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Ⅰ.貴方様と私の計略 ~ 出会いそして約束 ~
58.囚われの侯爵令嬢④(ヘーゼル視点)
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彼女は攫われる星の下にでも生まれたのだろうか
こう何度も攫われるのなるともう運命と思えてくる
辺境の小さな村。そこで、起こった一つの事件を解決するため、自分とマルクスは、情報を集めていた。
メビウス伍長と自称参謀の大佐が動いている事まで掴んだところで、通信用のペンダントが明滅した。
「どうかしたのか」
通信へ出れば、彼女は謝ってきた。どうやら、攫われたらしい。
マルクスへと目配せし、近くへ来させる。
話を聞けば、かなり相手も無理をして攫っていった事が伺えた。
赤の記憶か・・・おそらく、負傷をしたか亡くなったかした者がいたのだろう。
彼女の側には、メルを筆頭に戦闘や護衛に優れた者が付いていたはずだ。
油断はあったのだろうが、大きな非があったとも思えない。
「ふむ。水車の動きはわかるか」
『水はゆるりと流れているよう。あまり、動きは早くないわ』
水流が弱いということか。
それならば、シュトラウス領の水車である可能性が高いか。
あちのは、上流に近い地域に水車を作っているから、動きは早かったはずだ。
そう言えば、騎竜の遺骸があると言っていたな。
あの首の竜である可能性が高いか?
「騎竜の遺骸の腐敗具合わかるか」
『ごめんなさい。詳しくはわからないわ。ただ、あまり進んでいないと思うわ。でも、腐敗は始まっているわ』
腐敗は始まっている・・・か。契約者の生存は絶たれたと判断した方がいいな。
それにしても、彼女はよく腐敗が始まった騎竜を観察できたものだと、少し感心する。
貴族令嬢は普通、観察はおろか見ることすら拒否するだろうに。
「水車の水面に何が浮いているか」
『水面?これは、葉っぱかしら?楓のように先の別れた葉。
先は、1・2・・・5つかしら。それが、3枚ほど浮いているわ』
なるほど。その葉が浮いているのなら、自分達が目的としている村の水車だろう。
シュトラウス領で、その葉を持つ植物が生息しているのは、あの一帯だけだ。
少し厄介かも知れない。
そう思い、考え込もうとしたタイミングで、彼女の方で動きがあった。
確か、音を伝えない為の機能があったな。
「音の回廊はそのままに、我が声を零に」
これで、こちらの声が彼女の側へ届くことはないだろう。
あちらの声は、ちゃんとこちらに届いているようだ。
「メビウス伍長がいることが不幸中の幸いか?」
自分の独り言ちた言の葉に、マルクスが反応する。
「辺境伯への脅しとけん制に使うなら、奴のことだ。傷物にはされないだろう」
「うむ。あれは、そのあたりは律儀だ。問題があるとすれば、あの大佐であろう」
自称参謀の大佐。言葉の通り、あくまで自称参謀だ。
彼は、頭が悪いわけでも思考をしていないわけでもない。
ただ、物事を一辺からしか見ることが出来ないため、参謀たり得ない。
ただそれだけだ。
そして、頭が痛いことに、彼は人質や切り札が傷つこうと頓着しない。
むしろ、自らが率先して傷つける行動をすることすらある。
「その大佐なんだが、現在自陣営に戻っているようなんだ。
媚びをうってる少将がどうやら様子を見に来るらしい」
少将?それはそれで、いい話ではないな。
「少将は、リヒテンシュタインか」
「そう。リヒテンシュタイン少将。彼女が出てくるあたり、あまりいい話ではないかな」
リヒテンシュタイン少将。彼女は異例の出世ではあるが、数少ない女性戦士だ。次期中将と名高くもある。
戦士としての実力もさながら、頭がきれるという。
メビウス伍長とリヒテンシュタイン少将がそろえば、向かうところ敵なしだと言われている。
ただ、本人達の馬が合わないのか、あまり同一戦線に出てくることはない。
「彼女にとっては僥倖だが、辺境伯にとっては厄災の可能性が高いな」
マルクスも険しい顔で頷いている。
とりあえずは、マルクスは王都にもう一度行ってもらう必要があるか。
「彼女とメビウスの邂逅が終わったら、マルクスは王都に行ってくれ」
「はぁ。短期間に何度往復させるんだ・・・まぁ、向こうの状況も確認しないとだから、承知だよ」
マルクスは、疲れたように承諾の返事を寄こす。
自分の移動手段よりは、負担が軽いのだから頑張って欲しいところだ。
『ヘーゼル。聞いていましたか』
「聞いている。とりあえず無事でよかった」
今後の方針などを話しながら、暫くは絶えて欲しいと要望を伝える。
彼女からは、明言はなかったが、最善はつくすと返答があった。
通信機との通信を停止する。
マルクスへと向き直り、再度よろしく頼むと頭を下げる。
「承知した」
その言葉と共に、マルクスは身を翻し姿を消す。
さて、自分は周辺の情報と何とかミラルドと連携がとれるようにしなければ。
こう何度も攫われるのなるともう運命と思えてくる
辺境の小さな村。そこで、起こった一つの事件を解決するため、自分とマルクスは、情報を集めていた。
メビウス伍長と自称参謀の大佐が動いている事まで掴んだところで、通信用のペンダントが明滅した。
「どうかしたのか」
通信へ出れば、彼女は謝ってきた。どうやら、攫われたらしい。
マルクスへと目配せし、近くへ来させる。
話を聞けば、かなり相手も無理をして攫っていった事が伺えた。
赤の記憶か・・・おそらく、負傷をしたか亡くなったかした者がいたのだろう。
彼女の側には、メルを筆頭に戦闘や護衛に優れた者が付いていたはずだ。
油断はあったのだろうが、大きな非があったとも思えない。
「ふむ。水車の動きはわかるか」
『水はゆるりと流れているよう。あまり、動きは早くないわ』
水流が弱いということか。
それならば、シュトラウス領の水車である可能性が高いか。
あちのは、上流に近い地域に水車を作っているから、動きは早かったはずだ。
そう言えば、騎竜の遺骸があると言っていたな。
あの首の竜である可能性が高いか?
