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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
61.囚われの侯爵令嬢⑦(ユミナ視点)
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もっと私が身軽であれば良かったのに
「すまない。もう一度いってくれるか」
私は、報告された内容を信じたくない思いで、聞き返していた。
「ミリュエラお嬢様が攫われて、かの村に囚われている」
「何故と聞いたら答えは得られるか?」
私は、荒れ狂う感情をなんとか飲み込み、報告をあげるヘーゼルを見つめる。
「是。彼女は、辺境伯への脅しとけん制に使われるために攫われた」
私への脅しとけん制だと?
それが、有効だと思われているのか?
「確かに痛いところを突かれている。が、それが有効だと思われているのか」
ミリィの事は、心配だし、私個人としては、今すぐ助けに行きたい。
しかし、私は辺境伯だ。国の国境を任され、防衛の一端を担っている。
一個人として動ける立場にはない。否。動いてはならない。
「是。あの大佐はそう考えている。伍長は、あまり有効だとは考えていないようだ」
「辺境伯を名乗る者として、一人の令嬢と国の大多数の命を天秤にかけることはできない」
自分の言葉をミリィが聞いたら、本当に嫌われるかもしれない。
そう、思わないでもないし、嫌われたくないという思いもある。
それでも、見知らぬ誰かの命だからとミリィの命を選べない。
一人の男して、ミリィを助けたい。
辺境伯として、守らねばならぬものもある。
答えの出せぬ葛藤に、拳を握りしめ爪が食い込む。
私がただの貴族でもっと身軽であったなら、ミリィを助けに走れるのに・・・
「辺境伯。少し力を抜け。辺境伯が彼女を思うように、我らにとっても彼女は大切な存在だ」
ヘーゼルの言葉に、私は顔を上げる。
「一人の男と辺境伯としての立場にゆれ、辺境伯としの矜持を保とうとする君になら伝えても良いだろう。彼女からの伝言だ」
ヘーゼルは、少しニヤリと顔をゆがめ、ミリィの言葉を私に伝える。
伝えられた言葉に、私は苦笑を浮かべるしかなかった。
気高く美しいとは、彼女のようなものを言うのかもしれない。
ーーー私は大丈夫ですわ。私のことは、ヘーゼルとマルクスがどうにかしてくれますから、ユミナ様はユミナ様のなさるべき事をなさって下さい。
そう言われてしまったら、ユミナとしては動けない。
シュトラウス辺境伯として動くしかなくなるじゃないか。
「ミリィは、けして強いわけではないのに強いな」
私は少し矛盾したことを思う。それが、強がりであったとしてもだ。
「ヘーゼル。マルクスと共にミリィを無事に連れ帰ってもらえるか」
私の言葉に、ヘーゼルは頷いてくれる。
「もし、ミリィに会えるならこれを」
私は、普段持ち歩いている懐中時計をヘーゼルへと渡す。
「共に居ることも、ミリィのために動くことも出来ないが、無事を祈っていると伝えてくれ」
会えなければ、言葉だけでも届けてくれればと思う。
ヘーゼルは、私の言葉に頷くと部屋を後にする。
それを見送り、執務机の椅子へと腰を落ち着け深く項垂れる。
辺境伯として、今回の様なことを危惧しなかったわけじゃない。
今までだって、似たようなことはあった。
でも、今回はさほど心配していなかった。
彼女は、遠い王都にいる。私を飛び越えて手を出されるとは思っていなかった。
私の落ち度であるし、甘さだ。
そして、今後もこのようなことは起こるであろうなと思えば、気が重くなる。
彼女を危ない目に遭わせないためには、今後は距離を置くべきだろうか。
そんなことを思いながら、無意識に彼女に貰った鞘飾りに触れる。
そして、無理だなと諦める。
彼女を傷つけたくない反面、私自身が彼女を手放すことを恐れている。
それでも、彼女の強さと弱さを知る前であったなら、手放せたかもしれない。
可愛らしい。愛しい。それだけであれば、あるいは。
けれど、知ってしまった今、手放すことは出来ない。そう思う。
そこまで考え、深く大きく息をつく。
気持を切り替えねば。
私は、国境へと目線を向ける。
リヒテンシュタイン。彼女が来ているならば、気は抜けない。
戦乙女として名をとどろかす彼女だ。
何をしかけてくるかわからない。
彼女の名声はけして、誇張ではないのだから。
「すまない。もう一度いってくれるか」
私は、報告された内容を信じたくない思いで、聞き返していた。
「ミリュエラお嬢様が攫われて、かの村に囚われている」
「何故と聞いたら答えは得られるか?」
私は、荒れ狂う感情をなんとか飲み込み、報告をあげるヘーゼルを見つめる。
「是。彼女は、辺境伯への脅しとけん制に使われるために攫われた」
私への脅しとけん制だと?
