79 / 146
Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
79.侯爵による閑話
しおりを挟む
テイラー侯爵。それが、わしが呼ばれておる名だ。
忘れられてないと良いが、まぁそれは些細なことだな。
わしは少々頭にきておる。
今回の騒動の終息に尽力した、シュトラウス辺境伯家を貶めようとしている輩にも、
我がテイラー家を貶めいようとしている輩にもだ。
身内びいきと呼ばれようが、シュトラウス辺境伯と孫のミリュエラは良い関係を築ていおるようだった。
にもかかわらず、今回の騒動をシュトラウス辺境伯による自作自演、あるいはミリュエラによる手引きがあったのではないかと言うものが現れた。
騒動が起こる前から怪しんでおったベルディナル公爵を含む第二王子派だけではなく、
全ての派閥から同じような疑惑が噴出した。
ただ、王を含むすべての王族がそれを否定しているから、わしは沈黙を守っておる。
そうでなければ、率先して報復という名の害虫駆除を行っておるだろう。
ミラが可愛いというのが7割程占めていることは否定せんが、そもそもそのような輩は王族にも毒になる。
己の利権のみを考え、国の利権など考えもせん。
国は民あってのものでもあるが、阿ればよいというものでもない。
我ら議席権を有する者と王族は、国のため民のために動かねばならん。
時に、非道になる必要もあるだろう。民は否と言いたい政策をとる必要もあるだろう。
そこに、己の矜持と誇りを持つべきであり、自らの利権を追求すべきものでない。
しかし、貴族の腐敗は進むばかりで、己の利権を求めるものが増えた。
ゆえに、民にはそれらが貴族らし貴族とみられておる。
そういう意味では、シュトラウス辺境伯は貴族らしからぬ貴族であった。
養うべきものがいる以上、多少の利権を求めることは致し方ない。
しかし、彼はそれ以上に辺境伯として、辺境を預かるものとしての矜持を兼ね備えていた。
国を守るとは何なのか。それを正しく理解し、大局を見据えておるように見える。
実は、辺境の問題を片付け、ミラと共に王都へとやってきたシュトラウス辺境伯には、ミラを危険に合わせ申し訳ないと言われた。
テイラー侯爵としてのわしは、この時ミラを優先的に選べなかった辺境伯の考えも思いも共感が持てるものであり、辺境を預かる者として当然であると思っていた。
しかし、ミラの祖父としてのわしは、少し意地の悪い質問をしてみた。
「ミラは優先すべきほどの存在ではなかったか?」
辺境伯は、ピキリと音がしそうなほど固まったが、わしの問いに素直に答えることにしたようだ。
側にいた、マルクスとヘーゼルが何か助言をしていたようだが、まぁそれにも驚いたが。
あの二人を名で呼び、二人も辺境伯を認めているようだったからの。
「私個人の感情は、ミリィ…ミリュエラ嬢を優先したい思いもありました。私がいち早く彼女を助けに行きたいと。しかし、私は辺境伯であり国境を預かる任を任されているものであるため、それはできませんでした。国境で明らかにこちらへ敵意を向けているものがいる以上、国を民を守らねばなりません。それは、辺境伯としての私の矜持です。辺境伯としてあそこにいた以上、私は個人として動くわけにはいかなかった」
辺境伯は、そこまで言うと拳を固く握り、俯いてしまった。
「侯爵。あまり、辺境伯を追い詰めるな」
「いじめはよくないな」
二人の言葉に、辺境伯は二人へと詰め寄り横に首を振っている。
まるで、そんなこと言う必要がないと言っているように。
「すまんの。別に攻めているわけではない。ただ、ちょっとした興味本位での」
わしの言葉にシュトラウス辺境伯は、苦笑をして見せる。
なんじゃ。少々つまらんの。わしの質問の意図をわかっていて答えてみせたか。
それに、ミラに対する己の後悔と葛藤は、本物のようだった。
何より他をなかなか認めぬ二人が彼を認めておる。
「ヘーゼルもマルクスも便宜上わしについておったが、己が仕えるものを決めたのか」
わしの言葉に、二人は真顔で見つめ返し、にやりと笑う。
名言こそされなかったが、その表情は明確に返事をしていおる。
ヘーゼルは娘を主と定め仕えていた。わしと妻は、ヘーゼルの過去を知ったうえで、それを許していた。
娘が死に、ミラをわしが引き取ってからは、邸で働いてはいた。
まぁ、わしに仕えていたかと言われれば、雇っていたという方が正しいかろう。
マルクスの詳細はわしは知らん。自分は使えるから雇えと言われ、身元は確かなものが保証した。実際使ってみれば、驚くほどの能力を発揮した。
まぁ、こやつこそ雇い雇われ関係であったろう。
その2人が仕えるものを決めた。喜ばしい反面、だれだか気になる。
まぁ、わしの前に姿を現しておるから、テイラー家に不利はないのであろう。
なんとなくだが、2人とは今後も付き合いが発生しそうな予感がある。
だから、2人を観察しておれば、仕えるものもわかるであろう。
そんな事を考えながら、仕事に戻るため辺境伯たちと別れることにした。
忘れられてないと良いが、まぁそれは些細なことだな。
わしは少々頭にきておる。
今回の騒動の終息に尽力した、シュトラウス辺境伯家を貶めようとしている輩にも、
我がテイラー家を貶めいようとしている輩にもだ。
身内びいきと呼ばれようが、シュトラウス辺境伯と孫のミリュエラは良い関係を築ていおるようだった。