「騎竜の遺骸の腐敗具合わかるか」
『ごめんなさい。詳しくはわからないわ。ただ、あまり進んでいないと思うわ。でも、腐敗は始まっているわ』
腐敗は始まっている・・・か。契約者の生存は絶たれたと判断した方がいいな。
それにしても、彼女はよく腐敗が始まった騎竜を観察できたものだと、少し感心する。
貴族令嬢は普通、観察はおろか見ることすら拒否するだろうに。
「水車の水面に何が浮いているか」
『水面?これは、葉っぱかしら?楓のように先の別れた葉。
先は、1・2・・・5つかしら。それが、3枚ほど浮いているわ』
なるほど。その葉が浮いているのなら、自分達が目的としている村の水車だろう。
シュトラウス領で、その葉を持つ植物が生息しているのは、あの一帯だけだ。
少し厄介かも知れない。
そう思い、考え込もうとしたタイミングで、彼女の方で動きがあった。
確か、音を伝えない為の機能があったな。
「音の回廊はそのままに、我が声を零に」
これで、こちらの声が彼女の側へ届くことはないだろう。
あちらの声は、ちゃんとこちらに届いているようだ。
「メビウス伍長がいることが不幸中の幸いか?」
自分の独り言ちた言の葉に、マルクスが反応する。
「辺境伯への脅しとけん制に使うなら、奴のことだ。傷物にはされないだろう」
「うむ。あれは、そのあたりは律儀だ。問題があるとすれば、あの大佐であろう」
自称参謀の大佐。言葉の通り、あくまで自称参謀だ。
彼は、頭が悪いわけでも思考をしていないわけでもない。
ただ、物事を一辺からしか見ることが出来ないため、参謀たり得ない。
ただそれだけだ。
そして、頭が痛いことに、彼は人質や切り札が傷つこうと頓着しない。
むしろ、自らが率先して傷つける行動をすることすらある。
「その大佐なんだが、現在自陣営に戻っているようなんだ。
媚びをうってる少将がどうやら様子を見に来るらしい」
少将?それはそれで、いい話ではないな。
「少将は、リヒテンシュタインか」
「そう。リヒテンシュタイン少将。彼女が出てくるあたり、あまりいい話ではないかな」
リヒテンシュタイン少将。彼女は異例の出世ではあるが、数少ない女性戦士だ。次期中将と名高くもある。
戦士としての実力もさながら、頭がきれるという。
メビウス伍長とリヒテンシュタイン少将がそろえば、向かうところ敵なしだと言われている。
ただ、本人達の馬が合わないのか、あまり同一戦線に出てくることはない。
「彼女にとっては僥倖だが、辺境伯にとっては厄災の可能性が高いな」
マルクスも険しい顔で頷いている。
とりあえずは、マルクスは王都にもう一度行ってもらう必要があるか。
「彼女とメビウスの邂逅が終わったら、マルクスは王都に行ってくれ」
「はぁ。短期間に何度往復させるんだ・・・まぁ、向こうの状況も確認しないとだから、承知だよ」
マルクスは、疲れたように承諾の返事を寄こす。
自分の移動手段よりは、負担が軽いのだから頑張って欲しいところだ。
『ヘーゼル。聞いていましたか』
「聞いている。とりあえず無事でよかった」
今後の方針などを話しながら、暫くは絶えて欲しいと要望を伝える。
彼女からは、明言はなかったが、最善はつくすと返答があった。
通信機との通信を停止する。
マルクスへと向き直り、再度よろしく頼むと頭を下げる。
「承知した」
その言葉と共に、マルクスは身を翻し姿を消す。
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