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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
79.侯爵による閑話
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テイラー侯爵。それが、わしが呼ばれておる名だ。
忘れられてないと良いが、まぁそれは些細なことだな。
わしは少々頭にきておる。
今回の騒動の終息に尽力した、シュトラウス辺境伯家を貶めようとしている輩にも、
我がテイラー家を貶めいようとしている輩にもだ。
身内びいきと呼ばれようが、シュトラウス辺境伯と孫のミリュエラは良い関係を築ていおるようだった。
にもかかわらず、今回の騒動をシュトラウス辺境伯による自作自演、あるいはミリュエラによる手引きがあったのではないかと言うものが現れた。
騒動が起こる前から怪しんでおったベルディナル公爵を含む第二王子派だけではなく、
全ての派閥から同じような疑惑が噴出した。
ただ、王を含むすべての王族がそれを否定しているから、わしは沈黙を守っておる。
そうでなければ、率先して報復という名の害虫駆除を行っておるだろう。
ミラが可愛いというのが7割程占めていることは否定せんが、そもそもそのような輩は王族にも毒になる。
己の利権のみを考え、国の利権など考えもせん。
国は民あってのものでもあるが、阿ればよいというものでもない。
我ら議席権を有する者と王族は、国のため民のために動かねばならん。
時に、非道になる必要もあるだろう。民は否と言いたい政策をとる必要もあるだろう。
そこに、己の矜持と誇りを持つべきであり、自らの利権を追求すべきものでない。
しかし、貴族の腐敗は進むばかりで、己の利権を求めるものが増えた。
ゆえに、民にはそれらが貴族らし貴族とみられておる。
そういう意味では、シュトラウス辺境伯は貴族らしからぬ貴族であった。
養うべきものがいる以上、多少の利権を求めることは致し方ない。
しかし、彼はそれ以上に辺境伯として、辺境を預かるものとしての矜持を兼ね備えていた。
国を守るとは何なのか。それを正しく理解し、大局を見据えておるように見える。
実は、辺境の問題を片付け、ミラと共に王都へとやってきたシュトラウス辺境伯には、ミラを危険に合わせ申し訳ないと言われた。
テイラー侯爵としてのわしは、この時ミラを優先的に選べなかった辺境伯の考えも思いも共感が持てるものであり、辺境を預かる者として当然であると思っていた。
しかし、ミラの祖父としてのわしは、少し意地の悪い質問をしてみた。
「ミラは優先すべきほどの存在ではなかったか?」
辺境伯は、ピキリと音がしそうなほど固まったが、わしの問いに素直に答えることにしたようだ。
側にいた、マルクスとヘーゼルが何か助言をしていたようだが、まぁそれにも驚いたが。
あの二人を名で呼び、二人も辺境伯を認めているようだったからの。
「私個人の感情は、ミリィ…ミリュエラ嬢を優先したい思いもありました。私がいち早く彼女を助けに行きたいと。しかし、私は辺境伯であり国境を預かる任を任されているものであるため、それはできませんでした。国境で明らかにこちらへ敵意を向けているものがいる以上、国を民を守らねばなりません。それは、辺境伯としての私の矜持です。辺境伯としてあそこにいた以上、私は個人として動くわけにはいかなかった」
辺境伯は、そこまで言うと拳を固く握り、俯いてしまった。
「侯爵。あまり、辺境伯を追い詰めるな」
「いじめはよくないな」
二人の言葉に、辺境伯は二人へと詰め寄り横に首を振っている。
まるで、そんなこと言う必要がないと言っているように。
「すまんの。別に攻めているわけではない。ただ、ちょっとした興味本位での」
わしの言葉にシュトラウス辺境伯は、苦笑をして見せる。
なんじゃ。少々つまらんの。わしの質問の意図をわかっていて答えてみせたか。
それに、ミラに対する己の後悔と葛藤は、本物のようだった。
何より他をなかなか認めぬ二人が彼を認めておる。
「ヘーゼルもマルクスも便宜上わしについておったが、己が仕えるものを決めたのか」
わしの言葉に、二人は真顔で見つめ返し、にやりと笑う。
名言こそされなかったが、その表情は明確に返事をしていおる。
ヘーゼルは娘を主と定め仕えていた。わしと妻は、ヘーゼルの過去を知ったうえで、それを許していた。
娘が死に、ミラをわしが引き取ってからは、邸で働いてはいた。
まぁ、わしに仕えていたかと言われれば、雇っていたという方が正しいかろう。
マルクスの詳細はわしは知らん。自分は使えるから雇えと言われ、身元は確かなものが保証した。実際使ってみれば、驚くほどの能力を発揮した。
まぁ、こやつこそ雇い雇われ関係であったろう。
その2人が仕えるものを決めた。喜ばしい反面、だれだか気になる。
まぁ、わしの前に姿を現しておるから、テイラー家に不利はないのであろう。
なんとなくだが、2人とは今後も付き合いが発生しそうな予感がある。