にもかかわらず、今回の騒動をシュトラウス辺境伯による自作自演、あるいはミリュエラによる手引きがあったのではないかと言うものが現れた。
騒動が起こる前から怪しんでおったベルディナル公爵を含む第二王子派だけではなく、
全ての派閥から同じような疑惑が噴出した。
ただ、王を含むすべての王族がそれを否定しているから、わしは沈黙を守っておる。
そうでなければ、率先して報復という名の害虫駆除を行っておるだろう。
ミラが可愛いというのが7割程占めていることは否定せんが、そもそもそのような輩は王族にも毒になる。
己の利権のみを考え、国の利権など考えもせん。
国は民あってのものでもあるが、阿ればよいというものでもない。
我ら議席権を有する者と王族は、国のため民のために動かねばならん。
時に、非道になる必要もあるだろう。民は否と言いたい政策をとる必要もあるだろう。
そこに、己の矜持と誇りを持つべきであり、自らの利権を追求すべきものでない。
しかし、貴族の腐敗は進むばかりで、己の利権を求めるものが増えた。
ゆえに、民にはそれらが貴族らし貴族とみられておる。
そういう意味では、シュトラウス辺境伯は貴族らしからぬ貴族であった。
養うべきものがいる以上、多少の利権を求めることは致し方ない。
しかし、彼はそれ以上に辺境伯として、辺境を預かるものとしての矜持を兼ね備えていた。
国を守るとは何なのか。それを正しく理解し、大局を見据えておるように見える。
実は、辺境の問題を片付け、ミラと共に王都へとやってきたシュトラウス辺境伯には、ミラを危険に合わせ申し訳ないと言われた。
テイラー侯爵としてのわしは、この時ミラを優先的に選べなかった辺境伯の考えも思いも共感が持てるものであり、辺境を預かる者として当然であると思っていた。
しかし、ミラの祖父としてのわしは、少し意地の悪い質問をしてみた。
「ミラは優先すべきほどの存在ではなかったか?」
辺境伯は、ピキリと音がしそうなほど固まったが、わしの問いに素直に答えることにしたようだ。
側にいた、マルクスとヘーゼルが何か助言をしていたようだが、まぁそれにも驚いたが。
あの二人を名で呼び、二人も辺境伯を認めているようだったからの。
「私個人の感情は、ミリィ…ミリュエラ嬢を優先したい思いもありました。私がいち早く彼女を助けに行きたいと。しかし、私は辺境伯であり国境を預かる任を任されているものであるため、それはできませんでした。国境で明らかにこちらへ敵意を向けているものがいる以上、国を民を守らねばなりません。それは、辺境伯としての私の矜持です。辺境伯としてあそこにいた以上、私は個人として動くわけにはいかなかった」
辺境伯は、そこまで言うと拳を固く握り、俯いてしまった。
「侯爵。あまり、辺境伯を追い詰めるな」
「いじめはよくないな」
二人の言葉に、辺境伯は二人へと詰め寄り横に首を振っている。
まるで、そんなこと言う必要がないと言っているように。
「すまんの。別に攻めているわけではない。ただ、ちょっとした興味本位での」
わしの言葉にシュトラウス辺境伯は、苦笑をして見せる。
なんじゃ。少々つまらんの。わしの質問の意図をわかっていて答えてみせたか。
それに、ミラに対する己の後悔と葛藤は、本物のようだった。
何より他をなかなか認めぬ二人が彼を認めておる。
「ヘーゼルもマルクスも便宜上わしについておったが、己が仕えるものを決めたのか」
わしの言葉に、二人は真顔で見つめ返し、にやりと笑う。
名言こそされなかったが、その表情は明確に返事をしていおる。
ヘーゼルは娘を主と定め仕えていた。わしと妻は、ヘーゼルの過去を知ったうえで、それを許していた。
娘が死に、ミラをわしが引き取ってからは、邸で働いてはいた。
まぁ、わしに仕えていたかと言われれば、雇っていたという方が正しいかろう。
マルクスの詳細はわしは知らん。自分は使えるから雇えと言われ、身元は確かなものが保証した。実際使ってみれば、驚くほどの能力を発揮した。
まぁ、こやつこそ雇い雇われ関係であったろう。
その2人が仕えるものを決めた。喜ばしい反面、だれだか気になる。
まぁ、わしの前に姿を現しておるから、テイラー家に不利はないのであろう。
なんとなくだが、2人とは今後も付き合いが発生しそうな予感がある。
だから、2人を観察しておれば、仕えるものもわかるであろう。
そんな事を考えながら、仕事に戻るため辺境伯たちと別れることにした。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】引きこもり魔公爵は、召喚おひとり娘を手放せない!
文野さと@ぷんにゃご
恋愛
身寄りがなく、高卒で苦労しながらヘルパーをしていた美玲(みれい)は、ある日、倉庫の整理をしていたところ、誰かに呼ばれて異世界へ召喚されてしまった。
目が覚めた時に見たものは、絶世の美男、リュストレー。しかし、彼は偏屈、生活能力皆無、人間嫌いの引きこもり。
苦労人ゆえに、現実主義者の美玲は、元王太子のリュストレーに前向きになって、自分を現代日本へ返してもらおうとするが、彼には何か隠し事があるようで・・・。
正反対の二人。微妙に噛み合わない関わりの中から生まれるものは?
全39話。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる