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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
66.目覚め(ユミナ視点)
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私は場違いではないのか?
背後で空気の動く気配がする。
私は、ゆっくりと目を開き振り返る。
「ヘーゼル、何かあったか」
「彼女を見に来た」
そう言い、彼はミリィのそばまで歩いていく。
「ああ。そう言えばマルクスに伝言を頼まれていたのだった。
ミラルドが例の村の後処理を終えた。明日帰途につく」
さもついでとばかりの報告に、少しばかり苦笑を漏らす。
「辺境伯としては、その報告は重要なんだがな」
ヘーゼルは、ミリィへ触れることはなく、つかず離れずの距離で彼女を見守っている。
私は、しばらく彼を見つめていたが、良い機会だと聞いておきたい事を聞いてみた。
「ひとついいか。ヘーゼルにとってミリィはどう言う存在なんだい」
ヘーゼルは、ミリィから目を離し、私に目を向ける。
質問の意図を値踏みするように、こちらを暫く観察していたが、ふっと息を吐き答えてくれた。
「忘れ形見。彼女は彼女の忘れ形見だ。そして、自分が認めた数少ない人だな」
ヘーゼルの答えに、少しばかり目を見張る。
彼の年齢は、ミリィの親ぐらいだとは思ってはいた。
しかし、母親と接点があるとは思っていなかった。
『彼女の』は、ミリィの母親を指しているのだろう。
「私のたった一人の鴉」
そこに、女性の呟くような声が割り込んできた。
ヘーゼルは、ハッとしたように、ミリィを振り返っている。
「私のたった一人の鴉。母様が言っていましたわ。あなただったのですね。ヘーゼル」
ミリィは、夢現と言った風に、呟いている。
「母様が生前によく言っていました。
母様にはとても強いお友達がいるのよって。
父様とは違った意味だけれど大切な人だと」
ヘーゼルは、ミリィを見つめ、そうかと言っている。
否定をしないあたりミリィの母親とヘーゼルは知り合いだったのだろう。
「母様は、絶対に誰なのかは教えてくださいませんでしたから、何処の誰なのか一切わからなかったのですけれど、ヘーゼルだったのですね。
幼き頃に、何度か会っていましたのに、今の今まで思いもしませんでしたわ」
ミリィの言葉に、違和感を覚えるが、異能が発動したのだろうと思いいたる。
それにしても、ミリィの事は心配だが、私は場違いではないか?
「良い記憶ばかりではない。忘れていれば良かったものを」
「確かに、あなたの記憶は、良いものばかりではありませんけれど、思い出せて良かったですわ。
母様が友と呼ぶ大切な人だったのですもの」
どう答えたらと、考えあぐねたのか、ヘーゼルは私へと顔を向ける。
「辺境伯。彼女が目覚めた」
「君は、そこで私にふるのか」
ヘーゼルの言葉に苦笑を返す。
言われなくとも、直ぐ側で話を聞いていたのだから、わかっている。
「え?ユミナ様?え・・・痛っ!」
慌てて起き上がろうとした、彼女は腕に痛みが走ったのか、バランスを崩して長椅子から落ちそうになる。
私は、慌ててミリィを抱きとめる。
「危ない。傷が癒えきっていないのだから、無理はしないで」
「どうして、ユミナ様が?」
私の腕の中で、ミリィは戸惑いを感じているようだ。
「ここは、北方砦だよ。救出した君をヘーゼルとマルクスがここに連れてきた。
・・・無事で良かった」
存在を確かめるように、腕の中のミリィを更に抱きこむ。
ただ、眠っているだけだとわかっていても、目覚めない彼女に不安は募っていった。
このまま目覚めないのではないかと思い、何度否定したかわからない。
本当に、無事てよかった・・・
「ユ、ユミナ様。苦しいですわ」
ミリィの言葉に、ハッとして、抱き込んだまま腕をゆるめる。
「すまない」
それきり、言葉をなくした私に、ミリィが戸惑いを感じていることに気づきながら、暫く動けないでいた。
