名だった。
紅蓮ぐれん鉄壁てっぺき。私は、名前と功績しか知らなかったから、まず女性であったことに驚いた。そして、次に侍女として目の前にいることにも驚く。
紅蓮の鉄壁とは、護衛対象を守り抜く姿勢と功績からつけられたと聞いた。
彼女が護衛につけば安泰だと言われるほどだったらしい。
紅蓮とついているのは、本人が赤く血に染まっていた様を現しているのだと。因みに、本人の血ではなく返り血だと言うのが一般的な見解だった。
本人にそのことを興味本位で尋ねてみれば、笑ってごまかされた。
これは、深く追求しないのが身のためなのかもしれない。

カミラ殿下の部屋へと行くのにエスコートを申し出れば、迷う素振りをされ地味に凹んだ。
理由を尋ねてみれば、今のミリィはローブで目深にフードを被っているのだから、エスコートされているのはおかしいのではないかと言われ、納得するしかなかった。

「じゃあ、私の横を歩いて?」

そう、言ってみれば、戸惑いながらも了承の返事をもらえ少し安堵する。
そんな私をマルクスとメビウスは遠慮なく笑い、ヘーゼルとメルになんとも言えない視線を向けられた。

・・・うん。私自身もどうかとは思っているんだ。でも、傍にいたいのだから、仕方ないだろう。カミラ殿下の部屋に着けば、距離をとらざるを得ないだろうからな。

まぁ、そんなやりとりをしつつ、王族の執務室があるエリアへと足を踏み入れる。
近衛による身分の確認が行われ、無事に通過する。
これについては、心配はしていなかったが、ミリィがフードも取らず通過できたことには少なからず驚いた。
貴賓待遇とは、まさにこのことだなと思う。
マルクスとヘーゼルは、テイラー家縁の者としての印章を保持していたことにも少し驚いた。
メビウスとメルは、私とミリィの付き人として私の責任で身元を保障した。


こんこん

カミラ殿下の執務室の扉を軽く叩き返事を待てば、扉が開かれ侍従が顔を出す。

「シュトラウス辺境伯でしたか。残りの方々増えるとご連絡のあった方々ですか?」

侍従は少しばからり訝しんだ目線を送りながら聞き返してくる。

「ああ。テイラー家縁の者たちとこちらは国王の貴賓・・・かな」

貴賓といところで、ミリィを指し示しておく。
ミリィも印章が見えやすいように姿勢を調整している。

「左様ですか。少々お待ちください」

そう言って、侍従は一度部屋の中へと戻っていく。
暫くして再度扉が開かれ、部屋へと招き入れられる。

「皆様をお通しするようにとの事ですので、どうぞお入りください」

カミラの執務室は、人をもてなすためのエリアと実務を行うエリアに分かれており、今回は人をもてなすためのエリアに通される。
そこには既に、カミラの他に王太子殿下と第二王子殿下がそろっていた。

「遅かったな」

カミラにそう声をかけられ、小さく苦笑する。
多分時間通りのはずなのだが・・・そう思いながらも、頭を下げておく。
その間に、カミラは侍従へと人払いを命じ下がらせる。

「さてと。非公式だ。楽に話せ」

カミラの言葉に頭をあげ、一言言っておく。

「殿下方が早いだけです。私が遅いわけではありません」

そう言えば、カミラが笑いながら、許せ。と言うので、今回はしょうがないなと流しておく。

「さてと。何気に大所帯だなユミナ」

「そうですね。私も登城してから知りました」

私の言葉に、カミラは少しばかり意外そうな顔をしている。
まぁ、そうだな。普通私が招いたと思うよな。

「フードの彼女は兄上の客か?」

ミリィの胸元で揺れる印章に気づいたのかそう問いかけられる。

「そうですね。侯爵と陛下が認めた貴賓ではありますが、皆様ご存じの方ですよ」

私がそう言えば、殿下方は顔を見合わせ首をひねっている。
そのやりとりを大人しく見ていたミリィが私の袖を引き、私の前へと歩を進める。
そして、フードをそっと後ろへ落とせば、殿下方は驚き声を上げる。