だから、2人を観察しておれば、仕えるものもわかるであろう。
そんな事を考えながら、仕事に戻るため辺境伯たちと別れることにした。
忘れられてないと良いが、まぁそれは些細なことだな。
わしは少々頭にきておる。
今回の騒動の終息に尽力した、シュトラウス辺境伯家を貶めようとしている輩にも、
我がテイラー家を貶めいようとしている輩にもだ。
身内びいきと呼ばれようが、シュトラウス辺境伯と孫のミリュエラは良い関係を築ていおるようだった。
にもかかわらず、今回の騒動をシュトラウス辺境伯による自作自演、あるいはミリュエラによる手引きがあったのではないかと言うものが現れた。
騒動が起こる前から怪しんでおったベルディナル公爵を含む第二王子派だけではなく、
全ての派閥から同じような疑惑が噴出した。
ただ、王を含むすべての王族がそれを否定しているから、わしは沈黙を守っておる。
そうでなければ、率先して報復という名の害虫駆除を行っておるだろう。
ミラが可愛いというのが7割程占めていることは否定せんが、そもそもそのような輩は王族にも毒になる。
己の利権のみを考え、国の利権など考えもせん。
国は民あってのものでもあるが、阿ればよいというものでもない。
我ら議席権を有する者と王族は、国のため民のために動かねばならん。
時に、非道になる必要もあるだろう。民は否と言いたい政策をとる必要もあるだろう。
そこに、己の矜持と誇りを持つべきであり、自らの利権を追求すべきものでない。
しかし、貴族の腐敗は進むばかりで、己の利権を求めるものが増えた。
ゆえに、民にはそれらが貴族らし貴族とみられておる。
そういう意味では、シュトラウス辺境伯は貴族らしからぬ貴族であった。
養うべきものがいる以上、多少の利権を求めることは致し方ない。
しかし、彼はそれ以上に辺境伯として、辺境を預かるものとしての矜持を兼ね備えていた。
国を守るとは何なのか。それを正しく理解し、大局を見据えておるように見える。
実は、辺境の問題を片付け、ミラと共に王都へとやってきたシュトラウス辺境伯には、ミラを危険に合わせ申し訳ないと言われた。
テイラー侯爵としてのわしは、この時ミラを優先的に選べなかった辺境伯の考えも思いも共感が持てるものであり、辺境を預かる者として当然であると思っていた。
しかし、ミラの祖父としてのわしは、少し意地の悪い質問をしてみた。
「ミラは優先すべきほどの存在ではなかったか?」
辺境伯は、ピキリと音がしそうなほど固まったが、わしの問いに素直に答えることにしたようだ。
側にいた、マルクスとヘーゼルが何か助言をしていたようだが、まぁそれにも驚いたが。
あの二人を名で呼び、二人も辺境伯を認めているようだったからの。
「私個人の感情は、ミリィ…ミリュエラ嬢を優先したい思いもありました。私がいち早く彼女を助けに行きたいと。しかし、私は辺境伯であり国境を預かる任を任されているものであるため、それはできませんでした。国境で明らかにこちらへ敵意を向けているものがいる以上、国を民を守らねばなりません。それは、辺境伯としての私の矜持です。辺境伯としてあそこにいた以上、私は個人として動くわけにはいかなかった」
辺境伯は、そこまで言うと拳を固く握り、俯いてしまった。
「侯爵。あまり、辺境伯を追い詰めるな」
「いじめはよくないな」
二人の言葉に、辺境伯は二人へと詰め寄り横に首を振っている。
まるで、そんなこと言う必要がないと言っているように。
「すまんの。別に攻めているわけではない。ただ、ちょっとした興味本位での」
わしの言葉にシュトラウス辺境伯は、苦笑をして見せる。
なんじゃ。少々つまらんの。わしの質問の意図をわかっていて答えてみせたか。
それに、ミラに対する己の後悔と葛藤は、本物のようだった。
何より他をなかなか認めぬ二人が彼を認めておる。
「ヘーゼルもマルクスも便宜上わしについておったが、己が仕えるものを決めたのか」
わしの言葉に、二人は真顔で見つめ返し、にやりと笑う。
名言こそされなかったが、その表情は明確に返事をしていおる。
ヘーゼルは娘を主と定め仕えていた。わしと妻は、ヘーゼルの過去を知ったうえで、それを許していた。
娘が死に、ミラをわしが引き取ってからは、邸で働いてはいた。
まぁ、わしに仕えていたかと言われれば、雇っていたという方が正しいかろう。
マルクスの詳細はわしは知らん。自分は使えるから雇えと言われ、身元は確かなものが保証した。実際使ってみれば、驚くほどの能力を発揮した。
まぁ、こやつこそ雇い雇われ関係であったろう。
その2人が仕えるものを決めた。喜ばしい反面、だれだか気になる。
まぁ、わしの前に姿を現しておるから、テイラー家に不利はないのであろう。
なんとなくだが、2人とは今後も付き合いが発生しそうな予感がある。
だから、2人を観察しておれば、仕えるものもわかるであろう。
そんな事を考えながら、仕事に戻るため辺境伯たちと別れることにした。
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