貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~

76.伍長による閑話

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俺の名は、ハインリッヒ・メビウス。
軍属で伍長を賜っている。役持ちでは、下位の部類だが責任が軽いと思えば悪くない立ち位置だ。
いや、立ち位置のはずだった。

伍長であれば、一個師団を率いることもなくはない。が、頻繁ではない。
にもかかわらず、ここ数年は軍を率いることが増えた。
策を考え、敵が策にはまるのは気分が良い。俺も中々捨てたものではないと思えたからな。
ただ、其れも続けば精神が疲弊する。
軍に所属する以上、命のやり取りは覚悟している。それに、呵責もないと思っていた。
だが、次第に心は摩耗するのだと知った。
敵の命を奪うことではなく、己の命が狩られるかもしれないという緊張と恐怖からだ。
己が奪う分だけ己が奪われる可能性があるのだと気づいた。

まぁ、だからどうしたって話なんだがな。軍属を止める気はなかったわけだし。
そうこうしているうちに、メビウス伍長と言う名が戦場では、畏怖の象徴として語られるようになった。
そして、若い将校や一般兵達からの羨望の的となる。わりと不本意ながら。
若い将校や一般兵との交流が増えた。そうすると知らなくてもいい話を聞く羽目になるわけで。


リヒテンシュタイン少将。それなりに、男尊女卑があるわが国では、珍しい女性少将だ。
俺も名前と姿形は知っている。俺にとってはその程度の認識しか持つ必要を感じなかった人物だった。

彼女は男女関係なく羨望の的であった。
彼女の功績と統率力。戦乙女として前線を舞うようにかけるのだと。

その話に俺は眉をひそめた。だってな、何を羨望すればいいのかわからないんだ。

彼女は確かに戦闘力はそれなりに高い。
女のしなやかさを最大限に活かした身のこなしと剣技。
重さは無いが数で責めるタイプだ。
だが、あくまでそれなりというレベルであり、飛び抜ける何かはない。
それに、彼女の功績と統率力は魔力によるものだ。
何でそんなことがわかるかだと?
そうだな、俺が人としては珍しい魔力保持者で扱い方を知っているからだな。
まぁ、そんなことはいい。今は、彼女のことだ。

彼女の扱える魔法は3つ。
魅了魔法、拡声魔法、遠望魔法だ。

拡声魔法は、己の声を拡声できる。自分以外は出来ない。
至って限定的な効果のみを発する。

遠望魔法は、名の通り遠くを見る事が出来る。
だが、ただそれだけだ。人の目が認識できる範囲で遠くの景色を近くのように見えるだけ。透視や多角的に見ることはできない。

魅了魔法。彼女が扱う魔法で一番厄介なものだ。
いくつか系統が存在する魔法だが、彼女の魅了は複合型だ。
まず、己の色香を最大限に引き出すことに魔力が使われる。
彼女の肢体は、彼女の努力と言うよりは魔力によるものであろう。
女性としてのしなやかさを失わない程度に、鍛えあげられた筋肉。くびれた腰。柔らかそうで豊満な胸元。丸みを帯びた尻。細すぎず、太すぎない手足。厳しさと優しさを合わせ持つ容姿。
挙げればきりが無いほど、妖艶な女性としてほぼ完璧さを保っている。
彼女の振りまく色香は、魔力が許す限り彼女の思いのままに広がる。感じさせる色香の強弱も思いのままだ。
色香からは、快楽を予感させられる。彼女の肢体と色香によって至高の快楽を夢想する。いや、夢想させられる。
あの豊満な胸元に埋もれてみたい。思うままに、もみしだいてみたい。
丸みの帯びた尻を撫で繰り回したい。出来ればその奥すらも撫で繰り回したい。
厚く艶のある唇を食らい付き貪り尽くしたい。
そんな思考で頭が締められる。彼女との情事を強制的に考えさせられる。
しかも、男女関係なく、己の嗜好も関係ない。彼女の色香に捕らえられば、そんなことは些末なことになる。
これが、魅了魔法だ。そして、人とは愚かしいもので、夢想だと持っていても期待してしまう。
それは、いつしか羨望となり信仰になる。
彼女の気まぐれで、夢想が現実なる例でもあれば、もっと強固なものになる。