「テイラー嬢か!」

「ミラ?!」

「ミラ・・・いや、テイラー嬢」

ミリィは、驚きの言葉を受け止め略式でありながらも丁寧な返答をしている。

「王弟殿下、王太子殿下、第二王子殿下。お久しぶりでございます。テイラー公爵家のミリュエラでございます」

ミリィの態度に、カミラは少し感心しているような表情をしている。
王太子殿下は、ミリィの前へと移動して来て顔を上げさせている。

「本当に久しぶりだね。とは言っても、私はつい最近まで忘れていたのだけれどね。ねぇ、昔のようにミラと呼んでもいいかな」

ミリィは、若干面食らっているようだが、頷きを返している。

「かまいませんわ。それに、私も忘れさせられていましたもの」

「そう。あ、非公式の場では、私のこともエーナスでいいよ」

王太子殿下は、普段よりも少し幼さを感じる笑顔でミリィと話している。
私は、少しの焦燥を感じながらも耐える。

「・・・テイラー嬢。すまない」

王太子殿下とミリィの軽いやりとりに気をとられていたため、第二王子殿下の動きに気付くのが遅れた。
気がつけば、ミリィへと深く頭を下げ謝罪を口にしている。

「・・・頭を上げてください。第二王子殿下。それに、何に対する謝罪ですの?」

ミリィが第二王子殿下へと向き直り、謝罪に対する疑問を告げている。
第二王子殿下は、頭を下げた姿勢のまま、ミリィこ問いへと答えている。

「君を貶める発言をした。それに、怪我を負わせてしまったから」

少し震えているような声で、第二王子殿下は簡潔に謝罪について説明する。
そこには、いいわけも余分な情報もなく、ただただ己の非を詫びている姿があった。

「・・・謝罪は受け取りますわ。けれど、そんなに気に病まなくてもよろしいのです。私があなた方の事を思い出すきっかけにもなりましたし。
何より、私自身がそれほど気にしていませんもの。ですから、よろしければ昔のようにミラと呼んでくださいな」

王太子殿下に目線で確認をし、ミリィは自らの手で第二王子殿下の頭を上げさせながら言葉を発している。

「それに・・・貴方の立場で軽々しく頭を下げてはいけませんわ。たとえ、非公式の場ででもですわ」

ミリィの言葉に、第二王子殿下は弱々しく笑みを浮かべる。

「俺のことも、デュオでかまわないよ。ミラ」

何だかなぁと思う。ミリィが過去に第一王子殿下と第二王子殿下と出会った話は聞いていたし、2人の殿下がミリィを大切な友人だと言っていたことも知ってはいた。
だから、目の前の光景も不思議に思うほどの事でもないし、想像も出来たであろう光景だ。
でもな。しかしだ。頭ではわかっていても、心が 不満と焦燥を感じている。
それだけ、ミリィと2人の殿下の距離は近かった。
久しく感じることのなかった感情に、少しばかり私は振り回され気味だ。
自身に自信がない故とわかっていながらも、彼女に対して自信を感じられる未来が想像できない。

3人の姿を視界に納めながら、私は鞘飾りに触れる。
不安がって、瞳に涙を浮かべながら、私の側にいてもいいのかと問うてきたミリィを思い出す。
好意の透ける表情で、秘密だと告げた彼女を。
そうして、自身の不満と焦燥をなだめていれば、カミラが呆れたように声をかけてきた。

「エーナスもデュオもこっちに来て座りなさい。
ユミナとテイラー嬢もそこに座るといい。
君たちは・・・」

カミラがヘーゼル達に目を向けていることに気づいたミリィが、彼らへ目配せし少しだけ下がらせる。

「彼らは、私の護衛と侍女です。マルクスはユミナ様のサポート・・・かしら?
・・・こほん。なので、お気になさらなくても大丈夫です」

ミリィの言葉にカミラは、頷きを返している。
私たちは、カミラの座る応接スペースへと向かい、其れ其れ腰を下ろす。

「さてと。そろそろ本題に入るとしよう」

カミラのその一言で、今日集まった目的である、第二王子殿下に関する話が始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...