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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
67.侯爵令嬢の帰還と目覚め
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私のたった一人の鴉・・・か。母様も上手いことを言いますわ。
彼にはピッタリで、母様はきっと彼の過去も知っていたのでしょうね。
長い夢から目覚めれば、目の前には夢の中で思い出した男の姿見があった。
「私のたった一人の鴉」
そう、呟けば、男は驚いたように、私を振り返る。
普段は、能面のように表情を変えませんのに。
「私のたった一人の鴉。母様が言っていましたわ。あなただったのですね。ヘーゼル」
男・・・ヘーゼルは、ピクリと表情を動かし、私を見つめている。
私は、気にすることなく言葉を続ける。
「母様が生前によく言っていました。
母様にはとても強いお友達がいるのよって。
父様とは違った意味だけれど大切な人だと」
ヘーゼルは、少しだけ表情を緩め、そうかと呟いている。
彼の話をするときの母様には、とても穏やかな顔をしていたわ。
「母様は、絶対に誰なのかは教えてくださいませんでしたから、何処の誰なのか一切わからなかったのですけれど、ヘーゼルだったのですね。
幼き頃に、何度か会っていましたのに、今の今まで思いもしませんでしたわ」
そう。私とクルツは、母様や父様と一緒に、ヘーゼルと会っていた。
父様や母様が家を空けるときは、必ずと言っていいほど、ヘーゼルが子守をして下さっていましたのに。
それに、私たちが危険に晒されるときは、いの一番に助けてくれていましたのに。
綺麗さっぱり忘れていましたわね。
「良い記憶ばかりではない。忘れていれば良かったものを」
ヘーゼルの言葉に、私は緩く首を振る。
「確かに、あなたの記憶は、良いものばかりではありませんけれど、思い出せて良かったですわ。
母様が友と呼ぶ大切な人だったのですもの」
そう、答えれば、ヘーゼルがピキリと固まったのがわかる。
暫くして、ぎぎっという音がしそうな動きで、横を向く。
「辺境伯。彼女が目覚めた」
「君は、そこで私にふるのか」
ヘーゼルの言葉とその返答に私は慌てて、起き上がろうとする。
「え?ユミナ様?え・・・痛っ!」
左腕に鈍い痛みが走る。
思わず、引き上げた腕にバランスを崩し、寝かされていた場所から落ちそうになる。
あ・・・と思い、落ちる痛みを耐えるために、両目をつむる。
しかし、痛みは襲ってこず、暖かな何かにぶつかる。
「危ない。傷が癒えきっていないのだから、無理はしないで」
目の前の触れている暖かなものから、直接響いてきた声で、ユミナ様に受け止められたのだと理解する。
「どうして、ユミナ様が?」
それと、同時にどうしてユミナ様がいるのか戸惑う。
それに、ここは何処なのだろうと、遅まきながらも思う。
「ここは、北方砦だよ。救出した君をヘーゼルとマルクスがここに連れてきた。
・・・無事で良かった」
そう言って、ユミナ様は私を抱きしめました。
私、そうとうご心配をおかけしてしまったのですわね。
記憶を辿れば、魔族に追い詰められ、マルクスとヘーゼルに助けられた後の記憶が曖昧だった。
夢現に、精霊魔族と会話をした記憶もあった。
そんな事をユミナ様の腕の中で、思い出していれば腕に更に力が込められる。
「ユ、ユミナ様。苦しいですわ」
私の言葉に、ユミナ様は腕の力を緩めてくださる。
でも、私を開放する気はないようで、抱きしめられたまま。
「すまない」
ユミナ様、それきり何も仰ることなく、私を抱きしめていらっしゃいました。
最初は、私もユミナ様の暖かさに安堵し、生きてまた会えたことを噛みしめていました。
けれど・・・流石に恥ずかしくなってきましたわ。
それに、ユミナ様が何もおっしゃらなくなったのも少し心配。
私は、助けを求めるように顔を動かせば、呆れたような顔をしたヘーゼルが目に入る。
暫く私が見つめていれば、ヘーゼルと目が合う。
すると、小さく息を吐き、ユミナ様に声を掛けてくれる。
「辺境伯。そろそろ、離してやれ」
ヘーゼルの言葉にのろのろとユミナ様が離れて行かれます。
離れていく熱に、少しばかり名残惜しさを感じつつ、ユミナ様と顔を合わせます。
少し疲れを覗かせるユミナ様。
辺境伯としての責務だけでも、大変ですのに、私は多大な心配をかけてしまったのですわね。
この緊急事態に、私は辺境伯であるユミナ様の重荷となってしまいましたわ。
それも、私の油断によって。不甲斐ないですわね。
そう思いながらも、ユミナ様を真っ直ぐ見つめ口を開く。