ミリィに助けを求められたのか、
呆れたようなヘーゼルに、離してやれと声を掛けられるまで、私はミリィを腕に抱きしめたまま、離さなかった。
背後で空気の動く気配がする。
私は、ゆっくりと目を開き振り返る。
「ヘーゼル、何かあったか」
「彼女を見に来た」
そう言い、彼はミリィのそばまで歩いていく。
「ああ。そう言えばマルクスに伝言を頼まれていたのだった。
ミラルドが例の村の後処理を終えた。明日帰途につく」
さもついでとばかりの報告に、少しばかり苦笑を漏らす。
「辺境伯としては、その報告は重要なんだがな」
ヘーゼルは、ミリィへ触れることはなく、つかず離れずの距離で彼女を見守っている。
私は、しばらく彼を見つめていたが、良い機会だと聞いておきたい事を聞いてみた。
「ひとついいか。ヘーゼルにとってミリィはどう言う存在なんだい」
ヘーゼルは、ミリィから目を離し、私に目を向ける。
質問の意図を値踏みするように、こちらを暫く観察していたが、ふっと息を吐き答えてくれた。
「忘れ形見。彼女は彼女の忘れ形見だ。そして、自分が認めた数少ない人だな」
ヘーゼルの答えに、少しばかり目を見張る。
彼の年齢は、ミリィの親ぐらいだとは思ってはいた。
しかし、母親と接点があるとは思っていなかった。
『彼女の』は、ミリィの母親を指しているのだろう。
「私のたった一人の鴉」
そこに、女性の呟くような声が割り込んできた。
ヘーゼルは、ハッとしたように、ミリィを振り返っている。
「私のたった一人の鴉。母様が言っていましたわ。あなただったのですね。ヘーゼル」
ミリィは、夢現と言った風に、呟いている。
「母様が生前によく言っていました。
母様にはとても強いお友達がいるのよって。
父様とは違った意味だけれど大切な人だと」
ヘーゼルは、ミリィを見つめ、そうかと言っている。
否定をしないあたりミリィの母親とヘーゼルは知り合いだったのだろう。
「母様は、絶対に誰なのかは教えてくださいませんでしたから、何処の誰なのか一切わからなかったのですけれど、ヘーゼルだったのですね。
幼き頃に、何度か会っていましたのに、今の今まで思いもしませんでしたわ」
ミリィの言葉に、違和感を覚えるが、異能が発動したのだろうと思いいたる。
それにしても、ミリィの事は心配だが、私は場違いではないか?
「良い記憶ばかりではない。忘れていれば良かったものを」
「確かに、あなたの記憶は、良いものばかりではありませんけれど、思い出せて良かったですわ。
母様が友と呼ぶ大切な人だったのですもの」
どう答えたらと、考えあぐねたのか、ヘーゼルは私へと顔を向ける。
「辺境伯。彼女が目覚めた」
「君は、そこで私にふるのか」
ヘーゼルの言葉に苦笑を返す。
言われなくとも、直ぐ側で話を聞いていたのだから、わかっている。
「え?ユミナ様?え・・・痛っ!」
慌てて起き上がろうとした、彼女は腕に痛みが走ったのか、バランスを崩して長椅子から落ちそうになる。
私は、慌ててミリィを抱きとめる。
「危ない。傷が癒えきっていないのだから、無理はしないで」
「どうして、ユミナ様が?」
私の腕の中で、ミリィは戸惑いを感じているようだ。
「ここは、北方砦だよ。救出した君をヘーゼルとマルクスがここに連れてきた。
・・・無事で良かった」
存在を確かめるように、腕の中のミリィを更に抱きこむ。
ただ、眠っているだけだとわかっていても、目覚めない彼女に不安は募っていった。
このまま目覚めないのではないかと思い、何度否定したかわからない。
本当に、無事てよかった・・・
「ユ、ユミナ様。苦しいですわ」
ミリィの言葉に、ハッとして、抱き込んだまま腕をゆるめる。
「すまない」
それきり、言葉をなくした私に、ミリィが戸惑いを感じていることに気づきながら、暫く動けないでいた。
ミリィに助けを求められたのか、
呆れたようなヘーゼルに、離してやれと声を掛けられるまで、私はミリィを腕に抱きしめたまま、離さなかった。
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