もう、わかるだろう。彼女の統率力の正体は魅了魔法。
色香と快楽によっての統率だ。魅了魔法がきれれば、それでおしまいという危うさの上にある。
ついでに言えば、彼女の強さも魅了魔法によるものだ。
彼女自身の努力も多少はあるだろうが、相手を魅了し倒す。だいたい、このパターンで彼女は勝利を得ている。
労する策もたいしたものではないし、どちらかと言えば彼女は阿呆だ。
にもかかわらず、負け知らずな上に、こちらに有利な条件で勝利を収めるものだから、知将とか言われていてどうしたものかと思わずにはいられない。


因みに俺は、魔力抵抗もそれなりに高いので、彼女の魅了は基本的には効果が無い。
だが、怒りにまかせて振りまく魔力は相当で、俺には抵抗しきれない。
だから、俺は彼女との同一戦線には立たない。何だかんだと理由を付けて、のらりくらりと避け続けていた。
にもかかわらず、今回は同一戦線に立たされる羽目になった。国王バカの勅命だから断るわけにもいかない。

どうしたものかと考えあぐねていれば、ミール大佐阿呆がアホくさい作戦を考え、俺に実行させる。
あの冷徹無情で名高いユミナ・シュトラウス辺境伯を、たかが人質1人で自由に出来るわけ無いだろう。
そもそも、辺境を守護するものが個人の感情で動くわけがないというのが、わからないのか?
まぁ、冷徹無情ではないみたいだが。
それより俺は、人質にした令嬢に興味がわいた。
無表情で冷静。現状を理解し己で思考する。我が国には、なかなかいないタイプだ。
何度か魔族の通信装置で外と連絡を取っていたのは知っていた。
盗み聞きをしようとしたが、同時に盗聴防止もしていたから出来ていない。
ただ、彼女との会話は楽しく、何度か口を滑らしそうになったのは危なかった。
気づけば、人質という意外の理由で彼女の身を守っていた。
そんなだから、魔族によって彼女が連れ去られた時は、内心かなり焦っていた。
まぁ、俺より先に彼女の身内が助けたわけだけれど。
傷だらけの彼女を見たときには、腸が煮えくりかえるかと思うほどの怒りに襲われて困惑した。
何故俺は、こんなにも怒りを感じているのかと。答えは、未だに出ていない。

直ぐ側に癒しの気配のある魔力を感じたから、彼女の身はそれ程心配していなかったが、戦場から遠望魔法で彼女の姿を確認した時には安堵を感じた。

俺は、この時リヒテンシュタイン少将とは距離をとっていた。
具体的に言えば、自軍の左翼。それも、それなりに距離をとって展開していた。
それでも、少将の魅了魔法に侵されるものがいた。
俺自身も一瞬危うかったが、直ぐに薄れた。
なにがあったかはわからないが、あたりに漂っていた色香の魔力が跡形も無く消えていた。
敗戦の色を感じた俺は、部下たちに隙に行動するよう指示を出す。

そして、俺は色香を払った存在等、敵方に興味を持ったから、投降する旨を告げる。
どう、投降するかを考えていれば、視界の隅に令嬢を助けに来た一人の姿と捕らえる。

降参と投降の意味を表す白い布を懐から取り出し、大きくふり仰ぐ。
戦場では、白い布をふり仰ぐものを傷受けてはならないのと同じだけ、無視してもならない。
相手もその意図をくみ取ったのか、こちらに近づいてくる。

さて、どう有利に進めようか。
わからない心の動きを令嬢で確認もしたいし、
魅了を散らした存在も気になる

これから、忙しくなりそうだ。
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