「ただいま戻りましたわ。ユミナ様。ご心配おかけして申し訳ありません」
私の言葉に、ユミナ様は優しく微笑んで、お帰りとおっしゃって下さいました。
彼にはピッタリで、母様はきっと彼の過去も知っていたのでしょうね。
長い夢から目覚めれば、目の前には夢の中で思い出した男の姿見があった。
「私のたった一人の鴉」
そう、呟けば、男は驚いたように、私を振り返る。
普段は、能面のように表情を変えませんのに。
「私のたった一人の鴉。母様が言っていましたわ。あなただったのですね。ヘーゼル」
男・・・ヘーゼルは、ピクリと表情を動かし、私を見つめている。
私は、気にすることなく言葉を続ける。
「母様が生前によく言っていました。
母様にはとても強いお友達がいるのよって。
父様とは違った意味だけれど大切な人だと」
ヘーゼルは、少しだけ表情を緩め、そうかと呟いている。
彼の話をするときの母様には、とても穏やかな顔をしていたわ。
「母様は、絶対に誰なのかは教えてくださいませんでしたから、何処の誰なのか一切わからなかったのですけれど、ヘーゼルだったのですね。
幼き頃に、何度か会っていましたのに、今の今まで思いもしませんでしたわ」
そう。私とクルツは、母様や父様と一緒に、ヘーゼルと会っていた。
父様や母様が家を空けるときは、必ずと言っていいほど、ヘーゼルが子守をして下さっていましたのに。
それに、私たちが危険に晒されるときは、いの一番に助けてくれていましたのに。
綺麗さっぱり忘れていましたわね。
「良い記憶ばかりではない。忘れていれば良かったものを」
ヘーゼルの言葉に、私は緩く首を振る。
「確かに、あなたの記憶は、良いものばかりではありませんけれど、思い出せて良かったですわ。
母様が友と呼ぶ大切な人だったのですもの」
そう、答えれば、ヘーゼルがピキリと固まったのがわかる。
暫くして、ぎぎっという音がしそうな動きで、横を向く。
「辺境伯。彼女が目覚めた」
「君は、そこで私にふるのか」
ヘーゼルの言葉とその返答に私は慌てて、起き上がろうとする。
「え?ユミナ様?え・・・痛っ!」
左腕に鈍い痛みが走る。
思わず、引き上げた腕にバランスを崩し、寝かされていた場所から落ちそうになる。
あ・・・と思い、落ちる痛みを耐えるために、両目をつむる。
しかし、痛みは襲ってこず、暖かな何かにぶつかる。
「危ない。傷が癒えきっていないのだから、無理はしないで」
目の前の触れている暖かなものから、直接響いてきた声で、ユミナ様に受け止められたのだと理解する。
「どうして、ユミナ様が?」
それと、同時にどうしてユミナ様がいるのか戸惑う。
それに、ここは何処なのだろうと、遅まきながらも思う。
「ここは、北方砦だよ。救出した君をヘーゼルとマルクスがここに連れてきた。
・・・無事で良かった」
そう言って、ユミナ様は私を抱きしめました。
私、そうとうご心配をおかけしてしまったのですわね。
記憶を辿れば、魔族に追い詰められ、マルクスとヘーゼルに助けられた後の記憶が曖昧だった。
夢現に、精霊魔族と会話をした記憶もあった。
そんな事をユミナ様の腕の中で、思い出していれば腕に更に力が込められる。
「ユ、ユミナ様。苦しいですわ」
私の言葉に、ユミナ様は腕の力を緩めてくださる。
でも、私を開放する気はないようで、抱きしめられたまま。
「すまない」
ユミナ様、それきり何も仰ることなく、私を抱きしめていらっしゃいました。
最初は、私もユミナ様の暖かさに安堵し、生きてまた会えたことを噛みしめていました。
けれど・・・流石に恥ずかしくなってきましたわ。
それに、ユミナ様が何もおっしゃらなくなったのも少し心配。
私は、助けを求めるように顔を動かせば、呆れたような顔をしたヘーゼルが目に入る。
暫く私が見つめていれば、ヘーゼルと目が合う。
すると、小さく息を吐き、ユミナ様に声を掛けてくれる。
「辺境伯。そろそろ、離してやれ」
ヘーゼルの言葉にのろのろとユミナ様が離れて行かれます。
離れていく熱に、少しばかり名残惜しさを感じつつ、ユミナ様と顔を合わせます。
少し疲れを覗かせるユミナ様。
辺境伯としての責務だけでも、大変ですのに、私は多大な心配をかけてしまったのですわね。
この緊急事態に、私は辺境伯であるユミナ様の重荷となってしまいましたわ。
それも、私の油断によって。不甲斐ないですわね。
そう思いながらも、ユミナ様を真っ直ぐ見つめ口を開く。
「ただいま戻りましたわ。ユミナ様。ご心配おかけして申し訳ありません」
私の言葉に、ユミナ様は優しく微笑んで、お帰りとおっしゃって下さいました。
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