それが、有効だと思われているのか?
「確かに痛いところを突かれている。が、それが有効だと思われているのか」
ミリィの事は、心配だし、私個人としては、今すぐ助けに行きたい。
しかし、私は辺境伯だ。国の国境を任され、防衛の一端を担っている。
一個人として動ける立場にはない。否。動いてはならない。
「是。あの大佐はそう考えている。伍長は、あまり有効だとは考えていないようだ」
「辺境伯を名乗る者として、一人の令嬢と国の大多数の命を天秤にかけることはできない」
自分の言葉をミリィが聞いたら、本当に嫌われるかもしれない。
そう、思わないでもないし、嫌われたくないという思いもある。
それでも、見知らぬ誰かの命だからとミリィの命を選べない。
一人の男して、ミリィを助けたい。
辺境伯として、守らねばならぬものもある。
答えの出せぬ葛藤に、拳を握りしめ爪が食い込む。
私がただの貴族でもっと身軽であったなら、ミリィを助けに走れるのに・・・
「辺境伯。少し力を抜け。辺境伯が彼女を思うように、我らにとっても彼女は大切な存在だ」
ヘーゼルの言葉に、私は顔を上げる。
「一人の男と辺境伯としての立場にゆれ、辺境伯としの矜持を保とうとする君になら伝えても良いだろう。彼女からの伝言だ」
ヘーゼルは、少しニヤリと顔をゆがめ、ミリィの言葉を私に伝える。
伝えられた言葉に、私は苦笑を浮かべるしかなかった。
気高く美しいとは、彼女のようなものを言うのかもしれない。
ーーー私は大丈夫ですわ。私のことは、ヘーゼルとマルクスがどうにかしてくれますから、ユミナ様はユミナ様のなさるべき事をなさって下さい。
そう言われてしまったら、ユミナとしては動けない。
シュトラウス辺境伯として動くしかなくなるじゃないか。
「ミリィは、けして強いわけではないのに強いな」
私は少し矛盾したことを思う。それが、強がりであったとしてもだ。
「ヘーゼル。マルクスと共にミリィを無事に連れ帰ってもらえるか」
私の言葉に、ヘーゼルは頷いてくれる。
「もし、ミリィに会えるならこれを」
私は、普段持ち歩いている懐中時計をヘーゼルへと渡す。
「共に居ることも、ミリィのために動くことも出来ないが、無事を祈っていると伝えてくれ」
会えなければ、言葉だけでも届けてくれればと思う。
ヘーゼルは、私の言葉に頷くと部屋を後にする。
それを見送り、執務机の椅子へと腰を落ち着け深く項垂れる。
辺境伯として、今回の様なことを危惧しなかったわけじゃない。
今までだって、似たようなことはあった。
でも、今回はさほど心配していなかった。
彼女は、遠い王都にいる。私を飛び越えて手を出されるとは思っていなかった。
私の落ち度であるし、甘さだ。
そして、今後もこのようなことは起こるであろうなと思えば、気が重くなる。
彼女を危ない目に遭わせないためには、今後は距離を置くべきだろうか。
そんなことを思いながら、無意識に彼女に貰った鞘飾りに触れる。
そして、無理だなと諦める。
彼女を傷つけたくない反面、私自身が彼女を手放すことを恐れている。
それでも、彼女の強さと弱さを知る前であったなら、手放せたかもしれない。
可愛らしい。愛しい。それだけであれば、あるいは。
けれど、知ってしまった今、手放すことは出来ない。そう思う。
そこまで考え、深く大きく息をつく。
気持を切り替えねば。
私は、国境へと目線を向ける。
リヒテンシュタイン。彼女が来ているならば、気は抜けない。
戦乙女として名をとどろかす彼女だ。
何をしかけてくるかわからない。
彼女の名声はけして、誇張ではないのだから。
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